| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

東方虚空伝

作者:TAKAYA
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第二章   [ 神 鳴 ]
  二十八話 諏訪の行方…

 目の前に広がるのは銀色の草原。見渡す限りの銀色の世界に僕は立っていた。

「……(えら)く久しぶりに此処に来たなー、来たって言うよりは見てる、の方が正しいのかな?…まぁいいか」

 空すらも銀色に染められている此処は僕の心象世界。最後に見たのは、はて?どの位前だっただろうか。たぶん色欲(アスモデウス)が使えるようになった時が最後だから……やっぱり分からないや。
 僕がそんな詰まらない事を考えていると風など吹かない筈の銀の草原に突風が起こり一瞬だけ僕の視界を奪った。そして風が凪いだ草原によく知っている金色の髪の少女が立っていた。

「…諏訪子?」

 じゃないな、たぶんコレは強欲《マンモン》で僕が取り込んだ祟りの塊か。もしかして此処に来たのはこの子が原因なのか?
 とりあえず僕は目の前の諏訪子の肩に触れてみる。すると銀の世界が一瞬で黒の世界に変わり、触れていた諏訪子が黒に融けるように薄れていく。そして黒の世界に光が弾けた。




□   ■   □   ■   □   ■   □   ■   □   ■




 何時自分が確立したのか、あたし自身にも記憶が無い。でも自分が何者なのか、何をしなければならないのか、それは自然と理解できた。
 だからあたしは民達に見せ付けてやったんだ、あたしの祟りの力を。そのお陰ですぐに信仰は集まったし、他にも神は居たがあたしの敵じゃなかった。
 そして何時の間にかあたしの国が出来ていた。何もかもが上手くいっているとその時は思っていたんだ。
 何時の頃からかあたしは民達の視線に苦痛を感じ始めていた。畏怖、恐怖、信仰心とは別にあたしに注がれるその感情が嫌で仕方なかった。
 その原因は分かっていた。未だに消えない祟りが大地を殺し続けているせいだ。当初あたしは祟りををすぐに消すつもりだった。でも自分の力なのに祟りは消えてくれなかったのだ。
 それ以来その土地はあたしの罪の象徴として存在し続けている。何時祟りが消えるかはあたしにも分からない。
 それから二百年は経った頃に漸く祟りが消え死の土地はあたしの能力で活力を取り戻した。そしてあたしはもう二度と祟りを使わない事を心に誓った。民達にあんな感情を向けられるのはもう嫌だから。
 その頃だっただろうか、森を散策していたあたしは妖怪に襲われていた一組の夫婦を助けた。その夫婦は自分達の国が戦に巻き込まれ此処まで逃げてきたらしい。そして助けられた恩を返すといってあたしに仕える事になる。
 それがあたしの巫女である東風谷の始まりだった。民達の畏怖も薄れ、あたしの巫女、いや家族との日々は幸せだった。こんな幸せがずっと続けば……




□   ■   □   ■   □   ■   □   ■   □   ■




 コンコン――――扉を叩く様な音に僕の意識は急速に現実に引き戻される。
 ゆっくりと瞼を開けた先にあるのは、

「……知らない天井だ、って大和の捕虜になってたんだっけ」

 此処は大和の陣地に立てられた広さが十畳程の木製の小屋だ。机と椅子が一組、僕が横になっていた寝床があるだけの質素な内装。僕の服も質素な白の長袖とズボンで手には力を封じる錠がかけられている。
 まぁそれはともかくさっきの夢?は諏訪子の記憶かな。
 コンコン――――再び扉を叩く音が響いた。誰が来たかは分からないけどとりあえず返事をしておこう。

「は~い、入ってまーす」

 扉を開き入って来たのはなんだか呆れたような顔をした神奈子だった。

「……あんたね、なんだい今の返事は。まぁいいか、しかし暢気だね今起きたのかい?」

 神奈子はすこし呆れ気味に笑いながらそんな事を言ってくる。まぁ僕が暢気なのは何時もの事なのだが。

「ちょっと疲れが溜まってるんだよ。昨日さ美人の神様に締め上げられたり、柱で叩かれたり、雷落とされたり、光弾で滅多打ちにされたり、最後には槍まで投げつけられたんだよ?酷いと思わない?」

 僕の返答に神奈子は再び呆れの表情を浮かべた。そして、

「…奇遇だね、実はあたしも昨日おかしな人間モドキに蹴られたり、十字に斬られたりしたんだよ?酷いと思わないかい?傷が残ったりしたらどうしてくれるんだろうね?」

 神や妖怪の傷は時間さえあれば完治するので痕が残る事は無い。神奈子なりの嫌味なんだろうな、っていうか誰が人間モドキだ。

「うん大丈夫だよ、責任持って婿に行くから!」

「なんで婿入り!こういう時は普通“嫁に貰う”だろ!」

「あぁそうそう話は変わるんだけど…」

「勝手に話を変えるんじゃないよ!」

「婿入りでも問題ないと思うんだ」

「全く話が変わってないじゃないか!!」

 神奈子とまるで漫才みたいな事をやっていたら突然女性の笑い声を上げながらが部屋の中入ってきた。

「アハハハハハッ!なるほどなるほど、中々に愉快な奴だ!」

 天照に顔と背格好がよく似た子で、栗色の瞳で黒髪のロングツインテール、桃色の薔薇柄の膝上ミニスカートになっている黒のフリル着物ドレスを着ている。

「神奈子、お前が気に懸けるからどんな奴かと思えば…こんなに面白い奴だとはな!」

 女性は悪戯っぽく笑いながら神奈子の肩をポンポンと叩く。

月詠(つくよみ)様、あたしが何時こいつを気に懸けたと言うんですか?」

 神奈子は女性に憮然とした表情を向けながら反論している。

「隠すな隠すな、分かっているぞ。戦場で激しくぶつかり合いそして軍神である自分を倒した初めての男に、こう心がときめいているんだろう?」

「誤解です!勘違いです!大間違いです!」

「そういえば僕、戦の最中に神奈子に口説かれたな」

「あの台詞をどれだけ前向きに解釈すれば口説き文句に聞こえるんだいあんたは!」

「遂に神奈子にも春が来たか♪よし今夜はお赤飯だな!」

「だから違うと言っているでしょ!」

「……あーワリーけどそろそろいいかツク姉、あと神奈子も。話進まねーから」

 そんな風に僕等三人が騒いでいるとなんとも言えない微妙な顔をした須佐之男が声をかけてきた。

「おお!すまんすまん、本題を忘れるところだった」

 女性はカラカラと笑いながら僕の前にやって来る。

「自己紹介が遅れたな私は月詠、このアホの姉で天照の妹だ。本国に帰った姉に代わりこの地方の責任者を任されている」

 月詠は親指で須佐之男を指しながらそう言った。

「アホは酷くねーかツク姉」

 月詠の言い分が気に入らないのか須佐之男が反論するが、

「…ああん!アホをアホと言って何が悪い!“自称”大和最強の闘神様は姉一人満足に護衛出来なかったじゃないか!何が『姉貴の事は心配すんな!俺に任しとけって!』だ!姉上にあんな怪我をさせておいてよくもまぁ……一遍死ねボケナス!!」

 感情が高ぶったのか月詠は須佐之男に目にも留まらぬ高速の蹴りを放ち、その蹴りが右脇腹を直撃した須佐之男は「ぐへっ」と言う声を上げながら凄まじい勢いで小屋の壁に叩き付けられそれを破壊し大和の陣の方に鞠みたいに何度も跳ねながら飛んで逝った。
 そして遠くの方で、

「何だ今の音は!「一体何が「誰か倒れているぞ!「す、須佐之男様!「敵襲か!「出合え!出会え!・・・

 などと言う声が聞こえてくるが――――まぁいいか。

「それで月詠、本題って言ったよね?僕に何か話があるの?」

「話と言ってもそこまで重要な事じゃないけど、一応貴方に言っておこうと思ってな」

 飛んでいった須佐之男の事など気にも留めず最初から居ませんでした、みたいな空気になっているけどまぁいいか。
 月詠は置いてあった椅子をひきそれに腰掛けると足を組み話を始めた。

「私達はこれから諏訪の都に今後の方針の話し合いに行く、とそれを伝えに来ただけだ。何か伝言があるなら預かるぞ」

「……随分急ぐじゃないか、昨日の今日だよ?もっとゆっくりしなよ」

 やたら行動が迅速だ。まぁ理由は理解できるんだけど。僕の言葉に月詠は一瞬キョトン、とした顔をしたがすぐに笑みを消し目つきを鋭くした。先程までの人懐っこい笑みとは真逆の、例えるなら獲物を狙う獰猛な猛禽類の様顔をしている。

「…理由が分からない、という訳ではないだろう。こんな状況でもまだ何か画策しているのか?戦の状況は聞いているぞ、貴方は相当に小賢しいとな」

 探るような視線を僕に向けながら月詠は話を続ける。

「迅速に行動するのは洩矢の傷が癒えるまで待つ気が無いからだ。あれの傷が癒え再び荒御霊に堕ちてもらっても迷惑だからな、手負いの今ならもし反抗してきても私一人で殺せる。小賢しい貴方がそこを理解出来ない訳があるまい」

 月詠の言う通りだ。手負いの今なら諏訪子が暴れても楽に制圧できる。月詠の実力は分からないけどたとえまた荒御霊になったとしても殺すのは容易だろう。

「しかし意外に冷静だな。洩矢を殺す、と聞いて約束が違うと反論すると思っていたんだがな」

 月詠は本当に意外だという風にそう言い僕の表情を探るように見つめる。

「反論も何も神奈子との取引はあの戦の中での事だし、戦が終わった以上僕の交渉材料は無くなっているからね。今後の話し合いの席で諏訪子が暴れて殺されたとしてもそれはしょうが無い事だよ。それに今の僕には何も出来ないしね、反論したって無意味でしょ?」

 僕はそう言ってへらっと笑って見せた。

「…まぁいい、とりあえず貴方に言う事は以上だ。何も出来ないとは思うが大人しくしていろ。あぁそれと念の為に須佐之男のアホを監視に付けさせてもらうからな」

 そう言い残し月詠は部屋を出て行く。監視なんて付けても意味無いよね、僕は自分の手を拘束している錠を見ながらそう思った。

「月詠様も言ったが大人しくしてなよ?それと伝言の件だけど何かあるかい?」

 部屋の入り口で神奈子が振り向きながら僕にそう聞いてきた。

「う~ん、…あぁそうだ向うに紫って言う名前の金髪の女の子が居るはずだから「僕の事は心配しいらない」って伝えてもらえるかな?」

「分かったよ、それじゃね」

 神奈子は短く答えると部屋を後にする。そして再び一人になった部屋で僕は、

「……そういえばご飯ってもらえるのかな?あとこの壊れた壁ってちゃんと直してもらえるんだよね?」

 そんな独り言を呟いた。




□   ■   □   ■   □   ■   □   ■   □   ■




 スキマの維持をしていた私は限界をむかえ気を失ったらしい。目を覚ました時には戦は終わっており私を介抱してくれていたルーミアからお父様が捕虜になったと聞かされた。
 お父様の事だからきっと大丈夫と自分に言い聞かせ、翌朝これからの事を諏訪子に聞きに行こうとルーミアと共に諏訪子の部屋に向かうと部屋の中からけたたましい音が響き、諏訪子と早希の怒声とも悲鳴ともつかない言い争いの様な声が聞こえた。
 襖を開けると部屋の中は滅茶苦茶になっていて全身包帯だらけで息を荒げている諏訪子の腰に早希が泣きながらしがみ付いていた。たぶん諏訪子が目を覚ますと同時に暴れて早希が必死に抑えたんだろう。

「ああぁぁぁぁぁッ!!!!!」

「諏訪子様!御静まりください!傷に障ります!どうか!どうか!」

 慟哭にも聞こえる雄叫びを上げながる諏訪子に早希は必死にしがみ付き懇願していた。今の諏訪子でも早希位なら簡単に振り払える筈だがそんな事をすれば早希が怪我をする。どうやら荒れてはいても理性は働いている様だ。
 そして私は改めて早希に視線を戻す。ルーミアの話によれば楓の死を聞いた後も恐らく一睡もしないで諏訪子の介抱をしていたらしい。あの二人は喧嘩ばかりしていたが互いを大切にしていたのは私にだって理解できる。
 それなのに泣きもせず巫女としての責務を必死にこなす彼女に――――普段の馬鹿さ加減からは予想も出来ない早希の強さに私は初めて尊敬の念を抱いた。お父様がいないというだけで私はこんなにも不安だというのに。

「あの裏切り者ッ!!裏切り者ッ!!裏切り者ッ!!裏切り者ッ!!裏切り者ッ!!」

 諏訪子の口から出るのは恐らくお父様に対する怨嗟。隣りを見るとルーミアも複雑な表情を浮かべていた。
 お父様した事は確かに裏切りに見えるが実際は全ての責を自分で被り、諏訪の神達の身の安全を確約させただけだ。でも今の諏訪子に何を言っても無駄だろう。

「何だ?ここは客が来ても対応もしないのか?」

 突然庭の方からした声を確かめる為ルーミアが庭側の障子を開ける。そこにはスキマから見た覚えがある人物、確か八坂神奈子と黒髪の女が立っていた。その二人にルーミアが、

「他人の家の庭に勝手に入ってくる奴を客とは言わないわよ?」

 と皮肉ると黒髪の女はカラカラと笑いながら、

「おお!すまない、一応玄関で声をかけたのだが返事が無かったものでな。勝手に此処まで来させてもらった」

「……あんた誰?何の用?」

 女の登場で落ち着いたのか抑揚の無い声で諏訪子が問いかけた。

「私は月詠、まぁ大和の代表だ。神奈子の事は分かるな?用件は諏訪のこれからを話し合う為だ。因みに嫌とは言わさん」

 月詠は鋭い視線を諏訪子に注ぐが諏訪子の返答は全員の予想を裏切るものだった。

「………好きにすれば、あたしの知った事じゃない……」

「「「「「 はっ? 」」」」」

 その場に居た諏訪子を除く全員が唖然とした。好きにしろって?何を考えてるの!

「洩矢あんた自分が何を言ってるのか分かってるのかい?」

 若干の怒りを込めながら神奈子は諏訪子にそう問いかけるが、

「五月蝿いッ!五月蝿いッ!五月蝿いッ!五月蝿い!ッ五月蝿い!知った事じゃないわよ!もうあたしの国じゃ無いんだからあんた達の好きにすればいいでしょ!!勝手にしなさいよ!!!」

 突然そんな風に叫ぶと早希を振り切って部屋から走り去ってしまった。

「諏訪子様!」

「早希!諏訪子の事頼むわ!貴方にしか頼めないの!」

 ルーミアにそう言われて早希は頷くと諏訪子を追って部屋を出て行った。諏訪子の事は早希が何とかしてくれるのを期待するしかないか。

「――――クックッ……アーハハハハハッ!!アレが!あんな奴が古き信仰の象徴だと!ハハハハハハッ!!ただの拗ねた餓鬼じゃないか!アハハハッ!!」

 月詠が突然笑い声をあげそんな事を口にする。確かに今の諏訪子の行動は気に入らない事から逃げる子供と一緒だ、だけどそんな風に言われると何故か腹が立った。
 私がそんな事を思っていたら隣りにいたルーミアが月詠に迫り呼び出した大剣を振り抜いた、が月詠の首筋目掛けて奔った大剣の刃は甲高い音を響かせ神奈子の棍に阻まれる。月詠はルーミアに冷たい視線を向けながら、

「…いい度胸だな妖怪、死ぬか?」

「やってやろうじゃない!」

「止めてルーミア!剣を退いて」

 ルーミアは止めに入った私に少し驚いていたが頭が冷えたのか渋々といった感じで大剣を消した。それを確認した私は大和の二神に向き直り話しかける。

「貴方達は話し合いに来たのでしょう?諏訪子は好きにしろ、と言ったわ。だったら私が諏訪の代表として貴方達と対話します。文句はありませんね?」

「ほぉ?この小娘妖怪の方が随分としっかりしてるじゃないか。名前は何ていうんだい?」

 棍を収めた神奈子が感心したみたいな顔をして聞いてきた。

「七枷紫と申します、以後お見知りおきを」

 そんな風に名乗ると神奈子がおかしな反応をしながら問い返してくる。

「あんたが紫かい。って言うか七枷?まぁいい、とりあえずあいつから伝言があるんだ。『心配するな』だと」

「!?お父様は無事なの!」

「「 お父様だって!! 」」

私の発言に二神は本当に驚いていた。


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・



 互いに事情を説明した後広間の方に移動し話し合いを始める。因みにルーミアは自分がいると邪魔だろう、と言って諏訪子達を探しにいった。此処には今私と月詠、神奈子の三人だけだ。
 最初に口を開いたのは神奈子。

「さてとりあえず何から話すか、…神が奪い合うものは分かっているね?」

「信仰」

 私の返答に神奈子はその通り、という風に頷いた。
 神々が必要とするのは人々の信仰心だ。国を奪うのは自分達を信仰させる為の人間を確保する手段にしかならない。そして私が気になっている事が一つ。

「大和は侵攻した国に居る神をどうするの?……殺すの?」

 そう侵攻した後の今まで信仰されていた神の処遇だ。普通に考えれば自分達の邪魔になるのだから消すと思うのが当たり前だ。

「そうした方が手っ取り早い、と思うだろうけど実際は違うよ。一度、大和が始めて国を奪った時にそこで信仰されていた神を殺したんだが、驚いた事に逆にその神に対する信仰が強くなったんだよ。あの時は参ったね、その後信仰を得る為に費やした時間と労力は計り知れない。それからは侵攻した国の神は大和の建てた神社に封神として祀る事になっている。そう今まで通りならね…」

 神奈子は説明の最後に何か含ませる様な事を言う。違うんだ、諏訪子の処遇は今までとは。どうして、と思う私の脳裏に以前お父様が言っていた言葉が蘇る。

『諏訪の国の信仰ってなーんか他と違うっていうか変わってるっていうか不思議な感じなんだよね。なんていうの根深いって言えばいいのかな?』

 私は見ては居ないが諏訪子は最後に祟り神としての本性をさらけ出して戦ったらしい。そのせいで戦場跡は死の土地になっているそうだ。
 もし諏訪子に対する信仰の根源がそんな死の土地を生み出す祟り神からきているのだとすればこの国の人々は素直に大和の神を信仰するだろうか?いやしないだろう、そんな事をすれば諏訪子に祟られる、と本当に思っている確率が高い。
 そんな諏訪子は大和にとっては生かしている方が不都合なのではないか?神奈子のあの含みのある言葉もそれを言っているんじゃないのか?そんな事を考えていた私に唐突に月詠が声をかけてきた。

「紫だったか、その顔からして私達が言いたい事は分かったようだな。どうする?何かいい案があるのなら聞くぞ?無いのなら……分かるな」

 月詠は探るような嫌らしい笑みを浮かべながら私にそう問いかける。このままじゃ間違い無く諏訪子は消される。
 折角お父様が助けたのにそれじゃぁ意味が無い。スキマで逃がす?ダメだ諏訪子が生きている限りこの問題は解決しない。そうなれば大和は草の根分けてでも諏訪子を探し出して消しにかかるだろう。
 考えろ、考えろ、諏訪子を救う方法を、大和を納得させる案を、どうすればいい?どうすれば……こんな時お父様ならどうするだろう?お父様なら……きっと屁理屈で通すだろう。滅茶苦茶でもそれっぽい事を言って何となく納得させる筈だ。
 そして私の脳裏に一つの案…と言えるかは分からないけど、とりあえず考えが浮かんだ。上手くいくかは分からないけどやるしかないのだ、諏訪子の為に、そして諏訪子を守りたいお父様の為に。

「……一つ提案があります」

ここからは私の戦いだ。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧