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ジェイルハウス=ラブ

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第五章


第五章

 それから俺は何事にも考え方が変わった。色々と見方も変わってきた。
 今までは刺々しい見方ばかりであった。それが徐々にだが穏やかになってきた気がしてきた。
 落ち着いてきたのだろうか。カツアゲ等もしなくなった。そうしたことから引くようになった。そしてやることも穏やかになってきた。全てが落ち着いてきたのだ。
 それと共に教会に行くことも増えた。そこには女がいた。最初はうざったく感じたこの女も次第にそうは思わなくなってきた。気持ちが穏やかになってきたのを感じていた。
 俺は女と色々話をするようになってきた。そして付き合うようになった。やはりそれで教会にいる時間が次第に多くなってきた。アパートにいるより教会にいる方が多い時すらあった。
 俺は生まれてはじめて自分が恵まれていると思えるようになってきた。しかしそれはほんの一瞬だった。そう、本当にほんの一瞬だった。
 彼女のいる教会に何やら怪しげな連中が出入りするようになった。その目や人相を見て俺はこの連中がろくな奴等じゃないと一発でわかった。
「何だ、あの連中は」
 俺は彼女に尋ねた。
「不動産屋さんらしいわ」
「ふうん」
 確かにそうかも知れない。だがその実態は悪徳か何かだろうと思った。
「不動産屋さんがここに何の用だ」
「何でも御祈りしたいとか。これから時々来たいと仰ってたわ」
「そうなのか」
「ええ。信心深い人達みたい」
「そうだったらいいがな」
 俺はとりあえずそれに頷いた。
「何かあるの?」
「いや」
 俺はそれには首を横に振って否定しておいた。
「何もねえよ」
「だったらいいけれど」
 彼女には知らせることは出来ない。とりあえずは連中を見張っておくことにした。
 連中はそれから言葉通りしばしば来るようになった。祈るのはいいがいつも何かを物色しているようだった。俺はそれがやけに目についた。
「盗人か?」
 最初はそう考えた。
「いや、違うな」
 だが目が違った。盗人にも会ってきた。連中は連中で独特の目と雰囲気を持っている。どうやらこの連中は盗人ではないようである。
 では何か、俺は考えた。結論は出なかった。
 こっそりと後をつけたりもした。不動産でもそこはその手の不動産だった。所謂企業舎弟というやつだ。俺はそれを見てキナ臭いものを感じずにはいられなかった。
「やっぱりな」
 俺は確信した。この連中は教会を狙っている。すぐに動かなければ大変なことになると思った。
 彼女にそれを伝えた。だが彼女は俺の言葉を笑って否定した。
「そんな筈がないわ」
「何故そう言えるんだ!?」
 俺は彼女を見据えて問うた。
「貴方だってそうだったもの」
「俺が」
「ええ。最初は怖い顔をしていたけれど。今もね」
 疑ってはいないようだ。それだけ純粋だということか。
「けれど貴方はいい人だった。あの人達だって同じよ」
「そう思うのか?」
「ええ、そうよ」
 そこまで聞いて俺はやり方を変えることにした。これでは駄目だと思った。
 どうするか、彼女に知られてはいけない。俺はすぐに動くことにした。陰ながらだ。こうしたことは昔から得意だ。生憎いい生き方はしちゃいない。俺は陰道に入ることにした。
 どうやら奴等は教会の土地を狙っているらしい。つまり地上げ屋か。まだいるとは思わなかったがそれでもいることは事実だ。何とかしなくちゃいけないのは変わらなかった。
 やっていることは法律スレスレらしい。そうしたことに詳しい奴に聞くとかなり悪質だが法には触れてはいないらしい。そして連中はいつもそうやって土地を騙し取っているらしい。
「奴等はかなり狡賢いぜ」
 そいつは俺にそう耳打ちした。俺はそれを聞いて頷いた。それから言った。
「どうすりゃいい?」
「そうだな」
 そいつは暫く考えてから答えた。
「法律とかじゃ連中にはどうもできねえな」
「どうしようもないか」
「法律じゃな。法には触れちゃいねえ」
「方法はないのかよ」
 俺は眉を顰めさせて問うた。
「どうしようもねえのか?」
「ねえな」,br>  素っ気無く答えられた。
「どうしてもっていうんならバラすしかねえが」
「バラすか」
「けれどそこまでやる義理でもあんのか?ねえだろ、おめえには誰にも」
「まあな」
 こいつには教会のことを教えちゃいねえ。教えるつもりもなかった。
「だったらいいじゃねえか。考える必要もねえ」
「そうだな」
 その場ではそう答えた。
「御前さんは少なくとも連中とは何の関わりもねえしな」
「そう思うか」
「あるのか?」
「・・・・・・いや」
 言う必要はなかった。そんなつもりもなかった。俺はそう自然に答えた。
「生憎だが連中と関わるのは御免だからな」
「わかってるさ」
 俺はそう答えてその場から消えた。そしてアパートに戻った。
「バラす、か」
 ふとそう呟いた。その途端心の奥底から殺意がこみ上げてきた。それが何故かわからなかった。その時は。
 
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