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ジェイルハウス=ラブ

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第四章


第四章

 とりあえず気が向いた。俺は育った孤児院のある教会に向かった。バイクを飛ばしてそこまで向かった。
「潰れているかもな」
 運転しながらそう思った。只でさえオンボロだった教会だ。お化け屋敷と呼ばれたこともある。そんな教会だから何時潰れてもおかしくはなかった。
 教会の前に来た。するとまだあった。
「あったのかよ」
 俺はそれを見て口の端を歪めて笑った。見れば俺がいた時よりもさらに傾いていた。
 隣が孤児院だ。覗くと神父さんがいた。俺がいた頃よりさらに老け込んでいたがまだ立っていた。といっても俺がここを出てからまだ二三年しか経っていない。
 ガキを相手にしていた。数人いた。どいつもこいつもまだ小学校にも入っちゃいねいだろう。丁度我が侭な頃だ。今のあの人には相手をするのは酷かも知れないと思った。
 しかし神父さんはそんなガキ共の相手をにこにこと笑いながらしていた。ゆっくりとした動きでかなりしんどそうであったが、それでも笑いながら相手をしていた。
 シスター達もいた。皆今にも倒れそうな様子であった。だがそれでもガキの相手をしていた。
「まだやっていたのか」
 俺はそれを遠目で見ながら呟いた。
 神父さん達はガキを孤児院の中に入れた。休ませる為だ。俺の時もそうだった。
 それから神父さん達は孤児院や教会の中の掃除をはじめた。それから食事も作りはじめた。全部自分達でやっている。
「まずいものだったな」
 不意に神父さん達の料理の味を思い出した。あんなまずいものはなかった。だが俺はひもじい思いはしたことがなかった。
 それからガキ共を起こして食事になった。見ればガキ共はまるで馬か牛みたいに食っていやがる。だが神父さん達が食べるのはほんの僅かだった。今までそれに気がつかなかった。
「・・・・・・・・・」
 それを見て俺は思うところがあった。口でははっきり言えないが何かが心の中に宿った。そしてその食べる光景を見終えると俺はアパートに帰った。
 それから暫く考えた。俺はあの人達にどう育てられてきたか。そして俺はどうしてきたか。時間があるとそれについて考えるようになった。
 時々時間を見つけて覗いてみた。やはり神父さん達はやんちゃなガキ共の世話をしている。だがあの時、俺がいた時と同じで嫌な顔一つしない。それどころかにこにことしている。
「何が嬉しいんだ」
 あの時からそう思っていた。そして今もそう思っていた。
 考えているうちにわからなくなってきた。次第に我慢出来なくなってきた。たまりかねた俺はあの女がいる教会に向かった。そして聞いた。返事はすぐに返ってきた。
「嬉しいからですよ」
「嬉しい!?」
「はい」
 俺は首を傾げずにはいられなかった。何が嬉しいのか。全くわからない。
「あの人達にとってはそれが喜びなのです」
「喜び」
「はい。貴方も感じませんでしたか?」
「何をだ」
「あの人達の喜び。そして心を」
「心」
「はい」
 女は答えた。
「きっと感じている筈です」
「・・・・・・・・・」
 俺は考えた。いや、正式に言うと思い出したと言うべきか。
 ガキの頃神父さんに握ってもらった手を。ガサガサでどうしようもなく荒れた手だったがあったかかった。それはシスター達も同じだった。何よりも温かい手だったのを覚えている。
「思い出されましたか」
「まあな」
「それが答えです。その方達にとってそれが最も価値のあるものなんです」
「俺もか」
「はい」
 女はまたそう答えた。
「その方達にとって貴方も貴重な、かけがえのない存在である筈です」
「まさか」
 否定した。当然だった。俺がそんな価値のある奴な筈がない。親にも捨てられた俺が。思わず怒鳴りたくなった。
「馬鹿を言っちゃいけねえぜ」
「私はそうは思いません」
 だが女はここでまた言った。
「よろしければその神父さん達に御聞きになればいいでしょう」
「そこまでしなくても」
 わかる、そう言うつもりだった。だが先手、それもより上をとられてしまった。
「わかっておられますね」
「・・・・・・ああ」
 俺はそう答えざるを得なかった。そして頷いた。本当はわかっている筈だった。あの手の暖かさを思い出したその時で。もう否定できなかった。
「そういうことです。これでいいでしょう」
「まあな」
 口惜しい筈だった。今までは。だがそうじゃなかった。不思議と言えば不思議だった。
「だがな」
 それでも引っ掛かるものがあるのは事実だ。
「まだ完全にわかったわけでもないぜ」
「それは承知しています」
「そうなのか」
「はい。ゆっくりと考えて下さい。時間はかなりある筈です」
「わかった。それじゃあな」
 俺はその場を後にすることにした。そして暫くまた考え込んだ。
 
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