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IS ~インフィニット・ストラトス~ 日常を奪い去られた少年

作者:Shine
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16話

 
前書き
早く更新すると言って早くも4日が過ぎた。申し訳ない。

更新ペースは上げたいんですが、如何せん1万文字が遠い。

1話1話をもう少し短くすればもっと早く更新できるかと思うんですが、上手く区切れず1万文字まで書くのがパターン化しています。

何とか早く更新できるように努力するので、それで許してください。

それでは、本編どうぞ。


 

 
太平洋の海上を俊吾は移動していた。だが、先程から気分が悪い。原因は分かっている。高感度センサーを起動していないからだ。しかし、高速移動パッケージはインストールしたが、高感度センサーまではインストールしていなかった。完全に失敗である。だが、そんなことを気にしている暇は無い。もうすぐ、銀の福音潜伏区画である。気を引き締めなければ、こちらがやられる。

少し進むと楯無が落ちたとされている浮島が見えてきた。浮島はそこまで大きくないから、ハイパーセンサーを使い楯無を探す。すると、直ぐに見つかった。俊吾は直ぐに楯無の近くに降り、楯無の状態を確認する。

意識は無く、傷は背中に火傷をしている。そこまでの大怪我とは言えないが、この火傷は後々跡が残ってしまうかもしれない。

「ん…………誰…………………?」

「楯無さん?意識があるんですか?」

「その声……俊吾くん?…………っつ!」

楯無は俊吾の声を聞いて、楯無は体を動かすが顔を歪ませて苦しそうに息を吸う。

「そっか……私、襲われたんだった…………」

「そうです。だから、動かないでください。今から運びますから」

そう言って、俊吾は楯無を抱きかかえる。背中の火傷に手が触れないよう細心の注意を払う。

「え、ちょっと……」

「動かないでくださいね。背中に手が行っちゃいますから」

抱っこ状態なのでお互いの体が密着する。だが、これは仕方ない。お姫様抱っこだとどうしても背中に手が行ってしまう。おんぶにしても背中はパッケージ展開のため色々の物が出ているため背負えない。よって、抱っこになった。

…………素晴らしい感触があるが、気にしない。気にしたら死ぬ。色んな意味で。

飛び立とうとした瞬間、ハイパーセンサーが何かを捉えた。

「っ!銀の福音か!」

接近速度はかなり速い。予測では10秒後、接触する。

「楯無さん、少し待ってて下さい。あいつを倒してきますから」

「あっ……」

楯無は下ろされたとき、少し残念そうな顔をしたが直ぐに顔を引き締めた。

「俊吾くん。あいつ、一撃一撃の火力が高いわ。一発もらうと結構辛いかもしれないから気をつけて」

「分かりました」

俊吾はそう言って、飛び立った。

◇   ◆   ◇   ◆

俊吾が島から離れるように加速すると、銀の福音も追いかけてきた。だが、速度はあちらの方が速い。

こっちは高速移動パッケージを全開で飛ばしてるのに、追いつくか…………。軍用でリミッターは外されてるだろうけど、それにしても凄くないか……?う~む、何か特殊なパーツでも使ってるんだろうか。特殊武装もあるって話だし、気を付けないと。

突然、銀の福音からエネルギー弾が発射された。俊吾はそれを何とか避け、急速反転をする。それに反応し銀の福音も速度を下げる。

……距離はとったから、ここら辺で反撃するか。シールドエネルギーも桁違いだろうし、攻撃受けないようにしないと。

俊吾はアサルトライフルをコール、即座に銀の福音に向けて発射する。銀の福音はそれを避けるが、そこまで速くない。俊吾は先読みしながら弾を撃つ。ある程度の銃弾は当たった。高速移動状態じゃない限り、そこまで速くはないことが今の動きで分かった。それだけで俊吾の心の中に少しだけ余裕が生まれる。

銀の福音はまたもエネルギー弾を発射してくる。だが、今回は数が多い。俊吾はシールドをコール、避けれるものは避けて、無理なものは防御する。エネルギー弾が終わると、銀の福音は加速して、俊吾に向かってくる。直線的な動きで、それは簡単によけられる。そう思ったが、避けた方向に追尾してくる。油断していたせいで、そのまま接近され至近距離でエネルギー弾を喰らってしまった。

マズイと思い後ろに急加速し、距離を取る。その間に、一発バズーカを食らわせる。煙が上がり、少しの間は休めるだろう。

「はぁ…………ビビった……。あれか、今の状態は速度下げる代わりに機体制御がしやすくなってるのか。……上手く立ち回らないと危ないな……」

少し、考えを改めると、煙の中からエネルギー弾が飛んでくる。

「うわっ!」

少し反応が遅れたが、全弾よけられた。だが、少し気になることが出てきた。

「……さっきも思ったけど、こっちの攻撃効いてんのかな、あれ…………」

煙の中から出てきた銀の福音は傷一つ付いていないように見えた。

「やっぱり、実弾兵器だと火力足りないか……。なら!」

俊吾はインストールしていた重砲パッケージを展開。すると、ずっしりとした重さが感じられた。

「うおっ!……IS着てても重さを感じるって、よっぽどだよな…………」

俊吾は展開された装備を見る。両肩に32連装バルカン砲、腰の両側には16連ミサイル、脇腹にはバズーカ砲、膝にはレーザーカノンの砲身、そして、背中には腰とは別に8連ミサイル。動く砲台と言われても過言ではない。と言うか……。

「……やりすぎじゃない、これ」

あまりの重さに普段の移動速度の3分の1位になっている。そして、この重装備を支えるために装甲が強化されていて、動きにくくなっている。先に展開していた高速移動パッケージは肩甲骨あたりから伸び、基本的にはブースターに連結されている為、問題なく展開されている。

「…………ふ~む、移動も遅くなってるし、高速移動パッケージのブーストを上手く使いながら戦うか」

銀の福音はというと、あまりに変化した俊吾の姿を警戒してか、何もしてこない。

「まぁ、好都合っちゃ好都合か……」

まぁ、パッケージ併用出来る意味が分かったかもしれない。普通装甲じゃ絶対動けないで的にされるし。地上で根を張って固定砲台になるってことならいいんだけど。とは言え、使いの初めてなんだよね……。大丈夫かな、これ……。

これからどうするかと俊吾が迷っていると、意を決してか銀の福音が突進してきた。

「うわぁ、流石に来るよねぇ。なら……」

俊吾は手始めに、両肩についているバルカン砲を使った。

―――――ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!!!!

凄まじい音と共に、弾が発射されていく。銃弾の雨が突如襲って来た銀の福音は回避行動を取る。だが、両肩のバルカン砲から繰り出される弾の数は毎秒20。最初こそは避けられていたが、途中でそれも虚しく当たり始め動きが鈍くなる。その瞬間を狙って、俊吾は腰に付いているミサイルを全弾発射。計32発のミサイルが銀の福音を襲う。

ズドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!

またもや、凄まじい音と共に爆発が起きる。煙の量も桁違いで、何も見えなくなる。

「…………いやいやいやいや、火力高すぎでしょ、これ」

おそらく、通常よりも火薬の量が多く設定されてるのだろう。それにしても凄い威力だが。

「これ、もう戦闘不能とかに…………」

煙の中から銀の福音が姿を現す。前回とは言えないが、そこまで攻撃が効いているようには見えない。

「だよね~。…………全く、リミッター解除ISはどうしてこうも卑怯臭いかね」

溜息を付きながら、銀の福音と向き合う。銀の福音は警戒してか、一定距離をとっている。距離があれば、こちらの攻撃が当てにくいからだろう。学習能力が高くて嫌になってくる。

「そっちが来ないなら……こっちから行くぞ」

俊吾はレーザーカノンを牽制で撃つ。バルカン等よりも速度が速いため、銀の福音の意識がそちらに少しいく。その間にブーストを噴射し、距離を詰める。銀の福音は反撃に出ようとするが、俊吾が先にバズーカを発射。少し怯んだところにバルカンを放つ。が、銀の福音はシールドを展開し、銃弾を防いでいた。

互いにその状態で動かないで、少し経つが先に俊吾の動きが止まる。バルカンがオーバーヒートしたのだ。その隙をついて、銀の福音がエネルギー弾をバラまく。

「ぐっ!」

俊吾は何も出来ないまま、攻撃を受けた。

「……くっそ。結構削られた…………。全く、エグいことしやがる……」

先程、銀の福音はエネルギー弾をバラまいた。最初はある程度狙って放ってきていたが、さっきはそれをしてこなかった。その理由は簡単だ。俊吾がパッケージを展開して、表面積が広くなったのだ。その分、兵装をカバーするため、シールドエネルギーが適用される範囲が広くなる。ならば、狙わなくとも適当に撃てば攻撃が当たる。的が大きくて、動きが鈍いのだ。格好の的ということだ。

「結局、ジリ貧かよ…………何か、不利な状況ばっかりだよな、俺って……」

自らそのような状況に首を突っ込んでいるのだ。自業自得といえば自業自得だろう。だが、その状況を放っておけないから、こうなっている。難儀な性格だ。

「あ、そういえば…………そろそろ一夏たちが来てもおかしくないか……」

そう思い、索敵すると1km前方にISが見えた。白式と紅椿だ。

「もう、近くまで来てたか……」

俊吾は白式と紅椿にチャンネルを繋いだ。

「おい、一夏、箒さん、聞こえるか?」

「俊吾!?何してるんだ、一体!?それに、その格好……」

格好……?あ、今重砲パッケージ展開してるんだった。ま、いっか。

「いや、まぁ色々あったんだ。でだ、お前ら俺が少しの間、銀の福音の動きを引き止めるから、仕留めてくれよ」

「あ、ああ、分かった」

「了解だ。一夏、行くぞ!」

何か、箒さんが変に張り切ってるが先にこちらを仕留める。

俊吾は、注意を引き付けるためにバルカン砲を放つ。銀の福音はそれを避けるが、俊吾は上手く調節しながら一夏たちが攻撃が当てやすい位置に誘導する。

「―――来た!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

一夏は箒から飛び降り、零落白夜を発動して銀の福音に攻撃する。タイミング的にはよけられない。そう思った。

だが、銀の福音はそれに反応し避けた。

「うわっ!」

的を失った一夏は体勢を崩すが、何とか立て直す。

「嘘だろ……。今のタイミングで避けられるか…………」

……多分だけど、銀の福音の反応速度が上がってる…………?いや、多分じゃない。最初の頃に比べたら、動きが全然違う。これはまずいかもしれない。

「一夏、一回体制立て直すぞ」

「お、おう。箒、一回距離をとってくれ」

「大丈夫だ。私ならそんな必要はない」

箒はそう言い、銀の福音に向かっていく。

「あ、おい!」

一夏がそう言うが箒はそのまま行ってしまった。

「行っちゃったよ……」

「まぁ、時間を稼いでくれるって言うなら、それはそれでいい」

はぁ、今の状態じゃまともに動けないしな。反応速度が上がった銀の福音を相手に出来る気がしない。重砲パッケージはパージするか……。火力がかなりキツいけど、こいつらがいれば何とかなるだろ。

「重砲パッケージ、パージ」

俊吾がそう言うと、重砲パッケージは拡張領域に戻った。

ふぅ、だいぶ軽くなった。これで動けるな。

「……なぁ、俊吾。さっきのってパッケージなのか?」

俊吾が一息ついていると、一夏がそう言ってきた。

「ん?ああ、そうだけど」

「何か、凄いな、あれ」

「はは、まぁ、これは少し特製なんだよ。というか、そろそろ箒さん助けに行かないと……」

そう思い、箒の方向を見ると、凄いことが起きていた。

「……何か、圧倒してない、あれ?」

「だよな……。俺たち、必要なのか…………?」

箒が銀の福音を圧倒していた。スピード、パワー、機動性。全ての点で銀の福音を圧倒し、何もさせていなかった。

「すげぇ……」

一夏はそう呟いた。だが、俊吾はその状況を楽観視できないと思っていた。

……確かに凄いけど、何かがおかしい。銀の福音の動きが目に見えて何かをしようとしている。そのために、エネルギーを貯めている…………?

「まずっ……」

俊吾がそう言った時には遅かった。銀の福音が急上昇し、クルリと回った。すると、高濃度のエネルギー弾が広範囲に放たれた。箒は完全に油断していて反応できていなかった。一夏は箒を庇うように、箒を抱きかかえるため瞬間加速を使い、エネルギー弾と箒の間に割って入った。

俊吾は途中で、近くに浮島に楯無がいることを思い出し、高速移動パッケージのブーストを最大限加速させ、浮島に向かう。直ぐに楯無の前に立ち、シールドを展開。エネルギー弾を防御。シールドで防ぎきれないものは体を盾に楯無を守った。

―――ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!

エネルギー弾が一帯を襲う。一瞬、煙で何も見えなくなる。煙が晴れると、自分の体が無事なことがわかる。だが、それよりも俊吾は楯無のことが気になった。俊吾と違って楯無は生身なのだ。

「楯無さん、大丈夫ですか……?」

「ええ、大丈夫だけど…………あ、俊吾くん、腕から血が……!」

先程は気づかなかったが、腕を負傷していたようだ。だが、そんなことはどうでもいい。

「これくらいなんともないです。それよりも、少しマズかもしれません」

「え?」

『一夏!一夏!!!目を覚ましてくれ!!!!!』

先程、繋いだチャンネルから箒の泣き叫ぶような声が聞こえてきた。一夏が意識を失ったらしい。

「……これは無理にでも撤退したほうが良いかもな」

問題は銀の福音か……と思っていると、銀の福音が動き出した。箒たちとは反対の方向に。

「これは好都合か……。作戦はあれだけど、戻ったほうがいいな」

俊吾は箒に聞こえるように言った。

「箒さん、一時退却だ」

「しゅ、俊吾!一夏が目を覚まさないんだ!」

「それは分かってる。だから、早く旅館まで飛んでくれ。そうすれば何とかなる」

「わ、分かった……」

箒はそう言って、全速力で戻っていった。

「……いや~、速いなぁ。じゃ、こっちも一旦戻りますよ、楯無さん」

俊吾はそう言って、楯無を抱きかかえる。

「…………この体制ってどうにかならないの?」

「どうにかしたいんですけど、他って無理じゃないですか。楯無さんの怪我背中だし」

「それはそうだけど……」

「とりあえず、飛びますよ」

俊吾は上昇した。そして、その途中で楯無の怪我が風で痛んだらどうしよう、と思った。

「楯無さん。背中の傷って風でも痛みます?」

「まぁ、多少はね。そこまで浅い傷じゃないのは自分でわかるし」

ん~、そっか…………なら、シールドを風よけに使うか。

俊吾はシールドをコール。そのまま風が楯無の傷に風が当たらないように配置して出発した。

「別に気にしなくてもよかったのに」

「そうはいきませんよ。それで怪我が悪化したら大問題ですよ」

俊吾がそう言うと、何を言っても結局自分を心配するようなことしか言わなだろう、と分かったらしく何も言わなくなった。そして、少し経つと口を開いた。

「……ねぇ、俊吾くん。今回の作戦に俊吾くんって選ばれてたの?」

「……いえ。選ばれてません」

「ってことは、勝手に出てきたの?」

「そうですね」

「何で…………?」

「?」

「何で……出てきたの?」

「それは……楯無さんが負傷したって聞いて、いてもたってもいられなくなって……。もし、楯無さんの身に何かあったら…………心が持つ自身がありません」

「…………」

「だから、勝手に出てきたんです。懲罰を受けたって何されたって。…………何もしないで失うなんて後悔は二度としたくないんです」

「………………」

それ以降、二人は何も話さなかった。

◇   ◆   ◇   ◆

「とりあえず、良かったです。怪我は何ともなさそうで」

「本当、良かった…………お姉ちゃんが無事で……」

旅館に着いた俊吾と楯無は一通りのメディカルチェックを受けた。俊吾は大きな怪我はなく、何事もなかった。楯無も怪我は少し酷いものの、跡は残らないだろう、と医師は言っていた。面会が許可されると簪が直ぐに楯無の元に行き、楯無の無事な姿を見て安堵していた。

それと、勝手な行動をした俊吾の罰則については、作戦終了後とのことだ。

「問題は……一夏、か」

一夏は傷こそ深くはないが、意識が戻らない。理由は医師にも分からないようで、現在は別室で安静とのことだ。

「でも、傷自体は問題ないんでしょ?」

「ええ、そうらしいですけど」

「じゃあ、後は一夏くんの気持ち次第ね」

「そうですね……」

あと一人、傷こそ受けていないが心の傷が出来たしまった者もいる。俊吾はその一人をどうするか少し迷っていた。

「……あの、俊吾君。篠ノ之さんの所……行ってあげたら…………?」

「……え?」

簪からそう言われ、俊吾は面食らったような顔をした。

「だって……凄く気になってる顔してるし…………。それに、その顔になった俊吾君って……助けたいってときだもん…………」

心の中を見透かされ驚いていた俊吾だったが、視界の端に入った楯無の顔も簪と似たような顔になっていて居心地が悪くなった。

……俺ってそんな顔に出るタイプだっけか…………。というか、この二人には何考えてても見透かされそうな……ああ、あとシャルも似た匂いがする…………。まぁ、でも……決心がついたかな。

「……じゃあ、お言葉に甘えて行ってくるよ」

俊吾は立ち上がりながらそう言った。そして、部屋を出るときに

「え、と……その、二人共、ありがとう」

と言って出ていった。

◇   ◆   ◇   ◆

旅館の一室。そこには体中を包帯で巻かれた一夏が横たわっており、その部屋の隅で膝を抱えて縮こまっている箒がいた。

「私は…………また、取り返しのつかないことを……………………」

何度目になるか分からない呟きが漏れる。作戦が失敗に終わってから箒は動かないで動けなくなった一夏を見てはその呟きを漏らし続けた。何をすればいいのか分からないのだ。自分は力を持つとその力を行使したくて仕方なくなる。いつもそうだいつもそうだ、と心の中で自分を攻め続けている。

そして、その部屋の外に見慣れた顔があった。

「あれ、鈴さん。何してるの、こんな所で」

俊吾が声を掛けると、鈴の体がビクっと跳ねた。声を掛けられると思っていなかったのだろう。

「な、何だ、俊吾か。あ、あんたこそ何しに来たのよ」

気を取り直すかのように鈴は言った。

「いや、箒さんに言いたいことがあって。鈴さんこそ、何してるの?」

まぁ、予想はつくけどな、ここにいる時点で。大方、箒さんを叱咤しに来たんだろう。

「私は別に何もないわよ。箒は中にいるだろうから早く行ったら?」

「そうさせてもらうよ」

俊吾は鈴が気を使ってくれたと思い、少し微笑みながらそう言った。そして、部屋の中に入る。中には変わらず、動かない一夏と箒がいた。

「箒さん、いつまでそこにいるの?」

「…………」

「……はぁ、そうやってれば問題が解決すると思ってる?」

「…………」

「確かに、君は取り返しにならないような失態を犯した。でも、あくまで『ならないような』だ。まだやり直しはきく。なら、何でやり直そうとしない?分かってるだろう。そんな事をしても、何にもならない事ぐらい。俺だったら、やり直すために奔走するね」

「…………が分かる」

「…………」

「お前に何が分かる!」

箒はそう言って、俊吾の胸ぐらを掴んだ。箒の目には怒りと悲しみと失望と……後悔があった。

「私は……私は、私のせいで一夏にこんな傷を負わせてしまった…………。私が、しっかりしていればこんなことにはならなかったんだ!それはお前はさっきから……!何の後悔もしていないお前に何が分かるんだ!!!」

……何の後悔もしていない、ね。今、何となく分かった。何で、こんなに箒さんを気にかけていたのか。俺と似てるからだ。根本的な所では違うけど、あれがこうだったら……って何回も後悔して…………。そんな時の俺に似てるんだ。だから、こんなにも苛立つのか。自分の情けない部分を見ているようで。

俊吾は箒の目をしっかりと見つめ言った。

「ああ、俺には分からないね。まだどうとでもなるのに何もしないヤツの気持ちなんて分からねぇよ!分かりたくもないね!!!やり直せるならやり直せよ!お前にはまだチャンスがいくらでもあるだろ!!!!俺とは違ってチャンスがあるだろ!!!失敗だって取り返せる!一夏だって別に死んだわけじゃない!だったら!汚れたっていい!醜くてもいい!足掻いたっていい!どんな手を使ってでも取り戻せよ!!!」

俊吾は吐き出すかのように矢次早に言った。お陰で息が切れている。その様子を見て箒は呆然としていた。普段温厚な俊吾が怒鳴るように言ったという事もあるが、一番は俊吾が言った内容だ。自分にはチャンスが無かった。俊吾の台詞からそう読み取れる。その意味は一体どういうことなのだろう。もしかしたら、自分は何か失礼なことを言ったのではないのだろうか。そういう思いが心を駆け巡った。

だが、俊吾の言葉で全てが吹っ切れた。たとえ、どれだけ地を這っても全てを取り戻す。信頼関係も友情も一夏に恩返しするということも。こう言う風に思っている人がいるだけで、これだけ心が軽くなる。そんな実感をしていた。

「……すまない。私はまた甘えていたみたいだ。今の状況に、今の待遇に。……俊吾、ありがとう。お前のお陰で気づかせてもらえた。本当にありがとう」

そういう箒の目は力強い何かを秘めていた。その目になれば、俊吾の役目は終わった。

「いや、俺は背中をしただけだよ。あ、あと、怒鳴ったりしてごめん」

「今の私にはそれがぴったりだった。気にするな」

「そう言ってもらえるとありがたいよ」

正直、途中から色々とボロったからな……。箒さん、気づいてなければいいけど…………。

「…………俊吾。さっき言った事、あとで少し聞かせてくれないか?お前に何かあったかを」

「……聞いて面白い話じゃないと思うけど?」

「それでも聞かせてくれ」

「…………そこまで言われたら断れないかなぁ」

はぁ、正直みんなには黙ってたかったんだけどな…………。でも、聞きたいっていうなら断るのもおかしいしな。…………いや、おかしいのか?ああ、疲れて良く分からん。まぁ、承諾しちゃったからな。仕方ない、か。

「手始めに、みんなに謝りに行く。出来れば着いてきて欲しいんだが……」

「え?着いてくもなにも、外に―――――」

俊吾がそう言うと部屋の外からみんな―――鈴、セシリア、シャルロット、ラウラ、簪―――が入ってきた。

「よーやく復活?随分、遅かったじゃない」

鈴は皮肉げにそう言った。俊吾は部屋の外でどうやって叱咤するか考えてたくせに、と思っていた。すると、鈴からの鋭い視線が飛んでくる。

「……最初にみんなに言いたいことがある」

箒はみんなと向き合いながら言った。

「心配かけて済まなかった。私はもう大丈夫だ」

はっきりと力強くそう言った。それを聞くと鈴は少し苛立ったふうに言った。

「っは、誰も最初からあんたのことは心配してないわよ」

苛立ったような口調だが、笑っていた。他のみんなも同様に笑っていた。友達……いや、仲間の復活が率直に嬉しいのだろう。

「それで、これからどうするのだ?」

「ああ、それならラウラが調べてくれたわよ」

「敵機はここから30km沖合で発見した。ステルスモードにはなっていたが光学迷彩は無いようで、衛星で発見できた」

「さっすがドイツの精鋭ね」

「そちらこそどうなのだ?」

「心配すんなっての。甲龍の攻撃特化パッケージはインストール済みよ。他のみんなは?」

「私は大丈夫ですわ」

「僕も準備万端だよ」

「私も……大丈夫」

……というか、いつからみんなは外にいたんだ?鈴さんは分かるけど、他のメンバーはいつ来たんだ?

「あんたは?」

「……え?」

少し考え事をしていて、反応が遅れてしまった。というか、俊吾は話しかけられると思っていなかった。ただでさえ、女子の友情パワー炸裂!で俊吾は蚊帳の外だったのに。

「あんたの準備は終わったかって聞いてんの!」

「俺?俺は一回あれと戦ってるし、装備もそのままだから準備は終わってるけど」

準備が一体なんの準備だか分からんが、終わってるって言っとけば大丈夫……のはず。

「じゃあ、作戦開始よ。今度こそ堕とすわ」

鈴がそう言うと、みんな準備のために外に向かった。しかし、何故か鈴が部屋の中に残っている。疑問に思っていると俊吾に話しかける。

「ねぇ、さっき箒に言ってたこと、私たちにも聞かせて」

「それはどういう?」

「箒には話すんでしょ?だったら、私たちも一緒にいいわよね?」

「私たちっていうのは?」

「みんなよ、みんな。さっき、この場にいたメンバー全員」

…………全員に教えるのか。ああ、こんなことになるなら最初に断っとけばよかった。まぁ、今更か。

「……分かった。無事に作戦が終了したら話すよ」

「よし、ならさっさと行くわよ!」

鈴はそう言って部屋を出ていった。一人、部屋に残された俊吾は溜息をついて外に向かった。

◇   ◆   ◇   ◆

「お、織斑先生!これを見てください!」

「…………あのバカ者共は」

作戦室で銀の福音をモニターしている画面に、銀の福音に接近する7機のISを捉える。

「全く、現状維持だと言ったのが分からなかったのか……」

しかし……。

「あいつらに任せるしかないのも、事実か……」

千冬は厳しい顔でモニターを見つめた。
 
 

 
後書き
前書きで書くの忘れてたんですが、今回は独自解釈が出てきました。

パッケージがインストールすれば着脱が可能ということになっています。本当は違うなら俊吾くんだけ特別仕様って事にしてください。

えと、本編についてですが、結局箒はやらかすという。あそこで倒すのもありかなって思ったんですが雪羅どうすんだよ、という事になりまして。結局、箒には当て馬になって貰いました。一番の被害は一夏ですけど。

あと、今読み直して思ったんですが説教中の俊吾くんが修造に見えてしまった……。特に意識したわけじゃないのに。というか、何が言いたいのか良く分からん。直すとまた更新が遅れそうなので、このままにします。何言ってんだこいつってなっても仕様です。すいません。

今回はここまでにします。次はもう少し早く更新できるようにしますので。

誤字脱字などありましたら感想にて報告お願いします。

それでは、また次回。

 
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