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偽典 ドラゴンクエストⅢ 勇者ではないアーベルの冒険

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第7章 終わりの始まり
  第伍話 討伐

大魔王が叫ぶと、突然大きな竜が登場した。
いつの間にか、大魔王は姿を消していた。
予想どおり、まとめて襲いかかってこなかったことに安堵しながら、目の前の怪物に意識を集中する。
「キングヒドラか・・・・・・」
俺は、小さくつぶやく。

青い巨体に、5つの首を持つ竜。
ヒドラなら、ギリシャ神話的に9つの首ではないかと思われるが、まあいろいろあったのだろう。ここはギリシャではないし。

直接観察はしていないが、おそらく、途中で、待ち受けていた個体と同じだと思う。
戦う時期が、早かったか遅かったかの違いだろう。

「ルカニ!!」
俺はいつもより大きな声で、呪文を唱えた。
このキングヒドラはボスだけのことはあって、高いHPとそれなりの防御力がある。
先ほど唱えた防御力を大幅に減らす呪文なら、キングヒドラの堅い鱗もタンタルやテルルの攻撃が効くようになるだろう。
回復役は、基本的にセレンしかいないので、早期決着をはかるため、全力を尽くす。
攻撃は最大の防御か。

「メラゾーマ!」
俺は、最強の攻撃呪文を打ち込んだ。


しばらく戦ったが、タンタルの会心の一撃で、キングヒドラは活動を停止した。
危なげなく倒しきった。
このていどの相手なら、戦闘を回避しなくてもよかったように思ったが、何が起こるかわからない。
自分を戒め、祈りの指輪でMPを回復してから先に進む。



「バラモス?」
「どうして、ここに?」
「あれが、バラモス」
次に登場したのは、鳥の顔をした、巨大な人型モンスターであった。
セレンとテルルはすぐに魔王バラモスのことが頭に浮かんだようだ。
直接、俺とバラモスとの戦いを見ていなかったはずだが、戦ったときのウエイイ攻略戦の資料でも思い出したのだろう。
一方で、タンタルはその話を知らないため、確認の意味でつぶやいたようだ。

だが、それは違う。
あいつの名前は、バラモスブロスだ。

俺が説明する前に、本人が声を荒げる。
「あいつは、俺の弟だ」

そして、鋭い視線を俺に向ける。
「弟を追い払ったくらいで、いい気になるな。
奴は我々、バラモス四兄弟の中でも、最弱」
俺は、驚いた。
まさか、4人兄弟だったとは。人ではないので、バラモスブロスのとおり、四兄弟なのだろう。

「人間にやられるなんて、兄弟の恥さらしが」
バラモスブロスは俺に残酷な表情を向ける。

俺は、セレンに指示を与える。
セレンは、俺の指示に一瞬驚いたようだが、呪文を唱えた。

「マ「ルカニ!!」」
セレンの詠唱は、俺の叫び声とも言える大音量によってかき消される。

「防御力を削いだ程度で、倒せると思うな!
イオナズン!」
バラモスブロスはイオナズンを唱えた。
しかし、効果は発揮しない。

セレンが唱えた呪文「マホトーン」によって封じられていたからだ。


「そんな、……」

「これで、おまえは消え失せる。終わりだ」
タンタルの攻撃でバラモスブロスが倒れる。
「終わりだと!
これが地獄行きの始まりだ。
俺には後二人兄がいるのを忘れたのか」
「なに?」
タンタルは驚きの声を上げる。

「貴様の地獄が目に・・・・・・」
バラモスブロスは話の途中で、消え去った。

「あの二人が生きていたのか」
タンタルのつぶやきに、俺は質問する。
「知っているのか?」
「いや、なんとなく言ってみただけです。
ですが、他のバラモスなんとかが襲いかかってくるのでしょうか?」
タンタルは心配そうな表情で俺にたずねる。

「大丈夫だろう。
とはいえ」
俺は、遙か遠くにみえる玉座に視線を移すと、
「あそこまでは、遠い。
襲いかかってくる可能性に注意を払おう」
俺は、バラモスゾンビの存在を念頭に置きながら、注意を促す。
バラモスゾンビになりそうな存在は、先ほど倒したバラモスブロスくらいしかいない。
上の世界のバラモスは、三姉妹達が倒さない限りゾンビ化しないだろう。
ひょっとしたら、先ほどの二人の兄が現れるかもしれないが。

「そうですね」
タンタルはうなずいた。



結局、玉座の前に到着するまで、バラモスゾンビは出現しなかった。
とりあえず、俺は安心した。
おそらく、バラモスゾンビが出現しなかった理由は、バラモスがまだ三姉妹達に倒されていないことによるものだと確信した。
そして、今のうちに、目の前にいる大魔王を倒すことができるのであれば、悲劇を避けることが出来るであろうことも。


「さて、最後の敵は目の前だ」
俺は、ようやく玉座に座る大魔王を前にした。
俺は、最終確認をする。
ここで、ミスは許されないからだ。
「HPの回復はすんだか?」
セレンはうなずく。
「光の玉はあるか?」
「ちゃんと、用意しているわ」
テルルは、自分用の道具袋を確認する。
「MPの補充は?」
「大丈夫です」
セレンが、左手の薬指に身につけた指輪を、いとしそうな表情で確認しながら頷く。
指輪のデザインが気に入ったのは良いが、しょせんは消耗品。
あまり愛着を持たないほうがよいだろう。
まあ、在庫に余裕があるのでいくらでも同じ物を渡すことができるが。


「よし、向かおう。最後の敵に」
俺の目の前に、再び大魔王ゾーマがあらわれた。



父親であるロイズがアリアハンの近衛兵に就任した日から、ゾーマの討伐を決意していた。
途中、一年間ロマリア王として仕事に励んだり、一緒に冒険する予定の勇者が連れ去られたり、いくつか予定と違う点が存在するが、目の前のゾーマを倒す準備は整えている。

俺は、周囲の仲間に視線で確認を行う。
セレン、テルル、タンタルは同時に頷いた。
予定どおりの戦闘を行えば、負ける事はない。

大魔王ゾーマは俺に対して、哀れむかのように話しかけた。
「アーベルよ、なぜもがき苦しむ」
しかし、ゾーマの目は残忍さを隠そうともしない。

「ほろびこそわが喜び」
ゾーマの顔は哄笑に変化した。
「死に行く物こそ美しい」
そして、残忍な表情を見せると、両手を広げると俺達に襲いかかってきた。
「さあわが腕の中で息絶えるがよい!」

「今だ!」
俺の声に答えるように、テルルは手にしていた玉を使用する。
大魔王ゾーマと対峙したときに、最初にすると決めていたことだ。
テルル以外のメンバーは、テルルを守るように防御している。

テルルは光の玉を天にかざした。
あたりにまばゆいばかりの光がひろがる。
やがて、光が静まると、大魔王ゾーマが身に纏っていた黒いマントが消え去っていた。

「ほほう・・・」
ゾーマは驚嘆の声をあげる。
「わがバリアをはずすすべをしっていたとはな」
しかし残忍な表情は変わらない。
「しかし、無駄なこと・・・」
ゾーマは再び俺達に近づいた。
「さあ、我が腕の中でもがき苦しむがよい」


「さあ、作戦どおりにいこう」
俺は、打ち合わせた作戦を指示した。

「フバーハ」
セレンは呪文を唱えると、俺達全員が絹のような光の衣を身にまとう。
これで、ゾーマの強力な吹雪攻撃を和らげることができる。

「とりゃー!!」
タンタルは素早くゾーマの横に飛ぶと、拳に付けた鋼鉄製のパワーナックルを勢いよく振り抜いた。
会心の一撃だったようで、ゾーマの動きは少し鈍った。

「メラゾーマ」
俺は、タンタルがゾーマから離れる瞬間をねらって、大きな火球をゾーマに打ち込む。
俺が身につけている、単体用で最大火力の攻撃呪文だ。
命中すれば、一撃でほとんどのモンスターは消滅する。

ゾーマは俺達の攻撃を受け止めると、反撃に移った。
口からはき出す冷気、それは吹雪となって、俺達に襲いかかる。
「くっ」
「いたっ」
「テルル!」
「わかっているわよ!」

俺の指示よりも早くテルルは行動していた。
光の玉の代わりに取り出した青い正八面体の石。
俺と、母ソフィアが作成した「賢者の石のようなもの」。
テルルが念じると、淡い不思議な光が俺達を優しく包み込む。

全体回復魔法「ベホマラー」と同等の効果をもたらすが、オリジナルの「賢者の石」と異なり、使用回数が約30回しかない。
だが、それだけの回数があれば、ゾーマを倒すことができる。
もし、誰かが集中的に攻撃を受けたり、吹雪の連続攻撃で回復が追いつかなかったりした場合は、セレンが全快回復魔法「ベホマ」で回復を行う予定だ。

癒えた体を実感した俺達は、攻撃を再開した。



どれくらい、戦闘が続いたのだろうか。
俺のMP消費量から判断すると、メラゾーマ17回目だな。
大魔王ゾーマの動きが突然止まる。
やがて、ゾーマの体が崩れ落ちる。


「やったのか」
「・・・。そうだな」
俺はしばらくゾーマを睨んでいたが、ゾーマの体からモンスターの気配が消え失せたのを確認した。

俺達は、一度セレンが瀕死の重傷を負ったが、自分でベホマを唱えて危機を脱出している。
結局、死者を出すことなく勝利した。

セレンとテルルは、お互いの体を抱き合って、健闘をねぎらっていた。
経験値を稼ぐため、連続して戦闘を続けたことはあったが、一体を相手にこれだけ長時間戦ったことはない。
大魔王を相手にしたというプレッシャーをはねのけた事で、一気に疲労が襲いかかったようだ。


ようやく俺の長い旅が終わる。
これまでの旅の経過を思い出していた。
ようやくこれからのことを考える必要がある。
まずは、勇者を助けることだな。


「アーベル」
俺を現実に引き戻したのは、テルルの声だった。

大魔王ゾーマが、倒れた姿のまま俺に話しかけた。
「アーベルよ、よくぞ我を倒した」
 
 

 
後書き
次回で第7章は終了します。
ご支援ありがとうございました。 
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