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アーチャー”が”憑依

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一話

 
前書き
こっちの作品も移転開始です。
にじファンで掲載していた分は基本的に数話まとめてざっと誤字確認だけしてます。 

 
無限とも言えるほどの数の剣が突き立つ荒野。空は荒野を赤く染め、いくつもの巨大な歯車が回りあたりには火の粉が舞っている。

それが、錬鉄の英霊『エミヤシロウ』の座であった。


座の主、エミヤシロウは腕を組み目を閉じて静かにたたずんでいた。今、彼は己の分身が持ち帰った記録を見ていた。その内容とは、『聖杯戦争』。彼はアーチャーのサーヴァントとして現界した。
望みはただ一つ……自分殺し。未来の自分が過去の自分を殺すという矛盾を行うことで自己の消滅を図ったのだ。

しかし、結果は失敗だった。しかも、最後にはマスターであった懐かしい少女とかつて愛した少女。そして、殺すはずだった過去の自分を逃がすために最強のサーヴァントと戦い、その命を六度奪い消滅するというものだった。

たとえ理想と現実の間で擦り切れ、磨耗してもエミヤシロウは彼女達を見捨てることはできなかったというわけか……笑うに笑えない。自己の消滅こそが、今エミヤシロウが望む全てであったはずなのに……

自らを卑下する笑みを浮かべていると、また、自分から分身が生まれ離れていく感覚がエミヤシロウを襲った。感じからして、これは守護者としての召喚ではない。

「次は何が起こるのか……せいぜい頑張ることだ」

本体であるエミヤシロウは、自身から生まれた分身に適当なエールを送った。

この時、彼はこれから自らの分身に何が起こるから予測できただろうか?
いや、できるはずがない。なにせ、今しがた生まれた分身は、異なる世界で新たな一つの生命として生きることになるのだから。

その新たな生命……赤ん坊の名を、ネギ・スプリングフィールドと言った。





広い講堂。中央には五人の子供達の姿があり、周りでは大人達が見守るようにして子供達を見つめている。
そう、今日はメルディアナ魔法学校の卒業式。

講堂中央に立つ子供の中には、緑のローブと帽子をかぶった少年ネギ・スプリングフィールドの姿もあった。



「うーん! 私達もようやく卒業ね」

茶色い髪の少女、アーニャがグッと体を伸ばしながらそうもらす。

「しかし、これからが大変なのだぞ?」

その容姿に似つかわしくない口調で喋るのは赤毛の少年ネギ。

「何よ! 少しぐらい感慨にふけってもいいじゃない!」

「二人とも、今日はおめでたい日なんだから喧嘩するのはやめなさい」

ネギへとつっかかるアーニャ。その様子に微笑みながらも嗜めるのは薄い金色の髪を持つネカネ・スプリングフィールド。ネギの従姉妹で姉のような存在だ。

「むぅ……仕方ないわね。そう言えばネギ、あんた修行の地は浮かび上がったの?」

アーニャも日頃ネカネには世話になっているため、そう言われては引くしかない。
話題の転換だとばかりに先程もらった卒業証書に浮かび上がる“立派な魔法使い”になるための修行の地はどこかと尋ねる。

「私はロンドンで占い師をすることだったわよ」

「先ほど見た時はまだ浮かび上がっていなかった。しかし、そろそろ浮かび上がってもいいころだろう」

ネギは丸めて脇に抱えていた卒業証書を開いた。すると、まるで見計らったかのようなタイミングで光り輝く文字が浮かび上がり始めた。浮かび上がった文字、それは……

“A TEACHER IN JAPAN”

日本で教師をすること、だった。






「校長! 日本で教師ってどういうことなんですか!?」

「ネギはまだ十歳なのよ!?」

ネギの修行の地を見てから、ネカネとアーニャは校長につめかけに行った。当の本人であるネギはそんな二人にため息をつきながらも後を追ったわけだが……

「ほほう、日本で教師か……これまた大変な課題をもらったのう」

長く伸ばした髭を手で弄びながら校長は呟く。ネギはそんな校長をジッと見ていたわけだが、不意に二人の視線が重なった。

「修行先の学園長はワシ友人じゃ。頑張ってきなさい」

その言葉でネギは確信した。もちろん、全てと言うわけではないだろうが校長は自分の意を汲んでくれたであろうことに。

「了解した。爺さんの友人と言うのがいささか不安ではあるが、主席に恥じない程度には頑張ろう。それに丁度いい。直接顔を合わせたことはないが、向こうには手紙のやり取りをしているものがいるのでな。会うことにしよう」

こうして、見習い魔法使いネギ・スプリングフィールドは立派な魔法使いになるために……本当にそうなのだろうか? とにかく、少年はまだみぬ地日本“麻帆良”へと旅立って行った。





[次は、麻帆良中央駅です]

電車内にアナウンスの声が響く。それを聞いたネギは、閉じていた目を開き呟いた。

「ようやく着いたか」

これより、世界で最も稀有であろう少年と元気な31名の少女達の物語が始まる。





「ふむ、これを登校風景と呼んでもいいのかいささか疑問だな」

周りにはバイクの二人乗りをしながら肉まんを売るもの。インラインスケートなどを履き、路面電車につかまっているもの。およそ、普通とは言い難いものがある。
これからの生活に若干の不安を覚えそうになったが、魔法使いの修行とはいえ子供を教師に迎え入れるような学園だ。ネギはいまさらと割り切ることにした。
そのまましばらく走り続けていると、ネギの耳に隣を走る二組の少女に会話が入ってきてしまった。盗み聞きとは褒められた行為ではないがこれだけ密集していれば、聞こえてしまうのも無理はなかった。

「好きな人の名前を10回言ってワンと鳴くと効果ありやて」

「ほんと!? 高畑先生高畑先生高畑先生……」

会話の内容は恋愛占いのようだが、生徒が教師にと言うのはどうだろうか……いや、逆よりはいいのか? と、どうでもいいことをネギは考えていたが、その占いを迷わず実行した少女に少しばかり忠告することにした。

「占いなんてものは参考程度にしておいたほうがいい。そうでないと痛い目にあうぞ」

既に女子高エリアに入っているにも関わらず聞こえた男……というか少年の声に二人の少女は揃って首を声のした方へと向けた。そこにいたのは勿論ネギ。

「ななな、何ですって~!! ガキが偉そうなこと言ってんじゃないわよ!」

どうやら、二人の少女はそれぞれ思考が違うほうにいったらしい。ツインテールにオッドアイが特徴的な少女はネギが偉そうなことを言ったという方向へ。黒髪の長髪の少女はどうしてネギが此処に? といった具合だ。

「経験者からの忠告……アドバイスのつもりだったのだがね。気にさわったのなら謝ろう」

その言葉を聞いた瞬間、ツインテール……明日菜の中でのネギの評価が生意気なガキから大人ぶった生意気なガキにグレードアップした。

「占いでなにかあったん?」

「まぁ、過去に少しな」

怒りのゲージが上昇の一途をたどる明日菜をよそに黒髪の少女……このかとネギは話を続ける。

「そうなんか。そういえば、ここは女子校エリアなんやけど……迷子?」

「そ、そうよ! 此処はアンタみたいなガキがいていい場所じゃないわ!!」

迷子というのはともかく、その言い方はどうなんだと明日菜に若干批判めいた視線を送るが効果はないようだった。

「別に迷子というわけではない。此処に来たのはちゃんと理由がある」

「理由って何よ!?」

唾が飛んできそうなほどの大声に若干顔をしかめながらネギは答えた。

「どういうわけか学園長は常に女子校エリアにいると聞いたのでな。会うためには此処に来るしかなかった。文句は学園長に言ってくれ」

「あ~、確かにじいちゃんいつもこっちにおるな~」

「ああ、一時変態かと疑ってしまったほどだ」

二人が学園長に関する談義を交わすなか、放っておかれた明日菜は何かが限界に達したようだ。

「アンタみたいなガキが学園長に何の「そこらへんにしてあげてくれないか、明日菜君」

再び明日菜の怒号が響こうとするなか、それを止める声があった。



「学園長!! 一体どういうことなんですか!?」

場所は変わって学園長室。そこに、一人の少女の叫び声が響いていた。


「明日菜、ちょっと落ち着きー」

「落ち着いてるわよ!!」

10人が10人反論しそうなものだが、あいにくとそれを突っ込むような人物はここにはいない。学園長はフォッフォと笑い、タカミチは苦笑。このかは何とか明日菜をなだめようとしており、ネギは腕を組んで黙ったままだ。

「学園長、そろそろ話をすすめていただきたい」

大人二人が動かないため事体に進展が見込めないと判断したネギはその重い口を開いた。

「おお、すまなんだ。して、君の住む場所であったな」

既にネギが2-Aの担任を務めることは聞かされている。だからこそ明日菜は一人叫んでいるのだが……そこに、学園長はさらなる爆弾を投下した。

「このかに明日菜ちゃん、ネギ君を二人の部屋においてくれんか? まだ住むとこ決まってなくての」

「絶対にお断りです!!」

「明日菜~」

即答だった。その後も、学園長と明日菜の不毛な言い争いが続いていたのだが、除々に明日菜が押され始める。しかし、援護の声は以外な所からやってきた。

「学園長、この際私を女性の部屋に住まわそうとしているのは置いておくが嫌がっている相手に無理強いするものではない」

皆の視線が一斉にネギへと向けられる。だが、ネギはそれを気にした風もなく言葉を続けた。

「誰か泊めてくれないかは自分で探す。だからそれ以上彼女に頼むのはやめてくれ」

「むむむ、しかしのぅ」

「じーちゃんもしつこいでー」

このかは別にネギを泊めることに反対ではなかったのだが、明日菜があまりにも反対するのと学園長のしつこい態度にこの時ばかりはネギの意見に賛同したようだ。

「……分かったわい。後日でいいから誰の部屋に泊まるか報告するように頼むぞ」

「了解だ」

この後、ネギは指導教員の源しずなを紹介され2-Aへと向かった。





おまけ

「これは……」

「全く、あの子たちったら」

2-Aの教室、その入り口に施された罠(黒板けし)。

「退屈はしなさそうだ……」

ネギは隣にいるしずなでさえ気づかないほどの小さなため息を一つ漏らす。されど、その口元は、わずかに緩んでいた。 
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