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Element Magic Trinity

作者:緋色の空
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命の盾


「一瞬で終わらせてやる」

怒るジェラール。
立つナツとティア。
そして、気を失うエルザ。

「立ち上がった事を後悔しながら地獄へ行け」

様々な思いが、同じ場所で交差する。

「しぶとさには自信があるんだ。やれるモンならやってみやがれ」
「悪いけど、そう簡単に倒れるつもりはないわよ」

そう言って、挑発的に笑う。

「つぇあっ!」

2人の言葉に、ジェラールは容赦なく魔法を放つ。
それを2人はサッと身をかがめ、避けた。

「おっと」
「危ないわね」

危ない、と言っていながら全く危機感を感じない軽い動きで避ける。

「来いやぁ!」

ナツが叫ぶと、ジェラールの放った魔法の球体がナツに直撃する。

「うぎぎぎぎぎぎ・・・」
「!」

ナツの声に反応し、エルザの目がうっすらと開いた。
バキバキと音を立て、球体はナツを押していく。
それと同時に、魔法の通った魔水晶(ラクリマ)の床は通った跡を残して行った。

「だぁっ!」

吼えると同時に、防御態勢を取っていた両腕を広げ、魔法をかき消す。
ジェラールが目を見開いた。

「どうした?塔が壊れんのビビって本気が出せねぇのか?全然効かねぇなァ・・・」
「フン・・・とんだ腰抜けね」

息を荒げながら、ナツは言葉を紡ぐ。
ティアも息を荒げてはいるが、ギルド1と言ってもいいほどに誇り高き閃光は、その誇りを崩さなかった。

「いつまでも調子にのってんじゃねぇぞ、ガキ共が!」

その言葉に激昴したジェラールは、さらに魔法を放つ。

「ぐはぁ!」
「きゃあ!」
「ナツ!ティア!」

完全に意識を取り戻したエルザは体勢を変え、2人の名を叫ぶ。
床に叩きつけられた2人はすぐさま地を踏んで跳び、構えた。

「火竜の・・・」
大海(アクエリアス)・・・」

ナツは両手に炎を纏い、ティアは全身に水の針を纏っていく。
そしてタイミングを計ったかのように――――――

「煌炎!!!!」
針鼠(ヘッジホッグ)!!!!」

ナツは両手の炎を一気に床に叩きつけ、ティアは全身の水の針を無差別に放った。
魔水晶(ラクリマ)が破壊されていく。

「あいつら・・・塔を・・・」

それを見たエルザは驚愕する。
ジェラールの目が見開かれ、ナツとティアは着地し、挑発的に笑った。

「俺が・・・8年もかけて築き上げてきたものを・・・貴様ァ・・・!」

ありったけの憎しみを込めた声を紡ぎ、ジェラールが2人を鋭く睨みつける。

「ハァ・・・ハァ・・・ハァ、ハァ・・・」
「くっ・・・っハァ・・・」

その鋭い視線の先にいるナツとティアは、痛みと魔力・体力の残量により息を切らしていた。

(ナツ・・・ティア・・・お前達・・・立っているのもやっとじゃないか)

そんな2人を見たエルザは、ゆっくりと思う。
一応立ってはいるが、気を抜けば倒れてしまいそうなほどに、2人はもう限界をとっくに超えていた。
だが、2人は何があろうと倒れない。諦めもしないし、戦意も無くさない。

「許さんぞォ!!!!」

ジェラールが怒号を上げながら、両腕を頭上でクロスさせる。
その瞬間、凄まじいまでの魔力が溢れた。

「うわっ!」
「きゃあっ!」
「くっ!」

ジェラールを中心に発せられる強大で膨大な魔力に、そしてそれを具現化したかのような風に、ナツ達は目を閉じる。

「な、何だこの魔力は・・・!?気持ち悪ィ・・・」
「何よ、これ・・・こんなの、知らないわよ・・・!」
「影が光源と逆に伸びている!?この魔法は!」

ナツとティアが呟き、エルザは自分の影を見て驚愕する。

「無限の闇に落ちろォォオ!!!!ドラゴンとカトレーンの魔導士ィィ!!!!」

ジェラールが叫び、魔法を放とうとした、瞬間――――――

「貴様に私が殺せるか!?」

――――――緋色の騎士が、桜色の竜と群青色(ラピスラズリ)の閃光の前に、立ち塞がった。
まるで、否、確実に、2人を守るように。

「ゼレフ復活に必要な肉体なのだろう!?」

エルザが怒号を上げる。
―――が、その言葉は、ジェラールには届かなかった。

「ああ・・・おおよその条件は、聖十大魔道にも匹敵する魔導士の体が必要だ。しかし、今となっては別にお前でなくてもよい」
「!」

相手の目的に必要な自分が盾になれば、相手は魔法の発動を止める。
相手が魔法を使おうが使わまいが―――エルザは確実に使わないと思っていたが―――ナツとティアの事は守れる。
エルザの考えは少し外れ―――少し、合っていた。

「3人そろって、砕け散れ!!!」

ジェラールがそう言うと同時に、その頭上に夜空を球体にしたかのような暗闇と煌めきを併せ持つ球体が現れる。

「エルザ!!!どけっ!!!」
「逃げなさいよ、早く!!!」

エルザに逃げるよう説得する―――珍しく、あのティアまでもが―――ナツとティア。
しかし、エルザにここを退く気はなかった。動く気も、逃げる気もなかった。

「お前達は何も心配するな。私が守ってやる」

エルザが呟き。

「やめろォーーーーーー!!!!」
「逃げてぇーーーーーー!!!!」

ナツとティアが必死に叫び。

「天体魔法、暗黒の楽園(アルテアリス)!!!!」

ジェラールが吼え。






―――――夜空色の闇と光を併せ持った球体が、3人に、放たれた。






空を切る音。
己の行く先全てのものを巻き込むかのような音が響く。

魔法の轟音。

水晶の砕ける爆音。

迫り来る、丸い夜空。







そして、丸い夜空は爆発を起こした。







衝撃音。
衝撃波。

「エルザーーーーーーーーー!!!!」

ナツの叫び声が響く。
断末魔に似た、全てに轟く竜の咆哮。
その隣に立つティアは無表情の面影すらも消し去り、両手で口元を覆った。
信じられないものを映すかのように、その群青色(ラピスラズリ)の瞳は揺れ、見開かれている。








永遠の一瞬。







その言葉が何よりも似合う、静寂。








―――――今宵の空に、星は存在しなかった。







その存在を、闇の中へと隠していた。










ただ、ただ孤独な月が、光輝いて。








今宵の空と同じように、煙幕を思わせる煙が、塔の最上階を包み込む。







そこには誰が―――。







上空に存在し、今はその姿を見せない星にも太陽にも、姿ある月にも解らないだろう。







立つのは誰か。倒れるのは誰か。そして―――この偽りの楽園の、思い交差する戦いの勝者は。







妖精か、亡霊か。その様子は覗えない。






そして、ゆっくりと―――――――その煙は、晴れていく。











「・・・え?」

閃光と女王――――2つの異名をとる少女の声が、静寂を小さく貫いた。











丸い夜空は、直撃していた。









それは紅蓮の炎を吹く桜色の竜ではなく。








それは水であり氷の鋭さを持つ群青の閃光ではなく。








そしてそれは――――――美しい緋色を靡かせる騎士ではなく。










「シモン・・・」









力強く、偉大に立っていた、1人の男に。








先ほどのエルザ同様、その立ち位置を誰にも譲る気が無いように。








その大きな背中の後ろに立つ、3人の妖精達を守る城壁のように。







自らの生命を失ってでも、妖精達を守るように。









力強く、ただ力強く、その両腕を広げて。








強い意志と、覚悟と、思いの篭った目で、楽園の支配者を睨む者―――――。








「エル・・・ザ」








8年もの間信じ、想い続けた女性と、その仲間を庇う男―――シモンは。

エルザの名を途切れながらも呟き――――仰向けに、倒れ込んだ。







「シモーン!!!」

ドサッと倒れるシモンにエルザは駆け寄る。

「まだうろうろしてやがったのか、虫ケラが」

溜息をつき、吐き捨てるようにジェラールが呟く。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・ぁ・・・ぁ」

呆然と目を見開き、沈黙するナツ。
何かを紡ぐように口を動かすが、その声が、口が、全てが震え、声に出来ないティア。

「何でお前が!!!逃げなかったのか、シモン!!!」

エルザの叫びに、シモンはゆっくりと目をエルザに向け、薄い笑みを浮かべる。

「よ・・・よかっ・・・た・・・ハァ・・・ハァ・・・いつか・・・お、お前の・・・ゲホッ・・・役に・・・立ち・・・たか・・・ガファ」

息を切らし、声を出すのもやっとな状態にも拘らず、シモンは必死に言葉を紡ぐ。
その顔に浮かぶ表情は、笑顔は、優しくて、暖かった。

「解った!!!いいから、もうしゃべるな!!!」

エルザの左目に、涙が浮かぶ。
こんなに傷を負った状態で、何の防御系魔法も使わずにあれ程の魔法を喰らってしまったのに、そこでさらに声を発せればどうなるか―――エルザには解っていた。
だから、喋ってほしくなかった。

「お前は・・・いつも・・・・・・やさしくて・・・やさしくて・・・・・・」

シモンの眼帯をしていない目から、涙が溢れる。
彼も解っていた。自分が盾となれば、自分がどうなるか。
それでも、守りたかった。己がどうなろうと、守り抜きたかった。

「・・・・・・シモン・・・」

自分を支えるエルザが、幼き時の、奴隷時代のエルザと重なる。
8年前、自分が知るエルザの姿―――――。

『シモン!』

明るい声で自分の名を呼び。
明るい笑顔を自分に向ける。

そしてシモンは――――ずっと伝えられなかった言葉を、心の中で―――――









―大好き・・・だった・・・-









ずっと、伝えたかった。








でも、伝えられなかった。








その言葉を、その想いを胸に。









ゆっくりと、その目を閉じて。













――――――シモンは、ゆっくりと、息を引き取った。











「イヤァァアアァァアァ!!!!!」

エルザの叫びが―――悲痛すぎる、悲しき叫びが、塔に響き渡る。

「あははははっ!くだらん!!!実にくだらんよ!!!!」

そんなエルザとは対照的に、ジェラールはかつて友であり、仲間だった男の死を嘲笑う。

「そういうのを無駄死にって言うんだぜ!!!シィモォォーン!!!」

――――だから、気づかない。
ナツの方から、何かを砕くような、バキッという音がしている事に。

「大局は変わらん!!!どの道、誰も生きてこの塔からは出られんのだからなぁ!!!」

ジェラールが叫び―――――


「黙れぇぇ!!!!!」


ナツの炎を纏った右拳が、ジェラールを思いっきり殴り付けた。

「ごはァ!」

ジェラールが倒れ込む。
そして、気づいた。

「お・・・お前・・・何を・・・」

エルザが呟く。

(コイツ・・・!)

ジェラールが、その光景に驚愕し目を見開いた。
バキ、ガブ、もしゃもしゃ、と。
ナツが口に運び、咀嚼しているのは―――――――




(エーテリオンを喰ってやがる!!!!)




エーテリオンの膨大な魔力を吸収した―――魔水晶(ラクリマ)のカケラだった。 
 

 
後書き
こんにちは、緋色の空です。
次回・・・ついに次回!EMTの数少ない読者全員が待っていた(かもしれない)!
ティアの『巫女』の力が明らかとなる!

感想・批評、お待ちしてます。 
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