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ドリトル先生の来日

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第三幕 日本に来てその十

「腰に刀をさして」
「もう武士は日本にはいないよ」
「そうなの」
「明治になってね」
 武士はいなくなったというのです。
「武士の世の中じゃなくなったんだ」
「イギリスの騎士みたいなものよね」
 ポリネシアはイギリスのことから考えました。
「そうよね」
「違うかな」
「違うの?」
「アーサー王やランスロットとはまた違うんだ」
「それじゃあ聖杯を探すこともないのね」
「うん、そうしたこともないよ」
 武士は違うというのです。
「忠誠心はあってもね」
「忠誠心があっても騎士とは違うのね」
「またね」
「ううん、どうした人達だったのかしら」
「かなり独特だよ、武士はね」
「そうなのね」
「常に身体を鍛えていて学問もしていてね」
 本にはそう書いてあるのです。
「文武両道だったってね」
「そんな人達なの」
「うん、そう書いてあるね」
「本当にどうした人達なのかしら」
 ポリネシアは武士に興味を持つのでした、それでこう先生に言いました。
「早く日本に行って詳しく調べたいわ」
「まだ日本に着くのは先だよ」
「今どの辺りなのかな」
 ジップはそれまで床に寝そべっていましたが身体を起こして窓の外、夜で何も見えない海を見つつ言いました。
「一体」
「まだ地中海の中だよ」
「スエズにも入ってないんだ」
「そうだよ、まだね」
「じゃあまだまだ先だね」
「ゆっくりしていよう」
 先生はいつも通り至って落ち着いています。
「騒いでも着く時間は変わらないからね」
「寝ていてもいいんだね」
 老馬は先生の言葉を聞いて言いました。
「そうなんだね」
「そうだよ、こうしてね」
「日本に着くまで寝ていようかな」
「それがいいかもね、僕もたっぷりと寝るよ」
 先生もだというのです、この船旅の間は。
「お茶を楽しんで、そして本を読んで寝て」
「日本に着くまでの間は」
「そうして」
「うん、のどかな船旅を楽しもう」
 こう皆にも言って実際にです。
 先生は皆と一緒に楽しくのどかな船旅を楽しみました、日本までの航路は至って平穏で何もおかしなことはありませんでした。
 そして日本にもうすぐのところで、です、チープサイドが彼女の家族から聞いてからこう先生に言ってきました。
「何か空気が違ってきたって」
「空気がかい?」
「嵐が近付いているそうよ」
「それは困ったね」
「ええ、若しかしたら」
 船が沈む、チープサシドはこう言おうとしました。
 ですがその前にです、先生は彼女に穏やかな声でこう言いました。
「大丈夫だよ」
「沈まないの?」
「この船はとても大きいからね」
 だからだというのです。
「沈まないよ」
「そうなの」
「ただ、嵐になるからね」
 それでだとです、先生はチープサイドだけでなく今そこにいる皆に言うのでした。 
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