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“死なない”では無く“死ねない”男

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話数その20 知らない

 レーティング・ゲームはグレモリーの投了(リザイン)宣言で、実質的にライザーの勝利に終わり、これでグレモリーはライザーと結婚する事となった。
 だが晋にとってそんな事如何でもよく、ただ彼女等からのしつこい追及が無くなる事を喜んでいた。


 グレモリーチームの中で無傷だったのは晋とアルジェントだけだったようで、他の者達は皆ベッドに寝かせられていた。


「イッセーさん……」


 中でも兵藤の怪我はひどいもので、下手をすれば死ぬんじゃないかと思えるほどの怪我を負っていた。
 しかし、晋はそんな兵藤達には目もくれず、ベッドのある部屋から出て行こうとした。元々、勝手にここに転送させられただけなので、居る理由が無かったからなのだが、それを遮るように誰かが晋の眼の前に立った。


「何処へ行かれるのですか? 灰原晋殿」
「……あんたかよ…」


 その人物は、銀髪のメイド・グレイフィアであった。彼女は、何処か睨みつけるような視線のまま晋に聞く。聞かれた晋は、ダルそうに答えた。


「……家に帰る。もう此処に居る理由無ぇし……無駄乳のこれからも興味ねぇし……」
「……そうですか」


 グレイフィアは彼の本気で興味なさそうな表情を見やり、もう一つ質問をした。


「何故、貴方はリアス・グレモリー様を助けにいかなかったのですか?」
「……もうダルかったし……助けに行く理由が無かったからな……」
「……」


 約束の件はグレイフィアも聞いていた。“ゲームに参加すれば追及を止める”という、その約束を聞いていたからこそ、グレイフィアはため息をつく。
 確かにこの男はゲームに参加した……もう既に約束は果たしているので、後は敵を倒そうがジッとしていようが、言ってしまえばこの男の勝手だったのだ。


「……そこどいてくれや、さっさと帰ってテレビ見てぇ……」


 そう言いながら既にグレイフィアを避けて歩き始めている晋は、去り際に思い出したように付け加えた。



「……無駄乳が降参した理由ってよ、これ以上兵藤達が傷つくの見てられなかったから……だろ?」
「……」
「……つまり、“自分の心が傷つくことが嫌だった”つぅ事で……自分の為ならそれまでの努力を無駄にしてもいいって考えの持ち主ってわけだ…」
「……」
「……結局あいつは楽な道じゃ無ければ、自分のわがまますら最後まで通す事が出来ねぇ……容姿と乳ばっかに栄養が行った、文字通りの“無駄乳”だったって訳だ……」


 遠慮すらない晋の言葉に、しかしグレイフィアは反論が出来なかった。その通りとはいえないが、そうではないと反論する為の言葉もまた、無かったからだ。


「……約束の件はちゃんと守るように行ってくれよ~……」


 妙に上手い鼻歌を歌いながら、晋は去っていく。
 彼の背中を、グレイフィアは唯無言で見つめるのみだった。













 翌朝の登校時。もうしつこい追及は無く、彼の目的である“静かに暮らす事”にまた一歩前進した筈の晋の表情は……物凄くダルそうだった。

 番組を録画し忘れていたのだろうか? ビーフジャーキーを食べようとして在庫が無い事に気付いたのだろうか? オカルト研究部が約束を破ったのだろうか?


 晋がダルそうな顔をしているその理由とは―――



「……そういやそうだった……“私達からの”とは言ってたが……それはこういった事だったんだな…」
「ブツブツ言っていないで行きますよ」


 そう、アレからオカルト研究部の追及は止んだのだが、止んだのは追及のみであり、監視の眼はあれからずっと付いて回っているのだ。
 それでも、オカルト研究部からの物は幾分か消極的になったが、生徒会からの物は過激にもなっていないが収まってもいない。


「あ~……くそったれぇ……」



 愚痴りながら、晋は駒王学園に入学した事を今更ながら後悔した。










 ―――某所―――


「この男は異常だな……フェニックス以上の不死身なんて聞いたことがない……」


 グレモリーと同じ赤い髪を持った悪魔の青年が、晋が参加していたレーティング・ゲームの映像を見て、眉をひそめ顔をしかめていた。


「しかもこの戦い方は……下手をすれば一生戦えなくなるほどのトラウマを植えつけられるぞ……」


 何度殺されようと復活し、予想外の行動ばかりを起こし、時にかなりの時間を掛けて敵を倒していく晋は、強大な力で敵を吹き飛ばす事が主な悪魔たちにとって、かなり異質な存在であった。


「サーゼクス・ルシファー様……やはり、あの男は捕らえるべきですか?」
「いや、様子を見よう。何が目的かは分からないが、此方から仕掛けなければ何もしないだろうから……少なくとも今はね」
「承知いたしました」


 サーゼクスと呼ばれた青年は、虚空を見やり、呟く。


「……最悪の場合は……彼を封印することも考えないといけないかもな……」


 その言葉は、誰にも聞かれる事無く消えて行った。

 
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