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箱庭に流れる旋律

作者:biwanosin
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歌い手、強制収用される

「ギフトゲーム“The PIED PIPER of HAMERUN”の審判決議、及び交渉を始めます」

 そして、最後の一人が逆廻君に決定し、サンドラちゃん、黒ウサギさん、マンドラさん、ジン君、逆廻君、そして、僕の五人は審判決議に参加している。

「では、参加者側ゲームマスターからの異議申し立てがありましたので、“主催者”側に問います。此度のゲーム、」
「不備はないわ」

 黒ウサギさんの問いかけを途中で遮り、魔王が答えた。

「今回のゲーム、ルールにも現状にも一切の不備はない。だから言っておくけど、私達は今、無実の疑いで神聖なゲームにつまらない横槍を入れられている。言いたい事、分かるわよね?」
「・・・不正がなかった場合、主催者側に有利なルールの設置を求めると?」
「そうよ。どんなルールにするかの交渉はその後」
「・・・分かりました。黒ウサギ」
「は、はい」

 二人の交渉は、予想以上に高度なやり取りだった。
 そして、黒ウサギさんが箱庭に確認を取ってるけど・・・あの自信からして、不備は、まずない。
 厄介なことになったなぁ・・・箱庭では、参加者の知識不足は考慮されないし・・・最悪の場合、最後の交渉のカードも切るつもりでいよう。

「・・・此度のゲーム、ルールに不備・不正はなく、白夜叉様の封印も、正当な手段で作られたものである・・・以上が、箱庭からの返答です」

 予想通り、こっちが不利になった。

「じゃあ、こちらからの要求を伝えるわ。ルールは現状を維持」
「ルールを有利なものにはしない、と?」
「下手に弄って、そこから推測されても困るもの。要求したいのは、ゲームの日取りよ」
「日取り・・・日を跨ぐ、と言いたいのか?」

 これは・・・少し意外だ。
 日を跨げば、僕たち参加者側は休養を取ることもできるし、ゲームに対する考察を重ねることも出来る。
 特に、勝利条件に有った『偽りの伝承を砕き、真実の伝承を掲げよ』と言う一文。
 これの考察を重ねられる時間を与えるのは、主催者側からすればゲームクリアのための時間を与えると言うこと。
 普通に考えれば、今すぐ・・・この場で再開するのが、主催者側にとって一番有利なはずだ。

「ジャッジマスター、再開の日取りは最長、何日まで伸ばせるのかしら?」
「さ、最長ですか?今回の場合ですと・・・最長で三十日・・・一月(ひとつき)ほどかと」
「決定ね。それで手を・・・」
「待ちな!」
「待ってください!」

 が、そんな主催者側の申し出を、逆廻君とジン君が遮った。

「・・・なに?時間を与えてもらうのが不満なの?」

 そして、そんな二人の態度が気に食わないようで、魔王は不満そうな声を上げた。

「いや、普通ならありがたいぜ?だが、今回は例外・・・そうだな、御チビ?」
「はい。十六夜さんに奏さん、両隣にいるのは“ラッテン”と“ヴェーザー”で間違いないですね?」
「ああ」
「うん、本人はそう名乗ってたよ」
「ありがとうございます。そして、もう一体の陶器の巨兵は(シュトロム)だと聞きました。なら、貴女は黒死病・・・ペストではないですか?」
「ペストだと!?」

 ジン君の発言で、その場の僕以外の全員の視線が斑の少女に向かい、僕はただ、表情を見られないように下を見ながら、唇を噛み、少し捲くれていた服の袖を整えた。
 相手が“ハーメルンの笛吹き”だと言うのなら予想できたことではあるし、ほかにもその結論に至る証拠はあったのだが・・・正直、目を逸らしていた。

 なんせ、ペストの特徴として、全身に――――

「そうか、だからギフトネームが“黒死斑の魔王(ブラック・パーチャー)”!」
「ああ、間違いない。そうだろ魔王様?」
「・・・ええ。正解よ」

 考え事をしている間に、魔王が自らその事実を認ていた。

「これだけの時間と証拠から私の正体を当てたのは御見事、としか言えないわ、名前も知らない貴方。よろしければ貴方とコミュニティの名前を教えてもらっても?」
「・・・“ノーネーム”、ジン=ラッセルです」

 意外なことに、魔王・・・ペストは、コミュニティの名前に驚かなかった。

「そう・・・だけど、確認を取るのが遅かったわね。私達は既にゲームの日取りを一ヶ月までなら弄れると言質を取っているし、参加者の一部に病原菌を潜伏させている。ロックイーターのような無機生物や悪魔でもない限り発症する、呪いそのものをね」

 再び、場が緊張に包まれた。
 ペストの言っている呪いは、恐らく・・・いや、間違いなく(・・・・・)黒死病と酷似している。
 一ヶ月もあれば、煌焰の都にいる種のほとんどが死亡。もちろん、ゲームにも敗北することになる。

「ジャ、ジャッジマスター!彼らは意図的にゲームの説明を伏せていた疑いが、」
「駄目だよ、サンドラちゃん。“ギフトゲーム”で不死が殺せないのは殺せないのが悪いように・・・向こうが病原菌を撒き散らしていようと、対処できない僕たちが悪いだけ。もし此処で箱庭に審議を問えば・・・また一つ、魔王側に有利な条件をしかれる」

 僕の話に納得してくれたようで、サンドラちゃんは言葉を飲み込んでくれた。
 そして、ペストは微笑を浮かべながら、この場にいる参加者全員に問いかけた。

「此処にいるのが、参加者側の主力と考えていいのかしら?」
「・・・」
「うん、それで概ね合ってるよ。一番の戦力(白夜叉さん)がいないけど」

 誰も喋ろうとしないので、僕が代わりに答える。

「奏、こっちの情報を話すことは、」
「確かに、情報は抑えたほうがいいよ。でも、今有利なのは間違いなく向こうだし、答えるまでもない質問だった。なら、交渉を続けるべき・・・だと思う」

 小声でそう説明しつつ、向こうに顔を向ける。

「そう、なら・・・ねえ皆さん。此処にいるメンバーと白夜叉の七名が“グリムグリモワール・ハーメルン”の傘下に入るなら、他のコミュニティ、参加者は見逃すわ」
「なっ、」

 ただ、予想の斜め上の交渉が来ると、どうしようもなくなる。

「私、貴方達のことが気に入ったわ。サンドラは可愛いし。ジンは頭がいいし。奇跡の歌い手までいるし」
「私が捕まえた紅いドレスの子もいい感じですよマスター♪」

 やっぱり・・・飛鳥さんはあの後捕まったのか・・・

「ならその子も加えて、ゲームは手打ち。参加者全員の命と八人の身柄なら、天秤にかけるまでもないでしょう?」

 そう言いながら小首を傾げる姿は、悔しいが、愛らしいものだった。
 だが、その裏には愛らしさとは真逆の意味が・・・従わなければ皆殺しだと言う、警告が含まれている。
 だから・・・切り札の内の片方を、早々に切ることにする。

「・・・白夜叉さんから伝えられた中にもあったんだけど、“グリムグリモワール・ハーメルン”は、新興のコミュニティ・・・違う?」
「答える義理はないわ」

 そして、相手は予想通りに食いついてきた。
 明らかに、答えるのが早すぎる。

「なるほどな・・・新興のコミュニティだから優秀な人材や、白夜叉、奇跡の歌い手のようなビッグネームに貪欲なのか」
「・・・」
「いいのか、魔王様?沈黙は是なり、だぜ?」

 その切り口を逆廻君が感づき、攻撃してくれた。

「・・・だからなに?私達が譲る理由は無いわ」
「いいえあります。だって、人材不足の貴女達は、此処にいる人材を無傷で手に入れたいと思っているはず」
「でも、一ヶ月もあれば、僕たち人間はもちろん、亜龍の人達も死んじゃう・・・そうだよね、サンドラちゃん?」
「え?あ、うん」

 突然振ったからか、サンドラちゃんは素が出ちゃったけど・・・気にするのは後にしよう。

「そして、死んでしまえば、その人材は手に入らなくなる。だから、そうなる前に交渉を仕掛けた。実際に三十日が過ぎて、失われる人材を惜しんだ」
「・・・ええ、そうよ。でも、だから何?何度も言っているけど、私達には再開の日取りを自由にする権利がある。わざわざ最長の一ヶ月にしなくても・・・二十日にすれば、秒自前の人材を、」
「では発症したものを殺す」

 マンドラさんのその発言に、ペストは今までで一番の焦りを、顔に浮かべた。
 マンドラさんは真剣に言ってるみたいだし・・・此処は、利用させてもらおう。

「例外なく、発症したもの全てを、だ。サンドラであろうと、“箱庭の貴族”であろうと、この私であろうと・・・“奇跡の歌い手”であろうと、殺す」
「ふざけないで・・・」

 向こう曰く、この中では一番欲しい人材である僕の名前を最後にすることで、相手側には相当の動揺を与えることが出来たようだ。
 タイミングとしてはばっちりだ・・・僕が持ってる最後の切り札、僕自身(・・・)を切るタイミングには。

「マンドラさんの意見は、この場合、正しいよ。だから、信じられるように・・・僕が、殺されるとしよう」

 僕のその発言で、この場にいる僕以外の全員が、息をのんだ。
 その中でも、ペストとラッテンさんの反応が、一番大きかった。

「そこの二人は知ってるだろうけど、僕は既に、“黒死病”に発症してる」

 そう言いながら、腕を隠していた服の袖をめくり、腕に浮かぶ黒い斑点(・・・・)が、全員に見えるようにする。

「バルコニーでラッテンさんから病原菌を直でぶつけられて、それを吸ったからだろうね。僕は潜伏期間もなしに、発症した。だから、マンドラさんの提案を採用とするなら・・・僕は、すぐに失われる。この決議の後にでも、自決しましょう」
「・・・いや、私の手で行う。私が提案したのだからな」

 これで、魔王側はブラフだと笑うことはできない。
 今、僕が隠しているから安心したのかもしれないし、もしかしたら僕の命を、向こうも交渉材料にするつもりだったのかもしれない。
 けど、マンドラさんのファインプレーのおかげで、全てが繫がる。

「黒ウサギ、ルールの改変はまだ可能か?」
「へ?・・・あ、YES!」

 そうして出来た時間で、逆廻君は何か、思いついてくれたようだ。

「交渉しようぜ、“黒死斑の魔王(ブラック・パーチャー)”。お求めの奏が死なないよう、俺たちはルールに“自決・同士討ちを禁ず”と付け加える。だから、再開を三日後にしろ」
「・・・却下。二週間よ」

 僕のほうを見て一瞬悩むそぶりを見せながらも、ペストはそう返した。
 逆廻君の顔からすると・・・まだ、長いのだろう。

「今のゲームだと、黒ウサギさんの扱いはどうなってるの?」
「黒ウサギは火龍誕生祭の審判中でしたので、十五日はゲームに参加できません。・・・主催者の許可があれば、別ですが」
「いい着眼点だ、奏。魔王様、黒ウサギは参加者じゃないからこのままじゃ手に入らない。だが、参加する許可を出せば黒ウサギが・・・“奇跡の歌い手”だけじゃなく、“箱庭の貴族”も手に入る。どうだ?」
「・・・十日。これ以上は譲れないわ」
「ちょ、ちょっとマスター!?“奇跡の歌い手”や白夜叉には対抗手段がありましたが、“箱庭の貴族”に参加許可を与えるのは・・・!」
「だって欲しいもの。ウサギさん。大丈夫よ、私が相手するから」

 ペストの余裕そうな表情からすると、黒ウサギさんの相手は苦にならない考えているのだろう。
 悔しいところだけど、魔王なら仕方ないようにも思える。

「ゲームに、期限をつけます」

 そして、ジン君が意を決したように、口を開いた。

「なんですって?」
「一週間後に再開し、その二十四時間後に、ゲームを終了する。そして、ゲームの終了と共に主催者の勝利とします」

 本当にギリギリの・・・背水の陣に近い提案だ。

「・・・本気?主催者側の総取りを覚悟すると?」
「はい。一週間なら死者が現れないギリギリのライン・・・今後現れると予測される病状やパニックに、精神的、肉体的に耐えられるギリギリの瀬戸際。つまり・・・それ以上は、僕たちには耐えられない。だから、全コミュニティは無条件降伏をのみます」

 なんともまあ・・・危ない橋を渡るものだ。
 でも、危ないからこそ、両者にとって得がある。

 だからだろう、ペストは十分に悩み・・・

「ねえジン。もしも一週間生き残れたとして・・・貴方は、魔王(わたし)に勝てるつもり?」
「勝てます」

 ジン君の即答で、意を決したようだ。

「・・・・・・そう、よく分かったわ。ここに宣言してあげる。貴方は必ず――――私の玩具にすると」

 その瞬間、激しく黒い風が吹き抜け・・・風が収まるころには魔王陣営は消え、一枚の黒い“契約書類”が残されていた。

「ふう・・・これで決議も終わったね。皆、ラッテンさんは僕が相手するから、」

 そう言いながら振り返ると、黒ウサギさんとサンドラちゃんが、怒りの表情でこっちを見ていた。

「えっと・・・御二人とも?何故そのようにお怒りでいらっしゃるのでしょうか・・・?」
「何故、では無いでしょう、この御バカ様!」
「どうして、発症したことを隠してたの!?」
「いや、相手がペストだってこともこの決議の中で知ったんだし・・・ただの痣かなー、と・・・」
「痣がそんなに大量に出るはずが無いでしょう!?」
「それに、“黒死病”なら体調にも異常が出ていたはず!」
「あーそれについては・・・ギフトの都合上一切出てないんだけど・・・」
「問答無用です!」
「いま病室を準備させてるから、大人しくしてるように!」

 強制的に、病室に送られました。
 
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