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Element Magic Trinity

作者:緋色の空
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勝てない理由と偽りの竜


静寂。
そこには気を失う桜色の竜と梟、深海色の閃光に巨漢に青い猫、氷の造形魔導士がいる。

(グレイ・フルバスター・・・俺が集めた情報より、はるかに強い・・・)

シモンは驚愕に目を見開きながら、グレイを見る。
ハッピーは相棒が助かった事に喜びながら、笑みを浮かべる。

「く・・・」

息を切らしながら立っていたグレイがよろける。
負った火傷か、魔力切れかは定かではない。

「早く・・・エルザを、み・・・見つけねぇと」
「バカね。その傷で動ける訳ないじゃない。魔力も使い過ぎだし」

首を振り、意識をハッキリさせようとするグレイに、ティアが呆れたように声を掛ける。

(いや・・・仲間(エルザ)への想いが彼の魔力を高めているのか・・・)

一方、ハッピーは気を失っているナツに近づく。

「ナツ!起きて。目がぐるぐる」

が、漫画などでありそうな感じで目がぐるぐるになっていた。
ティアは溜息をつきながら、ナツに向かって歩いていく。

(いいギルドに入ったな、エルザ・・・)









魔法評議会本部、ERA(エラ)

「目標捕捉」
「空間座標補正」
「山岳地帯の波長の影響で空間座標の補正は困難です」
「もう少し高度を上げるんだ」
「魔力装填率60%」
「エーテリオンの属性融合完了」

ここは、エーテリオンを生み出す部屋。
部屋の中央では魔法陣が展開し、魔力が球体となって姿を現す。

「エーテリオンの射出まであと27分。議長が体調を崩してるこの時に、このような決断を迫られるとは・・・」
「仕方あるまい。議長欠席中は魔法界の秩序保全の全権限は我ら9人のものじゃ」

心配そうに呟くオーグに、ミケロが答える。

「そう心配するな、オーグ。他国へと手続きなしの魔法攻撃といえど、国家安全保障令第27条四節が適応されておる」

ミケロがそう説明するが、オーグは俯き、震える声で言った。

「法律の話をしているのではない。我々が投下するのは悪魔(エーテリオン)なのだぞ」

全てを無へと還す超絶時空破壊魔法、それがエーテリオンだ。
あの塔の中には支配者であるジェラールが当然いるだろうし、ここにいる彼等は知らないが、ナツ達もいる。
犠牲者は必ず出るのだ。エーテリオンを投下したその瞬間に。

「悪魔とはゼレフの事じゃよ。悪魔(ゼレフ)を討つ為の天使(エーテリオン)となる事を祈るしかあるまい」





「いよいよですね、ジーク様」

オーグとミケロの2人とは離れた所に、ジークレインはいた。
そこに会議の最後の方はずっと沈黙していたウルティアが歩み寄る。

「あなたの8年の想いが実現するのです」

ジークレインは少し俯いた状態で、振り返らずに口を開く。

「怖くないのか?ウルティア」
「ええ、少しも。私はいつでもジーク様を信じてますから」

艶やかな黒髪を揺らし、ウルティアが微笑む。

「そりゃあそうか・・・『お前には命の危険がない』」
「そうね」

ジークレインの言葉に、クスッとウルティアが笑う。

「俺は少し震えてるよ」

口ではそう言うが、ジークレインの体も声も全く震えていない。

「失敗したら、俺は死ぬ」

その言葉を聞いている人間が、ジークレインとウルティアの他にいた。
ぺたぁー・・・と、魔法で紙のように薄くなり、柱に張り付いているヤジマだ。

失敗(スっぱい)したら()ぬ?)

突然の言葉にヤジマは驚愕する。
・・・あまり表情は変わっていないが。

「だが、命をかける価値は十分にある」

そこまで言い、一旦区切る。
そして、笑った。






「これが俺の理想(ゆめ)だからだ」







「ええ」

その言葉にウルティアは同意する。

「・・・」

それを聞いていたヤジマは、訝しげに糸目を開いたのだった。









「あと25分・・・か」

コォン、と。
氷の駒が梟の駒を倒す。
倒れていたはずのドラゴンの駒は立ち上がり、女王の駒の横に並んでいる。

「お前ともお別れだな。ジークレイン」








「とりあえず、アンタ達はそれぞれ怪我をしているし、全員ここで待機。ナツが起きたらハッピーが重症者から順に塔の外に出ていく事。いいわね?」

テキパキと物事を決めていくティアに反論できる者などいない。
その場にいて意識のあるグレイ、ハッピー、シモンは、とりあえず頷いた。

「それじゃあ、私はそのショウとかいう奴とアルカ、エルザを追うから。全員ここにいなさいよ」

ティアがそう言い、先へ行こうと足を進めた瞬間――――

「はいはいはーい!その先へは進ませないよー!」

甲高い声と共に、ティア達を囲むように透明オレンジの壁が現れた。

「何これ!?」
「閉じ込められちまった!」
「・・・」

ハッピーが驚き、グレイが叫び、ティアは冷静に沈黙する。
と、そこに1人の少女が姿を現した、
オレンジ色のショートカットに動きやすそうで活発なコスチューム。歳はティアと同じか下だろう。

「お前は!?」
「ジェラールの言ってた4人の戦士か!?」
「うん。そーだよー!」

ニコニコと笑う少女は、ショートカットを揺らして笑う。

「ボクはジェメリィ!じゃあ、あいさつ代わりにこれどーぞっ!」

その瞬間、オレンジ色の魔法陣が展開する。
そこから、先ほどと同じ淡いオレンジの狼が無数に姿を現した。

「!?」

その狼たちは壁を綺麗にすり抜け、ティア達を襲う。
驚愕で目を見開きながらも、ギリギリのところでそれを避けた。

「へへっ!どぉ?その壁もボクの魔法なんだけど、中から魔法は通さないんだ!逆に外からの魔法は通すんだよ!だから、君達はボクに攻撃できないってワケ!凄いよね!」

つまり、ティア達は魔法を封じられている。
が、相手は魔法を使える、という事だ。

「卑怯だぞ!テメェ!」
「そうだそうだー!」
「卑怯?なぁにそれ。『闇ギルド』に卑怯も何もないんだよ?」
「闇ギルド!?お前は髑髏会の人間じゃ・・・!」

そう。
暗殺ギルドならば『暗殺ギルド』とか三羽鴉(トリニティレイブン)と名乗ってもおかしくはない。むしろ、そっちの方がしっくりくる。
が、目の前の少女『ジェメリィ』は『闇ギルド』ときっぱり言った。

「髑髏会?そんなギルドと一緒にしないでよ。ボク達はさぁ、そんな端くれギルドなんかより凄いんだよ?」

困ったように肩を竦め、笑う。

「・・・言いなさい。アンタはどこ所属の魔導士?」
「んー・・・じゃあ、君がそこから出てこれたら教えてあげるよ♪」

彼女はティアの怖さを知らないのだろう。
ティアは答えをはぐらかされる事が嫌いなのだ。

「まぁ・・・出てくる前に、死んじゃうだろうけどね」

ジェメリィがそう呟いた瞬間―――彼女の周りに再び狼の群れが現れる。
先ほどの倍ほどの数の狼のオレンジ色の目が、全てティア達に向けられた。

「くっ・・・!」
「ど、どうすんだティア・・・」
「どうもこうも、魔法を使えないんじゃどうしようもないわよ」

シモンが顔を歪め、グレイとティアが小声で会話をする。

「それじゃ、会ったばかりだけど・・・永遠にサヨナラ」

その言葉が合図だったのか、否か。
狼たちは一斉にティア達に向かっていった。
目の前には軽く30は超えるであろう狼の群れ。魔法は使えないし、グレイは全身に火傷を、ハッピーも同じく火傷を、シモンも怪我を負っている。
絶体絶命とはまさにこの事。その場にいた全員は冷や汗を浮かべ、覚悟を決めた表情を浮かべる。









―――――――が、深海色の閃光は、そこまでバカじゃない。









大海針雨(アクエリアスニードル)狙撃(ダーツ)!」

小さいがよく通る声が響き、30を超える狼全てに水の針が突き刺さる。

「な、何!?一体何が・・・!」
「戦闘に置いて目の前にいる人間が本物とは限らない。五感を使い魔法を使い、相手を見極めよ」

その声の主は、軽やかという言葉が似合うステップで天井近くから飛び降りてくる。

「ティア!?」
「お前・・・え!?」

声の主・・・ティアを見たハッピーが驚き、シモンが壁の中にいるティアを見て、自分達の前に立つティアを見る。

「言ったでしょ?目の前にいるのが本物だと、ここにいる誰が確認したの?」

つまりは、壁の中にいるのは偽物で、本物はとっくに天井近くに隠れていたのだ。

「アンタは見たところ幻術魔法(ミラージュマジック)の使い手ね。それも、かなりの実力者」
「君は元素魔法(エレメントマジック)大海(アクエリアス)かぁ。珍しい魔法使うんだね!」

ジェメリィは無邪気に、ティアはポーカーフェイスのままお互いの魔法を認識し合う。

「ま・・・結局のところ、敵なのに変わりはないのよね。さぁ、アンタはどこの所属か言いなさい」
「んー、解ったよ。そういう約束だもんね。君は元々壁の外にいたけどさ」

ティアの鋭い目にも臆せず、ジェメリィはにっこり笑って言い放つ。
自分の所属するギルドの名を。













「ボクは闇ギルド、血塗れの欲望(ブラッティデザイア)・ギルドマスター直属部隊、暗黒の蝶(ダークネスファルファーラ)の1人、双子宮のジェメリィだよ!」













「――――――――っ!」

血塗れの欲望(ブラッティデザイア)
その名を聞いた瞬間―――ティアの表情が一気に崩れた。
あの崩れる事が滅多にないポーカーフェイスが、たった一言で見事に崩れる。

「アンタ達が・・・血塗れの欲望(ブラッティデザイア)・・・」
「あれ?ボク達って結構有名?照れるなぁ!アハハ!」

ジェメリィが笑い出した瞬間、その顔を掠めるように圧縮された水が走り去った。
水は壁に激突し、綺麗なヒビを入れる。

「・・・なぁるほど。君、個人的にボク達の事憎んでたりする?」
「黙りなさい」

全てのモノを凍てつかせるような冷たい声で、ティアが言い放つ。

「悪いけど、こっちも忙しいの。最初から本気で行くわよ」
「ふーん・・・解った!双子宮のジェメリィが、最高の幻術を見せてあげる!」

空気がピリピリと張り詰める。
まず最初に動き出したのは、ティアだった。
魔法陣を床と天井に展開させ、呟く。

「・・・海域」

その呟きと同時に、ジェメリィの足元に水の波紋が広がる。

「この程度・・・通用しないよっ!」

それに対してジェメリィは一瞬で大きな猿の幻術を生み出し、指を鳴らす。
その瞬間、大猿は実体化し、波紋を防いだ。

「!」
「実体化した!」
「僕の魔法、幻術魔法(ミラージュマジック)は、時と場合によって実体化も可能なんだよ?」

大猿の幻術を消したと同時に、反撃に出るジェメリィ。

幻術弾丸(ミラージュガンズ)!」

ジェメリィが放ったのは、空間を覆い尽くすような数のオレンジ色に光る銃弾だった。
が、数多くの魔導士の相手をしてきたティアが特に慌てる事はない。

大海竜巻(アクエリアスタイフーン)

両手の人差し指と中指を立て、その指をクロスさせる。
その仕草と同時に魔法陣が展開し、鐘の音が鳴り響く。
青い魔法陣から水の竜巻が放たれ、銃弾全てを巻き込み、姿を消した。

「大した事ないのね」
「チッ・・・さすがは海の閃光(ルス・メーア)・・・だったらこれでどう!?」

次にジェメリィが繰り出したのは・・・グレイ。

「なっ!」
「俺!?」

突然の事にティアも目を見開き、グレイも驚愕する。
その両手は造形魔法の構えを取っており、無言のまま、その両手がティアに向けられた。

「っ・・・!」

グレイの両手から放たれた氷の槍を綺麗に避け、続いて放たれた氷のハンマーはサマーソルトキックで砕く。

「標的確認」

まるで機械のように短く言葉を発し、グレイに回し蹴りを決める。
すると、グレイは顔を歪め・・・

「!?」

ボフッと。
煙のように、その姿を消した。
が、すぐに形を取り戻し、煙はグレイに成っていく。

「攻撃が効いてないだと!?」
「煙に物理攻撃を加えても煙は出続けるよね?それと同じだよ!」

つまり、幻術グレイが攻撃を仕掛けたらティアに当たるが、ティアの攻撃は幻術グレイに効かない、という事だ。

「そう・・・ならば・・・」

それを理解したティアは・・・戦闘態勢を解除した。

「っオイ!オメェ、何考えてやがんだ!?」
「まさか、攻撃を喰らおうと・・・!?」

グレイとシモンが驚愕する。

「あっれー?諦めちゃった?じゃあ・・・死んでもらおっかな!」

それを「降参」と見たジェメリィは、幻術グレイを操り、向かわせる。

「・・・」

向かってくる幻術グレイを見ても全く動かないティア。
そして造形された氷の刃がティアに直撃するかと思われた、その時・・・

大海霧幻(アクエリアスミスト)(スリープ)

ティアの体から霧が発せられ、その瞬間幻術グレイは糸の切れた操り人形のように倒れ込んだ。

「えっ!?」

それを見て驚愕するジェメリィ。

「どうして!?何で幻術が動かせないんだ!?君、一体何を・・・!」
「さっきの魔法を見ていなかったの?ただ強力な眠りの魔法をかけただけよ。普通なら効かないんだけど、実体を持つ幻術なら話は別よ」
「・・・チッ!なら!」

どれだけの魔法を使ってもポーカーフェイスを崩さず、全く動じず淡々と続けるティアに毒づきながら、ジェメリィは再び魔法陣を展開させる。

幻術剣舞(ミラージュソード)!」

ジェメリィはオレンジ色の剣を造り出し、一斉にティアへ向けて放つ。

大海屈折(アクエリアスリフレク)

対するティアは向かってくる剣に怖気づく事なく、右掌を向ける。
剣達がティアの右手の魔法陣にぶつかり、その剣はくるりと進路を変えた。

「はね返し!?」

剣をはね返された事に動揺し、実体化を解く事を忘れてしまう。
その結果・・・

「がああああああああっ!」

自分自身の攻撃で、ダメージを受けてしまった。

「す・・・凄い・・・俺の情報なんかより、はるかに強い・・・」
「へっ・・・さすがギルド最強の女問題児ってか」
海の閃光(ルス・メーア)の異名は伊達じゃないね!」

相手に1度も攻撃を当てさせないティアにシモンは驚愕の声を、グレイとハッピーは感嘆の声を上げる。

「ク・・・クソッ!」
「諦めなさい。アンタでは私には勝てない」
「何だって・・・?」
「勝てない理由が2つあるわ」

傷つき膝をつくジェメリィに、ティアは感情を込めずに言い放つ。

「理由、だって・・・?」
「そう。それを知らない限り、アンタは勝てない」

その余裕たっぷりの言葉に。
その氷のように冷たい瞳に。
その崩れる事のない表情に。

「・・・ふ、ざけるなアアアアアアアアアアアアアッ!」

ジェメリィは、激怒した。
その叫びと同時に、彼女の周りに無数の幻術が現れる。
狼、虎、大猿、ライオン、鋭い牙をもつ魚・・・その種類は様々だ。

「・・・戦場において、冷静な判断が出来ない人間は敵じゃない」

が、無数の幻術を見ても、ティアは全く動じない。
その言葉が、ジェメリィの怒りに更に火を点ける。

「舐めるな・・・血塗れの欲望(ブラッティデザイア)マスター直属部隊を・・・舐めるなアアアアアアアアアッ!」

魔力が溢れる。
幻術は次々に増えていき、遂には空間全てを覆い尽くした。
そしてその幻術は、徐々に1つに集まっていく。

「な、何だ、アレは・・・」
「ドラ・・・ゴン?」

ハッピーが呟く。
鋭い爪に太い尻尾、大きな翼、オレンジ色に艶めく鱗。
そこにいるのは、まさしく――――――



「究極幻術・・・ドラゴン!」



――――――ドラゴンだった。

「でかーーーーーーっ!」

あまりの大きさに、ハッピーが叫ぶ。
今ここにいるメンバーの中で、本物のドラゴンを見た事があるのはまだ気を失ってるナツだけだ。
だが、本などに載っている絵で少しの姿は知っている為、一目でドラゴンだと解る。

「消えろ・・・ドラゴンの前に・・・消えろオオオオオオオオオオッ!」

ジェメリィの怒号。
それに反応し、ドラゴンはその鋭い爪を―――――振り下ろす。

「何が、何が勝てない理由があるだ!正規ギルドの魔導士がっ・・・たかだか雑魚ギルドの魔導士が!このボクに・・・マスター直属部隊のボクに偉そうに・・・!消えろ!消えろ消えろ消えろォ!ボクの前から・・・消え失せろオオオオオオオ!」

ジェメリィが叫ぶ度に、ドラゴンはその鋭い爪を振り下ろしていく。

「「「ティア!」」」

グレイとハッピー、シモンが叫ぶが、その声にティアが答える事はなかった。

「ハハハッ・・・ハハハハハハハハハハハハッ!」

怒り狂った欲望は、誰にも止められない。
その場には、ジェメリィの勝利の高笑いだけが響き渡っていたのだった。











―――――――――その瞬間、世界が、割れた。











「・・・え?」

高笑いが途絶え、ジェメリィはゆっくりと辺りを見回す。
気がつけば、割れたはずの壁やヒビが入ったはずの床も綺麗に元に戻っている。

「割れた・・・?」
「どうなってんだ?」
「何が起こったんだ・・・?」

突然の出来事に、グレイ達も困惑する。
すると、そこに軽やかなソプラノボイスが響いてきた。









「どうかしら?神秘的な海の見る夢は」









『!?』

聞こえてきた声の方を全員が向くと、そこには無傷のティアが佇んでいた。

「ティア!」
「無事だったか!」
「よかったぁ!」

無傷のティアを見てシモン、グレイ、ハッピーは安堵の声を出す。
それとは対照的に、ジェメリィは焦ったような声を出す。

「ウソだ・・・ウソだウソだっ!だって、君はボクが仕留めて・・・っ!」

焦りと同様、2つの混じった声に、ティアは淡々と告げる。

「簡単な事よ。アンタはずっと、海の夢の中にいた」
「夢・・・?」

言葉の意味が解らず、首を傾げるジェメリィ。

「そう。私が最初に使った魔法『海域』は・・・相手に幻覚を見せる魔法よ」
「!?」

その言葉を聞いて、ジェメリィは更に驚愕する。
幻覚使いが幻覚に気づかない・・・これ以上の屈辱はないだろう。
警察官が犯罪に気づかない様なのと同じものだ。

「つーか、俺達も幻覚にかかってたのかよ」
「全く気がつかなかったな・・・」
「あい」

いつの間にか自分達も幻覚に引っかかっていた事に、グレイ達も愕然とする。

「ま・・・まだだっ!幻覚がどうだろうが、ここで君を倒せばいいだけだっ!」

叫び、新たな幻術を発動させるジェメリィ。
しかし、ティアは淡々と、今度は『現実』を突き付ける。

「無駄よ」

その言葉が合図だったかのように―――――
ボフッ・・・ボフッ・・・と音を立て、幻術達が消えていく。

「なっ・・・!」

どれだけ作っても、作ったそばから消えていく。
その事実に驚愕するジェメリィに、ティアは告げた。

「アンタは海の夢の中で、究極幻術なるモノを発動した。究極という事は、魔力の消費は1番多いでしょう・・・ま、ハッキリ言えば、魔力切れね」
「そ、そんな・・・バカな・・・!」

ティアの言葉に、更に驚愕の表情を浮かべるジェメリィ。

「そしてアンタは既に・・・魔の海に囚われている」

その言葉に辺りを見回すが、何も無い。
首を傾げていると――――――魔法陣が、展開した。

「なっ・・・なっ・・・!?」

魔法陣は1つじゃない。
1つ現れ、右に避ければその足元に、前に避ければその足元に・・・ジェメリィから逃げ道を完全に奪っていく。

「ああ・・・そうだ。教えてあげる」
「え・・・!?」
「アンタが私に勝てない2つの理由」

魔法陣は更に展開する。

「1つは、幻覚に気がつかなかった事。もう1つは、私がアンタに手を抜く理由がなかった事」

そこまで言い、何かを思い出したように頷いた。

「そうだった・・・これは勝てない理由ではないけれど、1つ言わせてもらうわ」

その間にも、魔法陣は展開する。
塔の床が、青一色に埋め尽くされる。

「アンタの幻術魔法(ミラージュマジック)はかなり繊細で美しい。それは認めるわ。だけどね・・・」

刹那。
海の閃光(ルス・メーア)と呼ばれる彼女は―――――




「私はあれを、ドラゴンだとは認めない」




―――――氷の女王(アイスクイーン)と化していた。

「ど、どう、して・・・!?」

ジェメリィは震える声で尋ねる。
ティアは少し目線を逸らし、すぐに真っ直ぐにジェメリィを見つめた。

「・・・私の知ってるドラゴンは、あんな『作り物』の顔をしていないもの」

ドラゴンは絶滅したと言われる生き物だ。
そのドラゴンを『知ってる』というとは・・・とその場にいた全員は驚愕するが、ティアの言う『ドラゴン』は、ジェメリィ達が思い描くのとは全く違う。

「私の知るドラゴンは・・・破壊癖があって、よく食べて、本能のままに生きて、バカで、喧嘩っ早くて、物事を深く考えなくて、楽観的で、そのくせ戦場では頭の回転が速くて、乗り物に弱くて、他人を『仲間』と呼び、仲間の為に戦う奴だから」

その言葉の意味は、ジェメリィには解らない。
そして壁を挿んでいるからか、中にいるグレイ達にはよく通る声も小さく聞こえる。

「どんな時も、生き生きと・・・笑っているから」

彼女の頭に浮かんでいるのは、桜色の髪を揺らし、鱗を模した白銀のマフラーを巻く(ドラゴン)

「それに――――――――」

一旦区切ったと同時に、魔法陣が輝く。

「百花繚乱・・・」

魔法陣の煌めきがジェメリィを包み、その眩しさに思わずジェメリィは目を閉じ―――――








大海薔薇冠(アクエリアスローゼンクローネ)!」








水の薔薇が咲き誇る。
それは見事に、綺麗に、咲き誇る。

「ぐああああああああああああああああっ!」

圧倒的な力の前にジェメリィは断末魔を上げながら吹き飛ばされ・・・そのまま気を失った。
それを確認したティアは一瞬で薔薇を消し去り、帽子で顔を隠し、滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)しか聞き取れないほどの小さな声で呟く。

「それに・・・少しだけ、カッコイイ、し・・・」

そう呟く常に無表情の氷の女王(アイスクイーン)が。
その雪の様に真っ白な頬を淡く赤く染めていた事には。
―――――――この場にいる、誰も気がつかなかった。 
 

 
後書き
こんにちは、緋色の空です。
ふふふ・・・ナツとティアがあまりにも人気で必死に考えたら、私までナツとティアにドハマリするというね。
おっかしいな・・・初期設定では、緋色の空がFTのキャラで1番好きな『あの人』と仲良くしてもらいたいなー、と思っていたというのに・・・。

感想・批評、お待ちしてます。 
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