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Element Magic Trinity

作者:緋色の空
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心の鎧


「もう1回やれよっ!何で俺の今日の運勢最高なんだよ!」
「何度やっても結果は同じ。てか『最高』なんだから喜べばいいじゃない」

これは、今から8年前の物語。
この場にナツはいない。10年前から所属するルー、1年前に所属したばかりのアルカ、かつてグレイの回想にも出てきたティアと、その弟のクロスはいるが。

「最高なモンか!今日は朝からドブにはまったり財布落としたり、ろくな事がねぇ!」
「まーまー、落ち着けってグレイ。これからいい事があるってこった」

当時10歳のグレイにそう言うのは、当時13歳のクロノだ。
この頃はまだギルドにいて、まさか自分が評議院の人間になるなんて思ってもいなかっただろう。

「だいたいテメーの占いは・・・」
「うるさいなァ」

口喧嘩をするグレイとカナ。
いつも通りと言えばいつも通りの光景に、いつもとは違う存在がやってきた。
その存在を見たギルドメンバーは一気にざわつく。

「何だ、アイツ・・・」
「ひでぇ格好だなァ」

メンバーがそう思うのも無理はない。
少女は素足で、右目に眼帯をし、所々破れたボロボロのワンピースを着ていたのだから。

「ここが・・・ロブおじいちゃんのいた所・・・」

―――――その少女が、後にギルド最強の女魔導士になるとは。
この時はまだ、当然誰も知らなかった。









(エルザ・・・)

楽園の塔の廊下を、グレイは走っていた。
エルザをカードに閉じ込め走って行ったショウと、ただ自分の欲望に忠実に走って行ったアルカと、その2人を追うシモンを探して。

「くそっ!どこに行きやがった!あのショウっての見つけたらぶん殴ってやる!」

そう叫んだ直後、グレイは目を見開いた。

「!」

その視線の先には、怪我を負って座り込むシモンと、何故か焦げているハッピーと、とりあえず敵だと認識できる男。
何故男・・・(フクロウ)をあってもいないのに敵だと認識できるか?
その前に立ち戦闘態勢を取るティアの目には殺気以外が宿らず、その華奢な身体からは凄まじい量の殺気が溢れ、今にも体中から湯気を発しそうな状態だからだ。

「グレイ!?」

シモンが小刻みに震えながら、グレイに目を向ける。

「何やってんだお前!ショウってのとアルカを追ってたんじゃねぇのか!?」

その怒鳴り声に、ギロッと梟が反応する。

「足止めを喰らってんだ」
「早くエルザを見つけねーとヤベェだろ!ジェラールはエルザを生贄にするとか言ってんだぞ!ハッキリ言って本気のエルザに勝てる奴は本気出したティアくらいしかいねーとは思うが、あんなカードにされちまったエルザは無防備すぎる!」
「ショウに全てを話す時期を誤った・・・まさかあんな暴走をするとは」
「そんな事言ってる場合じゃないのよ、グレイ」

呆れたようにティアが口を開く。

「あのバカナツ、ロケットに酔ってそこの梟に喰われちゃったの」
「何だと?」

ティアの言葉に、グレイは梟に目を向ける。

「テメェがそんなんでどうすんだヨ!クソ炎!」

ガン、とイラつきながら壁を殴るグレイ。
梟は自分の腹に手をやる。

「消化が始まったぞ。あと10分もすれば、火竜(サラマンダー)の体は溶けてなくなる。そうすれば、奴の魔法は完全に私のものになる」

つまり、梟と戦うなら10分以内に勝負を終わらせなければならない。

「俺が片付けてやる!下がってろ!」

そう叫びながらグレイは造形魔法の構えを取る。
一瞬にして冷気が集まり、形を得ていく。

「アイスメイク、槍騎兵(ランス)!」

左掌を右手の甲に当て、クロスさせた状態の手から無数の氷の槍が放たれる。
これが普通の梟ならば、かなりのダメージを期待できたかもしれない。
が、相手はナツを『喰っている』。

「火竜の咆哮!」

――――――グレイにとっては相性最悪な、炎の魔導士を。

「!?」
「奴は火竜(サラマンダー)の魔力を吸収してるんだ!」

シモンが叫んだが、時既に遅し。
ジュッ、ブシュ、と音を立て、氷の槍は炎に呑まれていく。

「ぐぁあぁっ!」

梟の火竜の咆哮はグレイをも包む。

「ホーホホウ!炎の中では氷は使えまい!」
「あぁあああっ!」

全身を襲う激痛に、叫びをあげる。

「こんの・・・ヤロォ・・・」
「グレイ!」

が、グレイは諦めない。
なんとしてでもエルザを救う・・・こんな所で無駄な足止めを喰らっている場合じゃないのだ。

「無駄だァ!貴様も火竜(サラマンダー)の仲間なら、この炎がいかなるものか知っているだろう!」
「がはああっ!」










わいわい、がやがや。
ギルドの騒がしさを現すなら、この2つの単語で十分だ。
―――――が、そんなギルドの中心から遠く離れた場所に、エルザはいた。
鎧を纏い、眼帯をし、テーブルに置かれた飲み物にも手を付けず、ただ座っている。

「あのコ、いつも1人ね」
「そう思うなら、カナが話しかけてやればいいんじゃねーの?」
「思いっきりシカトされたんだけどね」

カナはそう言ってため息をつく。
――――因みに、単独行動が好きなティアは1人ではない。
エルザ同様、中心から離れてはいるが、彼女の傍にはティアとセットと言ってもおかしくないクロスやルー、アルカにクロノがいるからだ。

「ま・・・新入りのくせにこのグレイ様にアイサツなしってのは気に入らねぇな」
「いつからそんなに偉くなったのよ」

カナのツッコミも尤もだが、グレイは気にせずエルザに声を掛ける。

「オイ、お前」

・・・まぁ、最初の発言としては少し、いや、かなり乱暴だが。
名前ではなく『お前』と言われた事が嫌だったのか、それとも話す気はないのか、エルザは答えない。
答えるどころか、グレイと目すら合わせない。
その様子にイラッとしたグレイは―――

「聞いてんのかよ鎧女ァ!」
「くっ!」

エルザの座っていた椅子の足を自分側に蹴とばした。
その結果、エルザは見事に尻餅をつく。

「・・・何をする」

グレイの『オイ、お前』もそうだが、エルザの第一声もいかがなものか。

「ここは魔導士のギルドだ。鎧なんか着てんじゃねーよ」

筋が通っていると言われればそんな気がしなくもないグレイの言葉に、エルザは特に怒る事もせず、服の埃を払いながら呟く。

「そういう貴様は何か着たらどうだ?ここは変態のギルドか?」
「・・・!」

そう。
この時のグレイは、ウルの修行で造形魔法と共に得てしまった脱ぎ癖で、服を脱いでいた。
それを聞いたギルドのメンバーは、一気に大笑いする。

「テメェ・・・」
「私に構うな」

ただ一言、エルザは告げた。

「・・・魔導士のギルドだけど僕、学生服着てるよ?」

その様子を見ていた当時11歳のルーは、困ったように首を傾げた。
そして当時9歳のティアは、そんなグレイとエルザを見て、溜息と共によく通る声で呟く。

「バッカみたい・・・」










それから8年、グレイは炎に包まれていた。
・・・こう書くのも変だが、その通りなので仕方がない。
氷の魔導士であるグレイにとって炎の中で魔法を使うなど、ルーに一昨日の夕飯を思い出させるとの同じくらい無理な事だ(ちなみにルーは昨日の夕飯でさえ曖昧だったりする)。

「グレイ・・・」

シモンが呟く。
この状態でグレイは戦えない。シモンも怪我をしているし、ハッピーは戦う魔法が使えない。
シモンはゆっくりと、自分達の敗北を考えた。











―――――――そこに、その紅蓮の炎の中に。








―――――――綺麗に映える、深海色の閃光を見るまでは。












「っ!」

閃光は煌めく。
その青い髪と瞳を煌めかせ、飛翔し、自ら紅蓮へ飛び込む。
一瞬の躊躇いもなく、誰かの為でもなく、ただ、己の純粋な信念によって。

「確かに・・・炎の中で氷は造れない」

紅蓮の中に、妖しいまでに煌めく深海色。
その光は殺気に満ちていて、それでいて妖艶で、美しく、色褪せない。

「だけど、アンタ達は大切な事を忘れている」

彼女は純粋だ。
何処までも、何時までも、曲がる事なく純粋だ。
―――――自分の信念が曲がる事が無いと信じているから、彼女は永遠に純粋で。

「ここにいるのは氷の造形魔導士、空を飛ぶ猫、闇の魔法を使う魔導士。そして――――炎の敵である、水の魔導士」

指が鳴る。
それと同時に天井近くに展開する、青く高度な魔法陣。
魔法陣は徐々に大きくなって、心地よい鐘の音を響かせる。

「ああ・・・言っておくけど、私はこの場にいる―――この塔にいる誰の事も信じていないし、信頼もしていないし、仲間だとなんて思っていないわ」

彼女が信じているのは己。
それ以外の人間は、たとえ双子の弟であるクロスや異母兄弟の兄であるクロノさえも信じない。

「さっきアンタはグレイに言った・・・『貴様も火竜(サラマンダー)の仲間なら、この炎がいかなるものか知っているだろう』と」

紅蓮の上に、群青が姿を現す。

「アイツが私をどう思っていようと、私にとってアイツは『他人』に過ぎない。仲間だなんて、何十年経ったって思わないでしょうね」

群青は大きくなって、止まった。
青い光を放ち、術者と同じ神秘的な雰囲気を醸し出す。

「・・・皮肉なものよね。私はアイツの事を『仲間』だなんて思っていないのに――――」

紅蓮の炎から伸びる、火傷の1つもない真っ白な腕。
その細く、白い指が―――――

「どういう事か―――――」

パチン、と。
静寂の、沈黙の中に、響き渡った。












「この炎が偽物だと――――――解ってしまうの」












刹那。
魔法陣から、水が降る。
雨が降っているのではない。文字通り、水が降っている。
より正確に言えば、水で構成された大きい花弁が、紅蓮に触れて、紅蓮と共に姿を消す。

「ま・・・仕方のない事、なのかしらね」

紅蓮がその姿を完全に消すまで・・・群青は舞う。
宙を舞い、紅蓮に触れ、消えていく。

「アイツが私を知るように、私も―――『ナツ・ドラグニル』という男を知っているから」

紅蓮が群青と消え、そこに佇んでいるのは。
全身に火傷を負ったグレイと、無傷でただ口角を上げるティア。

「いえ・・・『知りすぎている』から。アンタみたいな偽物の炎なんざ、本気を出さなくたって消せるわ」

滅竜魔法の炎は、アルカの炎とは違う。
竜を殺せる炎はアルカの様な一般的な炎と違い、その違いは一言で説明できないが、ギルド最強の女問題児と評されるティアでさえ、かなり苦戦する相手だったりする。

「ホッホウ!素晴らしい魔力だ!貴様もキャプチャーしてやるぞ!」
「っ!」

それを見た梟は、ティアに向かって駆けていく。

「マズイ!」
「ティア、避けてっ!」

シモンとハッピーが叫ぶが、梟の口はもう目の前にある。
その俊敏さに驚きながらも、ティアが腕で防御態勢を取り、覚悟を決め目を閉じた、その時。

「ぐおっ!」

ティアではない声がした。
ゆっくりと目を開き、『梟に喰われかけている』人間に目を向ける。
それは梟の狙いであったティアではなく―――――

「グレイ・・・」
「グレーイ!」

その後ろにいたはずのグレイだった。
ティアが呟き、ハッピーが叫ぶ。

「!」

喰われかけているグレイは、梟の左腕に手を当てる。
そこから一気に、ピキピキと氷を出現させていく。

「オホォ!」

その氷はすぐにかなりの大きさになる。

「冷たっ!」

寒さや冷たい物に弱いナツをキャプチャーしているからだろうか。
梟は耐え切れず顔を上げ、それによりグレイが喰われかけ状態から脱出した。

「こんな所でモタモタしてる場合じゃねぇんだ!」








「またエルザにやられたのか、グレイ」
「しつけーなお前も・・・惚れたか?」
「うっせぇ!」

今はギルドの中年組と化しているマカオとワカバの言葉に、グレイは噛みつく。

「しっかし、エルザちゃんもあのグレイをここまでやるってんだからすげーよな」
「1度ティアちゃんと戦わせてみたいね。修行になるよ」
「おー、イオリ。いたのか」
「今帰ってきたトコ。さぁて、今日もティアちゃんと修行するかな!」

そう言って腕を伸ばすのは『イオリ・スーゼウィンド』。
彼女がティアにとって一体何者かは少し解るかも知れないが・・・今のギルドに彼女の姿はない。
彼女に何があったか、それは後に解る事だろう。

妖精の尻尾(フェアリーテイル)の未来をしょって立つエルザ様ってか」

マカオの言葉に、グレイは力強く、イライラをぶつける様にテーブルを叩く。

「俺はあんな奴、仲間とは認めねぇ!」








「エルザを連れて帰るんだ!」








河川敷。
そこにエルザは1人、座っていた。

「見つけたぞ、エルザァ・・・」

こっちに全く気づいていないエルザを見つけ、グレイはエルザに向かっていく。

「今日こそお前を倒して・・・」

ドドドド・・・とエルザに向かって走っていく。
それに気付いたエルザはゆっくりと振り返った。



―――――左目に涙を浮かべて。



「!」

エルザの涙を見たグレイは、思わず足を止める。

「お前か・・・全く、懲りない奴だな・・・・」

グス・・・と鼻を鳴らしながらエルザは立ち上がり、涙を拭う。

「いいぞ、かかって来い」
「あ・・・いや・・・」
「どうした?もう降参か?」

エルザの涙を見た、という事に動揺し、グレイは戦意を完全に失う。
少しの間戸惑い、ゆっくりとエルザに声を掛けた。

「お・・・お前・・・何でいつも1人なんだよ」
「?」

グレイの問いにエルザは首を傾げ、俯く。
そのまま、伏し目がちに呟いた。

「1人が好きなんだ。人といると逆に不安になる」

グレイはエルザの過去を知らない。
だから、何故エルザが1人を好み、人といると不安になるのかも解らない。
が、1つだけ、聞きたい事があった。

「じゃあ、何で1人で泣いてんだよ」









「うおおぉおぉ!」

成長した少年は青年になり、かつて仲間だと認めなかった人間の為に、戦っていた。

「ホッ、ホボォ!」
「どけ!」

そのグレイの迫力に、梟は怯む。
怒りに顔を染めるグレイの腕に、氷の刃が現れ―――――





「氷刃・七連舞!」






梟に、連続斬撃を決めた。

「ホボォホォォ!」

梟が叫ぶと同時に、その口からナツが飛び出てくる。

(アイツはいつも孤独で・・・)

それを見たハッピーが目に涙を滲ませながら、笑う。

(心に鎧を纏い・・・)

梟は、どさりと地に落ちる。

(泣いていたんだ)

魔法を発動させたときの構えのまま、グレイは言い放つ。

「エルザは妖精の尻尾(フェアリーテイル)にいなきゃいけねぇんだ。涙を流さない為に」

その言葉にシモンは驚愕で目を見開き、ティアは無表情に戻って溜息をつき、ナツは気を失っており、梟は意識を失った。 
 

 
後書き
こんにちは、緋色の空です。
・・・個人的な意見ですが、グレイって女の涙に弱いと思うんです。
エルザが過去の話をする前に見せた涙にも動揺してるし、ジュビアと戦った時のジュビアの涙にも動揺してるし、この話でもそうだし・・・。

さて、次回予告!
次回はオリジナルストーリーです!
今回、ちょっとだけ活躍したであろうティアが、4人の戦士の1人、ジェメリィと対峙する!

感想・批評、お待ちしてます。 
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