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気まぐれな吹雪

作者:パッセロ
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第一章 平凡な日常
  番外4、不思議の国の要

並盛町を歩く、一人の少女。

言わずもがな要であるのだが、かなりご機嫌斜めの様子。

学ランの左腕につけられた2つの腕章は、今現在、彼女が風紀委員の仕事の最中であることを示している。

「ったく、あんのチビ介が」

つい先日、リボーンによってバカンス旅行に誘われた要。

本当は行きたかった、本当に行きたかったのだが、誘ってきたのがリボーンなだけあって行きたくなかったのだ。

何せ、彼に関わるとロクなことがない(と思っている)からだ。

「つーかよ、何で恭と草壁までいねぇんだよ。書類たまってんだろが」

実は、雲雀と草壁が留守にしている。

これも要の機嫌を損ねる種の1つだ。

何をしているのかと聞かれると、わからない。

とにかく、いない。

取り敢えず並盛の巡回も終わり、並中に戻ろうとした、その時だった。

「そこの変な奴、危ないんだもんね!」

なんだか聞いたことのあるような声が聞こえた。

そして、その声がランボであること、“変な奴”が自分であること、目の前に何かが迫っていることを同時に理解したとき、全ては手遅れだった。

ボフン

一瞬だけ目眩のような感覚が訪れる。

その直後に、どこかの地面に投げ出された。

さっきまで自分がいたアスファルトではなく、土の地面に。

「ここ……どこだ?」

起き上がって周りを見ても見覚えがない。

それどころか、日本ですらないようだ。

「ランボ、飛来する何か、知らない場所……。つまりあれって10年バズーカか? てことは、10年後のオレは海外に住んでんのか?」

しかし彼女は知らない。

10年バズーカが故障していて、ここは10年後ではなく10年前であることを。

そして彼女は覚えていない。

10年前、この地へ来ていたことを。

ふと、すぐ近くに小さなリンゴの木があるのを見つけた。

そしてその木になるリンゴを必死に取ろうとしている少年を見つけた。

「ほらよ」

「あ……」

リンゴを幾つか取って、少年に渡す。

藍色の髪の彼は、突然現れた人物に警戒しているようだった。

髪と同じ藍色の瞳が要を見つめる。

「……誰、ですか」

日本ではないこの地で、幼いながらに日本語を発した彼。

その事実は、どこの国かわからず英語以外話すことのできない要を安堵させた。

「悪ぃ。迷惑だったか?」

「だから、誰、ですか」

少年の警戒心が強まる。

「いやいや、怪しい奴じゃ……つってもムダか。んーとな、通りすがりの日本人です?」

「なぜ疑問系なのですか」

「わかんね」

自嘲気味に笑うと、要もリンゴを1つもぎ取る。

その時、ペンダントが枝に引っ掛かり、外れてしまった。

落ちていくそれを、不意に少年は目で追ってしまう。

しかし要はその事に気づいていなかった。

「あ、そう言えば名前言ってねぇな。オレは霜月要だ。漢字はこー書いて」

しゃがみこんで木の枝で地面に名前を書く。

その時に気づかぬ内に服の裾でペンダントが木の隅に追いやられてしまう。

要の説明が終わったとき、少年が口を開いた。

「僕は」

ボフン

突然またあの感覚に襲われる。

気がつけば、見慣れた並盛の道端に倒れていた。

「名前、聞きそびれたなぁ」

“僕は”の後の台詞が気になって仕方がないが、今さらどうにもならない。

「っあ……ペンダントが、ない」

ようやくそこで、大切なものがないことに気づいた。

落としてきてしまったのだ。

国すらわからない、あの世界に。

「凪……」



†‡†‡†‡†‡†‡



突然、目の前の人が煙に包まれたかと思ったら小さくなった。

可愛らしくツインテールに結ばれた髪、大きくくりっとしている瞳。

彼女は彼をちょっと見ると、どこかへと走り去ってしまった。

足元を見れば、『霜月要』と文字が刻まれている。

木の下を探してみると、あった。

ハート型のペンダント。

それを目の前にかざして見る。

「僕は、六道骸、ですよ」

クフフ、と小さく笑う。

そして少年、骸はペンダントをポケットにしまうと、リンゴを抱えてどこかへと走り去っていっ た。  
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