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とある星の力を使いし者

作者:wawa
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第126話

「ユミナさんと同じ死徒だって言うのかよ。」

上条は信じられないような表情を浮かべながら、麻生に言う。

「調べた訳じゃないが、そうだろうな。
 ユミナを死徒化させて、ナタリアは死徒化させないというのがおかしかった。」

「でも、さっきまでナタリアさんは普通に喋ってたよ。」

インデックスも目の前の現実を素直に受け止める事ができない。

「おそらく、ナタリアの身体にもユミナと同じ魔術がかけられていた。
 その魔術は遠隔操作か、それとも特定の条件で発動するのかは分からないが、ともかく二人にかかった魔術は発動すると、その人間を死徒に変え、さらには吸血衝動を呼び起こすものだ。
 ナタリアを最初から死徒にしなかったのは、俺達を油断させるためだったのかもしれないな。」

「それじゃあ、ナタリアさんも・・・・」

「ああ、助からない。」

思い返せば、色々と疑問点が浮かび上がった。
最初に麻生からに逃げた時、走り慣れている上条でさえ息が切れていたのに、ナタリアは全く息を切らしていなかった。
それに一番最初にナタリアがユミナを麻生達の所に運んだ時だ。
あの小柄なナタリアが一人でユミナを抱え、さらに麻生達の所まで走ってきたのだ。
麻生は今になってようやくその疑問に気がつき、忌々しく舌打ちをする。
三人が状況を整理していると、ユミナとナタリアが三人に向かって突撃してくる。
麻生は手を最大まで強化すると、ユミナ達を迎撃に向かう。

「ま、待て!恭介!!」

上条は静止するが、麻生は止まる素振りすらしない。
ユミナは鋭い爪を麻生に向かって突き出してくる。
それらを見切り、隙ができた脇腹に拳を入れようとした。
だが、ユミナの影からナタリアが横に飛び出してきた。
ナタリアも鋭い爪でユミナの脇腹に拳を入れようとする、麻生に向かって突き出してくる。

「ッ!?」

ギリギリでユミナの脇腹に入れようとした拳を、防御に回す。
手で受け止めるとおそらく、手を貫いてしまうので、手首を掴んで勢いを止める。
その行動をする事で、麻生に小さな隙が生まれる。
それを狙ったかのようにユミナは、その鋭い爪で麻生の胸を貫こうとする。

(防御が間に合わない。)

ユミナの爪が向かってくる軌道に合わせて、盾を創り防御する。
しかし、ユミナの攻撃を勢いは凄まじく、盾で防いでもそのまま後ろの建物まで吹き飛ばされてしまう。
壁を貫き、粉塵が舞う。

「恭介!!」

その光景を見ていた上条は麻生の名前を叫ぶ。
しかし、麻生からの返事はない。
ユミナ達は麻生が起き上がらない所を見ると、上条達に視線を向ける。
それを見て、上条は拳を構えて言う。

「インデックス、逃げろ!!」

「で、でも、とうまは!?」

「俺はあの二人を止める!
 だから、お前は」

その後に言葉が続かなかった。
何故なら、ナタリアが上条の所まで詰め寄り、右手で上条の首を掴んでいるからだ。
片手で上条を持ち上げ、軽く首を絞めていく。
ナタリア自身、それほど力は入れていないのだが、上条からすれば縄で首を強く絞められているようだ。
ナタリアはゆっくりと上条の首筋に口を近づけていく。
その時、麻生が吹き飛ばれてた壁の中からドン!!、という音が聞こえた。
粉塵の中から麻生が出てくると、上条の首を絞めているナタリアの腕を手に持っている剣で斬り裂く。

「があああああああああ!!!!!」

叫び声をあげながら、後ろに跳んで距離を取る。
上条は咳き込みながら、大きく呼吸をする。
首を掴んでいた腕は切断されると、塵になって消滅した。

「おい、当麻。
 どうして、右手を使わなかった。」

麻生の問いかけに上条は何も答えない。
元人間だとしても、あの身体は異能の塊だ。
上条の右手で触れれば、塵になって消滅する。
だが、上条はそれが分かっていながらも右手を使う事ができなかった。

「お前、もしかして自分の血を吸わせて、ナタリアを正気に戻そうとしたのか?」

上条の沈黙を麻生は肯定と捉え、ため息を吐くと上条の胸ぐらを掴み、能力の加護がかかった右手で上条の顔を思いっきり殴りつけた。

「お前、自分がどんなに馬鹿な事をしようとしていたのか分かっているのか!?
 お前が此処で犠牲になっても、あの二人は正気に戻らないし、無駄死にするだけだ!
 万が一、正気に戻ってもすぐに吸血衝動に飲み込まれる!」

上条の口端から血が流れる。
頬は大きく腫れ上がっている。
麻生は言葉を続ける。

「お前が犠牲になったら、インデックスはどうなる!!」

「ッ!?」

それを聞いた上条はゆっくりと、後ろに立っているインデックスに視線を向ける。
インデックスは目の端に涙を溜めていた。
おそらく、上条が死ぬかもしれないと思っていたのだろう。
手には、拳ほどの石が握られていた。
それで何をするつもりなのか、上条は見ただけで分かった。

「お前のそれは正義でも偽善でも何でもない。
 ただの自己満足だ。
 その自己満足のせいでお前は確実に、一人の少女を悲しませる事になるんだぞ。
 お前が犠牲になった所で誰も助けられない、逆に一人の人間を不幸にするだけだ。」

もう一度、胸ぐらを掴みながら言う。

「これだけ言って、これだけのモノを見てまだお前がそんなくだらない幻想を抱えているのなら。
 俺がその幻想をぶち殺してやる。」

麻生のその言葉が上条の胸に強く響いた。
さっき殴られた頬の痛みより、数倍の痛みが上条の胸から感じた。
胸ぐらを掴んでいた手を放し、地面に突き刺していた剣を抜き取り、後ろにいるユミナ達に視線を向ける。
ナタリアは斬られた腕を再生させていて、ほとんど元に戻っていた。

「じゃあ、どうすれば良かったんだよ。」

独り言のように呟く上条。
さらに同じ剣を創り、それを右手の指の間に差していきながら、麻生は答えた。

「お前は偽善だと分かっていても、人を助けるんだろ?
 なら、自己犠牲なんてくだらない行動なんてせずに、その人自身を助ける方法を考えるんだな。」







ナタリアの腕が治ったので、二人は再び麻生に向かって突撃していく。
向かってくる二人を右手の指に差していた、四本の黒鍵を投げつける。
二人はそれをお互い左右に移動する事で避ける。
左に避けたナタリアに麻生が一気に接近する。
麻生の左腕にはさっきまでなかった物があった。
それは大型の弦楽器を模した盾でありパイルバンカーだ。
名を正式外典「ガマリエル」。
パウロの黙示録とエジプト人による福音という二つの外典によって鍛えられた銃盾兼槍鍵。
音律を以てあらゆる不浄を弾く正しい秩序の具現とされている。
対吸血鬼用の「滅び」の意味を含んだ概念武装である。
麻生は右手でナタリアの横腹を殴りつける。
それをナタリアは左手で受け止めるが、能力の加護が加わっており、受け止めても勢いは消えることはなかった。
そのまま壁に叩きつけられると、追い打ちのように四本の黒鍵が両手両足に深く突き刺さる。
悲痛の叫び声をあげるナタリア。
それを聞いたユミナは麻生に向かって、鋭い爪を繰り出す。
その爪を「ガマリエル」で受け止める。
今度は吹き飛ばないように能力で身体全身を強化し、さらにベクトルの向きも利用する。
次の瞬間、「ガマリエル」の盾から刻印が浮かび上がる。

「リスト・ポルタート」

そう呟くと、刻印はより強く輝き、ユミナを弾き飛ばした。
「ガマリエル」に触れていた手は跡形もなく消滅している。
弾き飛ばしたユミナに追い打ちをかける、麻生。
「ガマリエル」のアンカーをユミナの心臓に突き刺し、告げる。

「イクトス・カルヴァリア・ディスロアー。」

その言葉に呼応して、「ガマリエル」のアンカーから巨大な光の杭が二本現れ、それが十字架を描くように、ユミナに突き刺さる。
そして、光の杭が爆発し、強烈な光を生み出した。
光が無くなった時には、ユミナは地面に倒れていた。
麻生はユミナに近づき、倒れているユミナを抱きかかえる。

「ああ・・・私を止めて下さったのね。」

先程とは違い、理性を取り戻している。
しかし、ユミナの身体は徐々に消滅していた。

「何か言い残す事はないか?」

数十分前と同じ台詞を言う。
違いがあるとすれば、麻生の表情は少しだけ哀しそうな顔をしている。
ユミナは変わらない笑みを浮かべて言う。

「あの子を救ってやってください。」

ユミナの言葉を聞いて、小さく頷く麻生。
それを確認したユミナは笑みを浮かべたまま、塵となって消滅していった。
麻生は壁に磔にされているナタリアに視線を向ける。
ナタリアは力技で、黒鍵を抜き取り、完全に再生していないにもかかわらず、麻生に飛び込んでいく。
麻生は「ガマリエル」の盾の部分を前に出し、ナタリアの攻撃を受け止める。

「祈れ、その魂が奇跡を宿すなら、裁きのあとに救われよう。」

巨大な刻印が麻生の足元に浮かび上がる。
その刻印は輝くと、辺りを光で包み込んでいく。
光が無くなると、ナタリアは麻生に寄りかかるように立っていた。

「お母さんは?」

ナタリアも理性を取り戻したのか、麻生に問い掛ける。

「笑顔を浮かべて、死んでいったよ。」

「良かった・・・最後に笑ってくれて。
 お母さんを二度も救ってくださってありがとうございます。」

「出来うるならば、お前達二人の来世が幸せである事を祈る。」

「本当にありがとうございました。」

ユミナと同じ笑みを浮かべて、ナタリアも塵となって消滅していった。 
 

 
後書き
第114話での謎の人物についての描写などを変更しました。
そう遠くない未来にこの人物は出てきます。
なので、確認していただいた方が今後の話に混乱しないかと思います。

感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。 
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