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ドラクエⅤ・ドーラちゃんの外伝

作者:あさつき
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キラーパンサーに転生
  20あの場所へ

 パパさんの剣をくわえて、遺跡を一人で脱出して。

 物陰に隠れて一息ついてると、たくさんの兵士さんたちがやってきて、遺跡の中に入っていきました。

 ……あぶないところだった。
 間に合ってよかった。

 もう少し休みたいけど、兵士さんたちが出てくる前に、もっとここから離れておいたほうがいいかもしれない。
 ヘンリーくんが中にいないってわかったら、周りだって探すかもしれないんだから。
 それで見つかっちゃったら、きっとただの魔物として退治されちゃうから。


 疲れた体をなんとか動かしてまたパパさんの剣をくわえ、お城とは反対方向に歩き始めます。

 十年後のことを考えたら、お城の方に向かって、川も渡ってこの国から出ないといけないと思うけど。
 それほど急ぐわけじゃないし、今はとにかく生き延びなくちゃ。

 ……剣をずっとくわえて歩くのって、すごく疲れるなあ。
 でもパパさんの大事な剣を、引きずって歩きたくないし。
 なにか、引きずってもよさそうな入れ物とかないかなあ。
 かえって疲れるかな、それも。


 そんなことを考えながら、でも入れ物なんかないから結局そのままくわえてるしかなくて、遺跡からそれなりに離れたところで、身を隠せる場所を見つけて休んで。

 体力が続けば、もっと離れておきたいところだけど。
 このままじゃ兵士さんたちに見つからなくても、力尽きて死んじゃう。
 少し休んで体力が戻ったら、狩りをしてなにか食べないと。
 狩りをするのは久しぶりだし、元々一人でしたことなんてないけど、あの頃よりはずいぶんレベルが上がって強くなってるから、きっと一人でもなんとかできる。

 人間だった記憶の影響が、サンチョさんのおいしいごはんを毎日食べて強くなってて、今さら獲物をそのまま食べるのはつらいかもしれないけど。
 でも、つい最近まで普通にそうしてたんだから、そうしないと生きていけないんだから。
 大丈夫、きっと、またできる。

 そんなことを考えながら、うとうとと少し眠って。
 ドーラちゃんと一緒にベッドで寝てたときは熟睡しても大丈夫だったけど、いつなにに襲われるかわからない外の世界で、そんなことしないくらいの野性はあたしにもちゃんと残ってたんだって、なんとなく思いながら目を覚まして。

 初めての一人での狩りは、始めは手こずったけど、相手に気づかれないように一瞬で勝負を決めるコツを見つけてからは、そんなに難しいことはなくて。
 獲った獲物も抵抗なく食べられたけど、血の滴る肉を噛み締める度に、人間だったあたしが遠のいていく気がした。

 ……もしも本当に、忘れてしまうなら。
 十年かけてたどり着ければいいなんて、そんなのんきなこと言ってられない。
 ちゃんと覚えてるうちに、少しでもあの場所に近付いて、できればそこに落ち着いて。
 覚えてなくても、せめてその場所にはいられるようにしておかないと。


 食事のあとまた少し休んで、体力がだいぶ戻ったところでまた剣をくわえて、今度はお城のある方向に戻ります。

 と言ってもまっすぐお城に戻ったらやっぱりヘンリーくんを探してる兵士さんたちに見つかっちゃうかもしれないし、パパさんとドーラちゃんと一緒だったときと違って関所は通れないから。
 立派な堤防が作られてたあの川は、関所の地下道を通れば簡単に渡れたけど。
 それができないなら、あたしにはきっとあの堤防は越えられない。

 だけど堤防を避けて、海につながる河口に出れば、なんとか渡れるかもしれない。


 だからあたしは人の通る道を避けて、ひたすら南に進んで、海岸に出て。
 手ぶらならともかく、剣をくわえた状態ではかなり歩きにくい森や山の中を通って、南の海岸沿いを南東に進み、丸一日かけてやっと河口に出ました。

 堤防がどこまで続いてたのかわからないけど、少なくとも見える範囲はふさがれてなくて、ここからなら川を渡ることもできそうです。

 泳ぐことさえできれば。

 ……関所で見たときも広い川だと思ったけど、河口までくるとそれがさらに広くなってるんだね……。
 そうだよね、川ってそういうものだよね。

 さかのぼって歩こうにも、堤防の前に岩山があって無理だし、その岩山の先だともう関所とほとんど変わらない場所になるよね。
 だから、やっぱりここを泳いで渡るしかないと思うんだけど。

 あたしは前世では人並みに泳げたけど、この体で泳いだことはないし。
 それでも手ぶらなら泳げないことはないと思うけど、剣をくわえてってなると、どうかなあ……。
 失敗して途中で落としちゃったら、きっともう拾えないし。

 ……うん、ちょっと練習してみよう。
 ここを越えてもまた海を渡らないといけないんだし、川ならまだしも海で剣を落としちゃったら、もう絶対に拾えないもん。


 また狩りをして、お腹を満たして睡眠も取って、体力を充実させて、ぼろ切れみたいになってた毛皮のマントを脱いで、鉄の爪も外して。

 まずは手ぶらで泳ぐ練習から始めたら、それなりにレベルが上がって身体能力も上がってるぶん、それは簡単にできて。

 次に剣を運ぶ練習をしようと思ったけど、パパさんの剣で試すわけにはいかないから、大きめの木の枝をくわえてみたり、同じくらいの重さの石をくわえてみたり。
 剣よりは軽い枝と、バランスを取るなんて考えなくていい石と、どっちもパパさんの剣を運ぶよりは楽なはずなのに、まだ体の小さいあたしには、それだけのことも結構難しくて。

 何度も落としてしまって、これはもっとなにか考えないと無理だと思って、剣と川を見比べて考えてたら、川を木の箱が流れてきて。

 あ、あれだ!
 あれを使えば、なんとかできるかも!

 ひらめいて、夢中で泳いで流れていく木の箱に近寄って、前肢でしがみついて木の箱を運びながら、岸まで泳いで戻って。

 うん、やっぱりいけそう!
 木の箱なら水に浮くから、これに剣を入れてつかまって泳げば!
 絶対に剣を落とさないで、川も海も渡れそう!

 だけど念には念を入れて、まずは石を入れて川の途中まで泳いで、また戻ってきて。
 本当に大丈夫そうだと自信がついたところでその日は泳ぐのは終わりにして、狩りをして食事をすませて休みます。

 春がきたとは言ってもまだ泳ぐには寒い中で、泳ぐ練習でかなり体力を使ったし、育ち盛りなんだから栄養はちゃんと取って、ちゃんと休まないと。
 栄養と休息が足りなくてちゃんと大きくなれなかったら、せっかくドーラちゃんに迎えにきてもらっても、役に立てないもんね。
 生き延びるにも、そのあとドーラちゃんの役に立つためにも、あたしはちゃんと自分の面倒を見て、ちゃんと強くならなくちゃ。


 そうやってまたうとうとと、半分起きてるような感じで眠って、また起きて。
 あと十年はこうやって眠るんだろうなって、あったかいベッドでドーラちゃんと一緒に安心してぐっすり眠った夜を思い出しかけて、あわてて頭を振って考えを追い出します。

 ……今、そんなことを考えたって、さみしくなるだけでどうにもならないんだから。
 そんなの思い出していいのは、今じゃない。
 十年後にまた会えたときか、せめてあの場所にたどり着いて、落ち着いてから。
 それまでは、前に進むことだけ考えてないと。

 でないともう進めなくなって、二度と会えなくなっちゃうんだから。
 あたしはそんなのは、絶対に嫌なんだから。


 気を取り直して体を少し動かして温めて、心も体も準備が整ったところで、いよいよパパさんの剣を運んで川を渡ります。

 ボロボロでもう守備力も防寒も期待できない毛皮のマントは、パパさんの剣に巻き付けて保護に使うことにして、鉄の爪はパパさんの剣と一緒に箱に入れて。

 万全に準備を整えただけあってなにも問題は起こらず、無事に剣を持って向こう岸にたどり着きます。

 ……海を渡るためにも、また箱が必要だけど。
 この箱を持っていくのと置いていくのと、どっちがいいかな?
 楽に運べるなら、持っていきたいけど。

 そんなことを考えて試しに剣の入った箱を押してみると、思った以上に大変で。

 また都合よく箱が手に入るとは限らないけど、この剣と箱を一緒に運ぶなんて、今のあたしには絶対に無理。
 ただ運ぶだけならできなくはないけど、途中で人間とか、あたしを襲う魔物だって出るんだから。
 こんなのを押しながらのろのろ歩いてたら、すぐに敵に見つかっちゃう。

 どうしても見つからなければ、最悪この箱だけを取りに戻ってくればいいし。
 箱じゃなくても、かわりのなにかなら見つけられるかもしれないし。
 そもそもどこから海を渡ればいいのか、場所の見当も今はついてないんだから。
 今はとりあえず、剣だけでも運んでしまおう。


 考えた結果、箱は置いていくことに決めて鉄の爪を装備し直して、狩りをして腹ごしらえを済ませ、剣をくわえてまた歩き出します。

 ゲームの地図なんて詳しくは覚えてないけど、確か西のほうにある大陸に渡ればいいはずだから。
 また海岸沿いを歩いて、泳いで渡れそうな場所を探さなくちゃ。


 何日かかけて、海岸沿いをじっくり見て回って。
 剣を持って探し回るのも大変だから、途中で剣を隠すのにはよさそうな、巣穴にするには小さすぎる洞穴を見つけて、そこに剣を隠して、また海岸沿いを歩いて。

 ビアンカちゃんのいるアルカパからまっすぐ西、レヌール城からまっすぐ南にあたる場所が、一番泳ぐ距離が短そうなのを確認して。


 アルカパの近くを通ったときには、もしかしてアルカパに行けば、ビアンカちゃんが迎えてくれて、一緒に暮らしてドーラちゃんを待つこともできるのかもしれないって、ちょっと考えてしまったけど。

 だけど、ビアンカちゃんはあたしのことにきっと気づいてくれると思うけど、リボンはなくしちゃってドーラちゃんもいなくて、もしかしてってことはあるし。
 ビアンカちゃんに会う前に町の人に見つかったら、やっぱり魔物として退治されちゃうだろうし、あの町には門番さんがいるし。
 今は猫みたいなあたしでも、そのうち大きなキラーパンサーになるんだから、旅するモンスター使いのドーラちゃんならともかく、町や村で暮らす普通の女の子のビアンカちゃんには、あたしがいたら迷惑になっちゃうよね。

 それに、もしもビアンカちゃんが受け入れてくれたとして。
 ビアンカちゃんと平和に暮らすあたしを見たら、また会えても、ドーラちゃんはもうあたしを連れていってくれないかもしれない。
 あたしはドーラちゃんと一緒にいて、ドーラちゃんを助けたいんだから。

 だからやっぱり、それはできない。


 やっぱりあたしはあの場所にいって、ドーラちゃんを待ってるしかないんだって思い直して、今度は剣を入れる箱かなにかを探して歩きます。

 と言っても、海岸を見て回るうちにこれも見当はつけてあって。
 たまたま流れ着いたようなのはなかったし、地面を引きずって歩くのはやっぱり大変だから、ビスタの港にある木箱を一ついただいて、海岸沿いに泳いで運んでみようかって。

 木箱一つといえども、勝手にもらってしまったら本当はいけないと思うけど、今のあたしにちゃんとお願いする手段はないし、背に腹は変えられない。

 せめて狩りのついでに拾っておいたゴールドを、置いていこうと思います。


 港を管理するご夫婦しかいない静かな港では、船が出入りするときを避ければ、見とがめられることもなくて。
 ゴールドと勝手に引き換えにしてもらった木箱を海に浮かべて、つかまって。
 川を渡るときははずしてた鉄の爪は、よく考えたらパパさんの剣ほど大事に守る必要はないし、途中で敵が出ることだってあり得るし、泳ぐのに前肢を使うわけじゃないならはずす意味もあまりないので、着けたままにして。
 海岸沿いに泳いで、海を渡る予定の場所に着きます。

 今度は剣を隠しておいた場所に歩いて戻って、剣をくわえてまた歩いて戻ります。

 また狩りをして、食事と睡眠を取って。
 体力を十分に回復させて、いよいよ海を渡ります! 
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