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気まぐれな吹雪

作者:パッセロ
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第一章 平凡な日常
  2、時間(とき)とは無情にも早い

あれから、12年の時が過ぎた。

オレはいま、西条考古学院にいる。

記憶はすでに、すべて取り戻していた。

そして驚愕した。

銀が言っていた通り、この世界は、前の世界と何もかもが同じだった。

幼い頃に親が強盗殺人によって死亡。

この容姿だって何一つ変わらない。

なにか違うことといったら……“あいつ”がいなかったことくらいだ。

そして今、オレはとある病院の一室にいる。

何故か。

あの事故が1年早く訪れてしまったからだ。

そもそも、あれは神様のミスだったからあるわけが無いんだが、まぁパラレルと言うことで片付けよう。

そして、今回は珍しく動くことができたので骨折程度ですんだ。

と、病室の扉が開く。

現れたのは西条考古学院の院長だった。

優しそうな目に、白く長い顎髭。

何て言うかあれだ、山本元柳斎をもっと優しい目にした感じの。

「具合はどうかの?」

「あんたさえ来なけりゃ、絶好調でしたね」

ぁん? 院長に向かって口が悪いって?

んなこと知ったこっちゃねぇな。

「儂が来たのは他でもない。君に話があってきたのじゃ」

ここまで来てオレに用がないっつった方がよっぽど失礼だけどな。

「知ってるよ。オレを学院から追い出すんだろ?」

院長の顔が強張る。

チッ、ビンゴかよ。

「なぜ、それを知っている」

「何故? 何故も糞もねぇだろ。9割り方あんたのせいで知ったんだから な」

それは、事故から2日ほど前のこと。

オレは院長の使いで、理事長室に立ち寄った。

ドアをノックしようとしたそのときだった。

『霜月要を今すぐ学院から追放すべきだ』

西条考古学院を設立したのは理事長。

彼本人は、世界トップ3の学力を誇る。

だが、史上最年少でしかも堂々の首席で入学し、それから一度もテストで一位の座を譲ることのなかったオレ。

奴はオレを恐れたあまり、追放を選んだのだ。

因みにこの話、前世でもあった話だ。

尤も、追放の前にオレは死んだがな。

「そうか……知ってしまったか」

「同情なんて要らねぇよ。史上最年少ってだけで、騒がれるわ妬まれるわ。
 正直ウザかったんだよ。だからちょうどいいさ」

鼻で嘲笑し、軽蔑の目で院長を睨む。

「霜月、確か来年から中学生だったな」

突然話を変えてきた。

なんだこいつ。

「だったらなんだよ」

「儂の知り合いが校長を務める中学がある。行ってみんか?」

「断る。追放されて尚あんたらの存在が見え隠れするとこになんざ行きたくもねぇよ」

追放するなら、さっさと縁を切って貰いたい。

さっきも言った通り、来年から中学生になるし、今のうちに並中を探しておきたい。

他のとこに行ってられっかっての。

「並盛中学校と言うんじゃが……」

数分(実際には数秒だが)思わずオレは固まってしまった。

並盛中学校だって……?

何であんたがその学校を……。

まぁいいさ、探す手間が省けた。

「気が変わったぜ。並盛中学校、行ってやるぜ」

「そうか、それはよかった。安心せい、君が転校したあとは、儂はもう関わらんからな」

その方がよっほど気が楽だよ。

「それじゃ、手続きはあんたに任せますよ。オレはいい物件でも探してるんで」

「ああ」

そして、院長は病室を出ていった。

よしっ! あとは家を探すだけだな。

ベッドの上で、ノートパソコンを開く。

実はこれ、学院支給の最新型なのだ。

「並盛、並盛……っと……」

ふむ……。

結構いい物件がたくさんあるな。

学校から程よい近さの距離にあるのは……これか。

よし、購入っと。

家具は後で買い揃えておくか。

パソコンを閉じると、机の上に置いてあった鏡が目に入った。

転生前にはこの時期は雲雀並の短さだった髪は、最近切ってないせいか、凪レベルに長い。

また切ろう……。

そして、もうすぐ訪れるであろう並盛生活に思いを馳せて、再びパソコンを開くのであった。  
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