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たちまち遊戯王

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第1話 可愛くない子が旅をするまで

 
前書き
まだデュエルシーン無しです。次回はどうなんだろ? 

 
 空が暗くなってきた頃、白い服を着た女が池のようなものを前に立っていた。
「アーィル、フィーニム、ルッタフ、クリィガ……」
 彼女の呟きに反応するように目の前の人工的に作った池のようなものの中の液体が螺旋を描くように揺れ、その周辺の草原の様なものに水飛沫がかかる。
「アーィル、フィーニム、ルッタフ、クリィガ……」
 彼女は目の前の現象に目を向けず、目を閉じたまま呟いている。
 女は大人として幾年も過ごしているのだろう。その時を重ねた顔は今、真剣さを見せている。
「ガーフェス、タンゼブ、バーダグ、ネィグア……」
 女の声が少し大きくなった。
「ガーフェス、タンゼブ、バーダグ、ネィグア……!」
 女の声はどんどん大きくなっていく。
「ガーフェス、タンゼブ、バーダグ、ネィグア……!」
 彼女の声が大きくなるにつれ、目の前の液体の揺れも大きくなる。 
「ライルハ、フィングハ、ダーネバ、クォンティニ……!」
 バシャッバシャッ
 液体が草原にかかる音が大きくなってくる。女にも液体が降りかかるが女が気に留める様子は無い。
「イーゲタリス、ルートフハバ、タンジェコリス、スーダジエッピャアッ!」
 女は反射的に身を縮こまらせた。耳の横を小さな虫が通りすぎたのだ。
「…ビックリしたもう」
 女は安堵の息をついた。目の前の池のようなものは先程の影響かゆっくりと波打っている。
「…あぁあ、宣約のやり直しね」
 女はため息をつくと額に手を当てた。
「はぁ、今日帰れるの何時頃に……」
 ポワァァ…
 目の前の池のようなものが、突如柔らかな光を放ちだした。
「あれ?」
 女は池のようなものに近寄った。光は暗いこの地を優しく照らしている。
「宣約、上手くいってるじゃない」
 女は池のようなものを見ながらそう呟くと、くるりと踵を返した。
「さぁって、ミールィの誕生日プレゼント買ってかなきゃ」
 女が鼻唄を歌いながら帰っていく様子を、空はずっと見ていた。


「ただいま」
 十七夜(タチマチ) 務都弥(ムツミ)は、靴を脱いで洗面台に向かった。
 手洗いを済ませて居間に行くと、弟の埒路(ラツロ)がダイニングでシリアルに牛乳をかけていた。
「ただいま」
 務都弥は居間で鞄を降ろした。
「おかえり」
 埒路は牛乳をかけなから務都弥の方を向いた。
「牛乳、溢れるぞ」
 務都弥がそう言うと埒路はハッとしたように彼の目の前の器を見た。
「っ」
 埒路は牛乳を注ぐのをやめた。器にはなみなみと牛乳が注がれているが、幸い溢れてはいない。
「……有り難う」
 埒路は務都弥を見てそう言うと、牛乳を冷蔵庫に運んだ。
 務都弥はダイニングの椅子に座り、弁当箱を開いた。
 静かな空間に、ずずずという埒路が牛乳をすする音が響く。牛乳をかけすぎて、スプーンを使うことも器を持ち上げることも出来ないのだ。
「やっははー!」
 その空間を破るかのように、玄関辺りから明るい声がした。
 埒路は居間の方に一瞬顔を向けると、牛乳をすする作業に戻った。務都弥は反応しない。
 ガチャ
「やっははー!」 
 務都弥の姉の鈴瞳(リンドウ)が明るく居間に現れた。
「おかえり」
「おかえり」
「……むぅ」
 2人が返すと、鈴瞳は不機嫌そうに口を尖らせた。そしてその顔のままスタスタとダイニングに歩み寄る。
「やっははーにはひっほみーだって前に言ったよね?」
「言ってたな」
 務都弥は鈴瞳の方を見ずに言った。
「そうだっけ?」
 埒路は首を傾げた。
「と、に、か、く、やっははーにはひっほみーです。国語辞典だけでは会話は出来ません。いいね?」
 鈴瞳は人差し指を1本立てた。
 務都弥は無視したが、埒路はコクンと頷いた。
「えーでは……」
 鈴瞳は居住まいを正した。
「やっははー!」
「ひっほみー」
「…」
 務都弥は無視して弁当箱を洗い場に持っていこうとしたが、ふと視界の端に鈴瞳が映ると、怪訝な表情をした。
「お前……それなんだ?」
 務都弥は鈴瞳の周囲を回っているものを指差した。
「ナンダーッ!フトッタッテイータイノカー!」
 鈴瞳は自分の腹をかばいながら辛そうに叫んだ。
「お前の胴回りは管理してねぇよ」
「じゃーなんなのさ?」
「お前の周りで、なんか回ってる」
「へ?」
 鈴瞳は自分の周囲を見回した。但し、回っているものと同じ右回りだ。 
「何?何があるの?」
「……逆回りしてみろ」
 務都弥は旅人算よろしく回っている鈴瞳を見かねて口を出した。
「逆?」
 鈴瞳は逆回転を行った。
「って何これ!?」
「知らなかったのか?」
 それは茶色で何かの欠片のような形をしていた。回転速度はゆっくりだ。
「てゆーからっ君、知ってたなら教えてよ!」
「分かった」
 埒路は頷いた。
「……で、何なのこれ?」
 鈴瞳は鬱陶しそうにそれを目で追った。
「もー何これ新手のストーカー?」
「知らん」
「……?」
 埒路は首を傾げると牛乳をすすった。
「酷い!らっ君は私のことより、そんなシリアルを選ぶのねっ!」
 鈴瞳はわざとらしくヒステリックに叫んだ。
「早く食べないとふやけるから」
 埒路は鈴瞳の方を見てそう言うと器にスプーンを入れた。
「……って何それ?緑くなってない?」
 鈴瞳は器を覗いた。器の中の牛乳は、毒々しい緑に染まってきている。
「『スピンクの山葵コーンフレーク』」
「山葵味!?」
 鈴瞳はすっとんきょうな声をあげた。
「おいしいの!?」
「……」
 埒路はスプーンを口に運んだ。
「……まずい」
「え、どんな感じ?」
「……」
 埒路はシリアルを掬って鈴瞳の口に持っていった。
「あーん」
「あーん」
 鈴瞳はシリアルを口に入れた途端、目を見開いた。
「何これうわっ!」
 鈴瞳の叫びに埒路はコクンと頷くとシリアルを口に運んだ。
「うひゃあぁ、これってさ、袋で買ったんだよね?」
 鈴瞳は渋い顔をした。そしてシリアルの袋をつまむ。
「うわどうすんの?」   
「食べる」
 埒路はそう言うとシリアルを口に運んだ。
「ひゃあー」
 鈴瞳が口に手を当てた位の時だった。
 鈴瞳の周囲を回っていた石のようなものが軌道を逸れて大きく回りだした。
「あ、」
 それは鈴瞳、務都弥、埒路の周囲をグルグルと回りだした。
「何これ?虫じゃないの?」
「知らん」
「……」
 それは新しい軌道を加速しながら回っていく。
「なんか速いよ。……ハエじゃないの?」
「……」 
 務都弥は黙った。
「……ハエ?」
 埒路は聞き返した。
「うわぁぁぁぁああぁあ!」
 鈴瞳は顔をブンブン振った。
「酷い!酷いよ2人共!グレるよ!グレるよーっ!」
(好きにしろ)
 務都弥は無視して上の階に行こうとした。この家は2階建てである。
 バチッ
 務都弥の体が石のようなものに当たった。務都弥は少し痛みを感じた。
 その瞬間、石のようなものが光りだした。
「ちょちょちょちょむっ君、何したの!?」
「知らん」
 光はどんどん強くなっていく。その内務都弥は目を開けられなくなり、光が弱まっていき、目を開けられるようになると……


 務都弥は下に重力のようなものを感じた。辺りは真っ暗で何も見えない。
 少なくともここは家ではない。先程まで日中だったし、家の中でこんな落下するようなものはない。務都弥は深呼吸をした。
「え、何?」
 鈴瞳の戸惑った声がする。他の人も同じ目に遭っているのだろうか。
「家は?家は?」
「落ち着け!」
 務都弥は、取り敢えずここにいることを示す為に声を出した。
「むっ君、いるの?」
「いる」
「あ、じゃあ、らっ君は?らっくーん!」
「どうしたの?」
「あ、いた!」
 3人共いるようだ。務都弥はそれを知ると状況の整理を始めた。
 とはいえ、情報が圧倒的に足りない。あの石のようなものが関係していることはほぼ確実だが、それから先が掴めない。
 務都弥が渋い気分でいると、下に光が見え始めた。まるで光の線が下から上に上っているかのようだ。
 そしてどんどん光の線の数が増えていき、次第にそれで辺りが覆われていく。
 強い光が下から起こる。務津海は一瞬目を閉じた。
 光が止んで、務都弥は目を開けた。
 石、水。
 務都弥はトランポリンのようなものに柔らかく押し返され、芝生に倒れ込んだ。
 痛みは殆ど無い。右腕の上に全身で倒れ込んでしまったが、落差があまりなかったからか、大したことではなさそうだ。
 務都弥はゆっくりと立ち上がった。草を踏んだような音がする。
(どこだ……?)
 務都弥は辺りを見回した。
 見覚えの無い光景だ。目の前には3階建ての建物。レンガでできているのだろうか。
「なぁにもぅこれぇ」
 後ろの方から、鈴瞳の声がする。埒路もいるのだろうか。
 務都弥は建物をぐるりと見回した。
 建物は3階建て。務都弥達がいる所を中心に円形に建てられている。建物内の廊下のような道は柵が設けられていてこちらの様子を見ることが出来そうだ。
「キャアァァァァアァアアァ!!」
 務都弥が周囲を見回っている間に、鈴瞳の悲鳴が聞こえた。
「あーもうなんだよ……」
 動かなかったらどうせあっちから呼びに来るだろうと思い、務都弥は渋々声のする方向へ早歩きで向かった。
「!?」
 少し歩くと、務都弥は駆け寄った。
 埒路が倒れていた。顔も青白い。
「むっくーん、むっくーん、」
 鈴瞳の声がしたがどう考えても背後からしている。おそらく務津海と同じ周り方をしたのだろう。
「大丈夫か?」
 務都弥は気にせずに、埒路に問いかけた。
 埒路はふるふると首を横に振った。
「首振る元気があるなら大丈夫だ。それで、どうし……」
「むっくーん!おーい!いないのかバカ務津……!あ」
 鈴瞳も合流した。
 務都弥は鈴瞳の方を振り返り
「……馬鹿はお前だ」
 一言言うと、埒路の方に向き直った。
「……で、どうしたんだ?」
「そうなんだよらっ君が大変なことになってるんだよ!」
 鈴瞳は埒路の元に駆け寄った。 
「…」
 埒路はうっすらと目を開けて、顔をこちらに向けた。
「らっ君大丈夫!?どうしたの!?何でも言ってごらん!」
「ジェットコースター……苦手」
 埒路はそれだけ言うと、首をカクッと倒して目を閉じた。
「らっくぅううぅうぅうん!!」
 鈴瞳は天に向かって絶叫した。
(ここに来る時のアレか……)
 務都弥は合点がいった。
「死ぬなぁぁぁあぁあ!!」
 鈴瞳は埒路の体を激しく揺さぶった。
「あんま揺するな。乗り物酔いもしてるかもしれない」
 務都弥は静かに言った。聞こえてないかもしれない。
「ウォォォォオオォオォオォオ!!」
「いい加減黙れ」
 ドスッ
「ゴホッ!」
 務都弥は天に向かって吠えている為むき出しになった鈴瞳の喉に手刀を食らわせた。  
 務都弥はゴホゴホと咳き込んでいる鈴瞳を無視して観察を続けようとした。
 ザッ
 しかしそれは無理なようだ。一瞬にして、廊下という廊下に人が現れた。
「$%”#!」
 辺りから一斉に銃を突きつけられる。
「ひぇっ!」
 鈴瞳が蛙のような悲鳴を上げた。務都弥も緊張している。
 どうやらここには制服があるようだ。男は黒、女は白の服で統一されている。
 男女比は4:6で女の方が多い。しかし銃を突きつけているのは全て男だ。
 更に、女の方は被っているもので見にくいが、全員の髪の色は青だ。
 務都弥はつばを飲み込んだ。口の中が乾いている。
「マッテクーダサイ!ワタシオウチカエリタイ!アナァタタチノテキジャナァイ!」
 鈴瞳が異世界語で話しだした。
 あちら側も随分と困惑しているようで、なにやらボソボソと話し合っている。務都弥は深呼吸した。
「$#$’&#”$”」
 しかし、1人の女の声がすると、その声が一瞬にして止んだ。務都弥はその声の方を向いた。
 1人の女がゆっくりと務都弥達の方へ歩いてくる。年齢は60代後半位だろうか。皺の数に反して、その歩きぶりは堂々としている。
 女は務都弥達をジロジロと見つめると自分の耳を触り何かを呟いた。
「……通じますか?」
「え?日本語?」
 鈴瞳は驚いたようだ。務都弥も意味が分からない。
「……すみません」
 女は頭を下げた。
「こちらの手違いで、間違って呼んでしまいました」 
 

 
後書き
さるとんどる、おみのづえSPです。
さてさて、また遊戯王2次ですよ!
まぁともかく、早くデュエルシーン書けるように頑張ります…。 
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