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ティーンネイジ=ドリーマー

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第三章


第三章

「何があっても」
「そうか。じゃあその時にな」
「ええ。その時にね」
 いつもこんな話をしていた。あいつは高校を出るとすぐに本当に旅立った。とにかく必死でアルバイトをして集めた金とギターを持って空港にいた。俺はそれへの見送りだった。
「で、今から遂にかよ」
「最初はアメリカ」
 ジーンズにギター、本当にラフな格好だった。
「ロスからニューヨークまで横断よ」
「歩いてかよ」
「多分基本はそうね」
 ここでも素っ気無い言葉だった。
「そうなると思うわ」
「よくやるぜ。東京には寄らねえのかよ」
「東京にも行くわ」 
 一応そっちにも行くらしい。
「一応ね」
「一応かよ」
「行くことは行くわ。お金まだ必要かも知れないしそこでちょっとストリートミュージシャンみたいにやってね」
「そこでいきなりリタイアするなよ」
「だから。それは絶対にないわ」
 この時も断言だった。
「絶対にね」
「そうかよ。何があっても世界一周かよ」
「そうよ。それからアメリカ」
 とにかく外国はまずはアメリカみたいだった。
「東京に寄ってから行くから。いいわね」
「それで最後はここだよな」
「リムジンに乗って凱旋よ」
「馬鹿、幾ら何でもそんなことできるかよ」
 世界一周の野宿での一人旅だ。そんなことできる筈がなかった。
「生きて帰ることだけ考えろよ」
「何よ。有名になるかもって考えないの?」
「そんなつもりで行くんじゃないだろ?」
 俺は少し真剣になって聞いてやった。
「自分の歌を聴いてもらう為なんだろ?世界の皆に」
「そうよ」
 この目的もこいつは忘れていなかった。
「それも絶対に忘れてないから」
「じゃあ。とにかく聴いてもらうこと考えるんだな」
 俺は今はこう言ってやるだけだった。
「それにリムジンならよ」
「ええ」
「俺が用意しておくさ」
 こいつに笑って言ってやった。
「リムジンならな。俺が大社長になってな」
「言うわね」
 この言葉は冗談みたいに思われた。
「リムジン買うだなんて」
「何ならロールスロイスでもいいんだぜ」
 俺はこの時も本気だった。
「絶対にな。用意しておいてやるからな」
「期待しないで待っておくわ」
「その時をか」
「何年かかるかわからないけれど」
 もうそろそろ時間だった。放送が聞こえてきた。
「戻って来るわね。世界の人達に聴いてもらってから」
「その時に俺はリムジンに運転手付きでな」
「運転手さんも?リムジンだけでもわからないのね」
「わかるさ。とにかく頑張れよ」
「ええ、それじゃあね」
「ああ。頑張って来いよ」
 こうして彼女は今旅立った。俺は乗っているジャンボをまたあの草原から見送った。バイクの座席に腰掛けてそのうえで煙草を吸いながら見ていた。ジャンボが飛び立つのを。
 今ジャンボは飛び立った。俺はそれを見送る。これであいつは夢に向かって飛び立った。後は俺の番だった。
「さて、と」
 煙草を捨てて足で踏んでそれを消した。
「俺もはじめるか」
 俺はバイクに跨ってそうしてそこから家に戻った。後はただひたすらがむしゃらに働くだけだった。
 
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