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正義と悪徳の狭間で

作者:紅冬華
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導入編
覚醒
  導入編 第二話 rain

暗い闇の中に私はいた…誰かが泣いている声が聞こえる

泣き声がする方に歩いてゆく

するとそこにはうずくまって泣いている少女がいた。

「どうしたんだ?どうして泣いているんだ?」

私はそいつにそう声をかけた。

そいつが泣きながら顔をこちらに向けた。

そいつは…『私』だった







目を覚ます。

そこは血の海だった。

…どうやら微妙な傾斜のせいで5つの死体から流れ出た血が部屋の中央(ベッド)に集まってきたらしい。
まあいい、この匂いは嫌いじゃないし、ガンは無事だ。

くるまっていたシーツの比較的無事な所で体から滴る血を拭いて寝室を出る。
窓の外の様子からすると夕方のようだ…一日中寝ていたことになるな。

再びシャワーを浴び、体を拭く。
今度は裸のままともいくまい。だが服は元々着ていたらしい服は靴以外使い物にならないので代用する事にし、
包帯を靴下とショーツのかわりにし、アロハシャツを被って腰をヒモで縛ってワンピースとした。

部屋を改めて探索する。目的は武器と金、そして食糧だ。




結局見つけた武器は朝の戦いで使った拳銃が二挺だけだ。

手榴弾はすべて使いきったし、三人目以降の銃は分解中だったり、手榴弾で歪んでしまった様に見えたり、破片が刺さってたりで、使うのが怖い。まあ見た限り、同型なので知識があれば使い道はあるのだろうが。
弾薬はそれらしき新品の箱が二つに使いかけのが一箱、弾倉は装填済みが合計10個、空が5つあった。
…警察や大使館に頼れるなら十分すぎるか。

金は米ドルと…バーツ、たしかタイの通貨か。
とりあえず、みつけた鞄に拳銃一挺と装填済み弾倉を8つ、そしてそれを持って走れると判断しただけの札束を詰めた。
また、バーツを何枚かアロハのポケットに突っ込み、また百ドル札と千バーツ札を数枚ずつ体に巻いている包帯の下に入れた。
その時、必要なかったのだが、隠す場所を増やす為だけに胸にも包帯を巻いておく事にした。
さらにもう一挺の銃を見つけたホルスターにいれて、弾倉二つと足にくくりつけてみた。
…これで万全だという事にしよう。

「さて…何か食べるか」
見つけた食料は豆の缶詰が少しにナッツやサラミなんかのツマミ、ミネラルウォーター、そして大量の酒だ。
…断片的な記憶の中で連中が私を犯しながら酒盛りしてた時も酒とツマミ以外は口にしていなかった。
宅配ピザの箱らしき物があったので宅配ピザや外食で済ませているのだろう。

豆の缶詰を開けて食べてみる…味が薄い。
サラミをナイフで削ぎながらおかずにするとなかなか悪くない。
少し多いかもと思ったが楽に缶詰を平らげ、一息つく。

激しい雨音が始まる、スコールという奴だろう。

さて、それは置いておいて現状分析を始めよう。

まず、この部屋について

椅子やベッド、ロッカー等から推測するに、ここで生活していたのは五人、殺害した人数と一致する。
また、最初の部屋は外からだけカギがかかる様に改造されていた。監禁部屋と考えて良さそうだ。
加えて、丸一日たっても何者かがここを訪れたような形跡はない、あれだけ銃声を鳴らしたのに警察が来ていない。

台所は無いが、電気は通っていて上下水道も整備されており、トイレは洋式だった。
窓からは海と港、そして倉庫が見える。

部屋に充満する血と臓物のかおり、臓物の臭いには多少の不快感を覚えるが食欲が失せる程でもない。



殺人に罪悪感をいだいていない事に自分の知識とから違和感を感じる…なら次に私は誰か。

髪は栗色だが人種はモンゴロイド、年齢は…おそらく9から10才程度、第二次性徴はおそらくまだ始まっていない。
つまり誘拐犯たちはペドでドSな変態強姦魔だったわけだ…ああ、性別は女だ、念のため。

習得言語は英語と日本語、共に問題なく意思疏通が可能(むしろスラングも理解できそうだ)
他はドイツ語やフランス語に断片的知識がある(片言以前のレベルだが)

そして名前を含めたエピソード記憶が殆ど思い出せない。だが記憶喪失と言っていうかは疑問が残る。
無理に思い出そうとすると先ほど夢で見た「私ではない私」が泣いているイメージしか浮かばない。

わずかに思い出せる(両親が殺される少し前からの)記憶の断片と知識の片寄りから日本在住である可能性が極めて高い。
平和らしい国の子供には一連の体験は(私のやった事を含めて)耐え難かっただろう。
…つまりは過度のストレスによる人格の分離により私が産まれたのだろうか。

そう考えると殺人をいとわない性格も納得だ、最初からそういう事をする為に生まれたのだから。

さて、名前を決めよう…思い出せない名前の代わりに今の私に相応しい名前を決めよう。



ふと雨が止んでいる事に気付く。

…そうだ、どこか懐かしい響きの雨を名乗ろう。

それは私が捨て去った涙の代わり

それは私が降らせるであろう血を表す

それは喪った名前の代わり

それはいつか私が消え去る事を忘れぬように、止まない雨は無いのだから

私はレイン、そうrain(雨)だ。













『レイン?』
朝食にホットドッグを食べた後、街を探索していると向かいから知った顔が英語で声をかけてきた。
『マナ、どうしたんだこんな街で』

パチンと指をならして念のため、簡易ながら会話内容に認識阻害をかける、こいつは私と同類だからな。
彼女はマナ・アルカナ、背の高い褐色肌の私と同い年くらいの少女で、
彼女の組織の仕事でロアナプラの私の組織の窓口を訪れたのが縁で友人となった。
彼女とは何度もロアナプラやその周辺で会っていて…最初に出会ってからもう一年半くらいの付き合いになるか。

『やっぱりお前か、レイン。何、私の本拠地はこの街のでな…そして多分お前と同学年になる』
マナが私の制服を確認してそう言った。
『お前もJr.ハイスクールスチューデントやる事になったのかよ、『ガンスリンガーガール』が似合わねぇ』
『そう言うお前もだ『ブラッディガール』、どういう風のふきまわしだ』
『ああ、これを機に少し表の常識と教養を学んでこいとボス達に言われてな、最低三年はこっちの予定だよ』
肩を竦めてデフォルメされた狼と傘の意匠のペンダントを見せる

『確かにお前はロアナプラ以外の世界をもっと知るべきだ、お前のボスたちが正しい。
そのペンダントは…そうか武蔵麻帆良のじいさんが言っていた麻帆良にできる新しい窓口はレイン、お前か』
『ああ、正式な開設許可は今日の午後にMr.近衛への挨拶を終えてからだけどな』
『そうかならば、こちらでの仕事の関係で世話になる事もあるだろう、もしよければお前もするか?
仕事の大半は化け物退治かペーパーゴーレム狩りで、勝手は違うだろうがな』
『そうだな…まあ、経験としては何度かやってもいいかもな』

まあ、確かにこの国ではマンハントより化け物退治の方が、つまりヤクザ者としてより魔法使いとしての仕事の方が多いだろう。

『そうだ、時間が有るならまた生きて会えた事とお前の昇格を祝して昼食にしないか?
旨い釜飯と餡蜜が喰える店を知っているんだ、ごちそうするよ。
ロアナプラで奢ってもらったのカオマンガイとカオニャオマムアンの礼をしないとな』
マナはそういって笑った。
『それは良いな、アポは14時からなんだが間に合うか?』
『問題ない、今から向かえば…食事だけなら12時半には終わる、30分あれば学園長室に着けるな』
『それなら、案内してくれ、楽しみだよ』
そういって私はマナに連れられて少し早目の昼食に向かった。 
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