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ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──

作者:なべさん
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ALO
~妖精郷と魔法の歌劇~
  Secret of kings 王達の矜持

守護騎士達の身体で唯一開いた世界の穴が塞がれた後、背後から、総員撤退!という鋭い声が響き渡り、耳朶を打った。

入り乱れる怒号の中でもはっきりと分かる、この凛とした声はシルフ領主《戦律》サクヤだ。

キリトの黒衣の姿が、白騎士達が必死に守護する防衛線を越すのを確認したため、これ以上は全体にとってデメリットしかないと判断したのだろう。

その判断には、レンも賛成だ。

シルフやケットシーなどのプレイヤー側は死んでも、自身の所属する種族の領域(テリトリー)内で復活するだけだ。だが、使い魔は訳が違う。死んだ場合はそれ専用の魔法を行使しなければ、主従関係が崩壊してただのモンスターに戻ってしまうことになる。

モノが飛竜だの巨狼だのといった、レア中のレアモンスターであるがために、ケットシーとしては一体の損失も結構大きいのだ。本当に、これ以上はデメリットしかない。

───ああ、終わった……な。

翅の震えを止め、このドーム内だけで発生しているらしい緩やかな重力に引かれ、穏やかに落下していくレンの意識は、もうほとんどと言っていいくらいに消失していた。

度重なる高レベルの心意戦闘、途轍もない規模まで潜った深々度潜心。

それらが要求した内容は、現存するレンのキャパシティのほとんどをごっそり持っていくのに充分だった。いや、充分過ぎた。

仮想体(アバター)との接続(リンク)は、途中でほとんど断絶しているか、繋がっているとしてもそれは微々たる物だった。

視界は上手く焦点(ピント)が合わなくなり、鼓膜は何のいらえも脳に伝えず、皮膚は何かを感じることすら拒否していた。

そう。小日向蓮の現実の身体が、厳しすぎる現実が、とうとう仮想のこの身にまで侵食してきていた。ミシ、ミシ、という音が頭蓋の裏側を這い回っている。

遥か彼方で何かを叫ぶカグラが微かに見えるが、掠れすぎていて読唇術も行使することができない。

疲れきっている脳が辛うじて感じるドーム内の気配が、ぐんぐん減っているのを感じる。サクヤの指示に従って、撤退が速やかに行われているようだ。

レンはそれを認識し、とりあえず胸を撫で下ろした。

覚えている限りの、最初の参加人数と照らし合わせても、死亡者は確認できない。竜騎士(ドラグーン)隊と狼騎士(フェンリル)隊の合同訓練は、その機密保持性のせいでそこまでできなかったのだが、ぶっつけ本番で何とかものになったらしい。

だが、それだけに────

レンの役目はもう、残っていないのだ。

目的も

手段も

知識も

全てキリトに託した。

神装さえも顕現させた今の彼の実力ならば、例え運営側の誰かと相対して戦闘になった場合でも、充分に渡り合えるだろう。

だから、それだから。

レンの役割は、もう、終わった。

完全に、終わってしまった。

ぼやけていても、焦点が合っていなくとも分かる。

自らの矜持(プライド)を、門を守護するという信念を強引に捻じ曲げられた騎士達の憎しみの矛先は、今や自分ただ一人に向けられていた。

怨恨、怨嗟、慟哭、悲嘆、絶望。全ての負の意思が詰められた視線が、集中する。

次いで、天高く上げられる憎悪の咆哮。

斬撃(スラッシュ)刺突(スラスト)単焦点追尾(シングルホーミング)型、多焦点追尾(マルチホーミング)型、広範囲曲弾道(エリアバリスティック)型魔法。

ALO、アルヴヘイムに存在するありとあらゆる種類の攻撃が襲い掛かってくるのを、レンはありありと人外の感覚器官で捉えていた。だが、それでも、レンは動かなかった。

動けないではなく、動かない。

他意なくして、故意。

ここで死ぬのも運命だと、悟ったように。諦めたように。

《冥界の覇王》と呼ばれた少年は

形見のマフラーと、その仇の遺品であるコートを着た少年は

小日向蓮と呼ばれる少年は

ゆっくりと、その目を瞑った─────




ゴゴぉオごがアアァァアああアァぁぁァァッッ────ッッッ!!!!!!!



鼓膜が一瞬にして爆発するような、世界が一瞬にして崩壊せしめんとするかのような爆音が響き渡った。

それは神の吹き鳴らすラッパのように、レンの意識を一気に根底から引きずり出した。

白銀の光が、下層から一気に立ち上がり、全てを白熱の名の下に破壊し尽くし、壊し尽くした。今まさに襲い掛からんとしていた騎士達の身体が光の本流の中に成すすべもなく飲み込まれ、微細な光の粒子となって消えていく。

その光の粒子さえも、他の騎士たちの身体に付着した途端に爆発し、次々と破壊の権化とも言うべき地獄が広がっていく。

その一撃は世界の本質すらにも大いに干渉し、上下を反転させ、ルールすらもぶち壊される。

ドームの壁面を包む世界樹の根っこが、内側から弾け飛ぶ。

それが皆、重力に真っ向から反したように持ち上げられ、一つ一つが銃弾のように騎士達に突き刺さり、そして見事に貫通した。

目の前で展開される破壊の光景を網膜に焼きつかせながら、レンはああ、と呟いた。

同時に目の前に舞い降りるは、彼方にいる巫女装束を着た闇妖精(インプ)ではなかった。

白銀のフルプレートアーマーでその身に包む、銀髪金瞳の偉丈夫。

筋肉の塊のようなそのゴツい手に握られているのは、ちょっとした食卓ほどもありそうな両刃の戦斧。

その背から生えているのは、現存する妖精九種族中のどれにも当てはまらない、白き翅。

その男に向かってレンはもう一度、ため息ともつかない呼気を、吐息を吐き出した。

「諦めるとは、らしくないな。卿よ」

そんなレンに向かって、その男は言う。

「ヴォルティス……卿………」

かつて《白銀の戦神》と呼ばれた男は、不敵に、獰猛に、笑った。










「ふむ、大事無いようだな、卿。聞いていたよりも元気そうで、我は嬉しいぞ」

そう言い、《白銀の戦神》ヴォルティスは、かっかっか!と豪快に笑って自らの得物を構え直した。懐かしいその姿に、思わず涙腺が決壊しそうになる。

「なっ、なんで!ヴォルティス卿がここにっ?」

頭の中では、分かり過ぎるほどに分かっている。

今となっては、遥か昔だと思えるほどに昔。ルグルー回廊の中でテオドラが言っていた言葉。

そう、そうだ。彼女は言っていたではないか。はっきりと。これ以上ないくらいに、はっきりと。

ヴォルティス卿が向かっている、と。

ヴォルティスという男の実力は、SAO時代から桁が一つか二つ違っていた。

戦神、という二つ名から察する通り、彼が編み出した独自のシステム外スキル《剛法(ごうほう)》は一層のフロアボスクラスならば余裕で一撃で葬れるであろう実力を誇っていた。

加えて、システム上で規定されたユニークスキル《戦神斧》は一撃必殺をその信条とした物だったので、まさしく戦神にはうってつけであったものだと思われる。

その圧倒的な、文字通り神の如き実力を持って、彼は六王第一席たりえたのだ。幾人もの死亡者を経て、幾回も世代交代をしてきた六王の中で、生き残ってこられたのだ。

そして、その実力をもってして、レンを現実へと引きずり戻さんがために。

「僕を……連れ戻しにきたの………?」

口から突いて出たような、陳腐な問い。

だがその問いに、白銀の男は金色の瞳をただ向けた。その瞳には、何とも形容しがたい光が浮かんでいた。迷うような、そんな光が。

「うむ、我もそうしに来たのだがなぁ」

「……………?なに?」

二メートルは軽く超える偉丈夫は、応えの代わりに己の背後を首を巡らせ見た。それに従って、レンもつられたように背後を見る。

今や完全に撤退が完了し、誰もいなくなったはずの、外界からこの異界のドームに入るためのただ一つの門。

そこに、()()

一人は、目を引くチョコレート色の肌に艶やかな闇色の長髪を頭頂部でまとめている女性。

日本人離れしている顔立ちから放たれている目線は、可愛らしいという評価よりもどちらかと言うと凛々しい、という表現が正しいように感じられる。

その名はテオドラ。六王第五席《柔拳王》テオドラ。

体術のスペシャリストにして、システム外スキル《柔法》を身に着けている。

そして、もう一人は────

焦点が合ってくるのと同時に、レンは思わず息が詰まるのを感じた。

肌は、闇妖精(インプ)の特徴である、影部分が紫がかった乳白色。長く伸びたストレートの髪は、濡れ羽色とでも言うべき艶やかなパープルブラックだ。

胸部分を覆う黒曜石のアーマーは柔らかな丸みを帯び、その下のチュニックと、ヴォルティスが生み出した爆風にはためくロングスカートは矢車草のような青紫。腰には、黒く細い鞘。

ユウキ。《絶剣》ユウキ。

六王の末席にして、キング オブ ノーマルと呼ばれる、六王の中で唯一ユニークスキルを持っていない者。

ノーマルなくせに、ノーマルなのに、アブノーマルな強さを持った者。

整ったその顔にはいつもの、それこそ涙が出るほどに懐かしき無邪気な笑みが浮かんでいた。どこか、悪戯がバレたような、そんな笑み。

ごめんね、と。

その笑顔は言っていた。

約束を破ってごめんね、と。

そんなことはない。そんなことはないのだ。

謝るのはむしろ、どちらかと言ったら僕のほうだ。

なぜなら僕は、たった今まで自らの命を諦めていたのだ。生きて帰って来てという約束を、破ろうとしていたのだ。破ろうと、していたのだ。

だから、そんな顔をしないでくれ。

約束を破ったのは、僕の方なのだから。

鏡で見たなら、ほとほと情けない顔をしているだろうレンに向かって、ユウキは静かに

「来ちゃった」

言った。 
 

 
後書き
なべさん「はい、始まりました!そーどあーとがき☆おんらいん!!」
レン「まーさーかーのー、六王が結構集結しちゃったねー」
なべさん「ホントホント、あといないのはシゲさんとヒースクリフだね。まぁ、後者は絶対無理だけど(笑)」
レン「出てきた瞬間にブッ殺されるよ……」
なべさん「さぁて、いよいよ急展開を見せるALO編。やっと登場したヴォルティス卿の種族は何かな!?答えはCMの後で!」
レン「いやCMはねぇから」
なべさん「ないの!?」
レン「なんで意外そうな顔すんだよ。今まで何回これやってきたんだお前は」
なべさん「いやぁ、それほどでもぉ」
レン「ちょっと待て、今の言葉のどこに照れる要素があった」
なべさん「はい、自作キャラ、感想を送ってきてくださいねー!」 
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