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ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──

作者:なべさん
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ALO
~妖精郷と魔法の歌劇~
  King's Pride 王者の威厳

何も言えずにいるレンの脇を、しかしさも当然のようにしてユウキとテオドラは通り抜けた。

さも当然のように、迷いなくして、通り抜ける。

「ありがとうございました、ヴォルティス卿」

「やぁっと合流できたぜ。……だけど卿、卿のそれって何の種族のなんだ?説明書には載ってなかったよな」

「うむ、我も戸惑っている。どうやらアルフというらしいのだが………」

「って待てぃっっ!!」

さすがに我慢の限界で制したレンの声に、三者はあぁん?というような目線を向けてきた。

「ヴォルティス卿はなんとなく分かるけど、何でユウキねーちゃんとテオドラおば――――」

「あぁん?」

「………ねーちゃんがここにいるの?」

当然と言えば当然のレンの言葉に、しかし《柔拳王》と《絶剣》は揃って、何を言っているのだコイツは、みたいな顔を向けてきて、次いではぁ~っと重すぎるため息をついた。

「レン、お前ちょっと緩くなったな」

「は?」

「レン、思い出してみてよ。レンが所属してた《六王》は、半日で()()()五十キロを走破することが不可能な集団だと、本当に思っているの?」

「…………………………………」

そうか。そうだったのか。

テオドラと戦った時、レンは言った。昔のテオドラねーちゃんなら、と。

しかし、ああなんということだ。朱に染まれば赤くなる、と言う諺があるが、今回のレンはまさしくそれなのだろう。

緩みきり、停滞したこの世界というぬるま湯にどっぷりと肩どころか頭の先っぽまで浸かっていたレンは、SAO時代で認識していた当たり前の常識すらも少しずつ歪み、改変されてしまっていたのだ。

そうだ。なぜ、そんな()()()()の事を思い至らなかったのだろう。

黙りこくっているレンだが、その間に騎士達の無限大の湧出が止まっているわけではない。怪鳥じみた叫びを上げながら、数百に膨れ上がった騎士ガーディアンが肉の壁を創作しながら迫る。それを――――

「「「うるさい」」」

ヴォルティス、テオドラ、ユウキ。かつて鋼鉄の魔城で最強を誇った六人のうちの三人が、その腕を、その実力を、正真正銘の本気で振るう。

先程のケットシー、シルフ連合軍が放った遠距離大規模攻撃が安い爆竹に思えるほどの轟音が響き渡った。連合軍が五分も掛かって開けた穴を、たった一撃でぶち開ける。不可能を、世界のルールを、根底から力技でひっくり返す。それが、この三人が六王の一員たりえた理由なのだから。

度重なる人外の戦いの余波か、ついに外壁である世界中の幹がピシリ、という悲鳴にも似た効果音を響かせた。バラバラ、と木や石の欠片が頭上から雨あられと降り注いでくる。

「卿よ。もしそうであれば、我は落胆の色を隠せないな。我ら六王は、そんなことができないほどにヤワな存在ではない。そしてもちろん、卿もだ。レンよ」

そうだろう?とばかりに顔を向けてくるヴォルティスに、しかしレンは何の応えも返さなかった。

なぜ、こんな当たり前の事を忘れていたんだろう。

「レン、マイちゃんを――――」

スッ、と手が差し伸べられる。

それを見、レンは強烈な既知感が湧き上がるのを感じずにはいられなかった。

幼稚園児くらいの時、木綿季(ゆうき)と亡くなった紺野藍子(あいこ)とともに、蓮はよく、というかしょっちゅう遊んでいた。しかし一緒と言うが、藍子は深窓のお嬢様といった物静かな雰囲気で、実際性格もかなり大人しいほうだったので、はしゃいで転げまわる蓮と木綿季を見守る保護者みたいな立ち位置だったが。

そんな時、蓮が転んだ時に差し出された手に、似ている。いや、そのものなのだ。

仮想と現実の違いなんて関係ない。

蓮が転んだ時、迷子になった時、泣いていじけていた時。

いつも、差し出される手があった。

いつも、差し伸べられる手があった。

「助けよ」

そう、言った。

懐かしい記憶の中に埋没しかけている木綿季の笑顔とまったく同じ顔で、ユウキという名の闇妖精(インプ)の少女は言った。

その手に向かって差し伸べる答え?

決まっているじゃないか。そんなこと、脳内で思考する手間すらもない。文字通り、小日向蓮という人間にしてみれば、呼吸をするぐらいに当たり前の事なのだ。当たり前すぎて、逆に気が付かないほどの。

だから蓮は、レンはその手にゆっくりと自らの手のひらを重ねた。その時に、目尻にから一粒の煌きが零れ落ちたのだけれど、ユウキは見ない事にしていてくれたらしい。何も言わなかった。

「うん」

こくり、と頷く。

静かに、頷く。

力強く、頷く。

前方には、再び大軍を形成しつつある白き騎士の群。

炎獄(テスタロッサ)》カグラが、音もなく横に並ぶのが分かる。見なくても、分かる。

そんな中で、レンはゆっくりと立ち上がる。いや、別に地面に横たわっていた訳ではないので、それは語弊があるかもしれない。翅を使って横向けにホバリングしていた身体を、ただ単に縦向きにしただけだ。

だが、心は違う。下を向いていた心は、百八十度回転して完璧に上を向いていた。

そうして、四人と一人は並ぶ。

白き守護騎士の大群に、真っ向から歯向かうように。刃向かうように。

傍から見れば、大群を通り越してゾウになっているモノに対してのアリだったのだけれど。身に余るほどの大きな敵に立ち向かう、蛮勇達のようだったけれど。

それでも、見る者が見れば、それは百八十度まったく違う戦況だった。その蛮勇達から発せられる、凄絶という他ないプレッシャー、桁外れという言葉でも言い表せない、文字通り馬鹿げた圧力を、その四人から発せられていたのだ。その大きさは、軽く騎士たちの群の包み込み、アルヴヘイムという一世界すらも凌駕しうるほどのモノだった。

カグラだけのプレッシャーなど、まるで小さな子供が強がっているようなものだ。気を緩めた途端に、反対に呑み込まれ、魅せ込まれてしまいそうだ。

世界樹の大きさなど、今思えば遥かに小さい物だったのだろう。それくらいの、大きさ。

「六王第六席《絶剣》ユウキ」

「六王第五席《柔拳王》テオドラ」

「六王第三席《冥王》レンホウ」

「六王第一席《戦神》ヴォルティス。いざ尋常に――――」

ギラッ!と真っ直ぐに大群に向けた、ヴォルティス卿の馬鹿でかい斧の刃が剣呑で、冷徹で、獰猛な光を放つ。

「推して参るッッ!!!」

世界が、爆発した。










それはもはや、戦闘という言葉では言い表すことはできなかった。

言えるべきことはそう、《戦争》だろうか。

一個人、一個体、一存在だけで、軍ひとつと同等の働きをしている。

身動き一つだけで、数十、数百の騎士達の身体が引き千切られ、木っ端微塵となって消し飛ばされ、掻き消されていく。ちょうど、鉛筆で思いっきり書いた黒い塊を消しゴムで消していくように。

反抗の意など、意に介さない。いや、そもそもそんな意思など存在することを許されていない。許されていなくて、赦されていない。

そこにあるのは、《蹂躙》の二文字。

まるで、それこそ皮肉なことにアリを踏み潰すような、単純作業。システムのほうが音を上げさせるような、そんな作業。

六王たるその存在達にとって、戦っているという認識すらもしていないかもしれない。いや、認識はしているか。しかし、戦っている対象は、奇声を上げながら襲い掛かってくる守護ガーディアンではない。もはや、それを生み出しているシステムその物といっても良いのかもしれない。

ルグルー回廊でテオドラが戦ったとき、彼女は二ヶ月と言うブランクが確実に堆積してしまっていて、SAO時代の彼女の実力とは雲泥の差であったが、そのブランクはどうやら埋めてきていたようだ。その手刀一振りで、十メートルは離れている数十の騎士達が一まとめに真っ二つになる。

ユウキは、さすがにそこまでブランクを埋め合わせている時間はなかったと見え、なんと敵陣のド真ん中に身一つで突っ込み、剣一本で渡り合っている。その様はもはや、歴戦の戦士のようだった。一ミリ、一センチでも、自分に近い敵から的確に首を刎ね飛ばし、確実に命を屠っていく。しかし、ユウキの凄いところは、それを頭で考えて計算してやっているのではない。己の本能、天性の才能でやっているのだ。

ヴォルティス卿は、言うまでもない。ただただ、巨大すぎる戦斧を力任せに振るうだけだ。それだけの動作で、大気が引き裂かれ、守護ガーディアンたちの身体がボロ布のように吹き飛ばされ、消し飛ばされる。世界のルールを、単純な力技だけで強引に捻じ曲げる。重力の法則など、頭ごなしに否定する。そんな、そこまでの力。

大気が震え、空間が歪み、世界にヒビが入る。

「卿よ、あの門は卿の鋼糸(ワイヤー)の力をもってしても破れなかったのだな」

「え?う、うん」

《作業》の最中、偶然と言うように背中合わせになったヴォルティス卿からの問いというか確認に、レンはどもりながらも頷いた。ALOに初めて入った時、レンが急ぎ向かったのは当然のごとくこの場所だった。しかし、辿り着いて味わったのは、絶望と憎悪。

こぶしを叩きつけた巨門が開かなかったことに対しての怒り、苛立ち紛れに叩きつけた心意攻撃が赤子のように跳ね返されたことへの屈辱。

ある意味では、あの巨門はこの大勢の守護騎士達よりもなお、樹上の城へと続く道を護る仕事を果たしているのかもしれない。

「ふむ、ならば卿よ。我があの巨門までの道を一気に開けよう。卿はそこで、あの忌々しき門を正面から壊せ」

一瞬、目の前の筋肉ダルマが言っている事が分からなかった。

「はぁっ!?今言ったでしょ!あれは僕の力じゃ無理だって言ったのっ!」

「その思い込みこそ天敵なのだ。卿は、大切な者を助けたいのだろう?救いたいのだろう?ならば、それを阻むものなど、全てぶち壊すがいい」

唖然として固まるレンを放っておいて、ヴォルティスは戦う――――《作業》をするテオドラとユウキに向かって叫ぶ。

「ユウキ、テオドラ!卿らは、発生装置を壊し尽くせ!さすれば少しは、この鬱陶しい《虫》どもも静まるだろう!!」

「了解!」

「オッケー!!」

二つの、文字通り二つ返事を聞き、満足そうな顔でヴォルティスはそこで腕を振るった。近づこうとしていた騎士達が三桁単位で塵と化し、空しく命の残り火(エンドフレイム)を散らして消えていく。

遠くでは、左右に仁王像のように陣取った闇妖精(インプ)土妖精(ノーム)が高らかに技名をコールした。

「《聖母十字(マザーズ・ロザリオ)》オオオォォォォッッッッッッ!!!!!!」

「《巨神の咆哮(エル・ドレッド)》オオオォォォォッッッッッ!!!!!!」

世界の理を破壊する二つの閃光が轟き渡り、外壁が爆音とともに引き千切られ、塵と化していく。命の残り火が、まるで津波のように出現する。

おびただしいほどの光子をその背に受けながら、白銀の騎士はゆっくりと振り返った。その顔は逆光で全く見えないが、レンは分かった。その百獣の王の如き視線が、真っ直ぐ己の眼を射抜いていることを。

「さて、卿よ。心の準備と言う陳腐な物はできたか?」

躊躇は、一瞬だった。

「……うん」

意識を集中し、心の奥底にくすぶる欲望を強引に引きずり出す。

そうだ。そうだよ。決まっているじゃないか。僕は決めた、決めたんだ。あの少女を救うためならば、《鬼》にでも、《化物》にでもなってやる。それであの子が救えるならば、《人間》であることだって躊躇なく捨ててやろう。

両手を、神に願うように身体の前で合わせた。願う?いや少し違うな。言うなれば――――

宣戦布告、だろうか。

「顕現せよ、《穿孔(グングニル)》」

その手を、ゆっくりと開いていく。その中には、もう手品のように一本の黒い槍が発現していた。実体を持たない、エネルギー体。

それを見、ヴォルティスは再度上機嫌そうに鼻を鳴らした。そして、自らの得物をゆっくりと肩に担ぐ。

この《作業》、いやもしかすると彼がこの世界に入ってから初めて取る、戦闘体勢。あの世界では、フロアボス戦くらいでしかお目に掛かれなかった物を、ここで彼は取る。



誓約《虚なる永劫の輪(アルフ・ワ・ライラ)



白銀の閃光が宙空を焼き、直径数十メートルは下らない光の柱が屹立する。

それは騎士達を次々と蒸発、融解させていき、巨門にぶち当たる。ミシミシ、という音が断続的に響き渡るが、それでも門は耐えた。

「ほう、あれを耐えるか。確かに卿の言う通り、中々の強度を誇っているな」

それはどちらかというと、ヴォルティス卿自身の攻撃属性に由来するだろう。この偉丈夫の心意属性は《破壊》、そして《破砕》。それはどちらかと言うと、面での攻撃、面での圧力で対象を破壊するという意味合いに近い。

それに対しての、レンの神装である《穿孔(グングニル)》は点での攻撃を得意とする。それがヴォルティスとレンとの違い。

「ともあれ、道はこじ開けた。ここから先は、卿の仕事だッ!!」

キイイイイィィィィィィィ――――――ンンンンン!!!!

ジェットエンジンにも似た高周波音が響き渡る。レンが肩に担ぐようにして構える槍の切っ先を中心にして、球状のエネルギーが現れる。その色は、槍本体の色よりまだ濃い。艶消しの漆黒。黒であり漆黒。漆黒であり闇。

虚構(ホロウ)消滅(ハーゼ)》エエエェェェェッッッ!!!!」

轟音とともにレン自身の体が掻き消え、次の刹那には巨門の扉に突き立っていた。世界が断絶するような衝撃が走り、空間がいとも簡単に崩壊せしめる。

ヴォルティスの一撃ですでに入っていた亀裂に、無理矢理にも切っ先を捻じ込む。

「う……おぉおおおおおあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁっぁぁっっっっっっ!!!!!」

身体の中身が全て出るような咆哮を上げる。それだけで、ビリビリと空間が、因果が震えだす。

ビキ、ビキ、と亀裂が広がるが、それだけだ。広がっている傍から、塞がっているような、再生しているような、そんな感じ。

ジワリ、と嫌な汗が伝う。

また、同じ結果になるのではないか。

脳裏にポツリと浮かんだ思考が、暗雲のように広がりだし、歯止めが利かなくなる。

「いけません!レン!!」

「ッッ!!!?」

突如、脇から業火のような、聖火のような火柱が立ち昇った。そちらを見る間もなく、亀裂に差し込まれる、もう一つの《神装》。

それは目を見張るほどの赤くて紅い、炎の化身のような一本の薙刀だった。

「《劫火(レーヴァテイン)》」

「か、カグラ…………」

神装を顕現させた巫女は、美しく、凛として笑い、いっそう力強く刃先を差し込んだ。

「さぁ迎えに行きましょう、レン。きっと、待ちくたびれていますよ」

「………うん」

二つの神装に突き込まれている亀裂は、今や穴と言ってもいいくらいの大きさになっていた。レンの《穿孔(グングニル)》が全てを喰らい尽くさんとし、カグラの《劫火(レーヴァテイン)》が全てを燃やし尽くさんとする。

全てが燃やされ、融け、呑み込まれ、咀嚼される。

「「おああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁっっっっっっっっっっっ!!!!!!!!!」」

パキン、という軽すぎる音とともに、レンとカグラの意識は、そこで途絶えることとなった。 
 

 
後書き
なべさん「はい、始まりました!そーどあーとがき☆おんらいん!!」
レン「やっと主人公してきたね、僕」
なべさん「いえす!原作主人公に続いての形ですな」
レン「カグラもついてきたっていうこと?これ」
なべさん「そうそう。その認識であってるよ♪姐さんもしっかりついてきてますぜ」
レン「これは…………カオスになりそうだ(汗)」
なべさん「心配ない。もうなってるから」
レン「………………………………はい、自作キャラ、感想を送ってきてください」
──To be continued── 
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