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Element Magic Trinity

作者:緋色の空
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十字架


ナツの紅蓮火竜拳、ティアの大海海竜拳によって、ファントムギルドは崩壊する。
ガジルとシュランは敗れ、徐々にギルドの足場が悪くなっていく。

「ひっ!」

ルーシィとサジタリウスの足場も崩れ始めるが、間一髪でハッピーがルーシィを助け、サジタリウスは星霊界に帰っていく。
先ほどの攻撃で魔力を使い切り、ガジルによって与えられたダメージのせいでナツは思うように動けず、ドサッとギリギリ崩れていない場所に落ちた。
シュランが倒れたからか、ティアに巻き付いていた無効の蛇(インバリットスネーク)は消えたが、ガジルに殴られた事やジュピターのダメージでティアもナツの近くに落ちる。
・・・もちろん、ただ落ちるなんて彼女のとてつもなく高いプライドが許さず、綺麗に着地は決めたが。

「ナツ!ティア!」

降り注ぐ瓦礫から頭を守るように両手を頭に当てたルーシィが、2人の落ちた方に目をやる。
ナツもルーシィに目を向け、笑みを浮かべた。

「さすがにもう動けねぇや」

その近くに落ちたティアは、飛ばされそうな帽子を右手で押さえ、口を開く。

「本当・・・アンタって昔からバカよね」
「んだとコラァ!」

どんなに動けなくても、キレる元気はあるようだ。

「ま・・・そのバカ根性がアンタのいい所でもあるけど。今回はアンタの無駄に図太い根性があって勝てたみたいなものでしょ」

人を褒めるのは苦手なのか、照れくさそうに顔を背ける。
・・・まぁ、褒めているのか貶しているのか、よく解らないが。
ルーシィもそんなナツに溜息をつく。

「もう、本当・・・やりすぎなんだから・・・」
「あい」
(でも・・・ちょっとかっこよかったよ・・・)

ルーシィの言葉にナツが笑う。

「・・・お疲れ様」
「おう」

口元を緩めるだけの笑みを浮かべ、ティアが呟く。
普通の人間なら瓦礫の落ちる音で聞こえないような声も、聴覚の優れた滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)にははっきり聞こえたようだ。

こうして、火竜(ナツ)鉄竜(ガジル)はナツ、閃光(ティア)(シュラン)はティアに軍配が上がったのだった。

そう・・・。









その場にいた誰もが、その結果を信じて疑わなかった。









「・・・少し甘く見ていましたわ」

突如聞こえてきた声。
それは先ほどまで『敵』として戦っていた女・・・シュランの声だった。
全員の目がシュランに向かう。

「う、嘘・・・でしょ・・・?」
「ティアの攻撃・・・喰らったのに・・・」

ルーシィとハッピーが震える声を出す。

「あら、格下相手に本気を出すとでも思っていたんですか?先ほどまでのはちょっとした腕試し。あなた達がどれだけの実力を持っているか、見たかっただけ」

ローズピンクの姫カットが揺れる。
ティアも信じられない、と言いたげな目でシュランを見ていた。

「にしても・・・さすがは海の閃光(ルス・メーア)。私がここまで追い詰められたのは初めてですわ。まぁ・・・『追い詰められた』だけですが」

ティアの握りしめた拳が震える。

「でもここまで出来るなんて、なかなかの腕前ですわ。だから・・・特別に見せて差し上げましょう」

シュランの言葉に反応するかのように、彼女の髪が揺れる。
揺れて、揺れて、風に逆らうように揺れて、赤い光を2つ灯す。
『それ』は鋭い『牙』を持ち、ローズピンクの『鱗』を持ち、鋭くつった『目』を持つ。
その目は、赤かった。

「な、何だよ・・・アレ・・・」
「あり得ない・・・あんなの、嘘でしょ・・・?」
「・・・(絶句)」
「やっぱり・・・それがアンタの『本気』?手を抜かれてるとは薄々気づいていたけど、まさかそれが・・・」

それを見たナツ、ルーシィは驚愕の声を上げ、ハッピーは大きく口を開けて絶句し、ティアは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

「さぁ、始めましょう?」

シュランが微笑んだ。










その髪は、無数の『蛇』と化していた。










「っ!」

崩れた妖精の尻尾(フェアリーテイル)のギルドの前。
ギルドが崩れても尚攻撃を仕掛けてくる幽兵(シェイド)の相手をしていたクロスは『嫌な予感』を察知して崩れたファントムギルドを見た。

(姉さんに、何か危険が・・・!?)

ちなみにクロスの『嫌な予感』には2種類あり、1つはギルドや仲間に関する予感、もう1つは姉であるティアに関する予感だ。
余談だが、ギルドや仲間の方は本当に危険な時にしか察知できないが、ティアの方は些細な事でも察知出来る。若干シスコン気味のクロスだった。

「・・・主よ」
「ライアー」

そんなクロスにライアーが近づく。
何故ライアーがクロスを「主」と呼ぶか、その話はまた今度だ。

「ティアの身に、何か起きている」
「お前も気づいたか・・・さすがギルド1姉さんに惚」
「そ、そそそそそれは関係ないだろう!」

クロスの言葉に慌てふためくライアー。
その頬は真っ赤に染まっているが、1つ咳をし、続ける。

「行かないのか?」
「・・・行きたいが、ここを離れる訳にはいかないだろ?」

フッと薄く微笑むクロス。

「なーに・・・カッコつけてんだよ、クロス!姉ちゃんの事心配でヤベェくせによっ!」
「わっ!」

そこにドカッとスバルが飛びつく。
迷惑そうに背中に飛びついてきたスバルに目をやり、溜息をついた。

「クロス君。ここは私達が何とかするから」
「主はティアを助けに行ってください」

サルディアとヒルダも口々にそう言う。
そんな4人を見たクロスは「すまない」と小さく呟き、一瞬にして剣を変えてファントムギルドへと向かっていった。

「・・・んで?クロス無しでどうにかなるかね、俺達」
「どうにかするしかないだろう。戦いながら時々ファントムの方を見る主はもう見飽きた」
「クロス君、ティアちゃんの事本当に大切に想ってるもんね」
「あぁ・・・ギルドは崩れてしまったが、俺達はまだまだ戦うぞ!」

スバル、ヒルダ、サルディア、ライアーが短く会話をし、幽兵(シェイド)に向かっていく。

「にしてもライアー。お前もカッコつけすぎだな」
「何の話だ?」
「とぼけんじゃねーよ。お前、ティアの事好」
「あ、ああ悪いスバル!手が滑ったぁぁぁぁぁぁ!」
「ぐえっ」

思わぬ攻撃を受けたスバルだった。









シュランは微笑む。
全ての男を恋に落とすような妖艶な笑みを。
が、その背中で、首の裏で、頭で揺れるものは・・・蛇。
髪だったそれは、髪と同じローズピンクの鱗を持ち、各々が自由に揺らめく。

「め、滅茶苦茶だわ・・・髪が蛇になるなんて、何考えてるのよ・・・」

はい、すいません。(by緋色の空)

「俺だって・・・ただでさえしんどいっつーのによォ・・・」

ナツも兎兎丸、アリア、ガジルの3人との戦いでかなりのダメージを受け、火を食べたには食べたが、先ほどガジルを倒すのに魔力を使い切ってしまい、もう動く事も難しい。
その近くにいたティアは痛みを堪えながらゆっくりと立ち上がる。

「ティア!」
「あら・・・貴女、動けるんですか?先ほどの私の攻撃、かなり効いていると思ったのですが」
「攻撃?」

3人は先ほどまでの戦いを思い出すが、シュランがティアに攻撃などしていない。
という事は、自然とナツ達がいた部屋に飛び込んでくる前という事になる。

「攻撃ですって?何の・・・事かしら」
「強がらない方がいいですよ。貴女の『右脚』、もう痛みで動かないのでは?ガジル様に殴られた分のダメージも含め・・・先ほど無理をしていたようですもの」
「!」
「右足?」

その言葉に、全員の視線がティアのレースアップブーツに包まれている『はずの』右脚に向けられる。
が、そこにはブーツはなく、所々破けた黒いニーハイソックスに包まれた脚があった。
その破けたところから見える脚を見て、全員が目を見開く。

「お、おい・・・」
「ティア、それ・・・」

その脚は、ボロボロだった。
何かに斬り付けられたような傷からは血が流れ、青痣も所々に見える。
時々痛みを堪える様に震える脚を見て、シュランは笑みを浮かべた。

「ね」
「このくらい・・・何て、事・・・」
「そうですか。では・・・」

シュランの自由にしていた蛇達が一斉にティアの方を向く。

「この子達のお相手をお願いしますわ」

その言葉が蛇達にとっては『行け』の合図なのだろう。
一斉に蛇達は動けないティアに向かって伸びていく。
元々のシュランの髪の長さよりも長く伸びていく蛇達。

「ティア!ぐぅっ・・・」

ナツが助けに行こうと体を動かすが、体に残っているダメージのせいで思ったように動けない。
蛇は意外にも素早く、この素早さの蛇の攻撃の前にナツがティアを助けられる訳が無いとその場にいる全員が解っていた。
ティアが体を水に変換したとしても、ギリギリ間に合うかどうかも解らない。

「っ・・・!」

ティアが蛇の攻撃を覚悟し、目を閉じた、その時だった。






音速の剣(シルファリオン)






その蛇をも超えるスピードで、突如現れた剣が蛇達に突き刺さる。
聞こえてきた声にティアは目を開き、ナツ達はその名を口にした。

「「クロス!」」
「どうやら間に合ったようだな」

姉が姉なら弟も弟、と言ったところだろうか。
全く息を乱さず、何を考えているかも解らず、ギルドからここまでは飛んで来たとしてもかなり遠いだろうに、疲労が全く見えない。

「ナイスタイミング」
「大丈夫か?姉さん」
「えぇ、大丈夫よ」
「ウソつけ」

ナツがボソッと呟いたが、ティアにははっきり聞こえていた様で鋭く睨まれる。
当然、クロスも脚の怪我に気づいたが、ずっと一緒に育ってきた姉がどういう性格かは1番知っているので、敢えて何も言わなかった。

「お前達は下がっていろ。コイツは俺がやる」
「あの蛇頭と戦うつもりかよ!?」
「いくら何でも無茶ですよ!もう魔力だってかなり使って・・・」

そう。
クロスが何もしていなかった訳ではない。
現場の指揮を取り、幽兵(シェイド)の相手をしていたのだ。
魔力だって相当使っているだろう・・・とナツとルーシィは驚き、心配する。
が、クロスは振り返ると、薄い笑みを浮かべて言い放った。

「俺を誰の弟だと思っている?」

その一言に一瞬唖然とし、あぁそうだったと思いだす。
クロスはあのティアを姉に持つ、いわば妖精の尻尾(フェアリーテイル)2大女怪物の片割れの弟なのだ(ちなみにもう1人はエルザだ)。

「安心しろ。そう簡単にはやられん。それに・・・」
「「「それに?」」」

どこから湧いて来るのか不思議な自信に溢れた声で、クロスは続ける。

「この女なのだろう?姉さんをここまで傷つけたのは・・・」

その瞬間、ナツ達の目に魔王が映った。
そしてそれと同時に思い出す。
あぁ、こいつは若干シスコン気質があるんだった・・・と。

「という訳で、悪いが姉さん。獲物を頂くぞ」
「・・・仕方ないわね。好きになさい」

どこか不機嫌な返事に困ったように微笑むと、持っていた音速の剣(シルファリオン)を一瞬にして消す。
そして続いて手に握られていたのは、綺麗な水色と白銀の剣だった。

「行くぞ。名も知らぬ女!」






「本当に大丈夫なの?」

クロスに言われたとおり下がったルーシィは、ナツ達に声を掛ける。

「何が?」
「クロスさんよ。アイツ相手に1人なんて、いくらティアの弟だからってそれはさすがにキツいんじゃない?」

そう言うルーシィに、ティアは溜息をつく。

「・・・言っておくけど、アイツは強いわよ。ナツに剣1本で勝つんだから」
「え!?」
「おー、アイツ変なとこティアに似て表情読めねーし、やっぱり変なとこティアに似て動き素早いんだよなー」
「アンタ私の事バカにしてるの?」

ギロリ、とティアがナツを睨みつける。
その空気を変える様に、ハッピーが口を開いた。

「あい。魔法無しで単純に剣の腕だったらエルザと同じくらい強いんじゃないかな。エルザは鎧も換装できるし、魔法を使ったら負けちゃうけど」







「ハアァァァァァァァァァッ!」

クロスが剣を振り下ろす。
シュランはそれを綺麗に避け、髪の蛇をクロスに向かわせる。
が、それをクロスは剣を一振りし斬り捨てた。

「なかなか厄介な蛇だな」
「ふふ・・・だから普段は使わないんですよ」

シュランは微笑む。
斬られたはずの蛇は徐々にピンクの光を帯び、再びシュランの髪へと戻る。

「この子達は何度斬られようと不死身です。まぁ、私が死んだら死にますがね」
「そうか・・・ならば貴様を殺すまでだ」

何の躊躇いもなくあっさりとクロスは言い放つ。
その言葉にシュランは少し驚いたように目を見開き、すぐに口を開いた。

「殺してしまえば、貴方は評議員に捕まりますよ?」
「別に構わないさ」

そう言うと、クロスはニッと口角を上げた。

「評議員に捕まろうが、姉さんをあそこまで傷つけた人間が消えれば本望だ」

それを聞いたシュランは思った。
あぁ・・・こいつは正真正銘、シスコンだと。
しかもあと1歩でアブナイところに行きそうなシスコンだと。

「あ、貴方・・・シスコンですか?」
「ん?シスコン?それはシスター・コンプレックスの略語か?」
「そうですけど・・・」

どうやらこの男、シスコンが何の略かさえも知らないらしい。

「・・・そう言われれば、そうなのかもしれないな。俺には昔から姉さんしかいないから・・・」

そう答えるクロスは、どこか悲しそうな表情をしていた。
その言葉を聞いたシュランも俯く。

「・・・奇遇ですね。私にも、ガジル様しか・・・幽鬼の支配者(ファントムロード)しかいないのです」

その右手に魔力が集中し、魔法陣が展開する。
クロスはそれに気づかない。

「だから・・・負けられないんですよっ!」
「っ!」

勢いよく飛んできた蛇模様を、クロスはギリギリのところで避ける。
姉譲りの身体能力でその攻撃を避け、着地して、剣を構えた。

「危ないな・・・っと!」

再び向かってくる攻撃にクロスは剣を一振りする。

「負けられない・・・負けられないんです・・・私をあの暗い場所から救い出してくれた幽鬼の支配者(ファントムロード)の為にも・・・私を光の元に連れ出してくれたガジル様の為にも・・・負けられないっ!」

3つのカラフルな蛇がクロスを襲う。
それをも綺麗に宙返りして避け、シュランとある程度距離を取った。
そして、ゆっくりと口を開く。

「・・・過去に何があったかは知らないが、お前と俺を同類にするな」
「!」

シュランが目を見開く。

「お前の傍にお前の過ちを止めてくれる人間はいるか?共に笑い、共に泣き、共に怒る・・・そんな人間はいるか?」

クロスは剣を構えたまま、言葉を続ける。

「俺には『昔』姉さんしかいなかった。あの忌々しい両親の血が流れている事に何度も絶望した・・・だが、こんな俺を必要とし、共に笑い、共に泣き、共に起こり、過ちは正してくれる・・・そんな仲間達が、『今』の俺にはいる。このくだらん争いを過ちと感じ止める者がいなかった時点で、貴様と俺は同類ではない」

凛々しい表情でそう言い放つクロス。
その横顔は姉であるティアにそっくりだった。
それを聞いたシュランは口元を緩ませる。

「・・・だから、そのお仲間の為に戦うと?貴方のお姉さまは『誰かの為に戦っている訳ではない』とおっしゃっていましたが?」
「そうだろうな」
「は?」

「え!?姉さんがそんな事を!?」みたいな驚きの言葉を予想していたシュランは、思わずマヌケな声を出す。

「姉さんはとことん他人に無関心だ。自分が興味を持たない限りはギルドの人間だろうと関係ない。だからこの抗争に参加したのは誰かの為ではない」

それくらい知っているさ、とクロスが肩を竦める。

「では何故、あの方は・・・」
「知りたかったら自分で聞けばいい。姉さんはめんどくさいと言うだろうが、きっと答えてくれる」

にっこりとクロスが微笑んだ。
・・・と、同時に、シュランの近くに三角形を作るように剣が落ちてきた。

「っ!?」
「悪いな。お前に時間を喰っている場合ではないんだ」

そこに白銀の魔法陣が展開し、三角形の結界がシュランを包む。
脱出を試みて結界に触れるシュランだが、彼女の手より先に触れた髪蛇がじゅっと音を立てて燃え尽きた。
当然復活するが、生憎シュランは不死身ではない。
脱出は不可能なようだ。

「換装」

短く呟き、持っていた剣を一瞬にして別空間へと戻す。
彼もまた、エルザやビスカと同じ『換装』の使い手だった。
が、エルザの様に魔法の鎧に換装する訳でも、ビスカの様に銃器を換装する訳でもない。
彼は『剣』のみを換装し、それによって己の戦闘力を変える。

その魔法の名は・・・剣士(ザ・フェンサー)

「行くぞ、蛇女。貴様の相手がどれだけ敵に回してはいけなかったか・・・その身で知れ」

そう言い放つと、クロスは剣を構え・・・。






真空の剣(メル・フォース)!」





剣先から突風を起こした。

「きゃあああああああああああああああああっ!」

ティアからの攻撃に加え、クロスからの攻撃。
それに耐えられる程、シュランは頑丈ではなかった。
結界を突き破り、シュランは吹っ飛び・・・今度こそ、気絶した。

「・・・生憎だったな、俺は相手が女だろうが子供だろうが容赦はしない」

クロスはそう言い残すと、ナツ達の元へと向かっていった。 
 

 
後書き
こんにちは、緋色の空です。
ただシュランの髪が蛇になるのをやりたかっただけだったりする・・・そしてクロスにするかライアーにするか迷ってクロスにしました。
そして急遽付け足されたクロスシスコン設定。
いろいろ忙しい話でした。

感想・批評、お待ちしてます。 
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