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深き者

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第二章


第二章

「何かカナダって財政的にはあまりよくないそうですけれど」
「破産していたか」
「どうなんでしょうね。実は俺カナダのことあまりっていうか殆ど知らないんですけれど」
「安心しろ、それは私もだ」
 二人共カナダのことは殆ど知らないのだった。それでも仕事を受けているのだ。
「とりあえず広くそのうえ森が多い国だとは聞いていた」
「あと野生動物ですかね」
「とりあえずその位だな」 
 彼等へのカナダの知識はまさにその程度であった。やはり殆ど知らないのだった。
「だが。それでもだ」
「一人当たり百万ドルですからね」
「二人合わせて日本円に戻して二億円だ」
「しかも移動費やらの諸経費は向こう持ちですし」
「いい仕事と言えるな」
「報酬はそうですね。けれどですね」
 しかしここで本郷はまた言うのだった。
「何なんですかね、ただそんな誰も知らないような村を調べろってだけでそんな報酬なんて」
「しかもはるばる日本まで来て私達に頼みに来た」
 役はこのことを話した。
「普通はないな」
「俺達はまあ結構おかしな依頼を引き受けていますけれどね」
 本郷は自分でこのことを認めてみせた。
「それでも。ただ村を調べるだけでそこまで高い報酬っていうのは」
「まず何かあるな」
 役は冷静に分析をしてから述べたのだった。
「というとだ。今回の仕事はだ」
「ええ、あっちの仕事ですね」
 ここで本郷の顔が引き締まった。
「間違いなく」
「用意はいいな」
 役は相変わらず運転しながら本郷に尋ねてきた。
「あちらの仕事をする為の」
「最初から何かおかしいって思ってましたしっていうか」
 本郷もここで言う。
「いつも用意はしていますからね」
「そうだ。それはいい心がけだ」
 役は本郷のその言葉を聞いてこう返した。表情は声にすら出してはいない。
「私もだ」
「ああ、やっぱり役さんもですか」
「何時何が出て来るかわからない」
 その表情のない声でまた述べた。
「私達の仕事はな」
「そうですよね。今から行く村にしても」
「何かあると思った方がいい」
 役は言った。
「間違いなくな」
「でしょうね。何もないと思っていても」
 本郷も少しぼやきながらも言うのだった。
「いつも何かありますからね」
「そもそもそうでかればだ」
 また言う役だった。
「私達が呼ばれるかというと」
「その時点でまずないですね」
「その通りだ。しかも政府からの話だしな」
「本当に何なんでしょうね」
 本郷はここで車の中で首を捻った。
「村の一つに行ってくれって」
「漁村か」
 役はその向かう漁村について考えを巡らせた。
「漁村といえば」
「そりゃ海にいる化け物も多いですけれどね」
「そうだな。それこそ河や海ごとにいる」
「さて、何なんでしょうかね」
 そんな話をしながら向かうのだった。そうしてそれからさらに時間をかけてやっと辿り着いた村は。彼等が想像していた以上の村だった。
「ええと?」
 本郷は車の中からその村を見回して述べた。
「何なんですかね、この村って」
「寂れているな」
「寂れてるってものじゃないですよ」
 たまりかねたような声で役に言葉を返した。
「あの、人もまばらですし」
「建物も酷いものだな」
 見れば何もかもがだった。寂れ乾いた空気が漂っている。少し見ただけで寒いものがあり僅かに見る村人も背中を屈め陰気な感じだった。
 
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