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皇太子殿下はご機嫌ななめ

作者:maple
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第34話 「税制変更許可」

 
前書き
忙しかった。
とってもとっても忙しかった。
もう疲れたよ、パトラ○シュ。 

 
 第34話 「華の嵐?」

 ヨアヒム・フォン・フレーゲル男爵は、ブラウンシュヴァイク公爵の甥にあたる。
 ラインハルトよりもいくぶん年上で、すでに士官学校に在籍する士官候補生の一員だ。
 門閥貴族らしく、偏狭であり、傲慢でもあったが、士官学校に入学した頃からそうした部分は影を潜めつつある。
 それというのも理由は単純で、皇太子殿下の士官学校時代の噂を、耳にする機会が多々あったからだ。
 成績、席次そのものはたいした事はなかった。
 上から三十番目。
 しかし戦略にかけては、圧倒的に凄かったらしい。
 人を集め、引っ張り上げ、纏める。
 優秀な生徒に作戦を考えさせて、指揮官を動かす。

「艦隊指揮官というよりも参謀タイプ。もしくは宇宙艦隊司令長官だろうな」

 平民ならば、優秀な参謀になっただろう。
 門閥貴族ならば、間違いなく宇宙艦隊司令長官。
 当時の士官学校の校長や教官の言葉だ。
 あれぐらい人を動かすのが、うまい士官はいない。
 そして今は帝国宰相だ。
 あの皇太子殿下に、これほどふさわしい地位はないだろう。

「勝敗は戦場の外で決まる。そして戦闘は勝ってから行う」

 皇太子の言った事で、それを今でも実践している。

 とてもじゃないが敵わない。
 男爵にとっては偽らざる本音だった。
 素直にそう思えたのは、相手が皇太子だったからだ。
 これが平民。もしくは身分の低い者だったら、嫉妬心が沸き起こっていただろう。
 しかし相手は皇太子だ。
 次期皇帝候補の筆頭。
 いかに門閥貴族であろうと、相手が皇太子ともなれば、負けても嫉妬心が湧き上がってこない。
 身分で言えば、最上級。
 卑しい(フレーゲルから見てだが)者とは違う。
 公爵や侯爵でも勝てない相手だった。
 血統主義の銀河帝国にあっても、血統、地位、実力が一致している稀有な例だ。
 自分が負けても仕方が無い。
 プライドを傷つける事無く、認められた。
 その皇太子が帝国を改革すると宣言したのだ。
 協力するのは当然と思えた。

 ■ブラウンシュヴァイク公爵邸 オットー・フォン・ブラウンシュヴァイク■

「伯父上。フレーゲル男爵領の税率はどうなっているのですか?」
「前と変わってはおらぬぞ」

 突然なにを言い出すのだ。
 いま帝国は改革の真っ最中である。いたずらに税率を変更するなど、許される事ではない。

「いえ、そういう事ではなく。各貴族領で税制改革が始まり、税金が引き下げられました。しかし未だフレーゲル男爵領では、税金が引き下げられておりません。どうなっているのかと士官学校で話題になりまして」
「それはヨアヒムのところだけでは無いだろう。いまだ成人していない貴族のところは、実行されていないぞ」
「それでは困ります。士官学校には、わたしの領内から来ている者もいるのです。帝国改革の旗手として、活躍しているブラウンシュヴァイク公爵家の一門なのですから、これではまるでわたし一人が、改革に反対しているように見えてしまいます」

 それはまずいな。
 確かにわしはフレーゲルの後見人だが、当人の許可なく税率を変更するなど問題があろう。わしとフレーゲルの間だけなら問題は無いが。
 しかし……。これが前例となって、勝手に後見人が税率を変更する者が現れては困る。
 うむむ。どうしたものか……?

「伯父上!!」
「まあ、待て。皇太子殿下にご相談してみよう。話はその後だ」

 ■宰相府 ジークフリード・キルヒアイス■

 ブラウンシュヴァイク公爵がフレーゲル男爵をつれて、宰相府へとやってきました。
 ラインハルト様は、一瞬ビクッとしておられましたが、いったいどうしたというのでしょうか?
 ノイエ・サンスーシの後宮から逃げてきたラインハルト様が、宰相閣下を相手に愚痴を零していたときの事です。

「ひどいんだぞ。ベーネミュンデ侯爵夫人はっ!!」
「ほほ~う」

 ベーネミュンデ侯爵夫人とアンネローゼ様の趣味が合致していたらしく。似たようなドレスを突きつけられていたそうです。
 ラインハルト様の怒りが宰相閣下へと、向かいました。
 ぽかぽか宰相閣下の肩を叩いています。
 体格に差がありますからねー。その上、宰相閣下はとても強いですし。
 以前に見た宰相閣下と不良貴族のケンカは凄かったです。
 なによりもあの不良貴族が、皇太子の顔を覚えていなかった事に驚きました。
 ほんと~にバカな貴族というものも、存在しているのだと思い知った有り様です。

「いいかジーク。スープレックスは投げるのではなく。落とす」

 そして見事なブリッジを描いて、宰相閣下は不良貴族を落としてしまわれた……。
 いったいどこであんな技を身につけられたのか?
 手技、足技に続いて、投げ技まで使いこなすとは、お見事と言わざるを得ません。
 あなたはいったい何者ですか?

「銀河帝国皇太子だ」

 その言葉に呆れかえってしまったのは、秘密です。
 ああ、いけませんね。ついつい目の前の光景に以前の事を思い出してしまいました。
 ぽかぽか叩いているラインハルト様の、右手の指先を摘んだ宰相閣下が、ついっと動かすとそれだけでラインハルト様はくるりと体を一回転させ、右手の関節を極められた。

「いたいいたい。え~い、はなせー!!」
「ジーク、よく見てろよ。人間の関節の稼動範囲と反応は誰しも同じだ。指先一つでも、関節は極められる」
「はいっ」
「二人してなに言ってるんだー!!」

 ラインハルト様がなみだ目になっていますね。

「いけません、いけない趣味に目覚めてしまいそうです」

 マルガレータさん、はあはあしないで下さい。
 それとヘンな事をわたしの振りをして、言わないように。
 これだからショタはっ!!

「あの~皇太子殿下、宜しいか?」
「お、おお。すまんすまん。二人揃ってどうした?」

 埒が開かないと思ったのか、ブラウンシュヴァイク公爵がおずおずと声を掛けてきました。
 いけませんね。すっかり忘れていました。
 そしてフレーゲル男爵の呆けたような表情。
 こそこそっと小声で、宰相府はいつもこんな感じなのかと聞いてきます。

「いつもはもう少しマシですよ。今日はラインハルト様が宰相閣下に、じゃれついているだけです」
「ラインハルト様?」
「はい。あそこで宰相閣下に泣かされている人です」
「え? ええーっ!! 彼女は侍女ではなかったのか?」

 よほどショックが大きかったのか、愕然といった表情を浮かべていますね。
 知らなかったのでしょうか?

 ■宰相府 マルガレータ・フォン・ヴァルテンブルグ■

 ふははははははははははははははは。
 あのフレーゲル男爵の表情。
 おもしろい。
 おもしろいです。
 これだから、貴族達の観察はやめられません。
 女装したラインハルトくんを、女の子だと勘違いしていたんですねー。
 いや~楽しいです。
 それにしてもめったに宰相府に顔を出さない、フレーゲル男爵ですからねー。
 ちっ、そうと分かっていたら、わたし達の手で盛り上げるだけ盛り上げて、落としてやるべきでした。うぬぬ無念。
 いえ今からでも遅くはありません。
 男の子でもいい。と思うところまで、追い詰めてやりましょう。
 そしてラインハルトくんに振られればいいんです。
 人の不幸は蜜の味。
 それが恋愛関係だったりしたら、さいこーです。
 ラインハルトくんとジークとフレーゲル男爵の三角関係。
 思わず笑ってしまうぐらい、楽しい見世物になるでしょう。ぐふふ、ゆかいゆかい。

「ちょいとごめんよ~」
「い、いたい」

 皇太子殿下に頭を叩かれてしまいました。
 怖い顔で睨んでいます。
 わたしの考えを見抜かれてしまいましたか。
 ちっ、まったく聡い人です。

「そういうのは感心せんぞ」
「皇太子殿下は、妙なところで固いんですから……」
「人の不幸は蜜の味というのが、感心せんと言っている」

 ハッ、なるほどなるほど。よく分かりました。
 構わん、やれ。という事ですね。
 さすがは皇太子殿下、よく分かっていらっしゃる。
 そうですね、人様を不幸にするのは良くありませんが……。
 恋愛問題は仕方がありません。
 不幸な結果になる事もあるでしょう。
 ええ、ええ、わたしは全力を持って、フレーゲル男爵の恋の応援を致しましょう。

「それで宜しいな」
「それも人生経験だろう。人生うまく行く事ばかりじゃないさ」

 アイコンタクトで確認しました。
 シラッとした表情で、話す皇太子殿下ですが、とてもひどい男だと思います。
 自分の手を汚さないだけ、えぐい人ですね。

 ■宰相府 ラインハルト・フォン・ミューゼル■

 なんだ?
 背筋がゾクッとしたのだが?
 フレーゲル男爵が呆然とした表情を浮かべ、こちらを見ている。
 ああそうか、勘違いしていたのだな。
 かわいそうなやつだ。
 それもこれも皇太子が悪い。
 皇太子が諸悪の根源なのだ。
 フレーゲル男爵も巻き込まれてしまって不幸なものだ……。

 ■宰相府 ジークフリード・キルヒアイス■

 ラインハルト様がフレーゲル男爵を見つめておられます。
 どことなく憂いのこもる眼差しで。
 見つめられたフレーゲル男爵は、しばらく見つめ合っていたかと思うと、視線を逸らし、頭を掻き毟りだした。
 悩んでおられるのでしょう。
 そう簡単に割り切れるものでもないはず。
 ですが、それを乗り越えて強く生きてください、としか申し上げようもない。
 そして決然と顔を上げ、宰相閣下にフレーゲル男爵領の税率の事を話し出しました。

「各貴族領で税制改革が始まり、税金が引き下げられました。しかし未だフレーゲル男爵領では、税金が引き下げられておりません。これでは領民も改革の実感は得られませんし、不満が高まる一方です」
「ふむ。卿の言う事は一理ある。それでどうしたい?」
「フレーゲル男爵領でも、税率変更の許可を得たいのです」
「許可しよう。いままで当主がまだ幼い、もしくは成人に達していない星系は変更させていなかったが、今後は政府主導で変更していくべきだな。フレーゲル男爵、よく進言してくれた。礼を言うぞ」
「いえ、帝国貴族として当然の事です」

 フレーゲル男爵はそう仰いますが、その当然の事を言い出してきたのは、男爵が初めてです。
 同じような年頃の貴族も多いのですが、誰も自ら、言い出したりはしてきませんでした。
 収入が減るのが嫌なのでしょうが……。
 改革に反対していると思われるほうが、結局は損になるでしょうに。
 ラインハルト様もうんうんと頷いています。
 税率変更の件も、後見人が幼い当主を無視して、勝手に変更しないようにと、考えて動かさなかったのですが、今後は宰相閣下が動かす事になるでしょう。
 それがフレーゲル男爵の進言を基にしてとなりますと、バカな貴族からは恨まれるでしょうが、平民達からは支持されることでしょう。
 さすが改革の旗手。
 ブラウンシュヴァイク公爵の甥だ、と。
 そしてこれからの帝国でも貴族として、生き残る事ができます。
 さすが門閥貴族。生き残ろうとする感覚は鋭いものがありますね。 
 

 
後書き
父は煙管を吸っています。
新しい煙草入れを買ったとかで、海洋堂の妖怪根付を取られてしまったー。
しかも閻魔大王。飾ってたのに。
代わりに友禅和紙の札入れを貰いましたが……。
わたしは騙されないぞ。 
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