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ダリア

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第六章

「まずないよ」
「ですね、じゃあ本当に何でしょうか」
「それがわからない、まあとにかくね」
「行けばわかりますね」
「そういうことだね」
 二人はこんなことを話しながらリスボンの街中を歩いていく、街は相変わらず青空にある太陽に眩しく照らされている、不況で暗い雰囲気の筈だが雰囲気は明るい。
 そのリスボンを進みだ、酒場の前に来た。酒場の看板も扉も木製で独特の雰囲気がある。その店の中に入ると。
 いきなりだ、クラッカーが幾つも派手に鳴り。
 そしてだ、こう言われたのだった。
「よおお誕生日おめでとう!」
「二十九歳になったな!」
「これからも頑張れよ!」
「あれっ、まさかこれって」
「そうだね」
 店に入った二人はまずは目を丸くさせた、そして。
 ヒメネスはマルカーノに言った、マルカーノも応える。
「僕の誕生日だね」
「そうだったんですね」
「今思い出したよ、いや最近」
「不況のことばかり言って店の経営がどうとか」
「美人がどうとかばかり話してね」
 その結果だったのだ。
「自分のことを忘れていたよ」
「店長のお誕生日のことも」
「いや、本当に忘れていたよ」
 そうしていたというのだ。
「今の今まで」
「ああ、そうだと思ってな」
「わざわざ用意しておいたんだよ」
 ここでマルカーノによく似た六十位の男とよく太った女が出て来た、そして。
 その女をそのまま若くして痩せさせた女もいた、歳はマルカーノより二つ程上か。見ればその手には赤子がいる。
「父さん、母さんに姉ちゃんも」
「久しぶりね」
「あれ、しかも」
「ええ、結婚したのよ」
 その彼女、マルカーノの姉はにこりと笑って彼に言ってきた。見ればその隣には背が高いオールバックの男がいる。
「魚屋のロベルトとね」
「ははは、元気そうだな」
 そのオールバックの男が笑顔で言ってきた、今度は彼がそうしてきたのだ。
「二人で花屋をやっていくからな」
「男の子よ」
 姉は弟に赤子の性別も言ってきた。
「宜しくね」
「僕叔父さんになっていたんだな」
「手紙送ったでしょ」
「そうだったかな、というか最近仕事関係の手紙は読んでいるけれど」
 それ以外はというのだ。
「あまりね」
「不況だから?」
「ついついさ、仕事のことばかり考えて」
 それでだったというのだ。
「そうだったんだ」
「そうよ、とにかくね」
「うん、今日が僕の誕生日だったんだ」
「それで私はね」
 あの美女も出て来た、見れば美女の隣には頭の禿げた、まだ三十五程だがつるりとなっている口髭の男がいる。マルカーノとは馴染みのこの店の親父だ。 
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