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ダリア

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第二章

「首相もいいのが戻ったみたいだしね」
「ですね、そんな国もあるんですね」
「何度も地震に遭ってるのにその都度蘇るしね」
「凄い国ですね」
「そんな国もあるんだね、けれどね」
「ええ、こっちはですね」
「産業は日本程じゃないし」
 国力も人口もだ、それに。
「海にも何もない」
「ですよね、大航海時代はブイブイ言わせてたのに」
「何時の時代だよ、一体」
 マルカーノはヒメネスの言葉に苦笑いで応えた、こんな話をしながら店で働いている二人だった。
 その彼等の店にだ、ある日のこと。
 見たことのない美女が来た、黒く波がかった髪を腰まで延ばし黒く艶のある切れ長の瞳を見せている。眉は細く緩やかなカーブを描いている。
 やや浅黒い肌を持ち黒い丈の長い花の様な形のドレスの胸元からは豊かな胸元が見える、その彼女を見てだ。
 ヒメネスはまずだ、こうマルカーノに囁いた。
「凄い美人ですね」
「ダンサーかね」
 マルカーノもその美女を見て言う。
「カルメンみたいだね」
「ですよね、雰囲気的に」
「ここはポルトガルだけれどね」
 カルメンはスペインだ、それでこう言ったのである。
「まあ言葉は通じるからね」
「スペインでもポルトガルでも」
「うん、イタリアでもね」
 この三つの国は同じラテン系で言語はかなり似ているのだ、方言程度の違いしかなくそれでスペイン人もポルトガルで普通に喋られるのだ。
 その中でだ、こう言うマルカーノだった。
「だから彼女もね」
「スペイン人かも知れないですか」
「フラメンコのダンサーかね」
 こうも言うのだった、ヒメネスに。
「ひょっとして」
「そうですかね、けれど」
「うん、何はともあれね」
「お客さんですよ」
「そうだよ、今日もお客さんは少ないけれど」
 不況でそうなっているのだ、店の外の青空と白い日差しだけが妙に元気だ。ポルトガルの空気は明るいがそれでも不況である。
「来てくれたね」
「有り難いですね」
「さて、何を買ってくれるかな」
「是非何か買って欲しいですね」
「それが問題だよ」
「そこシェークスピアですね」
「ハムレットだよ」
 ポルトガルの長年の友好国であるイギリスの劇の話も出た、そうした話をしながら美人を見ていると彼女は。
 ダリアのところに来た、そしてそのダリアの花束をカウンターにいるマルカーノの前に持って来て言うのだった。
「貰えるかしら」
「はい、その花束をですね」
「ええ、ダリアをね」
「その組み合わせでいいんですね」
 ダリアは赤と黄色、そしてオレンジだった。その三色のダリアを見ての問いだ。
「花は」
「ええ」
 いいとだ、こう答える美女だった。
「それでお願いするわ」
「わかりました、それじゃあ」
「あとね」
「あと?」
 美女は何かと言おうとした、マルカーノも彼に応えた。
「店長さんよね、貴方が」
「はい、そうですけれど」
「ご家族は」
「このリスボンに両親がいます」
 別の花屋をしている、彼は暖簾分けの様な形で両親とは別の店を経営してそれで暮らしているのである。 
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