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ダリア

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第一章

                        ダリア
 ダリアは独特な花だ。
 形も色もだ、それで今彼も言うのだ。
 彼の名前はハイメ=マルカーノという。仕事はリスボンの花屋だ、だからダリアもいつも見ている。ラテン系らしく癖のある黒髪に黒い目、睫毛は長く眉は濃い。日本人が見ればバタ臭いと言われる感じの顔であり背は一七五程だ、上着から出ている手と首筋から黒い毛が見える。
 その彼がだ、店に置いている黄色いダリアを見て雇っている若い店員であるジュゼッペ=ヒメネスに言うのだった。ヒメネスは背の高い茶色の髪の青年だ、無精髭を生やした黒い目の青年だ。その彼に言うのである。
「ダリアの色は目立つね」
「他の花よりもですね」
「うん、目立つよ」
 こう言うのだった、店の花達をチェックしながら。
「とてもね、だからね」
「売れる花の一つですね」
「いいことにね、ただ」
「ただ?」
「いやね、今の我が国は」 
 ポルトガル、彼等の国の話になったのだった。
「不況だからね」
「それも洒落にならない」
「皆お金がないからね」
 生活が苦しい、そうなればだ。
「お金がないとどうなるか」
「ものが買えなくなりますね」
「そう、だから皆ね」
 花を買わなくなる、そうなるのだった。
「この有様だよ」
「今日もあまり売れませんね」
 店は商店街にある、だから店の前を行き交う人自体は多いのだ。
 だが店に入る人はだ、どうかというと。
「お客さんが少なくて」
「ポルトガル人は花好きなんだがね」
「お花とワインが」
「好きだよ、けれどね」
「あまりにも酷い不況で」
「お金がないんだよ」
 とにかくそれに尽きた、今のポルトガルは。
「とにかく」
「参りますよね」
「まあ店じまいというまでにはね」
 困ってはいなかった、そこまで売れていないという訳ではないのだ。
 だが、だ。それでもだった。
「いっていないにしても、嫌な状況だよ」
「好景気にならないでしょうか」
「どうだろうかね」
 それは、というのだ。
「難しいんじゃないかい?」
「欧州全体が大変ですからね」
「うん、特に我が国はね」
「ピッグスとか言われていますからね」
 その彼等の国ポルトガルにイタリア、ギリシア、そしてスペインの頭文字を取った言葉だ。彼等の経済危機が欧州全体を危機に陥れているというのだ。
「誰が名付けたのか」
「嫌な呼び名だよ」
「全くです、それでなんですよね」
「うちの店もお客さんが少ない」
「困ったことですね」
「何処かでたまたま石油でも出てついでにダイアも金も出て」
 ポルトガルの何処かでだというのだ。
「景気が戻ればいいね」
「何か日本の海で色々あるらしいですけれどね」
「ああ、石油だのメタン何とかだね」
「あの国はただでさえ凄い国力なのにそんなのまで見つかったんだね」
「運がいいよ、あの国は」
 マルカーノは肩を竦めさせてヒメネスに応えた。 
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