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銀河英雄伝説~生まれ変わりのアレス~

作者:鳥永隆史
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~五学年~

 
前書き
二章をかく予定でしたが、
まだ簡潔には終わらず。何とか、二章が終わるまでに三章をかきたいなと思いつつ、
先を考えずにアップします。 

 


 青い光線とともに炭酸の抜けるような圧縮音が聞こえる。
 高電圧から生まれるオゾン臭が鼻につき、輝く光が断続的に暗闇に走った。
 それが幾度か続いて、天井に備え付けられた赤色灯が回り、ブザーが鳴る。

 鳴り響く音とともに、横一列に並んでいた学生はゆっくりと構えていたレーザー銃を下ろして、銃弾代わりのエネルギーパックを抜きだした。
 しばらくして機械の駆動音とともに、標的がアレスへと近づいてきた。
 黒丸が書かれただけのシンプルな的だ。

 それが眼前まできて、アレスはしばらく的を睨みつけ、次に指を折った。
「……1、2、3、4、5、6。6だ」
 続いて、アレスは的を確認する。
「1、2、3、4……5」
 そして、冷静に一つ頷いた。

「うん、一発足りない」
 わずか三十メートルばかりの距離で、的に開いた穴は見事に中央をずれている。
 いや、それどころか放った一発に至っては、どこにいったのかすらわからない。
 昔の銃弾ならいざ知らず、空気抵抗すら考慮しないレーザー銃でここまで外れるとは、自分の腕ながら関心をする。

 おそらくは銃技では、ヤンにも劣るのではないだろうか。
 唸っていても的の穴が変わるわけがない。
 小さく息を吐いて、アレスは隣に目をやった。
 アレスと同じように的と睨めっこをしているスーンがいた。
 珍しいものだと思う。

 スーンはアレスとは違い、銃技は苦手としていない。
 むしろ得意な方だろう。
 そう考えて、スーンの的を見れば、見事に左端に一発の穴が開いていた。
 大外れだ。
「残念だったな」

「あ。勝手に見ないで欲しいなぁ」
 スーンは苦笑すると、恥ずかしそうに手を振った。
「恥ずかしがることないさ。他の五発が当たっているだけでも十分だろう、俺を見ろよ」
「何というか、見事にバラけてるね」

 アレスの的を見て、スーンが苦笑する。
「外れるにしても同じところならまだ救いようがあるけど」
「近くだったらトマホークがあるからいいさ」
「遠くだったらどうするのさ?」
「その時はトマホークを投げるさ」

 しれっとアレスは肩をすくめて見せた。
 呆れたように、スーンが笑う。
 と、二人の間から腕が伸びた。
 引き締まった筋肉質の腕だ。

 その先に視線を向ければ、フェーガンがいる。
「たぶん」
 二人が疑問を挟もうとして、腕を見ればスーンの的を指さしていた。
 正確には、その中央だ。
 よくよく見れば、中央に開いた穴――それが小さく広がっているのが見えた。

 ちょうど二つの丸が重なったような穴だ。
「そこに二発あたっている」
「え。いや、でもじゃあこれは……」
 驚いたようにスーンが問いかけようとして、そこで見たのはアレスの的だ。
 一発足りない。

「…………」
「…………」
 アレスとスーンが交互に的に目を向けた。
「アレス?」

「ああ……言いたい事はわかる」
 ゆっくりとアレスは真剣な表情で頷いた。
 スーンへと目を向けて、そして、フェーガンへと。
「フェーガン……お前、よくそんな離れた所から、こんな小さい穴が見えたな」
「そうじゃないよ!」

 スーンはレーザー銃で、アレスを殴打した。

 + + +

 幸いにというべきか、当然と言うべきか――アレス達は無事に五学年に進級することができた。最上級生ともなれば、下級生に比べて扱いは天と地ほども違う。
 しかし。
「こうも注目されると、動物園の猿になった気分だな」

 受ける視線に、アレスは苦笑を浮かべた。
 学生全員が入ることができない学食スペース。
 しかし、最上級生だけは優先的に座ることができる。
 昼食のパスタをフォークでつつきながら、周囲に視線を向けた。

 途端、見ていた視線が慌てて顔をそむける。
 座っている人間だけならばまだしも、立ちながら食べている一年生までこちらを見てどうする。制服に染みがつけば、怒られることは重々承知しているだろうに。
 目前でパンをちぎって口に入れながら、スーンが小さく笑った。

「仕方ないよ。何せアレスは戦術シミュレータ大会で三連覇して、もうすぐ四連覇がかかってる注目の選手だからね。有名税って思って諦めな?」
「有名税というが、俺はほとんど儲かってないぞ」
 アレスは渋い顔で答えた。

 二学年の時は、ヤンチームに賭けていた。
 三学年の時は、どういう因果かローバイクとコーネリアが再び同一のチームとなったため、アレスは二人に賭けた。もっとも、その二人は準々決勝でアッテンボローのチームに敗退し、決勝戦でアレスがアッテンボローのチームとあたることになったわけだが。

 そして、昨年だ。
 アレスとアッテンボローが組む事になった大会は、対戦相手を全て全滅させる完勝で優勝している。
 さすがにアレスも、前回ばかりは自分のチームに賭けた。
 倍率は1.1倍だったが。
 つまり。

「収支を計算すると、明らかに負けているわけだ」
「俺は勝った」
 昼食からステーキランチを食べていたフェーガンが、満足そうに微笑んだ。
 卒業後の結婚資金が一気に貯まったと聞いたので、間違いなく満足しているのだろう。
 少しは分けろと、アレスは口を尖らせ、フェーガンの肉を奪う。

「むっ」
 サラダを食べていたフェーガンが気づいた時には、既に厚手の肉はアレスの口の中だ。
 咀嚼する音に、スーンが酷いなぁと笑う。
「これくらい貰っても罰はあたらん」
 学食にしては随分と柔らかい肉を咀嚼しながら、アレスはワイドボーンが卒業してからの二年間を思い返した。

 + + +

 戦術シミュレータ大会はおまけのようなものだ。
 実際に原作の中にはなかった。
 やはりこの二年で一番大きな出来事は、エルファシルの事件であろう。
 民間人を見捨てた将官を囮にして、無事に民間人を帰還させたのが宇宙暦788年……つまりは、昨年のことだ。

 卒業後わずか一年余りでの快挙であり、ヤンは現在は少佐である。
 エルファシルの英雄ともてはやされて、雑誌の結婚したい男性1位にもなっていた。
 その時の士官学校の手のひら返しは実に面白いものだった。それまでヤンを批判していた教官がテレビに出て、『彼はいつかやる人間だと思っていました』と話した瞬間、隣にいた別の教官が『こいつまじか』とばかりに隣を見たのには笑った。

 それでも事件自体は原作通りに進み、ヤンは昇進し、そしてアーサー・リンチ少将は捕まった。前線も後方も出来る有能な士官であったらしいが、彼一人救うつもりはアレスにはなかった。もっとも士官学校からエルファシルの事件に介入など不可能であったのだが、例え可能であったとしても介入しなかっただろう。
 アレスは思う。
 原作を知っていることはあまり強いことではないと。
 確かにそれぞれの性格や人間関係は知っている。

 だが、それは表面上の理解であって、ワイドボーンのように出会いが人間を変えることもある。 それが百パーセント間違いないと思っていたら、大きく怪我をするだろう。
 そして、もう一つ。
 アレスは知っている。

 これから起こる事件や大戦を。
 だが、それはたった一回だけの未来を変える権利のようなものだ。
 ここでエルファシルを止めてしまったら、その後も同じように物語が流れると思わない。
 いや、流れるわけがない。
 単純な人事でもアーサー・リンチ少将は同盟の中心に来るであろうし、逆にヤンは同盟軍の閑職に回されて、本当に10年で退役しかねない。
 同様に他の事件もそうだ。
 だから、それまではそれこそ戦術シミュレータ大会のように微妙な介入をするしかない。

 もっともどこからは大丈夫で、どこまでが駄目の線引きがないから困るわけであるが。
 まだ大丈夫なのか。
 それとももう変わってしまったのか。
「どうしたの、黙ってさ」

「ああ、カオス理論って奴を考えてね」
「何それ」
 知ってるとスーンはフェーガンを見て、後悔した。
 彼が知っているわけがない。

「某有名な数学者の言葉だよ。蝶の羽ばたきが別の場所の天候を変えることもある――バタフライ効果って奴さ」
「とりあえず一ついい?」
「ああ」

「なんでそんな難しいことを事を考えてんのさ。いつも言ってる、歴史が変わると困るって奴?」
「間違えてはいない。それより君らは何でいまの課程を選んだんだ」
 苦笑して、アレスは残っていたパスタをすすった。
 そう変わったことといえば、おそらくは二人の進路だ。

 スーンは後方支援課程を、フェーガンは陸戦指揮課程を選択していた。
 原作では二人の卒業課程などでてこないが、おそらくは原作とは違うだろう。
 スーンは成績でいえば、戦略研究課程に入れる実力を持っていた。
 フェーガンはグランドカナルの艦長であったわけだから、まず艦隊運用課程を卒業したはずだ。

 それが二人とも違う課程に進む。
 少なくともグランドカナルの事件は発生しない。
 個人的には友人が死なずに済むのは嬉しい事であるが、それがどんな未来となるかは予想ができない。

「なんでっていってもね。そっちの方がいいと思ってさ、アレスは補給とか興味なさそうだし」
「別に興味がないわけではないし、出来ないわけでもないけどな」
「うん。知ってる――でも、後方支援は重要だけどあくまでも戦いの勝敗を左右するだけでしょう」

「戦いの勝敗を左右すること以上に、軍に必要なことがあるのか」
「あるさ。僕はそう思うよ」
そう微笑めば、ゆっくりとパンを齧った。
 しばらくアレスはスーンを見つめていたが、それ以上の回答はないようだ。

 だから、代わりにもう一人に視線を向けると、もう一人は大きな肉を口に頬張ったばかりだった。
 もぐもぐと何度も噛み締めて、何だと視線を向ける。

「もともと俺は陸戦志望だった」
「いや、お前艦隊志望だったじゃねえか」
 課程を選択するまでに、何度となくフェーガンの志望は聞いていた。
 言葉に対して、フェーガンはむっと一口。
 フォークをステーキに差した。

「艦隊運用を希望していたのは、父だ。悪くはないと思っていたが、スパルタニアンの操縦席は俺には小さすぎる」
 いやまあ、そうだろうなとアレスはフェーガンの巨体を見ながら、そう思った。
「俺には学生時代から付き合っている女性がいる。卒業後には結婚する予定だ」
「ああ。だから、卒業後すぐに遠隔に飛んでいく陸戦指揮課程は嫌だと」

「うむ。彼女まで一緒に来る金はなかったし、艦隊運用だと地上ではない分、手当がつく。だが」
 そこでフェーガンは笑った。
「結婚式を挙げて、彼女も一緒に来るだけの金が稼げた」
「……な、なるほど」

 身を乗り出したアレスは、静かなフェーガンの言葉にそれだけしか言えなかった。
 確かにお金は大切だ。
 だが、結婚資金になるくらい稼いだってどんなだと思う。
 こちらは大赤字だというのに。

「……次は新婚のハネムーンがかかっている」
「なに、その直接的な要望は!」
「相変わらず低俗な話題をしているな、アレス・マクワイルド」
 と、背後から嘲笑とともに声が聞こえた。


 
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