| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

夜の影

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第十九章


第十九章

「飲むんですよ」
「飲むのか」
「それ以外に何があるっていうんです?」
 そして満面の笑顔でこう言うのだった。
「仕事が終わったんですから」
「そうだな。しかしだ」
「しかし?」
「飲んでいたのは今日もだったな」
 役はここで昼の自分達のことを思い出したのだった。
「飲んでいたのは」
「まあそうですけれどね」 
 本郷もそれは否定しなかった。
「俺も舟で飲んでいましたし」
「いいものだった」 
 役はその昼の酒を思い出してまた述べた。
「舟の上で飲むのもな」
「それで明日もですか?」
 本郷は先程と同じ明快な声でまた役に問うた。
「舟の上で」
「いや」
 しかし役は今の本郷の言葉には首を捻りそれから彼に言葉を返した。
「昨日の今日ではな。どうもな」
「そうですよね。じゃあまた別の場所で」
「とにかく仕事は終わった」
 このことは間違いなかった。夜の魔物は確かに死んだ。
「それではだ。明日はな」
「はい、飲みましょう」
「警視正さんにも勧めてみよう」
 役は彼にも気を向けていた。
「どうせならな。二人よりはな」
「三人で、ですよね」
「そういうことだ。それではだ」
「はい、警視正さんにもお声をかけて」
 本郷の声はまた明るかった。
「それで楽しくやりますか」
「そうだな。それではまずはな」
「はい、戻って」
 何はともあれまずはそれからだった。
「今は寝ますか」
「そうしよう」
 しかし今は何よりも休息だった。戦いが終わって明日の宴よりまずはそれだった。こうして彼等は戦場から去り塔に戻った。そしてその次の日だった。
「ここですか」
「はい、ここがいいんですよ」
 警視正は満面の笑顔で本郷に告げていた。
「ここがね」
「そうですね」
 本郷も彼の言葉に頷く。二人と役は今運河のほとりでテーブルを囲んでいた。そしてそのうえでワインにソーセージ、それにチーズといったものを楽しんでいるのだった。
「こうして運河を静かに見ながら飲むっていうのもね」
「いいものでしょう」
「舟に乗りながらもいいものですが」
 役は右手にその紅いワインが注ぎ込まれたグラスを持ちつつ述べた。
「ここで飲むのもまたいいものですね」
「はい。ですから今日はここでと提案させてもらったのです」
 また言う警視正だった。
「どうですか?本当にいいものでしょう」
「はい」
「とても」
 二人の返答は決まっていた。もう既に。
「こうして静かに水を見ながらっていうのもいいですね」
「舟を楽しむのもいいですが」
「オランダが運河の国です」
 警視正はまた言うのだった。
「その運河の美しさもまた誇りですので」
「だからですか。それを見ながらというのも」
「いいものだというのですね」
「そういうことです。それでです」
 彼はさらに二人に言ってきた。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧