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エネミーワールド

作者:そうん
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2章 これが「異能者、無能者の会」
  第十話「一人」

 
前書き
前回の続きです。 

 
第十話「一人」

あれから数日…僕は部に顔出すことはなくなった。行こうとは思わない。何故か?そんなの決まってるじゃないか。自分の奴隷のように人を扱うからだ。メルの態度が日に日に悪化してきている気がする。いや、そうなのだろう。口論にまで発展するなんて誰が思っただろうか。挙げ句の果てには僕を虫ケラと呼んだ。調子に乗っているともいうのか?にしても本当に悪態にもほどがある。

シャイン
「ッチ…。」

ハヤト
「君、どうして朝早くにキレているんだ?何かあったのかい?」

隣の座席のハヤトが僕を見て心配そうに言い寄ってくる。よりによって今は誰とも話したくない気分だ。

シャイン
「んだよ。ハヤト…」

ハヤト
「…。君、何かあったな?私でよければ相談に乗るが…。」

シャイン
「いや、いいよ。個人の問題だからね。ハヤトに手を貸してもらうわけにはいかないよ。」

ハヤト
「そうかい。なら気が変わったら呼んでくれ。」

ハヤトはそう言うと、席を立ち、生徒たちのたまる教卓の方へと向かった。

あいつはいい奴だ。だけど…なんだろな。
少し違和感を感じる。僕から避けたり、変に僕を心配する。なんで僕を避けるのに心配するんだ?心遣いか?それとも友達だから?ますますわけがわからくなってくる。

シャイン
「ぁあーーーーー‼」

悩んでいたら無性に頭を掻き回したくなった。僕はもしかしたら短気なのかもしれない。
僕が叫ぶと、一斉に僕へと視線が向かってきた。その瞬間に広がる静寂の場…。周りからの視線はかなり痛いものだった。

ハヤト
「なぁ…シャイン。さすがに君は誰かに相談したほうがいいんじゃないのか?」

シャイン
「うっせぇよ。」

この日、僕は始めて学校を抜け出してしまった。色々な事が僕の脳内を圧迫し、思考力さえも奪う。僕にはもう耐える力は微塵もない状態だった。どこにいてもこの壮大な悩みは解けない。ただただ僕を苦しめ、精神を侵食する。

シャイン
「フ…フフフフフ。」

とうとう僕もおかしくなってしまったのか?
何故こうなったんだろう?ぅぅ…考えるだけでもダメみたいだ。どうする?ぅう…やはりダメだ。思考が働かない。いっそのこと死のうか?と思った矢先…。

うずくまる僕の目の前には…ハヤトがいた。

ハヤト
「はぁ…探しましたよ。全く…困った人ですね。本当に君は…。」

シャイン
「何…冷やかしか?」

ハヤト
「冷やかしって…。はぁ。やっぱり変わってないね。君は…。」

ハヤトは懐かしむように外を見渡す。その瞳には余裕すら感じられるような爽やかな奴の目だった。

シャイン
「なんのつもりだ?」

ハヤト
「そう硬くなるなよ。私は事実を言ってるだけだよ。君は何も変わっていない。」

シャイン
「何がいいたい?」

僕はその他人事のように語る彼のその口調に疑問を感じた。そして、少しの懐かしみも覚えた。以前にもこのような事があったのか?

ハヤト
「君はいつもね、悩みを抱えているとこの空き地に身を隠す習性があったんだよ。」

シャイン
「は?何言ってるんだ?」

ハヤト
「無理もない。君は記憶を長く放棄していたからね。」

僕はまた疑問に思う。記憶を放棄?そんなことができるのか?ただでさえこの苦悩に耐えることすら難しいこの状況下においてそれは僕が一番に疑問を抱いたことだ。

シャイン
「そんな事が…できるものか。」

ハヤト
「…。あいにく…君は10年間も記憶を放棄している。」

シャイン
「そんなことあるはずが_______」

瞬間、頭によぎる何か…過去へと忘却したはずの出来事が僕の脳に再生される。
その時、僕は目にした。自分に隠された、思い出すことすら許されなかった僕だけの負の思い出。

ハヤト
「どうした?何か思い出したか?」

シャイン
「うぅ…。な、なんなんだよコレは‼こんなの、僕じゃない‼僕じゃないんだよ‼」

否定した。全否定した。記憶を受け入れたくなかった。まさに恐怖。恐怖していた。10年前…僕は悩みを抱えてはこの空き地に身を隠す習性があった。これは紛れもなく事実らしい。
脳裏に再生されるそのビジョンがそれを物語る。

シャイン
「お前は…誰なんだ?」

ハヤト
「私はハヤトだよ。」

僕の記憶にはハヤトという友人はいない。ありえない。つい去年出会ったばかりだ。そんな事はありえない。

シャイン
「だから誰なんだって言ってるんだ‼っ!?________」

次々と投影されるそのビジョンはやがて拒絶していた脳のフィルターを通り越し、受け入れる。その瞬間…忘れていたはずの全てを思い出す。その記憶の中には身を覚えのない誰かの記憶まで混濁していた。

シャイン
「僕は…いや、俺は…うぐぐっ…僕は誰なんだ!?僕は一体…」

ハヤト
「思い出したのか…。10年前に起きたあの忘れたくても忘れられないあの悲劇を…」

シャイン
「ぁ、ぁあああああ‼」



僕は…10年前…。あの悲劇を見てしまった。受け入れられなかった。僕は良く悩みを抱えこむ少年だった。どんな悩みも耐えられる自信は自分にもあった。
だけどあの日、僕は忘れない。僕には妹がいた。名前は "エリー"2つ下の妹がいた。僕は彼女と幼い時から良く遊んだ。二人はいつも一緒だった。
だけどそんな幸福な日はそんなに長く続かなかった。とある休日にそれは起きる。
僕ら家族と友人のハヤトはその日、遊園地を巡る事にしていたんだ。もちろん楽しむ気でいた。
だけど現実は非情だった。
僕ら二人は外の風景を堪能したいがために僕はエリーの手を取って観覧車へと登った。…そこからの記憶はショックのせいかどうしても思い出せない。でも一つだけ言える事は…エリーは死んだということだ。

だが思ったよりは衝撃を受けなかった。長い年月が経ち、耐性が整っていたからかもしれない。

シャイン
「エリー…。」

ハヤト
「思い出したか…。そう、君には妹がいた。でもその妹を亡くし、一人では生きていくにはまだ耐えることが出来ない君は…全てを忘却して…」

シャイン
「お前を忘れ、皆を忘れたのか…。」

複雑な気持ちだ。今までにないこの虚無感…。
確かに分かる気がする。僕が、僕自身が記憶をシャットアウトしていたんだ。

ハヤト
「それだけじゃない…。当時は酷かったよ。彼女を亡くしてからというもの…感情そのものがなかった。でも今は違う…。去年、入学時に君をもう一度見たとき、君は生き生きしていた。でも…なんだか君は忘れているようにも見えた。」

シャイン
「僕にもよくわからないけど…そうみたいだね。」

覚えはないけど感覚はある。不思議だ。
こんな経験、滅多にないだろう。僕の生きてきた人生の大半が空白の時間だったなんて…。

ハヤト
「悪いな。でも仕方がなかったんだよ。こうでもしないと…君は君じゃいられなくなると思ったからね。」

僕に隠された事はまだありそうだ。じゃないと蘇った記憶の断片という断片に説明がつきそうにない。

シャイン
「つまり、僕は エリーの死によって…全てを忘却した、感情も何もかも…。」

ハヤト
「私もよくわからない…。けどまぁ…そうなのかもしれない。」

ハヤトは珍しく気落ちしていた。こんなハヤトは見たことがない。

シャイン
「ありがとな…。」

ハヤト
「ん…?」

シャイン
「感謝するよ。ありがとう。僕を想ってくれて…おかげで目が覚めたよ。僕はいかなきゃいけない。」

ぁあ…そうさ…。行かなくちゃならない。皆に顔を出さなくちゃいけない。こんなところで負の感情を掘り起こしている場合じゃない。確かに過去は変えられない。でも今ならいくらでもやり直せるはずだ。もう僕は振り返らない。前を向いて歩こう。

シャイン
「それじゃ僕は行くよ。」

ハヤト
「あぁ。いってこいよ。 忘れるな。お前は一人じゃない。」

一人じゃない…か。そうだな。僕の周りにはたくさんの人がいる。メルに、ユウタ、シィラに…先生…。うわロクな奴いない。いや、でもそれでも僕にとってみれば、大切なのかもな。

僕は走る。皆と再会するために…今ある時間を無駄にはしない。

ハヤト
「変わったな…。何もかも…。私も…変わるべきなのかもしれないな。」 
 

 
後書き
今回、とんでもない過去、主人公の秘密が明かされましたが、少々わかりづらいと思うので補足します。まぁ簡潔に述べますが。

・主人公シャインは10年前にハヤトと出会っていた。
→また、妹「エリー」がいたことも判明
→エリーの死によって自分をふさぎこんでしまう。よって記憶を一時的に放棄する
→記憶とともに感情などが抜け落ちてしまっている。
→成長とともに耐性が付き、更生していく。←今ココ。

とまぁなっているわけですね。まぁほかにもわからないことがありましたらなんなりと。
感想なども受け付けますので気軽に。

それから、この話はまだあと2話くらい続きそうですね。これからどうなるかは続きを見てから、ということで、引き続き11話も今日中に更新するつもりなのでよければ読んでください。
 
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