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Element Magic Trinity

作者:緋色の空
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デリオラと月の雫


「見れば見るほど不気味な月だね」

村長のモカが貸してくれた宿屋の窓からハッピーが空を見上げる。

「ハッピー、早く窓閉めなさいよ。村長さんの話、聞いてなかったの?」
「何だっけ」
「月の光を浴びすぎると僕達も悪魔になっちゃうんだよ」

そう言いながらルーが窓を閉め、ハッピーを抱えて座る。

「それにしてもまいったな」
「さすがに月を壊せってのはな・・・」
「うん・・・」
「僕、ギルドに入って10年経ったけど、こんな依頼初めてだよ」

月を壊す、というかなり無謀な依頼に戸惑う。

「何発殴れば壊れるか見当もつかねぇ」
「どれだけ空気の圧を加えれば壊れるか解らない」
「壊す気かよ!?」

・・・2名を除いて。

「無理なんだよ。月を壊すなんてよぉ」
「そうね・・・どんな魔導士でもそれは出来ないと思う」
「でも月を壊せっいうのが依頼だよ?」
「出来ねぇってんじゃ妖精の尻尾(フェアリーテイル)の名が廃る」
「出来ねぇモンは出来ねぇんだよ!第一、どうやって月まで行く気だよ」
「ハッピー」
「さすがに無理」
「んじゃあルー」
「ん~・・・魔力が空っぽになっちゃうだろうけど、行けるんじゃない?」
「無理だからっ!」

ルーの言葉にツッコみを入れるルーシィ。
そして自分の意見を口にする。

「『月を壊せ』っていうのは、きっと被害者の観点から出てくる発想じゃないかしら。きっと何か他に呪いを解く方法があるはずよ」
「だといいんだがな」

そう言うと、くあーっと眠そうに大きな欠伸をするグレイ。

「よし!だったら明日は島を探検だ!」
「今日は寝よう!」
「あいさー!」

ナツとルーとハッピーは勢いよく寝床に滑り込む。

「考えるのは明日だ・・・」

グレイもぱたっと寝床に伏せる。

「そうね。あたしも眠いし・・・寝よ」

目をこすりながらルーシィも寝床に入る。
ちなみに並びは左からグレイ、ルー、ルーシィ、ナツである。
ハッピーはルーシィの頭上だ。

「・・・って!こんな獣と変態と呑気男の間でどーやって寝ろと!?そもそも何で同じ部屋なのよ」

まぁ、そう言いたくもなるだろう。
周りにいるのは全員男、普通なら別室を用意してくれていてもいいはずなのだが・・・。

「・・・ん?」

後ろについた手に、ふわっとルーの手が触れる。
何気なく後ろを向いて・・・少し目を見開いた。

「泣い・・・てる?」

ルーの目から涙が一筋零れていた。

「母・・・さん・・・父さん・・・」

小さく呟かれた寝言に、前にアルカが言っていた一言を思い出す。

『ルーは・・・10年前に両親が殺されてんだ』















翌日。

「早ェよ」
「まだめっちゃ朝じゃねぇか」
「あと3時間くらい寝かせて・・・」
「誰のせいで眠れなかったと思ってるのよ!出発よ!出発!猫!起きろ!」
「あい」

結局あの後あまり眠れなかったルーシィは、まだ明らかに眠そうなメンバーを叩き起こし、早い時間に宿屋を出た。

「早いですね。辺りが悪魔だらけじゃ眠れませんでしたか?」
「そうじゃないの。気にしないで」
「月を壊す前に島を少し調査してぇ。開けてくれるか?」
「何!?やっぱり壊すのか!?」
「どうぞ。しかし気を付けてくださいね・・・森の中にある・・・」

何を思い出したのか門番がそう言う、が。

「あ・・・もう行っちゃったよ」

一同はもうかなり先に行っていたのだった。










「何だよォ!昨日あんなに月を壊すのは無理だって言ってたのによォ!」
「そうだよっ!昨日と言ってること違うじゃん!」
「無理だよ。村の人の手前、壊すって言ったんだよ。それに実際壊せるとしても壊さねぇ。月見が出来なくなるだろーが」
「そっか。妖精の尻尾(フェアリーテイル)特製月見ステーキもなくなっちまうのか!」
妖精の尻尾(フェアリーテイル)特製月見おでんも!?」
「オイラ、月見塩魚なくなると困るよ!」

何とも的外れな会話をする4人。

「ちょっとアンタ達。何がいるか解らないんだから大声出さないでくれる?」

それをルーシィが注意した。

「・・・と申しております」

・・・時計座の星霊、ホロロギウムに入った状態で。

「自分で歩けよ」
「そんな探検に向いてない格好してくるから・・・」
「お前星霊の使い方、それ・・・あってるの?」
「『だ、だって・・・相手は『呪い』なのよ。実体がないものって怖いじゃない!』・・・と、申しております」
「さすがS級クエスト!燃えてきたぞ!」
「やる気出てきたーーーーっ!」
「呪いなんか凍らせてやる。ビビる事ァねぇ」

怖気づくルーシィと裏腹にやる気満々の3人。

「『ホンット、アンタ等バカね・・・』と申しております」
「ねぇ、オイラも入りたい」

そうしてしばらく歩いていると、ガサガサ、と草が揺れる音が響いた。

「ん?」
「何だ?」
「近づいて来てる」

立ち止まる一同。
そして出てきたのは・・・。

「チュー」

ネズミだった。
黒いキャミソールの様なモノを身に纏い、ヘッドドレスをしたネズミである。
ただし、普通のネズミではない。

「ネズミ!」
「でかーーーーーーっ!」
「何あれーーーーっ!?」

そう。デカいのだ。

「『アンタ達、早くやっつけて!』と申しております」
「『あい』と申しております」

すると巨大ネズミはぷっくぅと頬を膨らませた。

「んにゃろォ!」
「なんか吐き出すみたいだよっ!」
「俺のアイスメイク、(シールド)で・・・」

グレイが氷の盾を造形し防ごうとするが、時すでに遅し。

「ぷはぁ~~~~~~っ!」
「んがっ!」
「もげっ!」
「あぎゅっ!」

ネズミが吐き出したのは息だった。
しかし3人は奇声を上げる。
ネズミが吐いたのはただの息ではない・・・とんでもなく臭い息だったのだ。

「『ちょっと!3人ともどうしたの!?』・・・と申し・・・んがっ!」
「?」
「きゃーーーーーー!」

あまりの臭さにホロロギウムも倒れ、星霊界に帰ってしまう。

「くさーっ!何だ、この臭いはぁ~!」
「・・・」
「ナツ!?あ、そうか!ナツは僕達より鼻いいから・・・!」
「逃げろーーーーーっ!」
「ひいいいっ!」

あまりの臭さに逃げる一同。
そしてそれを追いかける巨大ネズミ。
どこまで逃げても追いかけてくる巨大ネズミを少し見て、グレイは地面に手を付く。

「ちっ!アイスメイク、(フロア)!」

左手を下に重ね合わさった手から氷が現れ、地面を凍らせる。
すると、当然ネズミはつるんっと滑り盛大にこけた。

「ナイス!」
「よしっ!」
「あ!見て!何か建物がある!今のうちにあそこに入りましょ!」

そう言ってルーシィはとある建物を指さす、が。

「「「今のうちにボコるんだ」」」

ナツとグレイとルーは先ほどの仕返しに巨大ネズミをフルボッコにしていたのだった。








気が済むまでネズミをボコった後、一同は建物の中に入っていった。

「うわー、広いね・・・」
「ボロボロじゃねぇか」
「いつの時代のモンだコリャ」

中は崩れた岩が散乱し、雑草・・・にしては大きい草が生えていた。

「見ろよ。なんか月みてぇな紋章があるぞ」
「この島は元々『月の島』って呼ばれてたって言ってたしな」
「月の島に月の呪い・・・月の紋章」
「この遺跡はなんだか怪しいわね」
「ルーシィ、見てー」
「アンタは犬か!」

どこからか拾って来た骨を見せるハッピーにツッコむルーシィ。

「それにしてもボロいな・・・これ、地面とか大丈夫なのか?」
「ちょっと!止めなさいよ!ボロいんだから!」

ルーシィの静止も聞かず、ナツは勢いよくガンッと右足を叩きつける。
すると床がべこんっと音を立てて突き抜け、全員が落下した。

「バカーーーーーー!」
「なんて根性のねぇ床なんだァァ!」
「床に根性もくそもあるかよ!」
「ハッピー!何とかならないの!?」

ルーシィは空を飛べるハッピーに助けを求める、が。

「・・・」
「食べられるモンじゃないからー!それー!」

先ほど拾った骨を喉に詰まらせていた。

「よーしっ!ここは僕が・・・」

ルーが左手に緑色の光を灯して叫んだ、その時。

「ゴッ!?」

落下してきた瓦礫がルーの後頭部を直撃した。

「「「ルー!?」」」
「きゅぅぅ・・・」

そのままルーは目を回して気絶する。
結局、全員はそのまま落ちていった。








山になった瓦礫の下から、ナツがぷはっと顔を出した。

「おい・・・皆、大丈夫か?」
「・・・うぅ・・・何とかぁ・・・」
「ハッピーがヤバい!別の原因で」
「・・・」
「テメェ!何でいつも後先考えねぇで行動しやがる!」

気絶していたルーも何とか無事だが、ハッピーはまだ骨を喉に詰まらせていた。

「ねぇ・・・ここ・・・ドコなの?」
「あが・・・ふが・・・」
「さっきの遺跡の地下みてーだな」
「秘密の洞窟だーっ!」
「よし、止血完了」

ルーシィがハッピーの喉に詰まった骨を取りながら問う。
ルーも完全に傷口を塞ぎ終えた。

「せっかくだからちょっと探検しよーぜ」
「とれた!」
「神っ」

漸くハッピーの喉から骨がとれた。

「おい!これ以上暴れまわるんじゃねぇ!」
「うおおおっ!・・・お?」
「えっ?」

ナツとルーは奥まで進み、目を見開いた。

「ん?」
「?」
「どうした?」
「な、何だ?あれ・・・」
「な・・・!」
「え・・・!?」

「それ」を目にした全員が目を見開き、絶句する。
全員の視線の先にあった物、それは・・・。





「でけぇ怪物が凍りついてる!」




先ほどの巨大ネズミより遥かに大きい怪物が凍っているという、異様の光景だった。
今にも動き出して襲い掛かって来そうな迫力がある。

「デリオラ・・・!?」

その光景に誰も何も言えなくなっている状態の時、グレイが叫んだ。

「「「え?」」」
「バカな!デリオラが何でここに!?」
「デリ・・・?」
「知ってんのか?コイツ」

ルーが首を傾げ、ナツがグレイに問うが、グレイは答えない。
ギルドの中では冷静な分類に入るグレイが取り乱していた。

「あり得ねぇ!こんな所にある訳がねぇんだ!あれは・・・!あれはっ!」
「ちょっと・・・!落ち着いて、グレイ!」
「グレイ?」
「ねぇ・・・何なの、コイツは!?」

ようやく落ち着き、グレイは小刻みに震えながら怪物の方を向く。

「デリオラ・・・厄災の悪魔・・・」

それがこの怪物の名だった。

「厄災の悪魔・・・?」
「あの時の姿のままだ・・・どうなってやがる・・・」

すると、そこにカツカツカツ・・・と足音が響いてきた。

「しっ、誰か来たわ!」
「ひとまず隠れよ!」
「なんで?」
「いいから!」

全員は岩場に姿を隠す。

「人の声したの、この辺り」
「おおーん」

そこに来たのは青髪に太い眉毛の男と、右腕に「さしみ」と書かれていて犬耳をした男だった。

「昼・・・眠い・・・」
「おおーん」
「お前、月の雫(ムーンドリップ)浴びてね?耳とかあるし」
「浴びてねぇよっ!」

眉毛男の言葉にキレる犬耳男。

「飾りだよ!解れよっ!」
「からかっただけだ、バカ」
「おおーん」

そんな会話をしながら2人は辺りをうろつく。

月の雫(ムーンドリップ)?」
「呪いの事かしら?」

ルーとルーシィが2人の会話に出てきた単語に首を傾げる。
すると、そこにもう1人現れた。

「ユウカさん、トビーさん。悲しい事ですわ」
「シェリー」
「おおーん」
「アンジェリカが何者かの手によって甚振られました・・・」
「ネズミだよっ!」

「甚振られた」「ネズミ」の単語から、アンジェリカとは先ほどの巨大ネズミの事だろう。

「ネズミじゃありません・・・アンジェリカは闇の中を駆ける狩人なのです。そして、愛」

やってきたのは赤紫の髪をツインテールにしてゴスロリ服を着た『シェリー』と呼ばれる女性だった。『ユウカ』とは眉毛男、『トビー』とは犬耳男の事だ。

「強烈にイタイ奴が出てきたわね」
「アイツ等、ここの島のモンじゃねぇ・・・ニオイが違う」
「うん・・・それに呪われてる感じがしないよ」
「あの耳の人はよく解んないけど・・・」

ルーシィとナツ、ハッピーとルーが3人組について話し合う。

「侵入者・・・か」

ユウカが発した「侵入者」の言葉にドキッとするメンバー。

「もうすぐお月様の光が集まるというのに・・・なんて悲しい事でしょう・・・」

シェリーはデリオラを見上げ、その後ユウカとトビーの方を向く。

「『零帝様』のお耳に入る前に駆逐いたしましょう。そう・・・お月様が姿を現す前に・・・」
「だな」
「おおーん」
「デリオラを見られたからには生かしては帰せません。侵入者に永遠の眠り・・・つまり『愛』を」
「『死』だよっ!殺すんだよっ!」

そんな会話をしながら3人は去っていき、一同はそれを見計らって岩陰から姿を現す。

「何だよ。とっ捕まえていろいろ聞き出せばよかったんだ」
「それが早かったよね」
「まだよ。もう少し様子を見ましょ」
「なーんか、ややこしい事になってきたなァ」
「何なんだろうね、アイツ等」

すると、ずっと黙っていたグレイがゆっくり口を開く。

「くそ・・・アイツ等、デリオラを何の為にこんな所に持ってきやがった。つーか、どうやってデリオラの封印場所を見つけたんだ・・・」
「封印場所?」
「ここで封印されたんじゃないの?」

ルーが首を傾げる。

「コイツは北の大陸の氷山に封印されていた」
「え?」

ルーシィが聞き返す。

「10年前・・・イスバン地方を荒らしまわった不死身の悪魔。俺に魔法を教えてくれた師匠『ウル』が命をかけて封じた悪魔だ」

その言葉にグレイ以外の4人が驚愕で目を見開く。

「この島の呪いとどう関係してるのか解らねぇが・・・これはこんな所にあっちゃならねぇモノだ」

グレイの握りしめた右の拳から冷気が溢れ出る。

「零帝・・・何者だ・・・ウルの名を汚すつもりなら、ただじゃおかねぇぞ!」

そう言ったグレイは今まで見た事のない様な怒りの形相だった。

「お前の師匠が封じた悪魔だァ?」
「あぁ・・・間違いねぇ」
「元々北の大陸にあった物がここに運ばれた?」
「もしかして島の呪いって、この悪魔の影響なのかしらね」
「考えられなくもねぇ。この悪魔はまだ生きてるんだしな」
「おし」

ナツはニッと笑った。

「そーゆー事なら、この悪魔をぶっ倒してみっか」
「アンタは何で力でしか解決策を思いつかないのよ」

右腕をグルグル回して準備運動をするナツを呆れたように見るルーシィ。
そんなナツをグレイは一睨みし・・・。

「どぅおっ!」

勢いよくナツを殴った。

「グレイ!テメェ・・・何しやがる!」
「火の魔導士がこれに近づくんじゃねぇ。氷が溶けてデリオラが動き出したら、誰にも止められねぇんだぞ」
「そんなに簡単に溶けちまうものなのかよ!」

ナツに怒鳴られ、ハッとするグレイ。

「大丈夫?」
「おい!殴られ損じゃねぇか!凶暴な奴だな」
「ナツが言っても説得力ないよ」

腹を立たせているナツにルーが呟く。

師匠(ウル)はこの悪魔に『絶対氷結(アイスドシェル)』っつー魔法をかけた」
絶対氷結(アイスドシェル)・・・アルカから聞いた事あるよ。それは溶ける事のない氷なんだよね」
「あぁ。いかなる爆炎の魔法をもってしても溶かす事の出来ない氷だ」
「でも、溶かせないって知っててどうして持ち出したんだろ?・・・はむはむ」

どこから取り出したのかメロンパンを頬張りながら呟くルー。

「知らないのかもね。何とかして溶かそうとしてるのかも」
「何の為にだよっ!」
「し、知りませんけど・・・」
「グレイ。顔怖い」

すごい形相のグレイに怯えるルーシィ。
ルーはメロンパンの袋をもう1つ開いてかじる。

「ちっ!くそっ・・・!調子でねぇな。誰が何の為にデリオラをここに・・・」
「零帝、でしょ?そんな別名を持ってる人、僕は知らないよ・・・むぐむぐ」

メロンパンの最後の一欠片を呑み込み、今度は焼きそばパンの袋を開くルー。

「簡単だ。さっきの奴等追えばいい」
「そうね」
「それがいいかも」
「いや」

ナツの案にルーシィとルーが頷くが、グレイだけは否定する。

「ここで待つんだ」
「え?」
「月が出るまで待つ」

その言葉にナツとルーは目を見開いた。

「月・・・ってまだお昼だよ!?」
「無理無理!ヒマ死ぬ!」
「グレイ、どういう事?」
「島の呪いもデリオラも、全ては『月』に関係してると思えてならねぇ。奴らも「もうすぐ月の光が集まる」とか言ってたしな」
「そっか・・・確かに何が起こるか、アイツ等が何をするか・・・」
「気にはなるね」

そう言ってルーシィとルーは納得するが、納得していない人が1人。

「俺は無理だ!追いかける!」

口から小さく炎を吐いてそう言うナツ、だが。

「ぐがーーーぐるるるーーーがるるるーーー」

数分後には寝息を立てていた。

「本当・・・コイツって本能のままに生きてるのね」
「あい」
「それがナツのいい所だよ」

そんなルーシィ達から少し距離を置き、デリオラの足元に座るグレイは師匠ウルの事を思い出していた。

『グレイ・・・ついてこれるか。私の修行は厳しいぞ』
『おう!何だってやってやらァ!』

・・・一方、ルーシィ達は完全にヒマ状態と化していた。

「はぁー、待つとは言ったものの・・・ヒマね、やっぱり」
「あい」
「お腹空いたならパンあるよ?食べる?」

ルーの背負っていたリュックサックにはさまざまな種類のパンが詰まっていた。
だがそれをスルーし、ルーシィは何かを思いついたのか、ぱんっと手を叩く。

「開け!琴座の扉・・・リラ!」

そして現れたのは、ハープを背負った少女だった。

「キャー!超久しぶりィ、ルーシィー!もぉっ!たまにしか呼んでくれないんだもーん!」
「だってアンタ、呼べる日って月に3日くらいじゃない」
「また変なの来た」
「えぇっ!?そうだっけぇ!?」

星霊にも都合がある為、呼べる日は限られている。
例えばアクエリアスは水曜日しか呼べないし、このリラは第2水曜と第3木曜、金曜に呼び出せる。
(アクエリアスは原作途中で呼び出せる日が増えたそうです。by作者)

「でぇ?今日は何の詩、歌ってほしい?」
「何でもいいわ。任せる」
「オイラ、魚の歌が良い!」
「じゃあてきとーに歌うわね!イェーイ!」
「リラはすっごく歌上手いのよ」
「ミラだって上手だよ。魚の歌歌ってくれるし」
「ティアもね」
「え!?ティアって歌歌うの!?」

驚愕の事実にルーシィが驚く。

「うん。たまに口ずさんでるでしょ?」
「知らないけど・・・」
「オイラも」
「知らないの?えっと・・・グロリア=K=サラン・フォルジャフーって人の歌」
「長い名前ね・・・」

そんな会話をしている間にも、リラはハープを奏で始めた。

「♪生まれる言葉・・・消えゆく言葉・・・あなたの中に~生き続ける言葉~立ち止まりそうな時~勇気へと変わる~さぁ歩き出そう・・・あの時よりあなたは強くなっているから・・・もう迷わないで・・・あの時の言葉を・・・信じて・・・」

リラの歌を聴いていたルーはふとグレイの方を見て・・・空のカレーパンの袋を落とした。

「グレイ・・・?」
「あ?何だよ」
「どうして、泣いてるの?」

そう。
リラの歌を聴くにつれ、グレイが静かに涙を流していたのだ。

「確かにリラは人の心情を読む歌が得意だけど・・・」
「グレイが泣いた」
「泣いてねぇよ!」

誤魔化す様にグレイが怒鳴る。

「もっと明るい歌にしてよ、リラ」
「え~!?だったらそう言ってぇ」
「つーか、よく考えたら誰か来たらどーすんだよ。黙ってろ」







それから数時間。
仮眠などで時間を潰していると、ゴゴゴゴゴ・・・と地鳴りのような音が響いた。

「何の音?」
「夜か!」

目を擦るルーシィとがばっと勢いよく起き上がるナツ。

「あっ!天井が・・・!」

ルーが天井を指さす。
すると、徐々に天井が開いてきた。
そこから紫の光が差し込む。

「開いた!」
「紫の光・・・月の光か!?」
「何だこれ!どうなってんだーっ!」

そして強い光が辺りを包み、その光は太い柱の様になり、デリオラに当たる。

「月の光がデリオラに当たってる!」
「絶対偶然じゃないよ!」
「行くぞ!光の元を探すんだ!」
「オウ!」

グレイを先頭に走り、次々に階段を上る。
すると、先ほどナツが地面を壊した場所まで辿り着いた。

「この遺跡の真ん中には穴が開いてたのか!」
「もっと上だ!」

そしてさらに上に行き、遂に外に出てきた。

「何だアレ」
「しっ」

そこには覆面をした大勢の人が両手を広げ、月の光を囲んでいた。

「クーペラ~・・・クーラカ~・・・ジエラム・・・セム・・・デイオルーナ・・・クーペラ~・・・クーラカ~・・・」

奇妙な呪文を唱えながら。

「月!?本当に月の光を集めてんのか、こいつ等!」
「それをデリオラに当てて・・・!?どうする気!?」
「べリア語の呪文・・・月の雫(ムーンドリップ)ね」

突然そう呟いたのは、先ほどの星霊リラだった。

「アンタ・・・まだいたの?」
「そっか、そういう事なのね・・・」

何かを納得したリラは、ゆっくりと口を開く。

「こいつ等は月の雫(ムーンドリップ)を使って、あの地下の悪魔を復活させる気なのよ!」
「何!?」
「あ、そういう事か!」

ルーも解ったのか相づちを打つ。

「バカな・・・絶対氷結(アイスドシェル)は溶けない氷なんだぞ」
「その氷を解かす魔法が月の雫(ムーンドリップ)なのよ」
「1つに収束された月の魔力は如何なる魔法をも解除する力を持っているんだ」
「そんな・・・」
「アイツ等・・・デリオラの恐ろしさを知らねぇんだ!」
「この島の人が呪いだと思ってる現象は月の雫(ムーンドリップ)の影響だと思うわ」
「そっか。1つに集まった月の魔力は人体をも汚染する。それほどの強力な魔力だもんね」
「アイツ等ァ・・・」
「待って!誰か来たわ!」
「うごっ」

今にも飛び出しそうなナツの首に腕をゴスッとぶつけ止めるルーシィ。
そこに来たのは昼間の3人・・・シェリーとユウカとトビー。それと仮面をつけた1人の男だった。

「くそ・・・昼起きたせい、眠い」
「おおーん」
「結局侵入者も見つからなかったし」
「本当にいたのかよっ!」

昼間に似た会話をするユウカとトビー。

「悲しい事ですわ。零帝様」

どうやら、この仮面をつけた男が零帝らしい。

「昼に侵入者がいた様なのですが・・・取り逃がしてしまいました。こんな私には愛は語れませんね」
「侵入者・・・」
「!」

小さく零帝が呟く。
そしてグレイはその声に敏感に反応した。

「アイツが零帝か!?」
「えらそーな奴ね。変な仮面付けちゃって」
「ティアの嫌いなタイプだよ」
「そっかなぁ。カッコいいぞ」

そんなグレイに対し、4人は零帝に関する感想をそれぞれ述べる。

「デリオラの復活はまだなのか」
「この調子だと今日か明日には・・・と」
「どっちだよ!」

どうやらトビーはキレやすい性格らしい。

「いよいよなのだな・・・」

零帝の口に小さい笑みが浮かぶ。
グレイは変わらず目を見開いていた。

「侵入者の件だが、ここにきて邪魔はされたくないな」
「えぇ」
「この島は外れにある村にしか人はいないはず」

そう言うと零帝は、右手を村のある方に向けた。




「村を消して来い」




「はっ!」
「了解!」
「おおーん!」

その命令にだっと走り出す3人。
それを聞いて、ナツ達は当然慌てる。

「何!?」
「村の人達は関係ないのにっ!ど・・・どうしよう!」

零帝は先ほどと同じように薄い笑みを浮かべる。

「血は好まんのだがな・・・」

その声を聞いたグレイは驚きに目を見開いていた。

「この声・・・オイ・・・ウソだろ・・・?」 
 

 
後書き
こんにちは、緋色の空です。
意外に恋愛要素を入れてほしい、という意見が多く、ティアの相手に頭を悩ませる毎日・・・。
まぁ、それは置いといて。

感想・批評、お待ちしてます。 
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