| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

DQ4TS 導く光の物語(旧題:混沌に導かれし者たち) 五章

作者:あさつき
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

五章 導く光の物語
  5-44濡れ衣を着せられて

 牢屋のある地下から出てきたところでシスターに行き合い、涙ながらに詰め寄られる。

「……あなたたちは!……どうか!どうか、返してください!あのブロンズの十字架は、全てを捧げて神の教えを説いてきた私の働きを、女王様が認めてくださって。その(あかし)として与えられた、私の宝物なのです!」

 切々と訴えるシスターに、一行は困惑して顔を見合わせる。

「あら、あら。困ったわねえ。」
「私たちでは無いと、言い返すのは簡単ですが。余程大切な物で、心の支えでもあったのでしょうね」

 トルネコとクリフトが小声で言い合い、少女がシスターに歩み寄る。

「……わたしたち。盗ってない。あなたの大切な物を、もしも持ってたら。返したいけど。でも、持ってないの」

 真っ直ぐに、悲しそうな瞳で話す少女の様子に、シスターが怯む。

「うっ……。こ、こんな子供を使って、罪を誤魔化そうとするとは!卑怯ですわ!」
「みんなは、そんなことしない」
「ユウ」

 ミネアが少女の肩に、宥めるように手を添える。

「いいんですよ。状況と、彼女の気持ちを思えば仕方のないことです。シスター、申し訳ありません。知らぬこととは言え疑いを招くような状況を作り、あなたに疑心を抱かせてしまったのは、確かに私たちの責任です。罪が晴れるまで、疑いは疑いのままで構いませんが。ここは、引いて頂けないでしょうか」

 美貌の青年に穏やかに語りかけられ、シスターの頬が赤らむ。

「そ……それは……。私とて、何も罪を糾弾したいというわけでは……。でも、そんな、当然濡れ衣のような……それではまるで、私が……」

 視線を僅かに下げ、言い淀むシスターに、ライアンが歩み寄る。

「ことの真偽は、いずれ明白になるでしょう。被害者たる貴女が、そのことにお心を煩わせる必要はありません。貴女が我々を疑われようと、信じてくださろうとも。どちらにしても、貴女の宝はきっと、貴女の手元にお返しします。どうか、今暫く。お待ち頂きたい」

 至近距離で凛々しい麗人に真摯に訴えられ、シスターは一気に血が上ったように真っ赤になる。

「……わかりました!十字架さえお返しいただければ、何がどうでも、問題ありませんから!お待ちしております!」

 焦ったように早口で言い放ち、踵を返してシスターが走り去る。
 その背中を見送り、ライアンが呟く。

「はて。何か、不味いことを言っただろうか」
「……どうして、そう思うんですか?」
「どうも、怒らせてしまったようなので」
「……あれが、怒ったように見えるんですね……」
「違うのか」
「明らかに違いますが、説明が必要でしょうか」
「いや。今はそれどころではあるまい」
「そうですね」

 ライアンの呟きにミネアが返して話を終わらせ、改めて口を開く。

「ともかく。兄さんがいないとこんなにも穏便に話が済むという喜びも噛みしめたいところですが、今はそれよりも。まずは、情報を集めましょう」
「うむ。城内に怪しい者はおらぬということであったが。奴めの姿を見知る我らが聞き回れば、行き先について新たな情報が得られるやも知れぬでな」


 城内で話を聞き回り、真犯人と思われる男が南の方角に去っていったこと、男が去った方角は岩山に囲まれて行き止まりになっており、洞窟があるだけであることを聞く。

「ふむ。正に、袋の鼠じゃの」
「逃げるならば、キメラの翼でも使ってすぐに国外に逃げれば良さそうなものですのに」
「我々に罪を(なす)り付けたことで、油断して居るのでしょう。或いは我々が裁かれる間の城内の隙を突き、再度盗みを働くつもりやも知れません」
「わざわざ盗みに入って盗ったものが、金銭的にはさほど価値のないブロンズの十字架だけというのもおかしな話ですからね。本当に、そうかもしれません」
「洞窟に潜るのか!あの男もそれなりに強そうだったし、腕が鳴るな!」
「どうせ潜るなら、お宝なんかも取っておきたいわねえ。旅をするには、やっぱり先立つものが必要だし。珍しい装備品も、あるかもしれないし。」
「どろぼうさんを、捕まえに行くのよね?それなら誰か、外で見張ってたほうが、いいね」
「そうか。捕縛のために、ライアンは行ったほうがいいだろうからな。それなら、残念だが俺は外に残るか。万一取り逃がした時に追うならば、俺が適任でもあるからな」
「兄さんがいなくて、攻撃魔法が得意なのはブライさんだけになりますからね。ブライさんに洞窟に向かってもらうとすれば、残る側の攻撃力に不安が出ますから。アリーナが残ってくれるなら、安心ですね」
「アリーナ様が残られるなら、私も残りますわ。ブライ様が向かわれるなら、尚更」
「そうですね。それでは回復役で向かうのは、私ということで」
「見張りは、たくさんはいらないね。わたしも、行くね」
「人数のバランスは悪くなるけれど、お宝を探すんだから!あたしの特技で、ブロンズの十字架がある方向も、わかるかもしれないし。あたしも、行くわ!」
「残るのが、アリーナとクリフトだけになるのね。……大丈夫?やっぱりわたしも、残ったほうがいい?」
「別に問題無いだろう。少ないほうが、待っている間も遠慮無く魔物が倒せるからな!万一の回復役だけ、残してもらえば」
「そう。……うん、アリーナなら大丈夫ね。クリフトも、いい?」
「……アリーナ様と……ふたりで……はっ!だ、大丈夫です!問題ありません!」
「そう。それじゃ、よろしくね」



 一行は城を出て南の洞窟に向かい、アリーナとクリフトのふたりを見張りに残して、洞窟の探索を開始する。

「まずは、あっちよ!あっちから、お宝のにおいがするわ!」
「ふむ。張り切っておるの、トルネコ殿」
「もちろんですわ!お金もお宝も、あって困るものではないんだから!稼げるときに、稼いでおかないとね!」
「そうですね。装備を整えるのに、かなりお金がかかったところですから。見張りがいる以上は、取り逃がす心配もさほどありませんし。取れる物は取っておきましょう」
「とは言え、危険ですから。あまり突出はされませんように」
「そうね。あたしも体力はあるとはいっても、無理してご迷惑をかけるのではね。気を付けますわ。」


 トルネコが宝のある方角を示し、ライアンと少女が先に立ってミネアが殿(しんがり)を務め、一行は洞窟を進む。

「小さなメダルに力の種、それに千ゴールドちょっとのお金ね。悪くはないけれど、よくもないわねえ。次の階は、もっといいものがあるといいんだけれど。」
「そうですね。先ほど魔物から奪った宝箱には、なにが入っていたんですか?」
「理力の杖ね。魔法の使い手がこれで攻撃すれば、魔力を消費することで、高い攻撃力を発揮できるものなんだけれど。元々の力がそう強いわけではないんだから、これを使うくらいなら、魔法で攻撃したほうが強い場合が多いのよねえ。魔法が効かない相手向けの護身用としては、悪くないのだけれど。それも前衛向きの仲間がいれば、あまり必要ないものね。これは、売ってしまってもいいかしら。」
「そうじゃの。攻撃するにしても、攻撃力よりも特殊効果を狙うほうが有効な場合も多いでな。強いとは言えマグマの杖には劣るであろうし、必要無かろう」
「しかしトルネコ殿が、あのような素早い動きをされるとは。驚きました」
「宝箱が、目に入ったときだけはね。なんでだか、体が動いちゃうのよねえ。」
「そうなの。すごいね。でも、無理しないでね」
「大丈夫よ。無理なようなら、そもそも目にも入らないもの。」


 魔物を倒して戦利品を回収しながら、更に先へと進む。
 宝箱を開けたトルネコが、声を上げる。

「まあ!鉄仮面ね!買うと結構、高いのよね!これはライアンさんに、ちょうどいいわね!」
「ふむ。顔が隠れてしまうのは、残念じゃがの。剥き出しで傷付くことを思えば、そうも言っておれまいの」
「ユウ殿には天空の兜がありますからな。有り難く、使わせて頂きます」


 更に次の宝箱を開けて、またトルネコが声を上げる。

「まああ!ドラゴンシールドよ!買おうかと思っていたけれど、買わなくて正解ね!さ、ライアンさん。持ってみてちょうだい。どうかしら?調整は、いりそう?」
「有り難うございます。ふむ。問題ありません」
「それなら、よかったわ。町に戻ったら念のため、防具屋さんで見てもらいましょう。」
「ライアンさんの守りはすっかり固くなりましたね。鉄仮面は、視界が狭くなりそうですが。捕獲には問題ありませんか?」
「なんの。これしきのことで動きに支障が出るような、柔な鍛え方はしていない」
「そうなの。ライアンは、すごいね。鎧もあるし、わたしなら、ちゃんと動けないかも」
「体格の問題もありますゆえ。ユウ殿も大人になりさえすれば、何の支障も無いでしょう」
「そうかな」
「はい」


 宝箱の回収を終えて進んだ次の階は小さな部屋になっており、部屋の中央に(しつら)えられたベッドでは、目的の男が眠っていた。

「……寝てる、ね」
「まだ、外は明るいというのに。すぐに遠くに逃げないことといい、どうにも行動が。大胆と言えばいいのか、大雑把と言うか」
「暗くなってから、城に侵入するつもりでは無いのかの」
「あの城は、夜には締め切ってしまい、より侵入が難しくなります。きちんと調べておれば、そのようなことは考えぬでしょう」
「あらあら。他に目的があるとして、下手な物を盗んでもやりにくくなるだけでしょうに。ちょっと、うっかりさんなのかしらね。」
「ともかく、起きないならば好都合です。今のうちに縛り上げてしまいましょう」

 ライアンの言葉に頷き合い、気配を消したライアンが男に近付く。

 あと少しで手が届こうというところで男が目を覚まし、飛び起きる。

「……しまった!」
「待て!抵抗するな!」

 ベッドから飛び降り、出口に走ろうとした男の進路をすぐさまライアンが遮り、逃亡を阻む。

「大人しく縛に就けば、手荒な真似はしない。無駄な抵抗は止めろ」
「ちっ!大人しく牢に捕らわれていれば良かったものを!」

 男が武術の型を取って抵抗の構えを見せ、ライアンも武器を構える。

「多勢に無勢と、見てわからぬものか」
「この盗賊バコタ様を相手に、少しの数を揃えたところで勝ったと思うな!来るなら、来い!」
「ならば、遠慮は要らんな」

 ライアンが一歩踏み出し、距離を詰めようとしたところで、男の口元が笑いに歪む。

「馬鹿め!ヒャダ」
「あらやだ、ごめんなさい!」

 男の背後に回り込んでいたトルネコが、何かを言いかけた男の口を塞ぐ。

「むぐ!むぐぐ」
「ごめんなさいねえ。魔法なんか使われちゃうと、面倒だし。すぐ、離しますから。あら、よいしょっと。」

 ライアンが攻撃の間合いに入り、斬りかかったところでトルネコが手を離し、男から距離を取る。

「ぐっ……卑怯な手を!」
「ルカニ」
「ごめんなさい。マーニャが、待ってるの」
「ぎゃあああ!」

 トルネコの妨害の後にライアンの攻撃を受け、怒りの言葉を吐きかけた男にブライが魔法をかけ、更に少女が攻撃を重ねる。

「ぐっ、ま、待て」
「ルカニ」
「抵抗するなら、出来ぬようにするまでのこと」
「ぎゃあああ!だから、ま」
「あらやだ、転んじゃったわ。」
「ぎゃあああ!なんでそう都合良く、武器が」
「まだ、倒れないのね。ごめんなさい」
「うぎゃあああ!!」

 トルネコが転んで手放した武器が運良く男に向かって飛んでいって大打撃を与え、ブライの魔法による弱体化もあり、集中攻撃を受けた男はあえなく倒れる。

 割り込む隙も無く事態が収拾し、ただ眺めるしかなかったミネアが呟く。

「……これは、ひどい……」
「抵抗せねば、痛い目も見なかったものを」
「……大丈夫?……うん、生きてる」
「このような輩をも心配するとは。ユウちゃんは、優しいのう」
「ちょっと、やりすぎちゃったかしらねえ。でも、生きてるんだものね。生きてれば、どうにでもなるわよね。」
「治したほうが、いいかな?」
「また抵抗するやもしれません。捕縛し、城に連れ帰ってからで十分でしょう」

 そうこうするうちに上階から足音が響き、女兵士が駆け込んで来る。

 女兵士が姿勢を正し、一行に一礼して口を開く。

「お見事でした!」
「ふむ。出てこられたか」
「ずっと、ついてきてたの。あなただったのね」
「お気付きでしたか。気配は消したつもりでしたが」

 ライアンと少女の言葉に、女兵士が罰の悪そうな顔をする。

()け回すような真似をして、申し訳ありません。女王陛下のご指示で、皆さんがお困りのようであればお助けするようにと。全く必要はありませんでしたが。この男は、私が連行いたしましょう」

 女兵士は意識の無い男に歩み寄って縛り上げ、懐を探ってブロンズの十字架を見付け出す。

「やはり、この男が犯人で間違い無いようです。おい!起きろ」

 女兵士に小突かれ、男が呻き声を発して目を覚ます。

「証拠の品は、既に押収した。言い逃れは出来んぞ。大人しく」
「ああああ!!助かった!!助けてくれ!!なんでも、言うことを聞くから!!」

 男が取り乱し、傷付き縛られ不自由な体をなんとか動かして女兵士に迫る。

「な、なんだ。どうした」
「助けてくれ!!殺される!!オレが、悪かったから!!」
「つ、罪を認めて、償うと言うのなら。何も、殺されることは無いだろう」
「そうか!なら、早く!早く、連れて行ってくれ!あいつらから、早く離れさせてくれ!!」
「そ、そうか。大人しく着いてくると言うのだな」

 必死に訴える男の様子に当惑しながらも、女兵士が男を引き起こし、一行に向き直る。

「では、私はこれで。先に戻って報告しておりますゆえ、皆さんはどうぞごゆっくり。では、御免。リレミト」

 怯える男を連れて女兵士が脱出の魔法を使い、姿を消す。

 一連の流れを微妙な顔で見送っていたミネアが、口を開く。

「……では。私たちも、戻りましょう」
「待ってちょうだい!せっかく来たのだから、この部屋も探していきましょう!なにか、いいものがあるかもしれないわ!」
「そうじゃの。ならば、手っ取り早く魔法で探すとするかの。レミラーマ」

 ブライの詠唱で魔法力が部屋に散り、三ヶ所で光を放つ。

「あら、三つもあるのね。なんだか、得した気分だわねえ。どれどれ。……あら!疾風のバンダナね!これを身に付けると、素早く動けるようになるのよ!他の防具を身に着けるのに邪魔になるものではないし、いいものがあったわねえ!」
「あの……それは、彼の……」
「さて、あとはなにかしら。小さなメダルに聖水ね、まあ大したものではないけれど、文句を言ったらバチが当たるわね。」
「ふむ。もう、良いかの?」
「そうですわね!もう、お宝のにおいもしないし。もう、用はありませんわね!」
「……」

 さらに微妙な顔になって黙り込むミネアに、ライアンが声をかける。

「……あの男も、もうここに戻ることも無いだろう。余計な手間をかけられた駄賃ということで、どうだろうか」
「……そうですね。洞窟に残された宝の一部とでも思えば、いいですね……たぶん……」
「さて、我らも脱出するぞよ」


 ブライもリレミトを使い、一行は洞窟を脱出する。 
 

 
後書き
 真犯人を捕らえて引き渡し、一行は城へと引き返す。
 孤高の女王から一行へと、託されるもの。

 次回、『5-45託されるもの』。
 10/26(土)午前5:00更新。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧