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DQ4TS 導く光の物語(旧題:混沌に導かれし者たち) 五章

作者:あさつき
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五章 導く光の物語
  5-43女王の国で

 女性の国ガーデンブルグの城門を通過し、城内に足を踏み入れる。
 久しぶりの旅人、しかも若く見目の良い男性複数と凛々しい麗人を含む一行に、驚きと興味、好奇心と羨望、秋波と嫉妬等々が複雑に入り交じった視線が集中する。
 バトランドでは気後れしたように首を竦めていたクリフトが、主を護るように毅然とアリーナの側に立ちはだかる。

 ピリピリと周囲を警戒するクリフトを他所にして、気にした様子も無いトルネコが口を開く。

「天空の盾は、ここの女王様に贈られたというんだから。まずは、女王様にお話を聞いてみないとね!」
「そうじゃの。簡単に贈られた物とは言え、簡単に手放すとは思えぬが。ともかく、お会いせぬことにはの」



「お話は、わかりました。通路を開いて頂いたことには感謝します。しかし、ご希望には沿えません。お引き取りください」

 一行の目通りを受け、話を聞き終えたガーデンブルグの女王は、まだ少女とも言える年頃に見合わぬ理知的な表情を崩しもせずに、天空の盾を譲り受けたいとする一行の願いを切り捨てた。

 にべも無い様子にかちんときたマーニャが、不愉快な態度も露に反論する。

「ああ?ほんとに聞いてたのかよ。女王だかなんだか知らねえが、他人事みてえな顔しやがって。世界が滅んでも関係ねえってか?使いもしねえもんを、手元に置いとくのがそんなに」
「兄さん!」
「貴様!無礼にも程があろう!」

 ミネアがマーニャの肩を掴み口を押さえて無理矢理黙らせ、衛兵が気色ばみ武器に手をかけ一歩踏み出す。

 女王が手を挙げ、衛兵を下がらせる。

「良い。騒ぐで無い。そう思われるのも、無理は無い」

 女王の泰然とした様子に、衛兵がマーニャを睨み付けながらも元の位置に下がる。
 それを見届けた女王が、再び一行に向き直る。

「サントハイムのアリーナ王子殿下にバトランドのライアン殿。スタンシアラ国王陛下が認められたという、救世の予言の勇者殿。皆さんの言われることを、疑う訳では無いのです。スタンシアラに伝わる天空の城の伝説、共に伝わる天空の兜のことは、私も知っておりました。全てが事実であるならば、確かに天空の盾を、お渡しするべきなのでしょう」

 ここで女王は一旦言葉を切り、一行を眺め回す。
 未だミネアに口を塞がれながらも、険のある視線を向けてくるマーニャにも怯まずに、再び口を開く。

「しかし、伝説はあくまで伝説。皆さんがそれを事実と信じることを疑いはしませんが、それで私も伝説を信じることにはなりません。スタンシアラ国王陛下がそちらのユウ殿を勇者と認められたことも、事実として疑いはしませんが。私は私で、見極めねばなりません。予言や伝説の真偽はともかくとして、この世にふたつと無い宝、天空の盾をお渡しするならば、それに相応しい人物であるか否かを、盾を受け継ぎ管理するこの国の女王として。この目で(しか)と、見極めねばなりません」

 女王は再び言葉を切り、また一行を見回す。
 まだ不満げながらも視線の険は取れたマーニャを始めとして、一行に納得と当面の諦めのような空気が漂い始めたのを見て取って、また言葉を続ける。

「ユウ殿が、或いは皆さんが、天空の盾をお任せするに足ると私自身が判断できれば、勿論お渡ししましょう。しかし、今はまだその時ではありません。伝説によれば天空の装備は他にもあり、今は兜しかお持ちで無いとか。ならば、焦って判断を誤る愚を犯すことも無いでしょう。今日のところは、お引き取りください。そして失礼を承知で申し上げますが、可能な限り早くこの国を発って頂きたい。外部との接触を極力減らすことでいざこざを避けてきたこの国に、皆さんの存在は刺激が強すぎます。恩人たる皆さんには本当に失礼になりますが、どうかお聞き届けくださいますよう」



 女王の御前を辞し、一行はひとまず話し合うための場所を求めて城内を歩く。

 丁度部屋から出てきた男に行き合い、トルネコが声をかける。

「おにいさん。ちょっと、聞きたいのだけど。どこかに、落ち着いて話のできる場所はないかしら。」

 男は人の良さそうな笑顔を浮かべ、愛想良く答える。

「ああ、それならこの部屋を使ってくれよ。オレはしばらく戻らない予定だから、遠慮はいらないよ!」
「あら、そう。悪いわね、どうもありがとう。」

 急ぎ足で立ち去る男を見送り、アリーナとライアンがそれぞれ呟く。

「……あの身のこなし。なかなか、出来る者のようだったな」
「……ガーデンブルグの女戦士も精鋭揃いであるのは、有名なところですが。一時的にでも、手練れの男が居着くような環境では無い筈ですが」

 男が姿を消した方向に目をやり考え込むふたりに、トルネコが声をかける。

「ふたりとも。あまり長居すると、女王さまに悪いわ。早く、済ませてしまいましょう。」
「ああ、済まない。今、行く」
「失礼した。参りましょう」


 男が勧めてくれた部屋に入り、今後の方針を話し合う。

「思ったほど酷くはなかったが。真面目ってか固いってか、融通が利かねえな」
「でも、言ってることは完全に正しいからね。強力な装備なら早く手に入るに越したことはないけど、どうしても今すぐ必要かと言われたら、そうでもない」
「ここは、一旦諦めるしかないのかしらねえ。あとのふたつ、天空の剣と鎧でもみつけてくれば、認めてもらえるかしら。」
「この国に無為に留まり時間を浪費するよりは、まだしもそれが現実的じゃの。当ては無いとは言え」
「今回は女王様の()()を得たということで、良しとするべきなのでしょうね、きっと」
「兜のときは、わかりやすかったけど。盾ならきっと、あんな風にはならないものね」
「大きさがわかりやすく変わるということは、確かに無いだろうな」
「ならば、当面この国に用はありませんな。女王陛下の言われる通り、ともかくこの城は出るとしましょう」

 話がまとまりかけたところで、閉め切っていた部屋の扉が開かれる。

 男が戻ってきたのかとそちらに目を向ける一行の視線の先ではひとりのシスターが立ち尽くし、声を荒げる。

「……あなたたち!ここで、私の部屋で、何をしているのですか!?」
「私の、部屋?」

 きょとんとして言葉を返すトルネコに構わず、シスターははっとしたように箪笥(たんす)に駆け寄り、中を引っ掻き回して叫ぶ。

「無い!無いわ!女王様に頂いた、大切な、ブロンズの十字架が!」

 マーニャが確信じみた嫌な予感に顔を(しか)める。

「おい。雲行きが」
「怪しいどころじゃないね」
「これは、はめられたな」
迂闊(うかつ)でした。あのような手口に引っ掛かるとは、情け無い」
「わしが付いて居りながら王子をこのような事態に巻き込んでしまうとは、なんたる不覚」

 マーニャに続いてミネア、アリーナ、ライアンにブライもぼそぼそと呟き、トルネコとクリフトに少女が戸惑う前で、シスターが金切り声を上げる。

「誰か!!誰か、来て!!泥棒よ!!」

 シスターの悲鳴に応えてすぐに複数の足音が響き、衛兵が駆け付ける。

「我ら女戦士が守るガーデンブルグで盗みを働くとは、なんたる不届き者!神妙に縛に就け!」

 武器を帯び、旅慣れた様子の一行の実力を警戒してか、距離を取って衛兵が宣言する。

「……吹っ飛ばしていいか?」
「いいわけないだろう」
「ここはひとまず、従うべきでしょうな」
「捕縛される経験をすることになるとは、わからないものだな」
「私たちはともかく、アリーナ様をこのような目に遭わせてしまうとは……申し訳ありません」
「国王陛下に、合わせる顔が無いの。ともあれ、後のことは後じゃの」
「あらあら、困ったわねえ。」
「捕まれば、いいのね?」

 手を上げて無抵抗を示したところを衛兵が手早く拘束し、一行は地下牢に連行された。



「なかなか、手際が良かったな。やはりここの女戦士も、なかなかの手練れ揃いだ。こんな形で確認したくは無かったが」
「そうですな。訪れるのは数年振りでしたが、練度は落ちておらぬようです」
暢気(のんき)だな。まあ、焦っても仕方ねえけどよ」
「人生、二度目の地下牢か。さすがに、二度目があるとは思わなかったなあ」
「この歳になって、このような目に遭うとは。本当に、わからぬものじゃのう」
「事実無根である以上、いずれは出られるのでしょうが。とは言え、いつまでいれば良いのでしょう」
「ブロンズの十字架、とか言ってたかしらねえ。聞く限り、貴重なものというよりは、名誉なものみたいだったけれど。あたしたちが盗ってないのはもちろんだけれど、他に盗るような人がいるものでも、無い気がするけれどねえ。」
「わたしたち。どろぼうと、思われてるのね」

 取り乱すことも無く淡々と語り合う一行に牢番の兵士が当惑の視線を向け、そうこうするうちに衛兵が再び現れる。

「女王陛下がお呼びだ。申し開きがあれば、そこでするがいい」


 衛兵に引っ立てられ、再び女王の御前に姿を現した一行に、女王が冷徹な表情に僅かに動揺を走らせ、衛兵がざわめく。

「皆さんは……!すぐに、縄を解きなさい」
「は?しかし」
「命令です。今すぐ、縄を解くのです」

 すぐに動揺を収め、冷静に指示する女王に一行を引っ立ててきた衛兵が反論しかけるが、有無を言わせず再度指示するのに渋々ながら拘束する縄を解く。

 それを見届け、女王がアリーナに向かい口を開く。

「知らぬこととは言え、御無礼を致しました。お許しください」
「いえ、構いません。状況から言えば、仕方の無いことでしょう。忍ぶ旅であり、公式な訪問では無い以上、一介の旅人として扱われるのが当然」
「そう言って頂けると。ならば、おわかりでしょうが」
「はい。女王陛下として、容疑者を裁かれる必要がありますね」
「はい。皆さんには、我が城に仕えるシスターの自室に侵入し、ブロンズの十字架を盗み出した疑いが掛けられています」
「……犯人と(おぼ)しき男の口車に乗せられ、うかうかと部屋に入り込んでしまったのは事実です。しかし、そのブロンズの十字架にしろ、他の何かにしろ。盗みを働いたという事実は、ありません」

 堂々と言い切るアリーナを前に、女王が溜め息を吐く。

「……当然、そう言われるでしょうね。しかし、証拠が無い以上は。女王として、鵜呑みにする訳には参りません」
「勿論、そうでしょう。事実を主張する以外に、我々に示せる証拠はありません。……どうすれば、我々が無実を証明できるとお考えですか。女王陛下」

 女王を真っ直ぐに見据え、肩書きを強調するように呼び掛けるアリーナを、真っ直ぐに見返して女王が答える。

「……真犯人を。皆さんを陥れたというその男を捕らえることが出来れば、皆さんの疑いは晴れ、すぐにも解放することが出来るでしょう。しかし既に城内の捜索は終わり、怪しい者が見つかっていない以上、捜索は難航するでしょう。客観的に見て皆さん以上に怪しい者がいない現在、積極的に捜索を続ける理由もありません」
「ならば、我々に機会を。真犯人を捕らえ、この場に引き立てる機会を頂けませんか。女王陛下」

 あくまで真っ直ぐに女王の瞳を見据え、視線を逸らさないアリーナを、見定めるように女王が見つめ返す。

「……わかりました。ただし、全員を解放し、完全な自由を以て捜索に当たらせる訳には参りません。誰かひとりが残り、人質のような扱いを受けても良いというのなら。申し出を受け入れ、機会を与えましょう」
「ありがとうございます。頂いた機会を無駄にせず、必ず汚名を晴らしてご覧に入れます」



 再び女王の御前を辞した一行は、拘束こそ受けないものの、衛兵に取り囲まれ監視を受けながら、地下牢に連れ戻される。

「アリーナってよ。王子様なんだな、ほんとによ」
「一応、そういうことになっているな」
「だから、そんな話はいいから。それよりも、誰が残るかだけど」

 ミネアが手早く話を進めようとするのに、トルネコが応じる。

「そうねえ。今までの様子を見る限り、そうひどい扱いは受けないみたいだし。あたしが残れば、いいんじゃないかしら。」
「姐御は要るだろ」
「そうですよ。犯人だけでなく、ブロンズの十字架も探すことになるんでしょうから。トルネコさんとブライさんの能力は、あったほうがいいでしょう」
「戦いではあまり役に立てないから、いらないかと思ったけれど。そういうことなら、そうかもしれないわねえ。」

 トルネコに続き、少女が口を開く。

「わたしは」
「ユウは駄目です」
「嬢ちゃんはねえな」
「それは無いだろう」
「ユウ殿は必要です」
「それでなくともユウちゃんを地下牢にひとり残すなど、とんでも無いの」
「そうですわ。いくら丁重に扱われるとは言え、子供がひとりで残るような場所ではありません」
「そうよねえ。それくらいなら多少の不便に目を瞑っても、あたしが残るべきね。」

 少女が言いかけて遮られ、検討するまでも無く却下され、さらにトルネコが蒸し返したのを受けて、アリーナが言う。

「トルネコは、必要なんだろう。こんな狭いところでは碌に身体も動かせないが、それなら俺が」
「アリーナ様!いけません!」
「そうですぞ!王子をこんな場所にひとり残し、家臣の我らがおめおめと歩き回れましょうか!」
「しかし、ブライは必要なんだろう。いかに女性の城とは言え、女性に優しい環境とも思えないしな」
「……この程度!アリーナ様のためなら、耐えてみせます!」

 主を守る使命感に燃えるクリフトを、ライアンが止める。

「いや、やはりクリフト殿のような女性には、この環境は厳しいだろう。女性とは言え軍人である私であれば、この程度。それこそ、苦にもなりません。ここは、私が」
「ライアンさんは要るでしょう。盗人の捕縛に向かうんですから、プロの手はあったほうがいいです」
「だな。それに、嬢ちゃんを守るんだろ?離れてどうすんだよ」
「むう。言われてみれば」

 ひと通りの選択肢を確認し終え、兄弟が顔を見合わせる。

「とすると、やっぱり僕らか」
「仕方ねえな。地面の下は嫌いだが、この際だ。ばあさんが行くなら、オレは要らねえだろうし。オレが残るわ」
「兄さんか……。攻撃力が落ちるのは痛いけど、派手に吹き飛ばすような話じゃないし。二手に別れることにでもなれば回復の手は要るし、それが無難かな」
「おし。じゃ、決まりだな。さっさと済ませてさっさと出ようぜ、こんな面倒くせえ国。頼んだぜ」
「またそんな……。居残る場所で、わざわざそんなことを言うなよ」
「容疑どころじゃねえ囚人が、他にいくらもいるのによ。別に問題ねえだろ、これくらい」
「そういう適当なところも、この場合はいいかもね。くれぐれも、大人しくしててくれよ」
「わかってるよ」


 マーニャをひとり地下牢に残し、一行はブロンズの十字架を盗み出した真犯人の捜索を開始する。 
 

 
後書き
 盗人の汚名を晴らすため、一行は行動を開始する。
 真犯人を、証拠の品を求めて、向かうべき場所は。

 次回、『5-44濡れ衣を着せられて』。
 10/23(水)午前5:00更新。 
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