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『曹徳の奮闘記』改訂版

作者:零戦
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第百二話




「後方への偵察は司馬懿と穏の部隊一万とする」

「そんなに下げていいの?」

「仕方ない。空振りだったらいいが、当たりの場合だと多少の戦力は必要だからな。二人とも頼むぞ」

『はいッ!!』

 軍儀の結果、司馬懿と穏の二人が後方偵察に行く事になった。

「夜中の蜀軍の警戒監視は怠らないようにしてくれ」

「判った。警戒監視は続けよう」

 そして一万の部隊が後方へと向かったが蜀軍はそれを見ていた。

「……よし、後方に下がったな。向こうが疑心暗鬼になってくれて助かった」

「王双は余程我慢出来ない人なんでしゅか……あわわわ、また噛んだ……」

 仲軍の陣地を見ていた北郷とホウ統はそう言った。

「なら……今夜出撃だな」

「はい、ただ問題は……」

「……大砲だな。何処に隠匿しているか判らないな……」

 北郷は仲軍の陣地を見ながらそう呟いた。長門は敵に四斤山砲の位置を悟られないように隠していた。

 大体の四斤山砲は地面を掘って航空機の掩体壕のように隠した。流石にコンクリートは無いので木の板を使い、砂や草で擬装している。

 兎に角、蜀軍は夜襲をすべく出撃準備をするのであった。一方、仲軍でも攻めてこない蜀軍を不気味に感じていた。

「……北郷は何を企んでいるのやら……」

 俺は地図を見ながらそう呟いた。あいつは何をしたい……考えろ、俺が蜀軍ならどうするか……。

「貴方でも悩む時はあるのね」

「曹操か……」

 曹操が天幕に入ってきた。

「それで、向こうの企みは判ったのかしら?」

「まぁ半分はな。北郷は多分、俺達を後方に兵力を送るかもしれないという疑心暗鬼をしたと過程したら何となく判るな」

「成る程ね。それが事実なら北郷は恐らく今夜にでも……」

「夜襲をかける」

「まぁ貴方の考えが北郷と一緒ならね」

「だろうな。ま、警戒監視はしておくのが一番だな」

 そして日は沈み、漆黒の夜になった。今日は月が出ない新月だ。

「……ん?」

 海岸付近で警戒監視をしていた兵士が対岸の蜀軍に何かをしているのに気付いた。

 松明に火を付けていたため、目を凝らして見ると幾つもの船が船団となって押し寄せようとしていた。

「て、敵襲ゥゥゥゥゥーーーッ!!!」

 他の兵士が銅鑼を鳴らして皆を起こす。

「主、敵襲だッ!!」

「判っているッ!! 総員戦闘準備ッ!! 四斤山砲隊は準備出来次第砲撃開始せよッ!!」

「砲弾装填急げェッ!!」

 四斤山砲隊は砲弾を装填して発射準備を整える。他の兵士達も弓矢を揃えて準備をしている。

 星に言われた俺は直ぐに着替えて指揮所に雪崩れ込んだ。

「状況はッ!?」

「もうすぐ砂浜に上陸しようとしていますぞ主」

「太鼓鳴らせェッ!! 撃ちぃ方始めェッ!!」

 指揮所の側にあった太鼓が鳴らされて攻撃が開始された。

「撃ェッ!!」

 四斤山砲の砲弾が接近してくる蜀軍の軍船の側面に命中。喫水線付近に命中したため同船は瞬く間に傾斜し始めた。

「傾斜していきますッ!!」

「まだまだいるぞッ!! 口を動かす暇があるなら手を動かせッ!!」

 四斤山砲から次々と砲弾が放たれて軍船に命中していく。しかし、蜀軍は怯む事なく海岸に突き進もうとする。

「このままだと海岸に到着するわよ」

「海岸に配備してある四斤山砲隊は後方の第三防衛線へ退避ッ!!」

「蜀軍を上陸させる気なの?」

 雪蓮が驚きながら俺にそう聞いてきた。

「あぁ。海岸を蜀の血に染めてやるよ」

 海岸は丸太で防御した防衛線が三重もあり、四斤山砲隊は最後の三重目まで退避させた。

「高台にいる四斤山砲隊は向こう岸の蜀軍を砲撃せよ」

「心理状態を惑わせるわけね」

「あぁ、恐らく北郷は軍船におらず向こう岸の蜀軍陣地にいるだろうからな」

 高台には長砲身に製造された四斤野砲が八門あり、八門は対岸の蜀軍陣地の砲撃を始めた。

「はわわわ、御主人様。攻撃してきました」

「王双め、長距離砲をも製造していたのか」

 砲弾が砂浜に命中して砂が巻き上がり、兵士を巻き込むのを北郷は悔しそうに見ていた。

「旗は置いておいて一時退避だッ!!」

「退避ですか?」

「旗があれば愛紗達も安心するだろ。指揮官がやられたら軍は終わりなんだ」

「はわわわ、判りました」

 そして北郷達は五里ほど後退した。軍船にいる関羽達は砲撃に気付きながらも退避しない北郷に感激していた。

「攻撃されているのに退避しないとは……流石御主人様だ。我々も負けてはおれんぞッ!!」

 北郷からの退避(旗を置いているため退避しているとは気付いていない)はまさかの蜀軍の士気を上げてしまった。

「進めェッ!! 遮蔽物に身を隠しながら敵仲軍を攻撃せよッ!!」

 蜀軍は楯や破壊された小舟、四斤山砲が擬装されてた場所に身を屈めて少しずつ兵力を海岸に吐き出していた。

「……向こうの士気が上がっている。予想外だな」

 俺は戦況を見ながらそう呟いた。北郷に一杯食わされたか?

「長門ッ!! このままだと第一防衛線が突破されるわよッ!!」

 雪蓮がそう報告してきた。やはり兵力の差だな……。

「……最悪の場合は……」

 撤退するしかないな。



 
 

 
後書き
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