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占術師速水丈太郎  ローマの少女

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第二十章


第二十章

 屋敷の中もまた壮麗であった。精巧で美麗な彫刻や鎧が所々に飾られ精妙なモザイク画が天井や壁にある。それはカトリックのものであるようだが何処か違和感があった。速水はそれを見てこの違和感は何処から来るものであるのかと心の中で密かに探った。
「このモザイク画は今特別に作らせたものなのです」
「今ですか」
「はい、そうしたらこうなりました」
「ではこの違和感は」
「かってのモザイク画ではないからでしょう」
 アンジェレッタは述べる。これでその違和感の根拠がわかった。
「だから何か違うと思えるのです」
「そういうことですか」
「しかしこの違和感がいいのですよ」
 だがアンジェレッタはあえてその違和感を肯定してきた。
「何故ですか?」
「この屋敷は過去に建てられたもの」
「はい」
「そしてこの絵は現在のもの。過去と現在の素晴らしいものが同時に存在しているということは素晴らしいことではありませんか?」
 速水に顔を向けて問うてきた。とりわけその右目を見ている。
「だからこそ私は作らせたのですよ」
「ふむ」
 速水は右手の人差し指を曲げて己の唇に当てて考えた。考える時には多くの者がそうするポーズであった。
「そういう考えもありますね」
「この屋敷より過去の存在もありますし」
「そうなのですか」
「今までに通った彫刻の中の一つに」
「そういえば帝政ローマの神々のものもありましたね」
「それです」
 アンジェレッタは答えた。記憶と知識を探りながらの言葉であった。
「その彫刻達です」
「やはり」
「占術にはギリシアの神々も深く関わっていますから」
「特にアポローンが」
「そう、アポローンが」
 デュルフィの神殿である。ここで様々な神託や占いが行われてきたのである。アポローンは占いの神でもあったのだ。その占いは多分に神懸りであり速水やアンジェレッタのものとはかなり違っているが。
「私の占いはアポローンのものとは違いますがね」
「水晶だからですか」
「水晶は全てを映し出します」
「カードと同じく」
 アンジェレッタと速水はそれぞれ述べた。まるでそれがシナリオに書かれていたかのように揃って。不思議なタイミングであった。
「そうです、映し出すものは同じなのですよ」
「ですね」
「そこから見えるものが全てを出すのです、そうではないですか」
「その通りです」
 速水も同感であった。同じ仕事だからである。同業者だからわかることであったのだ。
「僕も同じですから」
「おわかり頂いて何よりです」
「それで」
「はい」
 話はまた移った。今度は明るい話であった。
「夕食ですよね」
「ええ、シェフが腕によりをかけて」
「イタリア料理ですか」
「お好きだと思いますが」
「日本でもよく食べます」
 速水は答えた。実は彼はイタリア料理が好きなのだ。和食も好きだがイタリア料理の店に足を運ぶことも多いのである。
「特にパスタが」
「いいですね、それは」
 アンジェレッタの言葉が弾んでいた。かなり嬉しいらしい。
「何よりです」
「パスタはお好きですか?」
「私の大好物の一つです」
「では今宵は」
「まずはパスタです」
 にこやかに述べる。イタリア料理ではまずパスタが出されることが結構多いのである。
「そしてそれからサラダ、魚と続いて」
「メインディッシュですか」
 速水はそれに問う。
「ワインも魚用と肉用を揃えてあります」
「白と赤で」
「勿論」
 話が快く進んできた。いい流れであった。
「両方あります」
「よいことです」
「ワインがお好きなようですね」
「はい」
 声がにこやかなものになっていた。速水もアンジェレッタも話が乗ってきているのをはっきりと感じていた。
「イタリアのワインはその中でも」
「それは実によいことです」
「ところで」
「はい」
「こちらでは日本のワインの評判はどうでしょうか」
 次にイタリアワインの評判について尋ねてきた。

 
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