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皇太子殿下はご機嫌ななめ

作者:maple
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第20話 「麻薬撲滅宣言」

 
前書き
かわいそうだけど、同盟にはごたごたしててもらいましょう。
そして嘆く。皇太子殿下と作者ふたたび。
また寝てた。 

 

 第20話 「第五代自治領主 ブルーノ・フォン。シルヴァーベルヒ」

 フェザーンに送ったシルヴァーベルヒが第五代自治領主に就任した。
 アドリアン・ルビンスキーも頑張ったらしいが、最後は宗主国である帝国の意向が、ものを言ったそうだ。
 当たり前だ。 
 遠慮する気など、はなからなかった。
 シルヴァーベルヒに命じて、ルビンスキーの動向と居場所は把握させている。
 向こうもこのまま燻っている気はないだろうが、俺もあいつをいつまでも自由にさせておく気はない。

「で、何か見つかったか?」
「ええ、よほど慌てていたのでしょうな。地球教と接触していた痕跡が残っていましたよ」
「サイオキシン麻薬は?」
「さすがに現物はありませんでしたが、地球教徒が持っている事は分かっていたようです」

 画面の向こうで、シルヴァーベルヒがにやりと笑う。
 こいつも俺の事が分かってきたようだ。

「それはつまり……」
「第四代自治領主と、その後継者であるアドリアン・ルビンスキーは、サイオキシン麻薬の存在を知っていながら、何の手も打っていなかったという事になります」
「帝国本土でサイオキシン麻薬の問題が発覚し、大慌てしていたというのに、か? ずいぶん余裕だなぁ~。フェザーンには関係ないと思っていたと?」
「その根拠はいったい、なんだったのでしょうか?」
「地球教の存在だな。帝国でも軍のみならず、地球教徒が持っていたし、な」

 まあ繋がっているんだろう。やっぱり。宗教を隠れ蓑に麻薬密売か……。
 あいつらどう、弾圧しようかと考えていたが、この辺から攻めよう。宗教弾圧というと、すぐに腰が引ける奴らが多いからな。理性ではなく、ただ単に嫌がる奴も多い。
 それが向こうの思惑通りだと気づかずに、だ。
 ばっか、みてぇ~。

「どう致しますか?」
「第四代自治領主とルビンスキーの身柄を拘束せよ。容疑はサイオキシン麻薬密売。フェザーンのトップと後継者が、麻薬の存在を知りつつ、警察組織を動かさなかったんだ。繋がっていたと疑われても致し方あるまい。寝耳に水ではあるまいし、帝国の騒動を知りつつも放置していた。容疑としては十分だろう」
「証拠が出ますかね?」
「なくて構わん。これより帝国は地球教を麻薬密売組織と断定し、その撲滅を宣言する。地球教に繋がる者は例外なく、捕らえよ」
「例外なくですか?」
「そうだ。老人だろうとガキだろうと、だ。どうせ連中はこの二つを盾にしてくるだろうが、一切認めるな。死に掛けの老人だろうと捕まえて来い」
「同盟側が抗議してくるでしょう。どう致しますか?」

 ははは、思わず笑っちまった。
 同盟が抗議してきたら?
 そんな事決まってらぁ~な。

「麻薬組織ごと、同盟に押し付けてやれ。お前らにくれてやるから、好きにしろと言っておけ」
「本当にいいんですか?」
「構わん。ただし今後、同盟は麻薬組織と結託し、帝国側に麻薬を蔓延させようとしている事になる。そんな連中を認めてやる必要はない。ないが、同盟が自ら麻薬組織です、と。宣言するんだ。それ自体は認めてやろうではないか。関係を改善する必要はないがな」

 どうした?
 顔色が悪いぞ。何か悪いものでも食ったか?

「あ、さ、宰相閣下……貴方は自由惑星同盟の掲げる看板を、叩き落すおつもりですか?」
「俺は民主共和制そのものは、否定しないが、麻薬組織は否定する。それだけだ」

 利用できるものは何でも使いますよぉ~。
 こっちが回復するまで、連中にはガタガタになっててもらおう。
 さあ~今のうちに、帝国の改革を進めるぞぉ~。

「と、いう建前ですな」
「ま、そういうとこだ」

 ■宰相府 アンネローゼ・フォン・ミューゼル■

 帝国全土に宰相閣下の麻薬撲滅宣言が発せられました。
 フェザーンの先代自治領主と叛徒たちが、帝国に麻薬を蔓延させようとしてきたと言っています。サイオキシン麻薬の騒動から、まだ一年も経っていません。
 あの時の恐怖が甦ってきたみたいです。
 オーディンでも、地球教徒のアジトが一斉捜査され、銃撃戦になったそうです。
 さすがは装甲擲弾兵です。立てこもっていた地球教徒たちを有無を言わせず、押し込んでいきました。テレビやニュースでも銃撃戦の模様が映し出され、この時ほど装甲擲弾兵の姿が頼もしく思えた事はありません。
 これによって地球教の目的が明らかになり、オーディンでも地球教に対する反発が強くなってきました。

「怖いのう」

 リヒテンラーデ候がそう漏らします。
 わたしも同じ事を思っていたら、アレクシアさんも顔色が悪いです。

「わしが怖いのは、皇太子殿下よ。これほどまでに、恐ろしいお方だとは思わなんだ」
「殿下が?」
「そうじゃ。皇太子殿下は、叛徒どもをお前らは共和主義者ではなく、麻薬密売人だと言い放ったのだ。民主共和制という看板を地に叩きつけられたのだ」
「それって……?」
「今後やつらは何を掲げて戦うというのか?」

 リヒテンラーデ候はそう言って、身を震わしました。

「では、今のうちに改革を進めるとするか、のう。忙しいしな」
「書類も溜まってますしねぇ」

 実のところ、宰相閣下の宣言を宰相府の皆はさほど、信じておりません。というより、殿下から知らされていたのです。こうやるからねって。
 ブラウンシュヴァイク公やリッテンハイム候などは、ため息を吐いておりました。

「まったく、捕虜交換もあるというのに……」
「十万人規模なのだぞ」
「名簿だけでもてんてこ舞いだ」

 フェザーンからもたらされた情報では、イゼルローンを攻めるという話もあったそうです。
 話、潰れたようですけど。
 ブラウンシュヴァイク公がこの忙しいのに、来るな。と吐き捨てておられました。

「まったく連中の選挙とやらも迷惑なものだ」

 リッテンハイム候も眉を顰めています。

「捕虜交換が潰れても良いというのか? 連中はっ」
「圧力を掛けてるつもりなんだろうが、うっとうしい」

 最近、このお二方も口が悪くなってきました。
 皇太子殿下に関わると、みんな口が悪くなってしまうようです。

 ■宰相府 ルードヴィヒ・フォン・ゴールデンバウム■

 あ~忙しい。
 あれもこれもと飯食ってる暇もねえよ。
 いまだかつて帝国宰相で、机に向かってパンを齧りながら、仕事してる奴って俺ぐらいじゃね?

「おい。この水、運ぶ奴の書類はまだか?」

 氷の惑星から、水運んで砂漠を緑化しようというやつだ。
 それと、貴族連中の持ってるザ○を戦わすって博打の許可証申請。

「博打と宝くじは胴元が儲かるようになってんだ。帝国主宰でやるぞ」
「場所はどこで?」
「グループごとに各辺境でだ。トーナメント方式だからな。Aブロック、Bブロックって具合にする。辺境貴族に通達しとけ。観光客を引き寄せるいい機会だとな」
「出場資格はどうしますか?」
「平民、貴族問わずに、出ていい。いや、二十才以下の者限定と以上の者の二つ作る。アマチュアとプロってやつだな。プロ部門は、現役の軍人もでていい。ガキは各学校の代表を選ばせて、帝国全土最強を決めさせる。こういうのはガキの方が盛り上がる」

 高校野球みたいなの作りたいんだけどな。
 なんで野球が無くなったんだ? それにフライング・ボールって本当に人気あんのか?
 俺、見たことねえぞ。やってるやつも知らねえし。
 原作でもユリアンぐらいじゃね? 他にいたっけ? ああ、ポプランがいたか、同盟だけだな。帝国でも人気ってあったが……誇大広告だ。JAROに訴えんぞ。ああ、ないか。

「それと辺境同士を結ぶ、輸送航路は?」
「ああ、それもあったな。辺境だけじゃ輸送艦も大して維持できんからな。軍から払い下げる訳にもいかねえし……。特産物があれば、いいんだが。かといって今のままじゃ、農産物も売れない。売っても輸送費のほうが高くつく。儲けがない状態だ」
「どうしましょう?」
「う~んう~ん。あ、イゼルローンに向けて輸送させろ。イゼルローンは五百万人所帯だ。軍の輸送艦もある。輸送費が大して掛からん。なにせ軍相手だからな。当分はそれでしのいで貰おう。はやく特産物を作れって、言っとけ。なんならオーディンから、学者を派遣してやる」

 だいたい辺境の星系だけでも2千以上あるんだ。
 今まで何してやがった。
 何もしなかったつけが出てきてやがる。まったく。大体だな、各星ごとに、自己完結できてても、おかしくないんだ。
 泣くぞ。泣いていいかっ!!

「忙しいんですから、泣いてる暇なんかないです!!」
「泣かねえから、はやく書類持ってこいっ」

 アンネローゼがてんぱってる。
 他の連中も似たようなもんだ。ブラウンシュヴァイクが、頭にねじり鉢巻してる状況っていうのも凄いもんがある。良いんだか悪いんだか、俺が認めないと、計画自体がスタートしないっていう状況。これがトップダウンの限界なんだろうな。
 かといって、良きに計らえって訳にはいかねえしな。
 俺の理想の自堕落な酒池肉林はどこへいったぁ~。

「ヴァルハラにでも、行ったんじゃないですかぁ~」
「はい。追加です」
「あいよっ」

 眼の前に積まれる書類の山。
 各星に一枚としても、辺境だけで、二千枚にもなる。

「貴族が税金が高いと文句を言って来てます」
「三度の飯を二度にしとけ。それから平民の税金は上げんなよ」

 元々平民の税金を高く設定しすぎなんだ。その状況では、物が買えないだろうがっ。
 物が買えなきゃ、経済が回らねえんだよ。貴族だけが買っててもしょうがねえ。現状では豊作貧乏になってるとこがあるんだ。
 人が少ない。
 じつはそれが最大の問題だ。
 辺境じゃあなぁ~。惑星一個に二百万人ぐらいしか住んでねえとこもあるんだ。
 二百万人だぞ。どこぞの地方都市よりも少ないじゃねえか。
 それで一回会戦すると、二十万人から三十万人ぐらい死ぬ。
 パイが小さくなりすぎだ。
 フェザーンを手に入れたのも、それが理由だ。
 帝国産の食い物を同盟側に売りつけてやるぜ。なんせワインやシャンパンなんかの酒類は、こっちの方は品質が良いんだからな。意外な事実。
 それを利用しないでどうするよ。

「燃える商魂。売り上げ向上。それが私の生きる道」
「殿下。いつからフェザーン商人になったのですか?」
「うっせえ。所得倍増計画じゃ」

 宰相のやるこっちゃねえってことぐらいわかっとるわー。 
 

 
後書き
皇太子殿下のような生活。
わたしは絶対、いやです。ごはんぐらいゆっくり食べたい。 
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