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占術師速水丈太郎 五つの港で

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第十二章


第十二章

「勘ですが」
「しかしその通りです」
 まさにそうだと述べる三原だった。
「その士長も死体が急に出て来たと言っています」
「有り得ないことですね」
「確かに。しかしです」
「しかし?」
「こう言っては何なのですが」
 三原はここでまた首を捻った。そうしてそのうえでまた速水に対して言うのであった。
「海上自衛隊はです」
「海上自衛隊自体がですか」
「もっと言えば海軍の頃からです」
 話がそこまで遡るのである。海上自衛隊が自らの前身であるとしているその海軍だ。これは確かにその通りではある。やはり自衛隊はあの日本軍の後継者んあおである。
「こうした奇怪な話はあります」
「それはよく噂になっていますね」
「それは御存知だったのか」
「はい、色々と亡霊やそうした存在の話がありますね」
「とにかくそうした話があちこちにあります」
 三原は少しバツの悪い顔になりながら述べていく。
「護衛艦それぞれにあったりしますし」
「亡霊が出る艦がですか」
「あったりします。どの艦とは言いませんが」
「そうですか」
「それぞれの基地にもです」
 そこにもあるのだというのである。
「もっともこれは海自だけではありませんが」
「陸自さんや空自さんもですね」
「そうなのです。まあ学校の怪談と同じです」
「そういったものですね」
「結局はこういうことなのでしょう」
 三原はこう前置きしてから述べた。
「とにかくそうした話は我が海上自衛隊にも数多いですが」
「それもこうした話なのですね」
「既にそうなっています」
 もうだというのである。
「それにです」
「それに?」
「最近そうした話が多い様です」
 怪訝な顔で述べる三原だった。
「横須賀でも舞鶴でもここでも」
「そうなのですか」
 彼が今依頼されている事件のことだとわかったがここでもあえて言わないのだった。あくまで呉だけの事件を依頼されているということになっている。少なくとも海上自衛隊の上層部以外にはだ。だから彼は今芝居をしている一面もあるのである。素顔には仮面をしているのだ。
「それでも。少し」
「異様な事件ですね」
「全くです」
 その通りだと返す三原だった。
「これだけ多いと」
「それにしてもここでの被害者ですが」
「はい」
 そちらに自然に話を戻してみせたのだった。
「どういった人でしょうか」
「朝倉哲也といいまして」
 まずは名前から話された。
「呉総監部に所属している三曹です」
「三曹ですか」
「具体的に言うと昔の階級では伍長です」
 それにあたるというのである。
「運用でして。まあそれで」
「それで?」
「あまり評判のいい人物ではありませんでした」
 彼もそうだったというのである。
「素行が悪く特に後輩から嫌われていまして」
「いじめでもしていたのですか」
「はい、それで警務隊に話がいって乗っていた艦を降ろされたのです」
 そうなってしまったというのである。警務隊というのは簡単に言えば自衛隊の中での警察である。はっきり言えば憲兵そのものである。
 
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