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占術師速水丈太郎 五つの港で

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第十章


第十章

「潜水艦ですか」
「あれっ、観光客かな」
「それとも業者の人か?」
 青い作業服の男達が彼の姿を認めて言う。これは海上自衛隊の作業服である。幹部自衛官だとこの色が紫になるのである。これもまた階級区分の一つだ。
「何かわからないが」
「何だいあんだ」
「はい、総監部に用があります」
 桟橋での彼等の質問にそのまま答える速水だった。
「今から行かせてもらいたいのですが」
「ああ、総監部ならな」
「こっちだよ」
 こうして彼はすぐに総監部に案内された。そうして呉の総監からも驚かれるのであった。
「もう来られたのですか」
「はい、江田島からです」
「今さっき連絡を受けたばかりですが」
 こう言って驚きを隠せない総監であった。呉の総監は髪の毛が殆どなく黒縁眼鏡をかけている。そしてやはり黒と金の制服を着ている。
「もうですか」
「移動の仕方に工夫がありまして」
「工夫でそこまで早いのですか」
「そこは企業秘密です」
 笑ってそこまでは答えない速水であった。
「ですがおおよそ察しはつかれますね」
「ええ、それにつきましては」
 彼もまた既に防衛省から話を聞いていた。ならばであった。
「既に」
「そういうことです。それでなのですが」
「はい」
 総監に対して微笑んで返した速水であった。見れば呉の総監室も横須賀の総監室と似ていた。まるで同じと言えばそれで通じる程度であった。
 そうしたものを一瞥しながら。また言う速水であった。
「事件のことですが」
「それですね」
「はい、それです」
 まさにそれだというのである。
「そのことについて早速調べたいのですが」
「わかりました。それではです」
 こうして彼はまたしても捜査を行うことになった。ここでも幹部自衛官が来て彼を案内する。今度も一尉の者が来たのであった。
「はじめまして」
 少しいかつい顔の若い幹部自衛官が来て彼に海自の敬礼をしてきた。顔は確かにいかついゴリラを思わせるものだがその目は穏やかであった。
「三原です」
「三原さんですね」
「はい、そうです」
 これがこの幹部自衛官の名前であった。その男三原は真面目な調子で彼に対してきた。
「それでなのですが」
「事件現場にですね」
「案内させて頂きます」
 こうして彼は呉のその現場に案内された。あらためて見回す呉の港はかなり広かった。
 その港の中を見回して。速水は言うのだった。
「しかし」
「どうされたのですか?」
「ここもまた広いですね」
 こう言って感嘆の言葉を出すのであった。見ればあちこちに大きな船が停泊していてそして行き交う自衛官達も多い。建物の数もである。
「横須賀もそうですが」
「ここには大和もありましたし」
「そうでしたね。あの巨艦も」
「それだけの規模はあります」
「それを考えるとなのですね」
「はい。かなりの広さなのは事実です」
 三原の言葉はいささか誇らしげであった。やはり帝国海軍の伝統を受け継いでいるという意識が彼をそうさせているのであろう。
 そしてその誇りを見せたまま。彼はさらに言ってきた。
 
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