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占術師速水丈太郎 白衣の悪魔

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2部分:第二章


第二章

「元木剛造ですか」
 東京渋谷のあるビルの中。そこに一軒の占い屋があった。女の子達に人気のその占い屋はタロットである。いるのは一人の占術師速水丈太郎であった。
 黒い髪で顔の左半分を隠したミステリアスな顔立ちの美男子であり肌は白い。裏地が赤の白いコートに青いスーツとネクタイという出で立ちである。すらりとした長身が面長の顔によく似合っている。
 その彼の店に今一人の男が来ていた。そしてその殺害された男について述べていたのであった。トレンチコートの下に地味なダークブラウンの背広を着ている。
「札幌の不動産業者でしたっけ。こちらにも進出している」
 速水はカードをシャッフルさせながら男の言葉を聞いている。店の中は白を基調とした気品のある内装でありいるだけで穏やかな気持ちになれる程である。彼はそこに黄色いテーブルと黒い椅子を置きその上に青いテーブルかけを置いていた。店の中には一条の赤い帯も見られる。
「かなり非道なことをしていると聞いていますね」
「彼について占ったそうですね」
「はい」
 速水は静かに男の言葉に答える。
「その結果は塔だったと」
「何故それを御存知なのですか?」
 目を少しあげて男に問う。見えるのは右目だけである。
「占いの内容はどなたにもお話しない筈ですが」
「元木が生前に言っていた言葉です」
 男はそう速水に答えた。見れば黒いスーツの厳しい印象の男である。
「この占いは外れると。しかし」
「少なくとも私の占いはまやかしではありません」
「左様ですか。それでは」
「はい、あの方の運命だったのです」
 速水は少し冷ややかな声でこう述べた。
「因果応報、報いは必ず受けるものなのでしょう」
「確かに人間とは思えない非道で卑劣な輩でしたがね」
 男はそう速水に返した。
「人身や薬物、臓器の売買、強制売春に土地ころがし、恐喝、詐欺、とにかくやれるだけの悪事はやっていましたね。けれどその死に際の顔は壮絶なものでしたよ」
「それ程ですか」
「御覧になられますか?写真を持って来ていますが」
「いえ、それには及びません」
 しかし速水はそれを断る。既に見ているかのような口調で。
「既に見えていますので。生きたまま心臓を掴み出されそれを目の前で貪り食われたのですね」
「無残なものでしょう」
 男はここで嫌悪感を少し滲ませてきた。実際にそれを感じて苦い気持ちになっていたのだ。カニバリズム、猟奇というものにどうしても拒否反応があるようだった。
「御存知ならば」
「そうですね。そしてこれは一件だけではない」
「そうです」
 男は速水のその言葉に頷いてきた。そのうえで述べる。
「他にも何件か起こっていまして。全て通り魔的な犯行で」
「愉快犯ですか」
「おそらくは」
 彼はそう言う。まだ確信を得ていないといった声で。
「そもそも相手が人間かどうかすら不明といった有様です。証拠も何もない状況なのです」
「証拠も。目撃例も」
「簡単な話ですよ。姿を見た人間は皆死んでいます」
 実に簡単かつ明瞭な返事であった。だから目撃例が皆無なのだ。見た者が全て死んでいるのならば自然とそうなるのは道理であった。
「誰もがね」
「そういうわけですか」
 速水はそれを聞いてあらためて考える色をその右目に見せてきた。生憎左目は髪に隠れて見えはしないが。
「一応はです」
 それでも男はこう断ってから話を切り出してきた。
「残った手形や汗、唾液、歯形は人のものでした」
「身体を引き裂いたり千切ったり食べた後はですか」
「そうです。それを見る限りは人です」
 何かやけに引っ掛かる言葉であった。あえて人ではあるということを強調するような。奥歯にその何かが挟まっているのではないかとも思わせる言葉であった。
「ですが。その力も行動も」
「所謂魔人ですか」
 速水はその考える目でこう述べてきた。
「人でありながら人ではない。異形の存在ですね」
「話が早いですな」
 男はその言葉に対して満足したように頷いてきた。
「そうです。簡単に申し上げるならばそう呼ぶべきでしょうな」
「わかりました」
 男のその言葉に対して納得した言葉を述べてきた。
「そして貴方は私に彼に関する事件の解決をお願いしたいと」
「その通りです。宜しいでしょうか」
 男は速水の右目を見て言う。じっと見据えて。
「占術師速水丈太郎さん、貴方に仕事を依頼したいのです」
「それでは御聞きしましょう」
 速水はそれを聞いてから男に対して問い返す。カードの手は完全に止め指を組ませてテーブルの上に置いている。
「貴方の御名前は」
「私の名前ですか」
「契約者のことは知っておかなければなりませんので」
 彼は言う。
「御教え頂きたいのです。契約をされるというのならば」
「わかりました」
 男はそれに応えて頷く。それからゆっくりと口を開きだした。
「私の名は山寺敦也」
「山寺さんですか」
「はい、北海道警に勤める者です。警部でこの事件の責任者であります」
「山寺警部と御呼びして宜しいですね」
「はい」
 山寺と名乗った警部はその言葉に頷く。
「その呼び名で御願いします」
「これは北海道警の依頼でしょうか」
「その通りです」
 警部はその言葉に応えてきた。彼が速水の前に来た理由はそれであったのだ。
「ですから。宜しいでしょうか」
「契約ですね」
「そうです。御返答は」
「はい」
 口元にすっと笑みを浮かべさせて答える。

 
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