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ニュルンベルグのマイスタージンガー

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第三幕その二十


第三幕その二十

「万難を排しても靴を作る。毛皮から皮を作り」
「シュトレック、シュトレック、シュトレック!」
 掛け声であった。
「それを叩いて引き伸ばしそれぞれ役に立たせるのだ」
「ニュルンベルグの町が敵に囲まれ」
 今度は仕立て屋の旗だった。
「町が餓えていた時に市民達は死に掛けていました」
「しかし仕立て屋は一人もいなくなっていました」
「何故か」
 彼等も声と旗を高々と掲げて言う。
「仕立て屋はその知恵と勇気を見せれ」
「山羊の皮を縫い合わせ」
「それを見て町の城壁を歩き回り跳び回り」
 こう歌っていく。
「それを見た敵は悪魔が来たと驚いて逃げさって」
「それで町を救ったのです」
「メック、メック!」
 その山羊の鳴き声であった。
「山羊の中に人がいるとは」
「誰も気付きませんでした!」
「お腹が空いて死にそうだ!」
 今度はパンが描かれている旗がたなびく。
「こんな苦しみは他にはない!」
「パン屋が毎日パンを作らないとどうなるか」
「この世が全て死に絶える!」
「ベック、ベック、ベック!」
 これが彼等の掛け声であった。
「毎日きちんとパンを作れ!」
「わし等のお腹を満たしておくれ!」
「パンを焼いて!」
「シュトレック、シュトレック、シュトレック!」
 ここでまた靴屋達も歌いだす。
「革を伸ばして靴を!」
「メック、メック、メック!」
 仕立て屋達もまたしても。
「山羊の中に仕立て屋がいるとは!」
「おいおい、見ろよ!」
「女の子達が!」
 やがて皆町や周りの村の娘達を見るのだった。
「おいおい、今日は何時にも増して奇麗だな」
「全くだ」
「何時にも増しては余計でしょ」
「そうそう」
 そんな彼等に農家の娘の晴れ着の服を着た娘達が言い返す。
「いつもよ」
「わかってるの?」
「おっと、これは失礼」
「そうだったそうだった」
 彼等も笑顔で応える。
「まあとにかくだよ。今日はめでたい日だし」
「明るくやろうよ」
「おっ、今度は笛吹きが来た」
「いいね」
「踊りもあるぞ」
 彼等はまた話すのだった。今度は河から舟に乗って笛吹き達が朗らかにやって来た。道化師達もいて明るく踊ってさえいる。
「じゃあ僕達もな」
「ああ、踊るか」
「おいおい、皆」
 ここでダーヴィットもやって来た。
「もう楽しんでいるのかい?」
「ああ、そうさ」
「ここでね」
 皆笑顔で彼の言葉に応える。
「ダーヴィットも楽しんだらどうだい?」
「ほらほら」
 娘達と踊りながらダーヴィットに声をかける。
「こうやってさ、楽しく」
「明るく騒ごう」
「いやいや、僕にはもう相手がいるから」
 しかしダーヴィットはここでは皆に対して言うのだった。
「そんなのはね。全然ね」
「全然っていってもね」
「ダーヴィットは浮気性だからなあ」
「そうそう」
「僕の何処が浮気性なんだ」
 これには少しむっとした顔で言い返すダーヴィットだった。
 
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