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ニュルンベルグのマイスタージンガー

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第三幕その十九


第三幕その十九

「私も歌いたいとは思う」
「それを解き明かすことは何と幸福にして甘美なのでしょう」
「心の甘き苦しみは抑えるべきであった」
「優しく気高き歌ならば」
 二人はそれぞれ言い合う。
「我が心の甘い苦しみを解き明かすこともできるでしょう」
「あのような美しい朝の歌を私はあえて解き明かさない」
「朝の夢に過ぎなかったのか」
 エヴァは恍惚として言う。
「私には解き明かすことはできませんが微かに聴いたあの歌を」
「静かなる部屋で私が聴いた」
「どうかマイスタージンガー達の前で声高らかに明るく歌い勝利を」
「我が心の甘い苦しみをわかり歌うことができたのは」
 ヴァルターも言う。
「貴女の愛の為」
「青春の永遠の技さえも」
 ザックスはまだ言っていた。
「ただ詩人の賛美により戻すと」
「朝の夢に過ぎなかったのか。私には解き明かすことは難しいが静かな部屋で」
 ザックスの言葉はヴァルターの言葉と重なり合っていた。ヴァルターはその中で言う。
「私に生まれたこの歌はマイスタージンガー達の集いの前で明るく、高らかに響き至高をその手に」
「こんなに早いうちから僕は起きているのか寝ているのか」
 今度はダーヴィットが言う。
「それをはっきりさせるのは大変だ。朝の夢に過ぎないのか」
「そう、大変だわ」
 そしてマグダレーネも。
「僕は今見ていることが殆どわからない」
「ダーヴィットが職人なんて」
「もう職人なんて」
「若しかしてもうすぐ私も」
 マグダレーネはうっとりとしてきていた。
「花嫁に。そして教会でダーヴィットと」
「レーネと」
「一緒になって遂に」
「さて、後は」
 またザックスが言ってきた。
「皆行こう」
「皆が」
「そう、皆行くんだ」
 彼は言うのだった。
「じゃあエヴァちゃん」
「はい」
「お父さんに宜しくね」
「わかりました。それじゃあ」
「ではダーヴィット」
「はい」
 今度はダーヴィットに声をかける。ダーヴィットもすぐに応える。
「戸締りは頼むよ」
「ええ、わかってますよ」
 いつもの明るい顔で応えるダーヴィットだった。
「それじゃあいつも通り」
「レーネと一緒にな」
「有り難うございます」
 マグダレーネも笑顔でザックスに応える。そうして最後はヴァルターに声をかけるのだった。
「騎士殿、それでは」
「ええ。では」
「御一緒に」
 二人は笑顔で言い合う。こうして誰もが祭りに向かうのだった。
 ニュルンベルグの街を遠くに見る牧場。そこには河も通り青く澄んだ姿を見せている。そこにベンチが多く置かれ街の誰もが着飾って笑顔で遊んでいる。そしてそれぞれの職人の組合の旗が立ち並び職人達によっても垂れている。誰もがそこで御馳走や美酒を飲みそのうえで楽しく話をして踊っているのだった。
「さあ皆さん」
「聖クリスパンを讃えましょう」
 靴の旗を掲げた面々がまずその旗を高々と掲げて花やリボンで飾った娘達の黄色い声を受けつつ歌う。
「彼は聖者でしたが靴屋の仕事の手本でもありました」
「何故なら」
 彼等で話すのだった。
「貧しい人が凍えている時に暖かい靴を作りました」
「革をくれる人のない時にでも工夫して」
「万事にこだわらぬこの靴屋」
 旗がさらに高々と掲げられる、
 
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