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ニュルンベルグのマイスタージンガー

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第三幕その十六


第三幕その十六

「聞いていたら話して欲しい。こんな考えはあんたが言ってくれたことだから」
「それは」
「まあいいか」
 エヴァが悩ましい顔になったのをわかったかのような言葉であった。
「御前は靴を作っていろというんなら。誰か歌でも歌ってくれれば」
「歌か」
 今度はヴァルターが目を動かした。
「今日は美しい歌を聴いたが第三節を作るのは誰か」
「それは」
 ヴァルターはそれが誰なのかすぐにわかった。そうしてそれを受けて歌いはじめたのだった。
「星が美しく踊る姿か。髪の毛に止まり輝く如く」
「その歌は」
「全ての乙女の中にもこよなく気高き姿」
「まさかその歌が」
 エヴァは聴いているうちにわかってきた。
「優しく光に輝く星の冠をいただきて」
「エヴァよ」
 ここでまたザックスが仕事を続けながら呟いた。
「聴くのだ、これこそがマイスタージンガーの歌」
「これが」
「奇蹟の上の奇蹟のように」
 ヴァルターの歌は続く。
「二つの昼を迎えるように二つの太陽のいときよき歓びのように」
「二つ・・・・・・目なのね」
 エヴァはこの歌が誰に向けてかもわかってきた。
「この歌は」
「美しき二つの瞳の輝きは私を喜ばせてくれる」
「私の家では」
 ここでもザックスが呟く。
「こういう歌が聴こえてくる」
「気高く優しきその姿、私は胸とどろかせ近付く」 
 ヴァルターはさらに歌う。
「二つの太陽の光の前に花の冠は光を失い」
「光を」
「またその光を受けて輝く。彼女は手もて編みし冠を夫の頭に捧げ」
「それが私」
「楽園の喜びをその詩人の胸に注ぐ。愛の胸のうちに」
「よし、できたぞ」
 このタイミングでザックスは仕事を終えた。ふりをした。
「エヴァちゃん」
「はい」
「できたぞ、履いてくれ」
 エヴァの方に歩み寄って言うのだった。
「この靴を。もう痛まないぞ」
「ええ。それじゃあ」
 エヴァはザックスの言葉に頷く早速その靴を受け取った。そうして実際に履いてみる。そしてそのうえでザックスを抱き締めようとするがザックスは無言で微笑んで退きそのうえで父親の如き優しき声で彼女に対して話すのだった。
「靴というものは本当に厄介なものだ」
「靴が?」
「そう、私は詩人でもなかったら靴なぞとっくに作っていなかった」
「とっくになの」
「そうだな」
 エヴァの言葉に応えまた言うのだった。
「一人は緩過ぎる、別の一人はきつ過ぎる」
「その二つが同じである場合も?」
「あちらからもこちらからもやって来て」
 エヴァに応えずにさらに話していく。
「ここががたがたしぱくぱくしてきついだの痛いだの」
「それは」
「靴屋は何でもできないといけない」
 こうも言うのだった。
「破れたところはつくろってそのうえ詩人だから」
「詩人だから」
「休ませてもらう暇もない。軍にいるようだ」
「軍か」
 ヴァルターはその軍という言葉に反応を見せた。
「それは例えに過ぎないな」
「そのうえ男やもめだから人は色々とからかう」
「何が言いたいのかしら」
 エヴァは次第にザックスの考えがわからなくなってきた。
「親方は何を」
「若い娘までが相手が見つからないと言って声をかけてくれる」
「私のこと?」
「娘達の気持がわかろうとわかるまいと」
 エヴァの詮索を妨害するかのように言い続ける。
 
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