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ニュルンベルグのマイスタージンガー

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第三幕その十五


第三幕その十五

「まあこの腰掛けに座って」
「ええ」
 実際に椅子に座ってみせる。
「それで見せてくれるかな」
「ええ、どうぞ」
 エヴァはザックスの差し出した椅子に座った。そうして足を差し出す。ザックスはその前に跪いてからそのうえでまた彼女に問うのだった。
「それでどんな具合かな」
「靴が緩過ぎるでしょう?」
「いいや」
 靴だけを見るふりをしての言葉である。
「ぴったりだけれどな」
「私も最初はそう思ったわ」
 今度はこう答えるエヴァだった。
「けれどね。指のところがきついのよ」
「指がかい」
「そうなのよ。指が」
「左の方がかい?」
 靴を履いたその足を触りながら尋ねてきた。
「この辺りかい?」
「いいえ。右よ」
「甲の方じゃないんだね?」
「踵の辺りもよ」
「こっちの踵の方もかい」
「そうよ。それにこういうことは」
 エヴァは少し怒った声でまたザックスに告げる。
「私よりずっとわかっている筈だわ」
「エヴァちゃんのことなのに私がかい?」
「靴のことだからよ」
 こう怒った声で話すのだった。
「緩過ぎて、けれどきつ過ぎるなんて」
「ふむ、矛盾しているな」
「ええ、不思議だわ。こんなことって」
 そんな話をしているとここで部屋にヴァルターが入って来た。金と銀の輝かしい礼服を着ておりマントは絹のものだった。見事な黒い羽根帽子まである。普段以上にさらに立派なその姿を見てエヴァはオも割る息を飲んでしまった。
「ああ、ここだ。ここだったよ」
 ザックスはそんなエヴァに気付かないふりをしてヴァルターに背を向けたまま答えるのだった。
「この縫い目のところだな。すぐになおすよ」
「ええ・・・・・・」
「これでもう問題はないよ」
 言いながらその靴をなおそうと靴を脱がす。そうしてそのうえで仕事机に向かい靴をなおす。あくまで気付かないふりを続けるのだった。
「さて」18
 仕事をしながら言うのだった。
「靴を作ることが私の仕事だが」
「親方?」
 エヴァはここでちらりと彼を見るのだった。
「一体何を」
「昼も夜も仕事からは逃げられない。エヴァよ」
「また私に」
「あれは聖書のエヴァでは?」
 エヴァとヴァルターはエヴァの話を聞いて話すのだった。
「そうでしょうか」
「そうなのでは?」
「聞いてくれ。私は考えてみたんだが」
 仕事をしながら呟くザックスだった。やはりここでは二人に気付いていないふりをしていて仕事をしているふりもし続けていた。
「どうやったら靴屋を終わりにできるのか」
「何が言いたいのかしら」
 エヴァもいぶかしまざずにはいられなくなってきた。
「親方は一体」
「一番いいのは結婚すること」
 ザックスはまた呟いた。
「そうそれば詩人となって色々いいこともあるさ」
「私とかしら」
「さあ、エヴァよ」
 気付いていないふりの話は続く。
 
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