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ニュルンベルグのマイスタージンガー

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第三幕その九


第三幕その九

「夜の闇に囲まれ見る事を得ず。されど二つの明るき星が遠く彼方より煌きて」
「その調子です」
「細き枝の間より遠くて近きが如く我が顔を照らす」
 さらに歌っていくヴァルターだった。
「静かなる丘に美しい泉があり優しき音が高まっていく」
「そして」
「かく高らかに美しき音聴きしことなし。輝かしく星は煌き明るく照らす」
 そして歌は最後に入る。
「木の葉にも枝の間にも黄金が集まりて踊り狂うその群れは黄金の果実には非ず。月桂樹に煌く星の群れなり」
「これでわかりました」
 ザックスは最後まで聴き終えてから深い感動を以ってヴァルターに告げた。
「貴方の夢見たものはです」
「はい」
「貴方に真実を示してくれました」
「真実をですか」
「真実を歌う歌こそが最も美しい」 
 ザックスはここでヴァルターの目を見て語った。その澄んだ青い瞳を。
「そうして歌に出るのですから」
「だからですか」
「はい。ですから」
 さらにヴァルターに言ってきた。
「今度は第三のパートを作りませんか?」
「第三のですか」
「そうです」
 こうヴァルターに勧めるのだった。
「それは夢の解釈をつなげるものです」
「ですが」
 しかしここで彼は困った顔になるのだった。
「今は」
「休まれたいですか」
「はい、いささか疲れてしまいました」
 こうザックスに告げるのであった。
「ですから今は」
「わかりました」
 ザックスもまた笑顔で彼の言葉を受け入れそのうえで言うのだった。
「それではお休み下さい」
「はい、わかりました」
「しかしです」
 だがここでまた彼に言い加えるのだった。
「節はよく覚えておいて下さい」
「節をですね」
「そうです。その節なら」
 彼はさらにヴァルターに話す。
「詩句もよくできますから」
「詩句もなのですね」
「そうです。そして民衆の前で歌う時は」
「その時は」
「夢の図をしっかりと捉えておいて下さい」
「夢の図を」
 話を聴くヴァルターの顔がさらに真剣なものになる。
「心の中にですか」
「それがそのまま歌に生きます」
 またヴァルターに話す。
「だからなのです」
「わかりました。それでは」
「では私は」
 ヴァルターにここまで告げると部屋を後にしようとする。ザックスはその彼に対して声をかけて尋ねるのだった。
「お待ち下さい。どちらへ」
「貴方の忠実な友人がです」
「友人というと」
 この言葉でそれが誰かすぐにわかった。
「彼ですね。あの」
「そうです。ダーヴィットです」
「やはり。彼でしたか」
 ザックスの今の言葉を聞いてあらためて頷くのだった。
「彼が持って来てくれたのですか」
「お宅で結婚式の時に着られるという晴れ着をです」
「あの服をですか」
「ポーグナーさんのところに持って来ておられましたね」
「はい」
 ザックスの今の言葉に素直に頷いた。
 
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