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ニュルンベルグのマイスタージンガー

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第三幕その五


第三幕その五

「詩の芸術というものは真の夢の解釈なのです」
「真のですか」
「そうです。貴方が今日夢を得たということは」
「はい」
「マイスタージンガー、すなわち」
 言葉をさらに続けていく。
「勝利者になれということかも知れません」
「いえ、ですが」
 しかしここでヴァルターは首を捻りまた言うのだった。
「私の夢はです」
「どうだったのですか?」
「組合やマイスタージンガー達についていささかの感激も持たないものなのです」
「ですがです」 
 それでもまだ言うザックスだった。
「勝利を得るのに必要な呪文を教えてくれませんでしたか?」
「夢がですか」
「そうです」
 そこを問うのだった。
「夢がです」
「あの様な破綻の後で」
 ヴァルターは今のザックスの言葉にいぶかしみながらまた言ってきた。
「まだ希望があると?」
「希望はあります」
 しかしザックスはまた彼に告げた。
「希望を捨てる原因は何処にもありません」
「何処にもですか」
「そう、何処にもです」
 また言うのだった。
「貴方達の駆落を妨げる理由がなければ」
「ええ」
「私も共に逃げたでしょう」
「共にですか」
「ですが私はそうはしませんでした」
 だからだというのである。
「ですから御怒りを鎮めて下さい」
「この怒りをですね」
「そうです。そのうえでまたお話しましょう」
 そのうえでまた話すのだった。
「貴方のその怒りの源の方々ですが」
「あの人達のことですか」
「そうです」
 ヴァルターがその顔を顰めさせるのを見ながらの言葉だった。
「あの方々は敵ではありません」
「敵ではないというのですか」
「そうです」
 こうヴァルターに教えるのだった。
「むしろ尊敬すべき方々です」
「あの人達がですか」
「ただ」
 ここでザックスの言葉が少し変わった。
「彼等は他人も自分達と同じだと考えているのです」
「そう、それです」
 ヴァルターもまたそれを言うのだった。
「ですからそれは」
「勘違いをして意見を変えないのです」
 そしてザックスもまた言う。
「また賞を定めてそれを与えるものも」
「ええ」
「自分の気に入る者を選びたがるのです」
「それもなのですね」
「貴方の歌は彼等を不安にしました」
 それも話す。
「それも当然のことです」
「当然ですか」
「そうです、当然なのです」
 また話すのだった。
「考えてみればあのような詩や愛への情熱はです」
「それですね」
「若い娘を冒険に誘惑するのはいいのですが」
「それにはいいとしても?」
「愛に満たされた二人の為にはもっと別な言葉や旋律を選ぶものです」
「そうした言葉ですが」
「ええ」
 ここで微笑んだヴァルターに応えた。
 
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