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ニュルンベルグのマイスタージンガー

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第三幕その一


第三幕その一

               第三幕  讃えられるべきもの
 狭い部屋であった。木造であり周りにはさまざまな道具や河が置かれ吊るされている。少し見ればそれが靴のものだとわかる。右手には別の部屋への戸があり左手には通りに面した窓がある。質素だが頑丈な造りの机と椅子がありザックスはそこに座っていた。彼は窓から差し込める朝の日差しを見つつ物思いに耽っていた。
「親方」
 その彼に右手から出て来たダーヴィットが声をかけてきた。
「宜しいでしょうか。ベックメッサーさんのお家にですね」
 こう声をかけるのだった。
「靴を届けに来ました」
 しかしザックスは窓の方を見ているだけである。ダーヴィットの方を見ようとさえしない。ダーヴィットはそれを見て困惑した顔になった。
「昨日のことかな、怒ってるんだな」
 師匠が怒っている時はどういう状況なのかわかっているのだった。
「まずいな。これは」
 それでここは事情を説明することにするのだった。
「よしっ、じゃあ」
 そうして意を決して言うのだった。
「親方、徒弟というものは落ち度があるものでして」
 まずはここから説明するのだった。
「親方も私のようにレーネを御存知ならきっと許して下さいます」
「・・・・・・・・・」
 やはりザックスは答えない。
「彼女は気立てがよくてそのうえ優しくて」
 マグダレーネのことも話すのだった。
「だからこそ私をよく知っています。そのレーネのように私を御存知でしたら」
 その背の高い姿をあえて二つに折るようにして屈んで話を続ける。
「きっと許して下さいます。しかしです」
 殆ど言い訳だった。
「昨日は騎士殿が失敗され」
 ヴァルターのことだった。
「彼女から籠を貰うことができず大変悲しく」
 やはり言い訳だった。
「昨日何者かが窓辺に立ち」
 彼の言い訳は続く。
「彼女に向かって金切り声で歌ったのです」
「・・・・・・・・・」
 ここでも返事はない。
「たったそれだけのことであの騒ぎとは関係がなくてレーネもさっき私に話してくれてわかってくれました」
 そしてさらに言うのだった。
「お祭の為に花やリボンを作ってくれましたし。ですから」
 いい加減何も言わないザックスに途方に暮れだした。
「一言」
 やはり返事はなかった。
「まずいな。ソーセージとお菓子まで食べたのがわかったかな。やっぱり贅沢過ぎたかな、朝から」
 そんなことを言いながら困っているとだった。ザックスは不意に口を開いたのだった。
「何だこれは」
 ここでダーヴィットをちらりと見てそのうえで彼が持っているその花とリボンを見るのだった。
「若々しい。何故家にあるんだ?」
「今日はお祭の日ですから」
 やっとザックスが口を開いてくれてそのことに内心大喜びで応えるのだった。
「それで皆着飾って奇麗にして」
「そうだったな」
 ザックスはここでまた思い出したように述べた。
「今日は婚礼の日だったな」
「ダーヴィットがレーネに求婚する」
 大喜びだったのでまた調子に乗ってきたのだった。
「そうなればいいのですが」
「というとだ」
 ザックスは静かに考える顔でまた言いはじめた。
「昨夜はそれの前夜祭ということか」
「まずいぞ、これは」 
 今のザックスの言葉を聞いてまた困惑した顔になる。
「まだ怒っておられるぞ」
 こう判断するとすぐに謝るのだった。
「許して下さい、お願いです」
 平謝りに謝りだした。
「今日はお祭ですから。どうか」
「お祭か」
 しかしザックスには怒ったものがなかった。
「そういえばそうだったか」
「あれっ!?」
 ここでダーヴィットはやっと気付いたのだった。
 
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