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ニュルンベルグのマイスタージンガー

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第二幕その十七


第二幕その十七

「貴方の勝手や暴挙は許しませんぞ」
「暴挙とはまた極端な。いえ」
「いえ?」
「それが今の書記さんのお歌ですか?」
「今のが?」
「そうです。お世辞にもあまり規則には合っていません」
 こうベックメッサーに告げるのだった。
「ですが大変誇らしく聞こえます」
「残念ながら今のは歌ではありません」
 憤然とした顔でまた言い返す。
「ですがそれでもです」
「それでも?」
「私の歌を聴いて下さいますね」
「おや、まだそのことを」
「何度でも言います」
「そうですか。それではですね」
 ザックスはここで言葉の調子を変えてきた。ベックメッサーはそれを見てやっと折れてくれたのかと思ったがそれは甘い予想であった。
「御一人で歌って下さい」
「何と」
 これには呆気に取られてしまったベックメッサーであった。
「私一人で」
「そうですが」
「いや、ですから評価をですね」
「私は仕事がありますから」
 突き放すように告げるザックスだった。
「ですから」
「ですから評価をですね」
「そんなに聴いて頂きたいのですか?」
「はい、そうです」
 またザックスに顔を向けて言う。自然と首が突き出される。
「問題はその奇妙な掛け声ですが」
「ではまた出しましょうか」
「それだけは止めて下さい」
 半分切れてしまっているベックメッサーだった。
「それだけは」
「おやおや。では仕事は」
「それは続けて下さい」
 それとこれとは話が別だというのである。
「是非共」
「はい、それではです」
「ただ。評価は」
「それではです」
 ザックスは内心ベックメッサーが上手くかかってくれているとほくそ笑みながらそのうえで言うのだった。全ては彼の計算通りであるのだ。
「いい方法がありますよ」
「何ですか、それは」
「二人が一つになるのですよ」
 また奇妙なことを言い出すザックスだった。
「二人が一つにね」
「!?」
 ベックメッサーは今のザックスの言葉にまた首を捻った。
「二人が一つ?」
「人にとってはそれが最上です」
 今度はこんなことを言い出すザックスだった。
「つまりですね」
「はい」
「私は仕事をしなければなりません」
「その通りです」
 自分の靴を作ってくれているのだから彼としてもそれで異論はない。
「しかしです。貴方は是非歌を評価して頂きたいと」
「そうです。是非」
 しつこいまでにこだわりを見せるベックメッサーだった。
「それは重ね重ね」
「わかりました。それに私もです」
 そしてここで言うザックスだった。
「何時か記録係になるでしょう」
「でしょうな。ある程度順番ですから、これは」
「そうです。ですからその技術も学びたく」
 あれこれと理由をつけるがこれはまさにただの理由付けだった。
 
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