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ニュルンベルグのマイスタージンガー

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第二幕その七


第二幕その七

「うむ、確かに」
「私のことを笑っていらっしゃるのね」
 エヴァはザックスは本気ではないのを見て取ってまた言い返した。
「だから明日ベックメッサーさんが皆の前で私を平気で奪い取るようなことがあっても黙って見ているのね」
「あの人が歌で成功したら」
 ザックスはまたベックメッサーの話をした。
「誰も彼の邪魔をできないよ」
「そうよ、誰もね」
「それについてはあんたのお父さんが考えているんじゃないのかい?」
「マイスターの方々はどう考えておられるの?」
 エヴァは自分の父親よりも彼等の方が問題だと思っていた
「家で助言が得られるならここには来ないわ」
「まあそれもそうか」
 今のエヴァの言葉には何かに気付いたようであった。
「今日は色々とあって頭の中に何かがこびりついているようだ」
「今日の歌の試験のことよね」
「その通りだよ。困ったことがあったからね」
「それをすぐに話して下さったらよかったのに」
 今度は口を尖らせたエヴァであった。
「そうすれば話が早かったのに」
「そうだったな。確かにね」
「それでザックスさん」 
 身を乗り出してザックスに尋ねてきた。それでエヴァが座っている椅子が少し揺れた。
「誰が名乗りをあげられたの?」
「騎士殿だ」
「騎士殿!?それでどうなったのですか?」
 さらに身を乗り出し問うエヴァだった。
「その方は」
「駄目だったよ」
 しかしザックスはここで首を横に振るばかりだった。
「大変な騒ぎになったよ」
「大変なって?」
 エヴァは身を乗り出したまま顔を青くさせてしまった。
「どうなったの?それで」
「救い難い程だったよ」
 あえて本心を隠し眉を顰めさせるザックスだった。
「それで落第だったよ」
「そうだったの」
「お嬢様」
 ここでポーグナーの家の二階の窓が開いてそこからマグダレーネが出て来て声をかけてきた。
「ちょっと」
「救い難い程って」
 しかしエヴァはそれどころではなかった。今のザックスの言葉に狼狽していた。
「何とかできなかったの?マイスターに合格させる手立てがなかった程酷かったの!?」
「もうあの騎士殿を救う手立てはないよ」
 ザックスは眉を顰めさせたまままた言った。
「どの国へ行ってもマイスターにはなれないよ」
「そんな・・・・・・」
「例えマイスターに生まれていたとしても」
「ええ」
「マイスターの中で一番下だね」
「そんな・・・・・・」
 そこまで言われて余計に青い顔になるエヴァだった。しかしここでまたマグダレーネが彼女を呼ぶがやはりそれは耳に入っていなかった。
「それでお嬢様」
「もう一つだけれど」
 しかしやはり今の彼女の耳には入っていないのだった。
「あの人の味方になってくれたマイスターの方はおられなかったの?」
「それは悪いことではない筈なんだが」
 項垂れた顔になって言うザックスだった。
「彼の前では誰もが小さく感じる程だった」
「それじゃあ」
 才能がある、そうとしか聞こえない言葉だった。
「やっぱり」
「あの誇り高き騎士殿は行くままにさせるべきだ」
 こうエヴァに告げるのだった。
「世界の何処でも戦っていくことのできる方だ」
「何処でもなの?」
「そうさ。我々が苦心して学んだもので息を入れている間に行ってしまう」
 やはりヴァルターの才能は認めていた。
「だからあの方は何処かで花を咲かされるべきだ。ここでは積み上げられたものを蹴散らさなければいいのだからね」
「じゃあつまりよ」
 いい加減頭にきて言い返すエヴァだった。
 
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