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ニュルンベルグのマイスタージンガー

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第一幕その十六


第一幕その十六

「それではどうにも」
「しかしです」
 ところがここでフォーゲルゲザングは言う。
「今この方は二つのよく出来たシュトルレンをよくまとめておられますよ」
「ちょっと待って下さい」
 ベックメッサーはその彼の賞賛にも目を顰めさせてきた。
「それではです」
「何か?」
「フォーゲルゲザングさんの御名前を褒められるのですか?」
 フォーゲルゲザングが鳥の歌という意味なのとかけていた。
「それは少し贔屓ですぞ」
「それはちょっと苦しいのでは?ベックメッサーさん」
「いつもの駄洒落にしても」
 他のマイスター達がすぐに苦笑いで彼に突っ込みを入れた。
「そうです、それはちょっと」
「無理がありますよ」
「ううむ。そうですかな」
 彼はかなり本気だったがここでは冗談として引っ込めることにしたのだった。場が悪いと見てだ。
「それではそういうことで」
「皆さん」
 コートナーがまた一同に問うてきた。
「質問はこれで終わりで」
「そうですね」
 ザックスが最初に彼に賛同した。
「やがて証明されることですし」
「やがてですか」
「そうです。騎士殿が正しい芸術の持ち主であって」
 彼を信じているかのような言葉であった。
「そしてそれが実際に証明されるならば」
「それならば?」
「誰に習ったかは問題ではないでしょう」
「それではです」
 コートナーはその謹厳な顔でヴァルターに対して問うた。
「貴方は御自身の詩と旋律でマイスターゲザングの新曲を今ここで即興に示すことができますか」
「冬の夜や美しい森や本や野か私に教えたもの」
 彼はそれを受けて早速歌いはじめた。
「詩の不思議な力が密かに啓示しようとしたもの。騎馬の蹄の音や楽しい祭のロンド」
「!?」
「これは」
 今の彼の歌を聞いて殆どのマイスター達は目を顰めさせだした。早速だった。
「これが私の耳を傾けさせたのです。そして今」
「今、何と」
「歌によtって人生の最高のものを得なければならないとすれば私自身の言葉も調べも私の口から流れ出て」
 まさに自然と流れ出る感じだった。
「マイスターザングとなって師匠方の御耳に入るでしょう」
「何だこれは」
 ベックメッサーは聴き終えるとすぐに言葉を出した。
「どうしたものか」
「大胆だし」
「これは珍しいというか」
 マイスター達もその殆どが顔を顰めさせる。
「何というかな」
「では皆さん」
 その中でコートナーはまた言った。彼も顔を顰めさせてはいたがそれでも公を優先させたようである。
「記録審判の用意を。そして騎士殿」
「はい」
 またヴァルターに声をかけた、
「神聖な素材の歌は」
「私にとり神聖なるは」
 それを受けて早速また歌いはじめた。
「愛の旗、この旗を振り懸命に歌います」
「それがこの試験の誓いになります」
 コートナーはそのヴァルターに告げてからそのうえでベックメッサーに顔を向けて告げた。
「ではベックメッサーさん」
「ええ」
「御願いします」
「全く。困ったことだ」
 ベックメッサーはここでは公として考えていた。
「マイスターとして。こうした歌を採点せねばならんとはな」
 こう言ってから立ち上がりヴァルターに顔を向けて言うのだった。
 
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