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銀色の魔法少女

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第三十八話 狂気

 
前書き
……なんだか八神一家の影が薄くなっているような気がしないでもないような
そして、今回は短いです






 

 
side 遼

 その日、私は学校に行くのを止め、部屋に引きこもった。

 クリムたちには調べたいことができたと、一応本当のことを念話で伝えてある。

 学校には代りにグリムゲルデを通わせた。

 まあ、常に私と同期しているから実質私が通っているようなものだけど。

 しかし、流石にこの状態での運動は厳しいので激しい動きは控えている。

 そんな日の昼、私は授業の応答をグリムゲルデに任せ、一人物思いにふけっていた。

 今朝見た変色した瞳。

 それは侵食の効果が遂に肉体にも現れた始めた証拠だった。

 恐らく原因はあの夢を見始めた頃、つまりあの春の事件が関係していると思われる。

 あの事件で私はクリムとユニゾンしすぎた、ということだろうか?

(いや、それはないかな)

 歴代の夢を見る限りでも、こんなに早く侵食が始まったのは私が初めてだった。

 いや、それだけじゃない。

(こんなに幼い人間が主になったのも私が初めてだったような……)

 夢で見た主たちは、みんな高校生くらいには大きかった。

(成長期の肉体だから侵食の速度も上がるのかな……)

 少なくとも、夢に見なかったから今日は大丈夫。

 けど、中学に上がるまで持つかどうかわからない。




            「まあ、そんなのどうでもいいけどね」 




 私が死のうが、生きようが、そんなのどうでもいい。

 今はそんなこと考えているよりはやてを助けることを考えないと。




side クリム

 なんでしょう? 遼の様子がおかしい気がします。

「今日は一度も顔を見ていませんし、何かあったのでしょうか?」

 昨日の衣服を洗濯機に入れながら、一人私はそう呟く。

 そして、私はそれを見つけてしまった。

「? なんでしょう、これ?」

 遼の服についた長い黒髪のようなもの。

(私たちの中には黒髪などいないし、昨日はユニゾンもしていないから、黒髪がつくはずなんてないのに)

 不思議に思ってそれを手で摘む。




         それは、この世界に存在する物質ではなかった。

         そして、それは私のよく知る物だった。




「う、そ、でしょ…………」

 それは、私の鎧と同じ物質で、同じ性質を秘めていた。

 マグマに落とそうが、深海に沈めようが、絶対に変質しない。

 最硬にして、最強の鎧。

 それがブリュンヒルデの鎧。

 私の皮膚。

「遼!」

 嫌な予感がした。

「遼! 出てきてください! 遼!!」

「いや」

「では、強行突破します!」

 右腕に魔力を込め、扉を壊す。

 粉々に砕け、その先に目を大きく開けた遼がいる。

 その瞳は黒く、まるで黒曜石のようだった。

「ああ、そんな…………」

 私の悪い予感は的中した。

 遼の侵食は、私の予想を超えた所まで来ている。

「なんで言ってくれなかったのですか!?」

 私は遼に抱きつく。

 そして、触れて分かる。

 瞳だけじゃない。

 体内のいたるところが、既に変化している。

「……今はそれどころじゃなかったから」

「何がそれどころじゃない、です! 自分がどんな状況かわかっているのですか!?」

 いや、遼はわかっていて言ってる。

 長年一緒にいたからわかる。

 彼女は自分の命なんて少しも考えていない。

 私は、それが悲しかった。

「ねえ、あとどれくらい持つ?」

「…………恐らく、今年まででしょう」

 ここまで侵食が早いのは私も初めてだったけれど、今の感じだとそれが限界。

「そう、なら大丈夫かな」

「何が、大丈夫なんですか?」

 遼が次に言った言葉は、私の中に芽生えかけた希望を潰すには十分だった。





        「それだけあれば、はやての問題を終わらせられる」




said ALL

 夜、日が落ち、完全に闇に包まれた頃、海鳴の一部に半円状の結界が張られていた。

 内部にはなのは、ヴィータ、フェイト、シグナム、ザフィーラ、アルフにユーノがいて、

 外部にはクロノと局員、それに闇の書とシャマルがいた。

 新たにカードリッジシステムを搭載したなのはたちに苦戦する守護騎士たち。

 そして、外から脱出方法を探っていたシャマルにクロノが杖を突きつける。

 絶体絶命のピンチ、そんな時だった。

「はああああああああああああああ!」

 突如現れた仮面の男が、クロノを蹴飛ばす。

「何ぃ!?」

 クロノは急な攻撃に反応できず、そのまま隣の建物のフェンスに叩きつけられる。

 仮面の男は言う。

「闇の書を使え、さもないと騎士を失うことになるぞ」

 シャマルは迷った。

 確かに、このままでは誰かが捕まるかもしれない。

 けれど、アレは結構な量のページを消費する。

 つまり闇の書完成が遠のくことになる。

 真実を知ったシャマルはそれだけは避けたいと、迷う。

(いっそのこと、ここで闇の書を壊して、転生させればはやてちゃんだけでも――)

 そう思い、闇の書に手をかけた時だった。

「「「!?」」」

 結界の外にいた全員が空を見上げる。

 そこには以上に発達した雷雲、その中央に佇む少女がいた。

 彼女は皆の視線を気にせず、杖を構えて、呪文を唱える。



「我は雷神、最強の雷を持って、全てを打ち砕かん……、『ミョルニール・ツヴァイ』」



 
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